ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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復帰後の取材を受ける回


第115話 取材を受けて

 6月も後半に入ったある雨の日のこと。ボクはトレーナーと一緒にマスコミの応対をしている。この前ファンクラブのサイトで正式に退院したということを発表したので、この機会にボクの姿をカメラに収めようと数多くの出版社がこのトレセン学園を訪れていた。隣ではトレーナーがマスコミの質問に丁寧に答えている。ボクは記者の人に質問を振られた時にだけ答えていた。

 だが、ボクの機嫌は最悪と言っても過言ではないだろう。元々記者の人達はそこまで好きじゃなかったがボクが入院した時にトレーナーが開いた記者会見でトレーナーを一方的に批判していたことを忘れてない。まるでトレーナーだけが悪いみたいな記事を書いていたこと、トレーナーがボクを無理矢理復帰させようとしていると書いた記事を出したこと、そのせいで世間の一部からトレーナーがバッシングを受けていたこと。まぁバッシングの方はファンクラブのこともあってかすぐに収まり、今ではむしろ好意的に見る人が増えてきているのは喜ばしいことだが。

 マスコミの人達がしてきたことを上げていけばキリがない。トレーナーはそれでも良い人はいると言っているもののボクにだって我慢の限界というものはある。

 

 

(この応対もホンマやったらやらん予定やった。ファンクラブでボクの復帰の写真見せるだけで終いやったのに……)

 

 

 学園の方に取材をやらせてくれとかなりの数の申し出が殺到したらしい。秋川理事長やたづなさんも最初は断っていたそうなのだが、最終的にトレーナーが折れる形でこの場が設けられることとなった。何故やるのかを聞いてみたところ、

 

 

『騒ぎが大きくならんうちに応対していた方がマシだろ?』

 

 

と返ってきた。確かに、断り続けたら騒ぎがドンドン大きくなってあることないこと書かれることになるかもしれない。ならば今のうちにボクの復帰のインタビューをした方がマシだという判断だろう。トレーナーの言葉を聞いてボクは渋々納得した。

 もうこれで何人目か分からない記者の人が、これまた何度目か分からない質問をしてくる。そしてその質問はボクに向けられたもので、必ず聞かれた質問だ。

 

 

「テンポイントさん、正直にお答えください。本当に復帰に関しては神藤トレーナーの独断ではないのですね?」

 

 

 ……もし今何をしても罪に問われないのだったら、こいつら全員蹴っ飛ばしてやりたい。だが、それをしたらトレーナーや学園の人達に迷惑がかかるからやらない。

 こめかみに青筋が浮かび上がりそうなほどの怒りの感情を抑えながらボクは冷静に答える。

 

 

「……何度も聞かれとりますけど、復帰に関してはボクとトレーナーで決めたことです。決してトレーナーの独断ではありません」

 

 

「本当ですか?言わされてるわけではなく?」

 

 

「何を勘違いしとるか知りませんけど、それ以上言うことはありません。ボクとトレーナーで話し合って復帰を決めました。それだけです」

 

 

 ボクの答えを聞いて記者の人は大人しく引き下がった。こちらは今のところ必ずされているこの質問にいい加減堪忍袋の緒が切れそうだった。隣にいるトレーナーも、ボクの怒りが伝わっているのだろう。先程から早く切り上げようと記者の質問にできる限り短く答えていた。

 この記者の質問も終わったということで退出する。次の記者誰か?そう考えていると入ってきたのはたづなさんだった。こちらを労うように声を掛けてくる。表情には申し訳ないという感情が見てとれた。

 

 

「お疲れ様です神藤さんテンポイントさん。それと、申し訳ありません。止めることができず……」

 

 

「たづなさんのせいじゃありませんよ。気にしないでください」

 

 

「そうです。悪いんはアイツらなんですから」

 

 

「もうちょっとオブラートに包もうな?テンポイント」

 

 

「知らんもん。ツーン」

 

 

「ツーンてお前」

 

 

 ボクとトレーナーのやりとりにたづなさんは少しだけ笑みを浮かべる。そしてこの後の予定を伝えてくれた。

 

 

「この後なんですが、後数社だけ取材が残っております。それが終われば取材は終わりですね」

 

 

「後もう少しってことですね」

 

 

「はい。それに最後の数社は神藤トレーナーに対して好意的な記事を書いてくれた出版社の方々ですし、あの記者会見の後も肯定するような記事を書いてくれた出版社です。テンポイントさんも安心して受け答えができるかと」

 

 

「っちゅうことは、乙名史さんも含まれとるってことでしょうか?」

 

 

「そうですね。月刊トゥインクルの記者の方も含まれております」

 

 

 たづなさんの言葉にボクは少し気持ちが軽くなる。その後のたづなさんの話によると後半に乙名史さんと同じように批判的な記事を書かなかった出版社を集中させたらしい。ありがたい限りである。

