ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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復帰に向けての合宿回。


第116話 合宿再び

 終業式も終わってトレセン学園も今日から夏休みに入った。ボクはクラスのみんなに別れを告げて急いで寮へと戻る。廊下を走るわけにはいかないので早歩きだが。急いでいる理由はただ1つ、今日から合宿が始まるからだ。

 寮に戻ったボクは鞄を置いて部屋に置いてあった旅行用のキャリーケースを持って寮を出る。今度はトレーナーが待っている練習場近くのプレハブ小屋、トレーナー室へと急いだ。

 プレハブ小屋まで走って向かうと、すでにトレーナーは準備万端とばかりに小屋の前に立っていた。走ってきたボクに気づいたのか、手を振っている。ボクは少し息を切らしてトレーナーと合流した。

 息を整えているボクに、トレーナーは少し呆れたようにボクに話しかけてきた。

 

 

「別にそんな急いで来る必要はないだろ?そんなに早く練習したかったのか?」

 

 

 ボクはトレーナーの質問に即座に答える。

 

 

「当たり前やん!早う復帰するためにも、一分一秒も無駄にできんからな!」

 

 

 ボクの答えにトレーナーは苦笑いを浮かべる。

 

 

「ま、それもそうだな。じゃあ早速向かうぞ!」

 

 

「おー!」

 

 

 トレーナーの先導の下、ボクは歩いていく。少し歩いたところに停めてあるトレーナーの車に乗って、ボクは合宿所へと向かった。

 今年の合宿所も、去年と同じ場所である。トレーナーの車に揺られるままボクはぼうっと過ごしていたが、さすがに暇になったので運転しているトレーナーに話題を振ることにした。

 

 

「トレーナー。今回の合宿のメニューどうするん?」

 

 

「合宿のメニューか?そうだな……」

 

 

 少し間をおいてからトレーナーは答える。

 

 

「大まかに変える予定はないが、今回の合宿は去年と違って少しでも早くベストな状態に戻すための合宿だ」

 

 

「朝はアレやろ?峠を自転車で超えるんやろ?」

 

 

「そうだな。さすがに最大ギアで挑むようなことはさせないが。また一から段階を刻んでいくぞ」

 

 

「了解や。今のボクでどんだけ行けるか……試すのもええかもな」

 

 

 復帰から1ヶ月程経っている。今のボクがどこまで行けるのか、どこまで戻っているのかを試すにはもってこいかもしれない。

 

 

「俺の鞄の中に合宿のメニューが書いてある紙が入っているはずだ。気になるなら確認してもいいぞ」

 

 

「りょうか~い」

 

 

 ボクは脚元に置いてあったトレーナーの鞄の中を漁る。

 

 

「どれどれ~……あったあった、これやな」

 

 

 その中から先程トレーナーが言っていた合宿用のメニューが書かれた紙を取り出す。内容に目を通した。

 

 

「ふむふむ……。去年とあんま変わらんけど、基礎的なトレーニングが多めやな。特に走りに関してはフォームチェックもあるくらいやし」

 

 

「さすがにここ1ヶ月もタイム走以外ではほぼ走ってないからな。そのタイム走も基本は3ハロンまでしか測ってないし、そろそろ本格的な復帰に向けて練習をする予定だ」

 

 

「3ハロンのタイムも徐々に右肩上がりになってきとるからな。それでもベストには程遠いんやけど」

 

 

 そう告げたボクを励ますようにトレーナーは言葉を返す。

 

 

「右肩上がりになってきているってことは、徐々に戻ってきている証拠だ。そう遠くないうちに元のタイムまで戻せるようになるさ」

 

 

「……ま、そうやな。この合宿でベストに近づける、いや、ベストのタイムまで戻したろうやないか!」

 

 

「おし!その意気だテンポイント!今年の合宿も頑張るぞ!」

 

 

「おう!目指すは年内復帰や!」

 

 

 お互いに笑いあってそう宣言した。今回の夏合宿でベストな状態まで持っていく。難しいかもしれないが、絶対にベストまで持っていってやる。そう心に誓った。

 合宿所まではまだ時間があるが、聞きたいことは聞いたので他愛もない会話を始める。まずは、今年のサマードリームトロフィーについてだ。聞くところによると、ボーイとカイザーは無事に中距離部門での本選出場が決まったらしい。その日はみんなでお祝いしたのを覚えている。

 ボクはトレーナーに尋ねた。

 

 

