ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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ついに完治?回


第112話 復帰の第一歩

 宝塚記念も終わって6月半ば。ボクとトレーナーは診察室で医者の先生と対面していた。ボクは過去最大級に緊張しながら先生の言葉を待っている。きっとトレーナーも同じ気持ちだろう。ふと横を見て表情を覗くと、緊張が顔に出ていた。先生は、難しい顔をしている。

 診察室を静寂が支配する。心臓の音すら聞こえてきそうなほどに。やがて、先生は表情を崩して笑顔でボク達に告げる。

 

 

「……はい!これならば問題ないでしょう!」

 

 

 ……問題はない。ということは、つまり!

 

 

「退院……ですか!?」

 

 

 トレーナーがそう尋ねる。その言葉に、先生は深く頷いた。

 

 

「骨も完全に元通りになりました。明日からは普通に過ごしても大丈夫ですよ」

 

 

「っっったぁ!やっとや!やっと退院や!」

 

 

「あぁ!ようやく……ようやくだ!」

 

 

 時間にして約5ヶ月。長かったボクの病院生活が終わりを告げた。ボクはトレーナーとハイタッチして喜びを分かち合う。

 喜びを分かち合っているボク達を先生は微笑ましい表情で見ていたが、気を引き締めたのか真面目な表情でボク達に話しかける。

 

 

「ですが、まだ日常生活に戻れるぐらいには回復しただけ、とも言えます。テンポイントさんたちの目標であるレースの世界への復帰……。その戦いはこれから始まると言っても過言ではありません」

 

 

「……そうですね」

 

 

 まずは落ちた筋肉を戻さないといけない。フォームの確認だったり、やるべきことは沢山ある。

 だが、先生は表情を崩して笑みを浮かべる。

 

 

「しかし、私は特に心配はしておりません。あなた達ならきっと復帰できる。そう思ってますから。レースの世界でまたテンポイントさんが走ることを、私も応援していますよ」

 

 

「「……ありがとうございます!」」

 

 

 先生からの言葉に、ボク達は揃ってお礼を言う。純粋に嬉しかった。

 ボク達は診察室を後にして病室へと戻る。その道中は、ボクは普通に歩いていた。車椅子や、松葉杖でもなく普通に。病室へと戻り、ボクの私物を持って帰る準備をする。

 5ヶ月の間世話になった病室。何となく感慨深いものがある。ただ、ボクははやる気持ちを抑えきれないでいた。この後は学園に戻って練習をする予定だ。勿論軽めだが、それでも楽しみなものは楽しみだ。

 

 

(ホンマに久しぶりに走る……!はよ学園に戻りたい!)

 

 

 そんなボクの気持ちを察してか、トレーナーは苦笑い気味に答える。

 

 

「そんな急いで片付けしなくても、トレーニングは逃げねぇぞ?」

 

 

「何言うとるんや!1分1秒でも長く練習したいねん!やからはよ片付けて戻るでトレーナー!」

 

 

「分かった分かった。早いとこ片付け済ませて学園に戻ろうか」

 

 

 ボク達は片付けを始める。ブログの写真に使ったファンの人達からの贈り物は都度トレーナーが持って帰っているし、本や雑誌の類もすでに持ち帰っているのであるのは冷蔵庫の中に入っている豆乳やボクの着替えぐらいのものだ。そこまで時間はかからなかった。

 病院を出て、トレーナーの車で学園に戻る。その間、ボクの気分は昂ったままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院で回収し荷物をトレーナー室に置いて、ジャージに着替えて練習場へと向かう。このジャージも懐かしく感じる。だが、何よりも……!

 

 

「ホンマに懐かしく感じるわ……!この芝の感触……!」

 

 

 5ヶ月は短く感じるかもしれないが、ボクの体感では1年近く走ってない感覚がしていた。手足も随分細くなった。これは戻すのが大変だろう。

 ウォーミングアップをしながらもボクは高揚を隠し切れずにいる。早く走りたい、そう思いながらトレーナーの言葉を待った。

 トレーナーがボクに告げる。

 

 

「まずは、今のお前の現在地点を確認しよう。3ハロンのタイムを計るぞ」

 

 

「了解や!」

 

 

 ボクはウォーミングアップを切り上げて早速スタート位置につく。トレーナーの合図を待つ。そして。

 

 

「……スタート!」

 

 

 トレーナーの言葉とともに、ボクは走り出した。怪我だけはしないよう、今出せる全力で。

 自分の脚で走る感覚、風を切る感覚、地面の芝の感触、その全てが懐かしく感じる。そして、こうして走ることで改めて実感した。嬉しさから涙が零れる。

 

 

(走れる……!ボクはまた、走ることができる……ッ!)