 その後10分後に再開だという旨を伝え終わった後たづなさんは部屋を出ていく。トレーナーは溜息を1つ吐いてボクに話しかけてきた。

 

 

「しっかし、同じような質問に同じような批判。さすがに飽きてきたところだったからな。ここにきて少し気持ちが楽になったよ」

 

 

「やな。ホンマ蹴っ飛ばしてやろうかと思うたわアイツら」

 

 

「やめろよ?本当にやめろよ?」

 

 

 冗談交じりにそう言うが、どうやらボクが思っているよりも声に凄みがあったらしい。トレーナーはボクに制止の言葉を投げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから何人かの記者の人の質問を受ける。たづなさんが言っていた通り、この人達はトレーナーにも好意的に接してくれている人達ばかりで前半の記者のような質問は全然してこなかった。何より、ちゃんとボクとトレーナーが2人で復帰を決めたということをちゃんと分かっているのか、その類の質問をしてこなかっただけでもボクとしては嬉しかった。

 最後に、月刊トゥインクルの記者である乙名史さんの質問を受けている。

 

 

「神藤トレーナー、テンポイントさん。まずは退院おめでとうございます!復帰に向けて一歩前進ですね!今のお気持ちをお聞かせ願えますか?」

 

 

「ありがとうございます。正直まだまだやるべきことがたくさんありますし、スタートラインにようやく立った、って感じですけど」

 

 

「おおきにです。トレーナーの言うた通り、ようやくスタートラインに立った感じですね。こっから頑張っていこう思うてます」

 

 

「成程成程。では、復帰レースに関してもまだ考えてはいない、と?」

 

 

「そうですね。まずは前の状態までいかに戻せるか。それだけを考えています」

 

 

「分かりました。ではテンポイントさんに質問なのですが」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

「ファンクラブサイトでの記事は私も目を通しました。リハビリ中、辛い思いや不安な気持ちもあったと思います。しかし、テンポイントさんはそれらを乗り越えて今こうして復帰の道を歩み始めることができました」

 

 

「そうですね。辛かったり、不安やったことはあります」

 

 

「ズバリ!乗り越える原動力になったものをお教えいただけますか?」

 

 

「乗り越える原動力……ですか」

 

 

 ボクは少し考えて、答える。自分の頭に浮かんできた、ボクが思っていることをそのままに。

 

 

「友達や、家族の励ましもあったんですけど、やっぱり一番大きいんはトレーナーの存在ですね」

 

 

「神藤トレーナーの存在……ですか?」

 

 

「はい。トレーナーはボクの復帰したいっちゅう我儘を聞き入れてこうして一緒に歩んでくれとります。それだけやありません。入院中は1日も欠かさずお見舞いに来てくれましたし、ボクが眠るまでずっと病室におってくれました。自分の仕事やってあるのに、それでも欠かさず来てくれました」

 

 

 ボクの話を乙名史さんは黙って聞いている。ボクは続ける。

 

 

「入院して、最初ん頃は高熱でうなされる時もありました。そん時トレーナーは決まってボクの手を握ってくれたんです。安心させるように、ずっとボクの手を握ってくれました。リハビリでも、終始ボクを気遣うように動いてくれました。世間からの批判もあって自分も大変やったやろうに、ボクのために色々と動いてくれとったんです」

 

 

 乙名史さんは何かを耐えるように身体を震わせていた。ボクは少し不思議に思ったがボクはそのまま続けることにした。

 

 

「やから、今ボクがこうして復帰できるとるんはトレーナーの貢献が一番大きいと思うとります。友人達や家族の存在も勿論ありますから優劣はつけられませんけど、リハビリを乗り越えることができたんはトレーナーの存在が一番大きいと。そう思うてます」

 

 

 ボクはそう締めくくった。乙名史さんは相変わらず身体を震わせている。何かあったのかと思い声を掛けようとしたその瞬間、感情を爆発させるように乙名史さんは大声を出した。

 

 

「素晴らしいですッッッ!!」

 

 

「うわぁ!?」

 

 

 突然の大声にビックリしてしまった。トレーナーも声こそ上げなかったが驚いた表情を浮かべている。しかし、ボク達のことはお構いなしに乙名史さんは話始めた。

 

 

「神藤トレーナーがテンポイントさんを深く思っているのは存じ上げておりました……。しかしッ!テンポイントさんも神藤トレーナーを深く信頼しているのですね!?」

 

 

「は、はい。まぁそうですね」

 

 

「あぁ……!素晴らしい……!トレーナーとウマ娘が互いに互いを信頼して思い合う……ッ!神藤トレーナーは担当のためならばどんな無理難題でも不可能なことだろうと叶えてみせ、テンポイントさんもそれに応えるようにG1だろうと海外のレースだろうと勝ってきてやると!つまりはそういうことですね!?」

 

 

 一瞬圧倒されそうになったが、ボクは力強く答える。

 