「せやトレーナー。ボーイもカイザーもサマードリームトロフィーの本選に出走するけど、トレーナー的に本命は誰なん?」

 

 

「俺か?そうだな……。確か今回の中距離部門はカブラヤオーが出走するんだろ?順当にいけばカブラヤオーかトウショウボーイになるんじゃないか?今回は2400mだったか……。カブラヤオーとトウショウボーイどっちも一番得意とする2000mじゃないがそれでも中距離だったらこの2人だな」

 

 

「やっぱその2人になるよなぁ。個人的にはカイザーも応援したいところやけど……」

 

 

 言って思い出す。カイザーのあの時の言葉を。普段の彼女からは想像もできないほど憎々し気に呟いたあの言葉。

 

 

『いつか憶えてろよタケホープ』

 

 

 思わず身震いした。トレーナーが途中で言葉を切ったボクに心配そうに声を掛けてくる。

 

 

「どうした?テンポイント」

 

 

「い、いや。何でもないで」

 

 

 あの時は何というか、得体のしれない恐ろしさを感じた。それを振り払うようにボクは言葉を続ける。

 

 

「せ、せや!ハイセイコー先輩も確かマイル部門で出るんやろ!?トレーナー的にはどう思うん?」

 

 

「ハイセイコーか?う~ん……。贔屓目で見るわけじゃないが、あの距離でハイセイコーに勝てる奴はそうはいない。マイル部門はハイセイコーの独壇場じゃないか?」

 

 

「先輩方ほとんど長距離か中距離いっとるもんな。マイルって他にどんな人がおったっけ?」

 

 

「確か……お前と同世代のテイタニヤが出るはずだ」

 

 

「あぁ~ダブルティアラの」

 

 

 ボクはクラシック路線、あっちはティアラ路線だったのでたまにしか話したことはないが。それなりに仲の良い方だとは思っている。

 そうして話を続けていると、いつの間にか宿泊先の施設に着いていた。トレーナーは駐車場に車を停めて降りる。ボクも降りて、後部座席から荷物を下ろした。

 旅館のチェックインを済ませ、自分の部屋へと案内される。去年と同じ部屋だ。内装も特に変わっていないため、懐かしさを覚える……が、すぐに気を取り直してジャージに着替え始めることにした。

 

 

(少しでも早う練習せんと!)

 

 

 そう思い、ボクは着替えた後はすぐに部屋を出てロビーへと向かう。ロビーではすでにトレーナーが待っていた。

 

 

「よし、じゃあ早速行くぞ」

 

 

「了解。早いとこ行こか」

 

 

 トレーナーは旅館の駐車場に停めてあった軽トラに乗る。ボクが助手席に乗ったのを確認し、トレーナーは軽トラを発進させた。ボク達の合宿が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前回も来た、旅館から近い位置にあるこの峠道。随分懐かしいように感じた。今ボクはスタート地点で自転車を漕ぐための準備をしている。

 準備をしているボクにトレーナーが話しかけてくる。

 

 

「今回は現時点でお前がどこまで行けるかを試す。アンクルウェイトはまだ着けない」

 

 

「ま、最初は測るためやからな。問題ないで」

 

 

「よし。じゃあ準備が終わったら言ってくれ」

 

 

 ヘルメットをしっかりと装着して、準備を整える。大きく1つ深呼吸して気持ちを落ち着ける。

 

 

「……よし、ええで。準備できたわ」

 

 

 ボクの言葉にトレーナーが頷く。

 

 

「分かった。それじゃ、よーい……スタート!」

 

 

 トレーナーの言葉とともに、ボクは自転車を漕ぎ始める。1年ぶりの坂道、今の自分がどこまで行けるのか……。いや、そうじゃない。

 

 

(軽く走破したるぐらいの気持ちで行ったらぁ!)

 

 

 そう気合を入れて自転車を漕いでいった。坂道を上っていく。

 ……まあさすがに現実はそんな甘くはなく、走破することはできなかった。ただ、アンクルウェイト無しとはいえ半分まで進むことができたのは純粋に喜ぶべきことだろう。

 息を整えているボクに、軽トラに乗ったトレーナーが話しかけてくる。

 

 

「まずは一発目ご苦労さん。ほら、ドリンクだ」

 

 

「あ、ありがと……」

 

 

 息も絶え絶えにボクはそのドリンクを受け取る。水分補給をしているとトレーナーが驚いたようにボクに話しかけてきた。

 

 

「しかし、思ったよりも進んだな。重り無しとはいえ半分も進むとは」

 