 

 

 そのことがたまらなく嬉しかった。

 3ハロンを走り終わって、ボクはトレーナーの下に戻る。タイムを見せてもらおうと思ったが、トレーナーも涙を見せていた。けれど、表情は笑顔だった。きっとボクがまた走る姿を見て嬉しさから涙を流したのだろう。

 ボクが戻ってくると開口一番告げる。

 

 

「見ろよ、このタイム……!」

 

 

 そう言って先程のタイムを見せてきた。ボクはそれを確認する。

 

 

「……はは、なんやこれ!ひっどいタイムやな!ジュニア級の時ん方がマシちゃうか?」

 

 

 お互いに笑いあう。

 

 

「またこっから頑張っていけばいいさ!お帰り、テンポイント!」

 

 

 ボクは精一杯の笑顔で答える。

 

 

「ただいま!」

 

 

 ボクは、帰ってきた。この世界に。レースの世界に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タイム走はこの一本のみで終わり、後は基礎的なトレーニングを積んでいく。走るよりもやるべきことは沢山ある。まずは落ちた筋肉を戻さないといけないし、フォームのチェックもしなければならない。さすがに5ヶ月も離れていたのだ。どこかしらおかしくなっている可能性もある。地道にコツコツと励むことにした。

 練習が終わって、トレーナー室へと戻ってくる。今日の反省会となった。

 ソファで休んでいるボクにトレーナーが告げる。

 

 

「さて、明日から本格的に復帰のためのトレーニングを積んでいくわけだが。分かっているな?テンポイント」

 

 

「分かっとるよ。まずは落ちた筋肉を取り戻す。基礎トレが主になる……やろ?」

 

 

「あぁ。タイム走も1日1本までだ。走れなくて辛いかもしれないがまだ様子見に徹しよう」

 

 

「了解や。こん状態で走ってもしゃあないしな」

 

 

 反省会も程々に済ませ、ボクは寮に戻ろうとする。そんなボクをトレーナーは呼び止めた。

 

 

「そうだテンポイント。ちょっといいか?」

 

 

「どうしたん?なんか他にもあったんか?」

 

 

「お前の食生活に関してだな。毎食分作る予定だ。これは今日の晩御飯な」

 

 

 そう言ってボクにスポーツバッグを手渡してきた。結構ずっしりしている。驚きながらもボクはそれを受け取ってトレーナーに尋ねる。

 

 

「嬉しいけど、いつの間に作ったん?」

 

 

「下準備自体はお前のトレーニングの休憩中にちょくちょくな」

 

 

「あぁ、練習中たまにおらんくなったと思うてたらご飯作っとったんか」

 

 

「そういうことだ。明日の朝もトレーナー室に来てくれ。昼食を渡すから」

 

 

「ん。了解や」

 

 

 ボクはスポーツバッグを持ってトレーナー室を出る。ただ、出る前にトレーナーに話しかける。

 

 

「なぁ、トレーナー」

 

 

「どうした?テンポイント」

 

 

 ボクはとびっきりの笑顔で告げる。

 

 

「明日もよろしゅうな!」

 

 

 トレーナーも笑顔で答える。

 

 

「あぁ!明日も頑張ろう、テンポイント!」

 

 

 今度こそボクはトレーナー室を出て、寮へと歩を進める。

 寮に戻ってきたボクを迎えたのは、なにやら落ち着かない様子の寮長達だった。ボクが扉を開けて寮の中へと入ると、皆が一斉にこちらを振り向く。そして、一斉にボクの方に向かってきた。

 戸惑っていると、寮長が涙を浮かべながらボクに話しかけてくる。

 

 

「テンポイント!無事に戻ってこれたんだね!」

 

 

「は、はい。えらい迷惑かけました」

 

 

「気にしなくていいよ。あんたの姿をまたこうやって見ることができただけでもあたしは……ッ!うぅ……!」

 

 

 そのまま寮長は涙を流し始めた。他の子たちも笑顔こそ浮かべているが、涙が見えていた。それだけ、ボクが帰ってきたのが嬉しかったのだろう。ボクもまた、嬉しくなる。

 寮長や他のみんなに、ボクは声を大きくして挨拶する。

 

