ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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模擬レース終了後のお話


第13話 それぞれの成長

 テンポイントの実力を測りたいおハナさんと強者との経験を積ませたい俺との利害が一致したことから組ませてもらった併走という名の模擬レース。相手は前にテンポイントとレースをさせて欲しいと言っていたハイセイコー。テンポイントが先行する形でレースは展開されていたが、第3コーナーを回ってからハイセイコーがテンポイントを突き放しその差を広げていった。勝負は着いた……。そう思った刹那、突如テンポイントが再加速をして離された距離を一気に詰めハイセイコーへと追いついた。

 

 

「嘘でしょ!?あそこからまた追いつくなんて!」

 

 

 おハナさんは驚いた声を上げている。だがこれは驚くなという方が無理だろう。傍目から見てもテンポイントはすでに体力はなく脚も残っていない状況、後はズルズルと引き離されるだけだろうと誰もが思ったはずだ。かく言う俺もそう思っていた一人だ。しかしテンポイントはそんな状況でも微塵も諦めていなかった。相手がシニア級だろうと、生徒会長だろうと関係ない。ただ己の持つ力を全て出していた。全てはハイセイコーに勝つために。

 

 

(お前は、ホントにすごい奴だよ……テンポイント)

 

 

 だがレースは非情だ。テンポイントはハイセイコーに追いついたもののそこで終わった。ハイセイコーがさらに加速したことで縮めた距離はまた開き、最終的に5バ身差で模擬レースは終わりを告げた。

 おハナさんが口を開く。

 

 

「凄まじい勝負根性ね……。まさか一度離されてからまた追いつくなんて……」

 

 

「あぁ、ホントだぜ。俺にはもったいない子だよ」

 

 

 少なくとも彼女に恥じないトレーナーにならなければならない。トレーナーとしての研鑽を高める。新人だからって胡坐をかいてはいられない。そしてそれ以上に思った。どんな時でも諦めない、担当の子を信じてやれる精神を持ったトレーナーになろうと。この模擬レースでのテンポイントの最後まで諦めない姿を見て、俺はそう思った。

 ひとまずは彼女のもとへと向かおう。レースで大健闘をした俺の担当のもとへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テンポイントのもとへと合流した時、彼女は悔しそうにしながらハイセイコーを見ていた。それだけ本気で勝とうとしていたのだろう。するとハイセイコーから話しかけられる。

 

 

「やぁ神藤さん。今日はありがとうね。私の我儘を叶えてくれて」

 

 

「全くだ。てか模擬レースになるなんて聞いてねぇぞ俺は」

 

 

 すると彼女はおかしそうに笑いながら答える。

 

 

「まあ言ってないからね。どうだい?面白いサプライズだっただろう?」

 

 

「面白いっていうよりハラハラしたわ」

 

 

 俺の言葉に彼女はまたおかしそうに笑う。そんなにこの模擬レースが面白かったのだろうか?とりあえず俺はまだ倒れているテンポイントに手を貸そうとする。

 

 

「立てるか?テンポイント」

 

 

 しかし彼女は俺の手を借りず自力で立ち上がる。

 

 

「……平気や、ボクはピンピンしてるで」

 

 

 威勢はいいが、肝心の足は生まれたての小鹿のように震えている。単なるやせ我慢だろう。そのため俺は彼女に無理矢理にでも手を貸すことにした。

 

 

「あんまり無理すんな。ほれ、手に掴まれ」

 

 

 すると観念したのか、テンポイントは俺を支えに立つ。まああれだけの激走だ。疲れが残っていても仕方がない。

 テンポイントに手を貸しながら俺はハイセイコーへと向き直り、お礼を言う。

 

 

「俺からもお礼を言わせてくれ。今日はありがとうなハイセイコー。いい経験になったよ」

 

 

「フフッ、気にしないでくれ。さっきも言ったように元々これは私の我儘だからね」

 

 

 ハイセイコーは答える。真面目な時は本当に真面目だ。そのまま会話を続けようとした時、トウショウボーイがこちらへと近づいてきた。

 

 

「スッッッッッゲェ!ホントにスゲェ!なぁなぁ!オレとも今度併走やってくれよ!」

 

 

 二人の戦いに感化されたのだろう。そう言ってきた。そしてトウショウボーイと一緒にこちらに近づいてきたおハナさんが彼女を窘める。

 

 

「それは後にしなさい、トウショウボーイ。ハイセイコー、お疲れ様。今日はしっかりとクールダウンするように」

 

 

「分かったよ、東条トレーナー。じゃあ行こうかトウショウボーイ。クールダウンに付き合ってくれ」

 

 

「わっかりました!」

 

 

 そう言って二人は離れていった。俺とテンポイントとおハナさんの三人だけが残る。俺は改めておハナさんの方へと向き直り今回のことのお礼を言う。

 

 

「ありがとうございましたおハナさん。こっちのお願いに答えてくれて」

 

 

「元々こちら側にも落ち度があったとはいえ、こんなことはこれっきりにして頂戴」

 

 

 呆れながらおハナさんは答える。さすがにここまでのことになるとは思ってなかったので俺は素直に謝る。

 するとテンポイントは疲れが出てきたのか、少し眠そうにしている。放っておけば立ったまま寝てしまいそうだ。そう思った俺はおハナさんに解散の旨を伝える。

 

 

「すいません、テンポイントが予想以上に疲れているのでこの辺で解散にさせてもらってもいいですか?早く休ませてやりたいので」

 

 

おハナさんもそれを承諾する。

 

 

「そうね、アレだけ全力で走ったんだもの。残りのことはまた後日にして早く休ませてあげなさい」

 

 

