《先頭のウマ娘が第3コーナーを抜けて第4コーナーへと入ります!先頭を走るのは依然として12番カブラヤオー!しかしさすがに苦しくなってきたのか序盤に刻み続けたハイペースなラップタイムは鳴りを潜めています!序盤よりもペースは落ちているぞ!先頭カブラヤオー!》
《しかしそれは後続も同じでしょう。2番手に控えているトウショウボーイと3番手との差が徐々に縮まりつつあります。これは最後の直線は混戦模様となるかもしれません》
《トウショウボーイのすぐ後ろ道中は3バ身程開いていた差を徐々に縮めようとしてきております!3番手には後方集団から上がってきた7番!その内をついて11番!外には13番が上がって来たぞ!1番と8番はすでに力尽きたか後退していっている!後続に控えていたウマ娘達が続々と前へと上がってきております!レースはまたも混戦模様!中距離部門を勝つのは一体どのウマ娘か!?最後まで目が離せません!》
先頭を走るカブラヤオー先輩はすでに第4コーナーへと入った。ボクはこの後の展開を固唾を緊張しながら見守っている。きっとみんなも同じ気持ちかもしれない。
展開としては、依然として前を走るカブラヤオー先輩が外に、内にボーイが控えている形だ。ただ、後続との差はほとんどなくなりつつある。さすがにここで追いついておかないと最後の直線で追い抜けないと判断したのだろう。最後の直線に向けて全員がペースを上げていた。
グラスが呟く。
「やっぱ~この展開だと後ろの方が有利なんだけど~、あの2人相手だとそうは思えないのが不思議だよね~」
「そうだね。通常であれば後ろの方が有利なこの展開。だが、カブラヤオーはここからが強いし、トウショウボーイはここからでも強い」
「勝負は最後の直線……というわけですね」
「そうだねぇ。特に東京レース場2400mは長いからぁ、総合力の高さが試されるねぇ」
そんな会話を聞きながら、ボクは後ろを走っているはずのカイザーの様子が気にしなってそちらへと意識を向ける。多分だが、まだ最後方を走っていると思ったボクは集団から抜けた最後方を見る。
「……?あれ?おらんな」
だが、最後方にカイザーの姿はなかった。いつの間にか最後方から抜け出していたらしい。一体どのタイミングで抜け出したのか気になるが、カイザーの姿を補足するために後ろから順に確認していく。
すぐに発見した。カイザーは現在丁度中団。先頭を走る2人からはまだ大分離れた位置だが、ひとまずホッとする。だが、その気持ちもすぐに驚きへと変わった。
驚いた理由。それはカイザーの走りにある。走る前や序盤に感じられたどこか集中し切れていない走りはすでになく、むしろ怖いぐらいに集中している姿が確認できた。それだけじゃない。思わず声に出してしまう。
「なんや……!あの無茶苦茶な進路……!?」
カイザーは何と、前を走るウマ娘達の間を抜けるように走っているのだ。それ自体は普通のことなのだが、カイザーのそれはかなり異質だ。なんせ、ウマ娘1人がやっと通れそうな隙間を寸分の狂いもなく抜けて前へと上がってきている。
一歩間違えれば走行妨害を取られかねない進路。だが、まるでカイザーは前を走る子達がどちらに移動するのかが分かっているかのように、一切の迷いもなく進路を取っている。不安な気持ちは一切感じさせない、確固たる自信を持ってその進路を選択しているかのように。
普段の彼女からは想像もできなかった走りに驚いていると、ボクと同じくカイザーを見ていたらしいタケホープ先輩が笑い声をあげる。
「くっくっく……はーっはっはっは!そうだ!それでいい!ようやく一皮剥けたじゃあないかクライムカイザー!」
「ビックリした!?いきなりどうしたんだタケホープ?」
急に笑い声をあげたタケホープ先輩に驚いたトレーナーが尋ねる。しかし、その言葉が聞こえていないかのようにタケホープ先輩は楽しそうに告げる。
「そうだ!それでいい!それこそが!お前の、お前だけに可能な、お前だけの武器だ!」
「ど、どうしちゃったんですか~?タケホープせんぱ~い?」
「ふ、普段のタケホープ様とは別人のようになっておりますね……」
グラスとクインの疑問に、ハイセイコー先輩が複雑な表情を浮かべて答える。
「タケホープは嬉しいこととか、楽しいこととかがあるとこうなるんだよ。君たちは初めて見たかもしれないがね」
「普段のんびりとしたタケホープからは想像もつかねぇな……」
沖野トレーナーがそう呟く。
「最初見たら驚くだろうね。180°変わるし」
そう言いながら、ハイセイコー先輩もカイザーの方を見ている。そして、見たままの感想を呟いた。
「しかしまぁ、無茶苦茶な進路だ。下手をすれば走行妨害を……」
「取られないさぁ。今更、そんなヘマをするような鍛え方はしてない」
ハイセイコー先輩の言葉を切って、タケホープ先輩が答える。その言葉は自身に満ち溢れていた。確信しているように。その言葉にハイセイコー先輩は眉をひそめる。
「なぜそう言えるんだい?あんな無茶苦茶な進路……未来でも分かってない限り」
「分かるさ。今のクライムカイザーならね」
タケホープ先輩の言葉に、今度はみんなが驚く。驚いているボク達を尻目に、タケホープ先輩は続けた。
「見てれば分かるさぁ。今のカイちゃんの強さがねぇ」
言われて、ボクはカイザーを観続けることにした。勝負は第4コーナーを抜けて最後の直線へと入ろうとしている。
カブラヤオー先輩を追い続けて、すでに第4コーナーまで来ていた。オレは悪態をつきそうになりながらもなんとか食らいついている。
(やっべぇ……!有マよりはマシだけど、それでもかなりキツい!)
