目覚ましのアラーム音で目を覚ます。ボクはアラームを止め、眠い目をこすり身体を起こしてベッドを出る。
「ここで寝起きするんも随分久しぶりに感じるわ」
そう呟きながらカーテンを開けて陽の光を浴びようとする……が、天気は生憎の曇り空だった。6月だしまぁ仕方ないかもしれない。雨が降っていないだけマシだと考えることにした。
まだ熟睡しているジョージを無理矢理起こし、朝食をとる。登校する準備を済ませて、ジョージと一緒に寮を出て学園へと向かう。
「忘れもんはないか?ジョージ」
「もーまんたい 学園 全部」
「いや、教科書類ぐらい持って帰ろうや」
学園へと向かう途中、寮住まいではないみんなはボクのことを驚きに満ちた表情で見ていた。久しぶりの登校だから当たり前かもしれない。それに、ほとんど外出もしていなかったし外出していても変装をしていたためボクの姿を見るのは随分久しぶりなはずだ。少し苦笑いをする。
ジョージとは途中で別れて、ボクは校舎ではなく練習場近くにあるプレハブ小屋のトレーナー室へと向かう。扉をノックして声を掛け、中の人物がいるかを確認する。
「トレーナー、ボクや。昨日の夕飯分を返しに来たんと今日のお弁当受け取りにきたで」
程なくして扉が開き、中にいたトレーナーがボクを出迎えた。
「おはようテンポイント。わざわざすまんな。これが今日の分だ」
トレーナーはボクからスポーツバッグを受け取り、中から空の重箱を取り出して新しい重箱を入れる。ボクはお礼を言ってスポーツバッグを受け取る。
「おはようさんトレーナー。ありがとな」
「今日からまた学園の授業だな。頑張れよ」
「うん。トレーナーも練習メニューの方、しっかり頼むで?」
「任せとけ!お前が復帰するための完璧なプランを考えてやるからな!」
ボク達はお互いに笑いあって別れる。次会う時は放課後だろう。昨日は軽くだったが、今日からまた本格的な練習が始まる。喜びで足取りを軽くしながらボクは校舎の教室へと向かった。
購買で新聞を購入してからボクは自分の教室へと入る。こうして教室に入るのも随分久しぶりのように感じた。少し緊張しながら扉を開ける。
扉の空いた音がしたからか、すでに教室の中にいるクラスメイト達が一斉に扉の方を見る。ボクの姿を確認して、皆一様に驚いた表情を浮かべていた。そんなクラスメイトにボクは挨拶をする。
「おはようさんみんな。今日からまたよろしゅうな」
それだけ告げて、ボクは自分の席に着く。クラスメイトは口を開けて驚いているだけだった。苦笑いしそうになったが、ボクは先程購入した新聞を広げて読むことにした……、タイミングでクラスの子の1人がボクに話しかけてきた。表情はどこか緊張しているような顔をしている。
「お、おはようテンポイントさん!ふ、復帰おめでとう!」
「うん。おおきにな。やけど、まだまだこれからや。レースの世界に戻るためにもこれから頑張らんと」
「頑張ってね!みんな応援してるから!そ、それじゃ!」
それだけ言うとその子は会話していた子達のところへと足早に戻っていった。何か不味いことでも言ってしまっただろうか?そう思っているとその子たちの会話が聞こえてくる。
「……き、緊張した~……」
「……よくやった!アンタは勇者だよ!……」
「……でも、本当に大丈夫そうでよかったね……」
……どうやらただ緊張していただけらしい。そのことに安堵しながらボクは改めて新聞を読むことにした。
しばらく誰にも話しかけられることなく新聞を読んでいると、教室の扉の方からこちらに嬉しそうな声で近づいてくる子がいた。
「おはよ~テンちゃ~ん。こっちでは久しぶりだね~」
グラスだ。ボクは読むのを止めてグラスの方を向く。
「おはようさんグラス。ホンマにえらい久しぶりや」
「今日からまた学園に復帰なんだね~。よろしく~」
「おう、またよろしゅうなグラス」
そこからはグラスとの会話に華を咲かせる。
「せや、ボーイとカイザーはどうしたん?一緒やないんか?」
「ん~?2人ともサマードリームトロフィーの練習があるみたいだよ~。でも~ボーイちゃんはそろそろかな~?」
そんな会話をしていたら、教室の扉を開けて元気な声が聞こえてきた。
「おっはよーみんな!今日も一日頑張ろうぜ!」