「はい、そうさせてもらいます。本当にありがとうございました」

 そして俺たちは練習場を後にする。こんな時トレーナー室が近くにあってよかったと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬レースが終わってテンポイントをトレーナー室のソファで横にさせたらすぐに寝息が聞こえてきた。それだけ疲れていたのだろう。俺は寝ている彼女を起こさないように報告書を作成する。

 数時間経った後、テンポイントは起き上がり自分の状況を把握して顔を赤くした後

 

 

「スマン!いつのまにか寝てもうたわ!」

 

 

と謝ってきた。それに対し俺は問題ないと答える。

 

 

「そんだけ疲れてたってことだ。まだ休んでてもいいんだぞ?」

 

 

「いや、もう十分休めたから大丈夫や。それより今日の反省でもせんか?」

 

 

 確かに反省会はしようと思っていたところだ。俺はその提案を承諾して準備を始める。まあその前にやることをやろう。

 反省会の準備をする前にまずはお疲れ様会をするためにジュースと牛乳を用意した。俺がジュース、テンポイントが牛乳だ。乾杯の音頭を取る。

 

 

「というわけで模擬レースお疲れ様でした!かんぱーい!」

 

 

「かんぱーい!……やないわアホ!」

 

 

 見事なノリツッコミだ。

 

 

「まあまあ落ち着けよテンポイント。ひとまずは疲れを癒すためにだな」

 

 

 言い終える前に彼女は口を開く。

 

 

「こっちは色々言いたいことあるんやで!主に模擬レースの相手とか!」

 

 

「それに関しては弁解の余地がない」

 

 

 ほぼほぼ分かっていた上に予想も言わずに黙っていたので本当に弁解する余地がない。誠心誠意謝る姿勢を見せるとテンポイントはひとまず矛を収めてくれた。

 

 

「……まあでも、経験を積むっちゅう意味では身になったから今回は許したる。次はないで?」

 

 

「はい、次はしっかりとお伝えさせていただきます」

 

 

なんやねんそのキャラ、と言いながら彼女は牛乳を飲む。時間も少し経った後、模擬レースの反省会へと移る。

 

 

「さて、学園最強の一角とレースできたわけだが……、正直な感想を言ってくれ、どうだった?」

 

 

「……自分が天狗やったっちゅうことを分からされたわ。ボクはまだまだやな」

 

 

「今回に関しては相手が悪いだけでもあるが、自分の中で驕っていた部分があったんだな?」

 

 

 俺の質問にテンポイントは頷く。

 

 

「そうや、ボクはまだまだひよっこや。まだまだいろんなもんが足りてへん。やから、これからはもっと鍛えなあかん、そう思うたわ」

 

 

「そうだ。いくらレースで輝かしい結果を残そうと慢心があればいつか足元を掬われる。上には上がいるということを認識することが大事だ」

 

 

 今回に関しては上過ぎるが。だが俺たちがいずれ超えるべき相手なのだ。その実力が分かっただけでも良かったのかもしれない。

 テンポイントは続けて反省点を述べていく。

 

 

「先輩は最初全然本気で走っとらんかった。それにムキになってペースを乱してもうたんは良くなかったな」

 

 

「まあジュニア級相手に最初から本気を出したら心折れかねないからな。だが、そんな時でも自分のレースをする自制心を持とう」

 

 

 その辺はテンポイントも分かっているのだろう。すぐに頷いた。俺は言葉を続ける。

 

 

「けど闘争心を持つことは大事だ。その心を忘れるなよ」

 

 

「ん。分かった」

 

 

そして今回のレースの反省点を次々に述べていく。その中でも今まで敬遠してきていた坂路練習を増やしてくれと言われたのは驚いた。本人曰く

 

 

「強くなるには苦手なもんにも取り組まんとアカンからな。苦手やからっていつまでも逃げるわけにはいかんわ」

 

 

とのことらしい。これは嬉しい誤算だった。それほどまでに今回の模擬レースが悔しかったのだろう。自分の苦手分野に積極的に取り組む姿勢を見せた。 

 反省会もほどほどに、次の話は今後の展望についてになる。

 

 

「そうやトレーナー。今後のレースとかって決まっとるんか?」

 

 

「そうだな……次のレースは共同通信杯を考えている」

 

 

「共同通信杯か……」

 

 

「そうだ。そしてこのレースにはクライムカイザーが出走してくる可能性がある」

 

 

「カイザーが出走してくるんか、それは楽しみやな」

 

 

 俺の言葉にテンポイントはそう言って笑った。まるで今から楽しみだと言わんばかりに。俺は今後のレースについて話す。

 

 

「そしてあともう一つレースを使って次に走るレースは……」

 

 

「皐月賞、やな」

 

 

 彼女の言葉にうなずく。ついにクラシックレースの一つ目の冠、皐月賞へと挑戦する。今のテンポイントの実力ならまず問題なく出走できるだろう。そして皐月賞を見据えて今後はトレーニングをしていこうと思っている。だからと言って他のレースを落とすわけにはいかないので気を引き締める。

 

 

「さて、反省会もこの辺にして明日からの練習を頑張るぞ!」

 

 

「おー!と言いたいところやねんけど……」

 

 

 テンポイントは歯切れが悪く答える。一体どうしたのか?

 

 

「……足がむっちゃ痛いねん、明日の練習休みにならん?」

 

 

「それを早く言え!くっそ!ハイセイコーの奴、恨むぞ!」

 

 

……なんとも締まらない一日の終わりだった。




ジュニア級のラスボスハイセイコーとの模擬レースが終わり、テンポイントは一つ成長しました。
次回からいよいよクラシック級のレース……の前に何話か挟みます。
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