 

「はい。それぐらいの覚悟を持っとりますし、トレーナーができる言うんやったらボクにはできる。そう思うてます」

 

 

「私もです。テンポイントのためであれば、嵐の中の航海だろうと出航しましょう」

 

 

 その言葉を聞いた乙名史さんは感極まったような声を上げた後、落ち着いたのか恥ずかしそうに謝罪をしてきた。

 

 

「す、すいません。つい興奮してしまい。それでは次の質問ですが……」

 

 

 その後は何個か質問される。

 全ての質問を聞き終わった後、乙名史さんはこちらに一礼した後笑顔で告げる。

 

 

「本日は本当にありがとうございました!記事ができるのを楽しみに待っててください!期待に応えられるような記事を作ると約束いたしますので!」

 

 

「はい。出来上がるのを楽しみに待ってますね」

 

 

 トレーナーがそう答えると、乙名史さんは足取り軽やかに帰っていった。入れ替わりでたづなさんが入ってきて、労いの言葉を貰った後解散となる。ボクとトレーナーは一緒にトレーナー室へと返っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナー室に戻った後は、お互いに労いの言葉をかける。

 

 

「お疲れ様テンポイント。悪かったな今日は。嫌だったろうに受けてくれて本当にありがとう」

 

 

「トレーナーこそお疲れさん。ええよ。あることないこと書かれるよりはマシやからな」

 

 

 練習は今日は休みだ。今日は一日中取材の予定だったのと、連日やるのは身体に良くないということで休みにしている。なのでトレーナー室でボクはゆっくりしていた。

 不意にトレーナーがテレビをつける。

 

 

「うん?時田さんじゃないか。そういやエリモジョージの次走も近いんだっけか?」

 

 

「そういやそうやな。確か今週末やったはずやで」

 

 

 ニュースには【エリモジョージ覚醒!今後の展望は?】と銘打たれていた。……何故かジョージ本人はいないが。

 時田トレーナーがインタビュアーの質問に答えている。

 

 

《……それでは、エリモジョージさんは問題ないと?》

 

 

《はい。京都記念、鳴尾記念、そして宝塚記念。この3つに勝ったことで確信しました。エリモジョージは完全に覚醒したと》

 

 

《今までのような気まぐれさはなくなった……と?》

 

 

《そうですね。精神的にも成長し、世代の代表格であるグリーングラス相手に完勝しました。今のトゥインクルシリーズでエリモジョージに敵うウマ娘はいないでしょう。それだけの自負はあります》

 

 

 インタビューの言葉に、トレーナーは真面目な表情で告げる。

 

 

「実際問題、今のエリモジョージはヤバいからな。ドリームトロフィーの猛者相手にも勝てるだろうよ」

 

 

「やな。時田トレーナーの言葉もあながち間違いやないしな」

 

 

「ま、完全に復帰したらお前が最強だけどな?」

 

 

 トレーナーは笑みを浮かべて答える。少し苦笑いしながらもボクは答える。

 

 

「当たり前やろ。ま、復帰するまでが長いんやけどな」

 

 

「気長にいこうぜ?テンポイント」

 

 

「やな。よろしゅう頼むで、相棒」

 

 

「任せとけ、相棒」

 

 

 ボク達はお互いに笑いあって宣言する。

 その後はせっかくだからジョージのレースを見に行こうという話になって解散となった。週末、少し楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして迎えた週末、ジョージのレース本番の日。ジョージはグラスやホクト相手に格の違いを見せつけて勝利したことから圧倒的1番人気に支持されていた。雨の中の不良バ場。それでもジョージならば問題ないだろう。そう思い、レースを見ていた。

 なお、

 

 

 

 

《今2番ヤマニンゴローが1着でゴールイン!雨の中、不良バ場のレースを2番人気ヤマニンゴローが制しました!2着は1番キングラナーク!3着は7番クラウンピラード!1番人気エリモジョージはまさかまさかのしんがり負け!大惨敗です!》

 

 

《グリーングラスやホクトボーイ相手に格の違いを見せた彼女はどこにいったのか。とんでもない惨敗ですね》

 

 

《精神的に成長した!彼女に敵うウマ娘はトゥインクルシリーズにはいないとは何だったのか!彼女のトレーナーの願い叶わず!エリモジョージの気まぐれがここにきて炸裂してしまったぁぁぁぁぁ!》

 

 

 

 

ジョージはしんがり負けの大惨敗を喫した。当の本人は負けたというのに腕を頭の上で組んで口笛すら吹く始末である。

 雨が降る中、隣にいる時田トレーナーの悲痛な叫びが聞こえてきた。

 

 

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「キャラ崩壊しとる……」

 

 

「あんな負けされたら誰だって発狂するだろ……」

 

 

 ボクとトレーナーは、時田トレーナーを哀れに思うことしかできなかった。




うーんまさに気まぐれジョージ
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