噂をすればボーイが教室に姿を現した。そのまま自分の席であるボクの隣に座る……前に、ボクの姿を確認して目を白黒させていた。そして、満面の笑顔でボクに抱き着いてきた。
「うおおぉぉぉ!テンさぁぁぁぁん!久しぶりぃぃぃ!」
「感激しとるんは分かったから離せや!暑苦しいねんホンマ!後ちょくちょくお見舞いに来とったやろお前!」
「病室で会うのと学園で会うのとはやっぱ違うんだって!退院おめでとぉぉぉ!テンさん!」
「ほ、ホンマに離せ!せめて力緩めろ!こんままやとまた病院送りになってまう!」
筋肉が衰えているので振り解くのは無理だし、結構な力で抱き着いてきているのでかなり苦しい。ボクはそう抗議したことで、やっとボーイは拘束を緩めた。
肩で息をしながらボーイの表情を見ていると、かすかに涙を浮かべていた。それだけボクがまた学園に戻ってきたのが嬉しいのだろう。だが、加減というものを覚えて欲しい。
「にしても、テンさんが帰ってきてホントに嬉しいぜ!」
「分かるな~。なんて言うんだろうね~。こう、戻ってきた~って感じ~?」
「どういうこっちゃねん」
「いつも通りの日常が戻って来たってことだな!ここに後はカイザーを加えるだけだな!」
そういえば、ボーイは来たがカイザーはまだ来ていない。ボクは2人に聞いてみる。
「カイザーは随分遅いんやな?ボーイが来たっちゅうことはカイザーも来る思うてたんやけど」
ボクの質問に、2人は曖昧な表情を浮かべていた。一体どうしたのだろうかと思っているとグラスが口を開く。
「カイザーちゃんは~いつも始業のギリギリぐらいに来るよ~」
「へー、そうなんか。随分頑張っとるやん」
「あー……うん、そうだな。頑張ってるよカイザーも」
「どうしたんや2人とも、さっきからなんや言いにくいことでもあるんか?微妙な表情しとるけど」
「まぁ、見た方が早いかな~。カイザーちゃんに関しては~」
グラスはそう言いながらどこか遠くを見つめていた。一体カイザーに何があったというのだろうか?今から見るのが少し恐ろしくなった。
そこからは他愛もない話をしていると、もうすぐで朝のホームルームが始まろうかという時間になった。そのタイミングで、教室の扉を開けて誰かが入ってくる。扉の方を確認すると、カイザーだった。ボーイ達言っていた通り、ギリギリの時間に来ている。
だが、それよりも気になるのはカイザーの状態だ。なんというか、病んだような表情をしている。ボクは驚きながらもカイザーに尋ねた。
「か、カイザー!?何があったんや!?」
カイザーはこちらを見ると少しだけ笑みを浮かべながら挨拶をしてくる。
「あぁ、おはようございますテンポイントさん……。学園で会うのは久しぶりですね。今日からまたお願いします……」
「あ、あぁうん。おはようさん……やなくて!何があったんや!?」
「あぁ、大丈夫ですよ。朝練でちょっと疲れただけなので……」
いや、絶対に疲れただけじゃないような状態だ。ボクはそう聞こうとするが、間が悪くチャイムが鳴る。仕方がないのでボクは席に着いて後で聞くことにした。
午前中の授業も終わって昼食の時間になる。ボクはスポーツバッグを持ってボーイ達とカフェテリアに向かう。途中でクインと合流していつもの5人で食べることになった。
「こうしてテンさんと飯を食うのも久しぶりだなー!」
「ボーイちゃん今日ずっとそればっかだね~」
「それだけ嬉しいんですよ。私もそうですし」
「はい。退院おめでとうございます、テンポイント様」
「みんなありがとな。今日からまたよろしゅう」
カフェテリアに到着して席を取る。ボクは弁当を持ってきているので席でみんなが戻ってくるのを待つ。
みんなが戻ってくると、ボクが持ってきたスポーツバッグが気になったのかボーイが不思議そうな表情で尋ねてきた。
「そういやさ、ずっと聞こうと思ってたんだけどテンさんが持ってるそのバッグはなんだ?」
「あぁこれか?トレーナーが作ってくれたお弁当や。まぁカフェテリアで食うても大丈夫やろ」
「神藤様のですか?それはやはり、復帰のためにバランスの良い食事を取るという意味で……でしょうか?」