 

「また今日からよろしゅうお願いします!ただいま、みんな!」

 

 

 ボクの言葉に、みんなは思い思いの言葉をボクに投げかけてくれた。

 ボクは寮の自室に戻ってくる。扉を開けて中に入る。すると中から勢いよくボクに抱き着いてくる子がいた。もっとも、この部屋にはボクと同室の子ぐらいしかいないから誰かなんてすぐにわかる。

 ジョージがボクの腰辺りに抱き着きながら話してくる。

 

 

「おかえり テン坊」

 

 

「うん、ただいま。ジョージ」

 

 

 ボクはジョージの頭を撫でながらそう答える。

 自分の机でトレーナーが作ってくれたお弁当を食べながらジョージと会話をする。

 

 

「テン坊 どう?」

 

 

「う~ん。まずは落ちた筋肉を戻すとこからやな。タイムも測ったんやけど酷いの一言に尽きるわ」

 

 

「レース 出れる?」

 

 

「出れるかやない。ボクは出るで。絶対に復帰する」

 

 

「良かった」

 

 

 ジョージはボクの言葉に微かに笑みを浮かべる。

 ご飯も食べ終わり、お風呂にも入った後ジョージと話をする。話題は今後のレースについてだ。

 

 

「ジョージは次はどうするん?決まっとるんか?」

 

 

「月末」

 

 

「月末かぁ。なんにせよ頑張ってな、ジョージ」

 

 

「気分」

 

 

 ジョージの答えにボクは苦笑いをする。まぁ今の調子を継続できればジョージは問題ないだろう。今度は逆にジョージがボクに尋ねてくる。

 

 

「テン坊 レース いつ?」

 

 

「ボクか?う~ん……」

 

 

 少し考えた後答える。

 

 

「早くとも年末……年末でも有マにはでぇへんかな。年明けになると思うわ」

 

 

「レース 教えて 応援 ごー」

 

 

「うん。決まったらジョージにも教えるわ」

 

 

 復帰レースに関してはトレーナーと相談して決めなければならない。トレーナーも現時点では決めかねていると言っていた。どのレースに出走するのか、今から少し楽しみである。

 レースの話題が上がったことでボクはあることを思い出す。それはジョージのここ3戦でのことだ。ボクはジョージに尋ねる。

 

 

「せや、ジョージ。京都、鳴尾、宝塚の走りはボクのフォームに似とったけど、アレは意図的なんか?」

 

 

 ボクの質問にジョージは頷く。

 

 

「そだよ 元気 出た?」

 

 

「まぁ元気はもらえたで。やけどなんでまたボクのフォームを真似たんや?」

 

 

「ゴボゴボ ないよ。テン坊 走り 強い 証明」

 

 

「別に深い意味はないんやな。ボクの走りが強いことを証明するため……っちゅうことか」

 

 

「いえす。後 ふれー」

 

 

「しっかし、よう真似られるな。戦法は似とるけど、あんなに完璧にできるとは思わんかったわ。これからやっても通用するんちゃう?」

 

 

 ボクの言葉に、ジョージは首を横に振って答える。

 

 

「やらない ずっと ばたんきゅー」

 

 

「そうなん?割と余裕そうやったけど」

 

 

「冗談 いっぱい やらない。テン坊 すごい」

 

 

 あぁ見えて結構いっぱいいっぱいだったらしい。全然そんな風には見えなかったが。まあ本人がそう言っているということは間違いないだろう。ボクは納得する。

 しばらく話し込んでいると、消灯時間が近づいてきたのでお互いに布団に入って寝る準備をする。目を閉じながら、ボクは明日からのことについて思いを馳せる。

 

 

(久しぶりの学園や。みんなどんな反応するやろうな?ボーイ辺りは泣くんとちゃうか?)

 

 

 後は、明日からトレーニングも再開することになる。今頃トレーナーはメニューを組んでいるだろうか?それとも別のことをしているだろうか?少し気になったが、意識がドンドン遠のいていく。

 明日からまた前のような日常に戻るだろう。そう思いながらボクは眠りにつく。病院のベッドの上じゃない。寮の自分のベッドで寝る感触に嬉しさを覚えながらボクは眠った。




音ゲーアプリのログインを忘れてました。やっちまったぜ。
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