 

「自分、でも、驚い……とるわ。ここ、までこ、これる、とは……な」

 

 

 水分補給をして、息を整える。少し落ち着いてきた。そんなボクにトレーナーが提案する。

 

 

「さて、じゃあ次からはアンクルウェイトも込みでやるか?」

 

 

「……走破目的、やったら断りたいとこやけど……。頼むわ」

 

 

「分かった。ひとまず軽トラに乗ってくれ。スタート地点まで戻るぞ」

 

 

「あいあい」

 

 

 自転車を荷台に乗せて軽トラの助手席に乗る。スタート地点まで戻ってきた。

 その後は重りを装着して峠道を上っていく。目標は高く、走破を目指して自転車を必死に漕いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、日も落ちてきたし今日はここまでだ!旅館に戻るぞ!」

 

 

「……お、おう。りょう、うっぷ、かい……や」

 

 

「自転車は俺が乗せとくから助手席で休んどけ。テンポイント」

 

 

「わ、分かった……」

 

 

 結局走破することはできなかったし、何なら前回の初日同様最初の峠すら超えることはできなかった。息も切らしながらボクは軽トラの助手席に座る。

 トレーナーの運転に揺られるまま旅館へと帰って来た。旅館の人達がボク達を温かく出迎えてくれる。大分息も整ってきた。

 トレーナーがボクに聞いてくる。

 

 

「先に飯にするか?」

 

 

「やな。先にご飯食べよか」

 

 

 ボクの言葉にトレーナーは頷く。ボクは自分の部屋に戻って料理が運ばれてくるのを待った。

 しばらく待っていると、旅館の人が部屋の扉を開けて入ってくる。

 

 

「テンポイント様。お食事をお持ちいたしました」

 

 

「おおきにです」

 

 

 旅館の人が続々と料理を部屋の中に運んできた。前回同様結構な量である。ただ、トレーナー曰く食べるのもトレーニング。残すわけにはいかない。

 

 

「いただきます!」

 

 

 ボクは料理に舌鼓を打ちながらも残さないように食べていく。結構ギリギリだったが何とか完食することができた。

 料理を食べ終わった後は温泉に入るための準備をする。道具を持って部屋を出た。

 

 

(ここの温泉極楽やったからな~。一日の疲れを癒すにはもってこいや)

 

 

 思わずスキップしそうなほどに足取り軽く、ボクは温泉へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 温泉で疲れを癒した後は、トレーナーの部屋の前に立つ。扉をノックして返事を待った。

 

 

「どうぞー」

 

 

 中から返事が聞こえたのでボクは扉を開けて中へと入る。部屋の中では、トレーナーがPCで作業をしていた。

 ボクの姿を確認したトレーナーは作業の手を止めてボクに告げる。

 

 

「んじゃ、マッサージを始めるか」

 

 

「うん。頼むで」

 

 

 ボクはうつ伏せになってリラックスする。トレーナーのマッサージが始まった。

 

 

「あ~極楽や~。一日の疲れが吹っ飛んでいく気がするで~」

 

 

「今日もお疲れさんテンポイント」

 

 

「真面目な話、トレーナーはホンマに色んな職業就けそうやな」

 

 

「資格は沢山あるからな。お前のトレーナーを辞めるつもりはないが」

 

 

「当たり前や。ちゃんとボクの隣を歩いてもらうで」

 

 

「分かってるよ」

 

 

 そんな他愛もない会話を繰り広げながらマッサージを受ける。誇張抜きに一日の疲れが飛んでいきそうな感じがした。

 マッサージも終わって、学園から出た課題をトレーナーの部屋で進めていく。トレーナーもボクもそれぞれの作業を黙々としていた。

 課題がキリのいいところで終わったので時計を確認する。

 

 

「ええ時間やな。そろそろ自分の部屋に戻るわ」

 

 

「うん?もうそんな時間か。じゃ、お休み。テンポイント」

 

 

「トレーナーも、お休み。明日もよろしゅうな」

 

 

「あぁ。明日もよろしく」

 

 

 トレーナーと挨拶を交わしてボクは部屋を後にする。自分の部屋へと戻った。

 自分の部屋でメッセージを確認し終わった後、歯を磨いて布団に潜る。電気を消して、目を瞑り寝る準備を始めた。

 

 

(明日も頑張るで!目指せ年内復帰や!)

 

 

 そう心に誓って、合宿初日は終わった。




そういえば今日ハロウィンだった(今日の午後に気づいた)。
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