「せや。ボクが偏った食事を取るとは思うてへんみたいやけど。医者の人やスポーツトレーナーに聞いて作ったメニューみたいやで」
「それは随分本格的だね~。中身はどんな感じ~?」
「今開けてみるわ」
ボクは重箱を早速開けて中を確認する。昨日貰った晩御飯と遜色ない豪華なメニューだ。思わずどれから食べようか迷いそうなほど美味しそうな品の数々である。
ボーイ達は弁当の中身を見て感嘆の声を漏らす。
「いや~、相変わらずスッゲェな誠司さんは。朝から作ってたのかよコレ」
「そうですね。1つ1つ丁寧に作り上げておられますし、何よりテンポイント様のことを思って作っているのが見てとれます」
「いいな~。私と1つおかず交換しな~い?」
「大丈夫やで。ほんなら好きなおかず取りぃ」
「やった~」
「私もいいですか?テンポイントさん」
「ええよ。カイザーも好きなおかず取りや」
その時ふと、朝のことを思い出す。カイザーが異様に疲れていた理由。普段からあの姿を見ていたであろうボーイ達は分かっているらしいが、ボクは初めて見たので分からない。なので、このタイミングでカイザーに聞く。
「せや、カイザー。サマードリームトロフィーに向けて練習頑張っとるみたいやけど、朝はなにがあったんや?なんちゅうか、病んだ表情しとったけど」
ボクがそう尋ねるとカイザーは突然驚いたように身体を震わせる。そのまま何かにあきらめたような表情をしながら話始めた。
「……聞いちゃいます?それ」
「朝も思うたけどホンマに何があったんやカイザー!?」
「いえ、ハダルでサマードリームトロフィーに向けて朝練をしているのはいいんですが……その内容が、ですね」
ボクは喉を鳴らして次の言葉を待つ。
「今日の朝はなにされましたかねぇ……。確か、滝行でしたっけ?」
「滝行は1週間前じゃなかった~?ずぶ濡れで教室来てたの覚えてるよ~」
「そうでしたね……。山の中で鬼が追い掛け回される鬼ごっこでしたっけ?勿論鬼は私1人のやつ」
「それは3日前のことかと。それに時間がないから放課後しかやらないとクライムカイザー様が以前仰っておられませんでしたか?」
「そういえばそうでした……。じゃあなんだったかな……。コートローラーで追い掛け回されるやつでしたっけ?」
「それは昨日だったろ。練習場から悲鳴が聞こえてきたからよく覚えてるぜ」
「……あぁ思い出しました!ランニングマシンに乗ってクイズをやってたんでした!間違えたらスピードがドンドン上がっていくやつです!」
「ちょい待てや!?なんやそのラインナップ!全部おかしいやろ!?」
ボクは思わず突っ込む。何から何までおかしい練習内容だった。しかしカイザーは達観したような表情でボクに告げる。
「なんて言うんでしょうね……。私も、最初はおかしいと思っていたんです」
「いやおかしいやろ!?カイザーは間違ってへんで!?」
「でも、もう慣れちゃいました」
「アカン!カイザーが何もかも諦めたような表情しとる!?」
ボクが入院している間に、友達が随分と遠い場所に行ってしまったような感覚になった。ボーイ達も同情しているのか沈痛な面もちで黙とうしている。それでいいのか。
だが、次の瞬間カイザーがボソッと呟く。
「……いつか憶えてろよタケホープ……」
「は?」
「え?」
聞き間違いじゃなければ、カイザーは今タケホープ先輩のことを呼び捨てにしていなかっただろうか?それも憎々し気に。ボクは驚きながらもカイザーに聞く。
「いや……今自分が何言うたか覚えとるか?カイザー」
「え?私何か言ってましたか?」
カイザーは本当に知らないかのようにふるまっている。心の中の言葉を無意識に発してしまったのだろうか?ボーイ達は聞こえなかったのか不思議そうな顔をしている。
……気にしない方がいいだろう。きっとカイザーも疲れているんだろう。そう思うことにした。
これ以上カイザーを刺激しないように話題を変える。これからのこと、ボクの復帰の話、ボーイのドリームトロフィーリーグの進捗、グラスの次走、クインはどうするのか。話題は尽きなかった。こうしてみんなと話すのはやっぱり楽しい。みんな笑顔を浮かべながら楽しく会話をする。
ボクは友達との会話を楽しみながら、カフェテリアでの時間を過ごした。
面白い漫画がたくさん出るので出費がかさむ。