元々自分はスタミナがある方じゃない。テンさんと競り合い続けた有マ記念だってほとんど気力で走っていたようなものだ。
一応スタミナと脚はまだあるとはいえ、万全な状態には程遠いだろう。カブラヤオー先輩の破滅逃げに最初から付き合い続けたのだ、当然の結果かもしれない。
だが、万全な状態じゃないのはカブラヤオー先輩も同じだ。現に、ペースは徐々に落ち始めてきている。辛そうな声も聞こえてきた。
「ヒィ……ッ!ヒィ……ッ!に、逃げなきゃ、逃げなきゃぁぁぁぁぁ……ッ!」
ただ油断はできない。カブラヤオー先輩が強いのはここからだ。
後ろからも、辛そうな声が聞こえてきている。オレたちのペースに合わせるように通常よりも早いペースで走っていたからだろう。
多分、最後の直線の勝負は泥沼化するだろう。全員のスタミナが尽きかけ、足もほとんど残っていない状態。その混戦を制するのに必要なのは……!
(精神力だ……!残りの距離、持ってくれよ、オレの身体!)
第4コーナーを抜けて最後の直線に入った。距離は確か、500mちょいあったはず。加えて、上り坂もあったはずだ。勝負を仕掛けるならそこ。そこで先頭に立って、後続を突き放しにかかる。オレはそう作戦を立てた。
最後に勝つのは自分だ。そう思いながら気合を入れなおす。残り400を示すハロン棒を確認しつつ、オレは坂を駆け上っていった。
1200m地点から閉じ込めていた気持ちを完全に解放し、進軍を始めた。そして、第3コーナーから私は前にいる奴らを抜きにかかる。
1人、1人、また1人と、抜いていく。その度に、奴らは驚いたような声を上げていたが、まぁどうでもいいことだ。私は気にしないでひたすら前を目指して走り続ける。
そもそも、どうしてこんなに簡単に抜かすことができるのか?答えは簡単だ。
(普段とは違うペースで走らされてますもんねぇ?いつもより早いペースで走ってるんですから、スタミナにも、脚にも当然キます。そして、少しだけ息を抜くタイミングを入れる……。それこそが、私が狙っている隙!)
最後の直線に向けて脚を溜めるのに息を入れる。そのタイミングで私は抜きにかかっている。相手からすれば意表を突かれて驚いた声も上げるだろう。完全に油断したタイミングで後ろから抜かされるのだ。驚かないはずはない。
じゃあ抜かされたら次はどうするか?それも簡単だ。
「クッソ!油断した!でも、負けない!」
「私だって!絶対に勝つんだから!」
1人、1人と、私が抜かした奴らがペースを上げ始める。気合を入れている声が聞こえた。
その声に、私は自分のペースを上げつつ口角が吊り上がるのを感じた。あぁ、面白いくらいこっちの策に嵌ってくれている。そのことがたまらなく楽しい。
(まぁ、ペースを上げますよねぇ?後ろから抜かされた、それが自身の油断から来たもんだ。そう考えるはずです。でもぉ、いいんですかねぇ?序盤から前にあてられるようにハイペースで来ているのに、無理にペースを上げて?それで本当に、最後まで持つんですかね?)
これで抜かした奴らを心配する必要はない。息を入れるタイミングを失い、焦り、無理にペースを上げて、スタミナも脚も残っていない状態で最後の直線に入って、勝手に自滅する。だから、後は最後の直線で先頭2人をいかにして抜かすかだ。
それについても考えてはある。序盤からの破滅的ペース。先頭2人はスタミナはともかく脚は残っていないだろう。だが、最後方で気ままな一人旅をしていた私にはまだまだ余力がある。スタミナも、脚も残っている。いくら1200m辺りからペースを上げたといっても、他の奴らは序盤からハイペースで来ているのだ。私の方が残っているのは当たり前。だから、問題ない。
そう考えながらも私はまた1人抜かしていく。もう何人抜かしただろうか?途中で数えるのを止めたので覚えていない。まあ。
(関係ないか。数える必要なんてじきになくなる)
そして、残り400mを示すハロン棒を確認してまた1人抜かしていく。その時だった。
前を走る2人の姿を確認する。あの後ろ姿。見間違えようがない。片や友達、片や同じチームの先輩として、長い付き合いだからだ。
口角がさらに吊り上がる。自然と笑みが零れる。これから待ち受けるであろう結末を想像して、喜びがあふれてくる。
あぁ、あぁ。あぁ……!
見 つ け た ぁ
私はスパートをかける。坂は、すでに上り終えようとしていた。
《さぁ残り400を切りました!ここから坂へ入ります!先頭は依然として12番カブラヤオー!それにピッタリ半バ身差で3番トウショウボーイだ!やはりこの2人の争いになるのか!サマードリームトロフィー中距離部門!》
《いやぁ、やはりこの2人は今回の中でも突出していますねぇ。あのハイペースでもまだここまで走れるのですから脱帽するしかありません》
《そして他のウマ娘がそれに待ったをかけるようにスパートをかけてきた!トウショウボーイの後ろ3番手は……ッ!?えぇ!?》
実況の人の驚く声が聞こえる。いや、実況の人だけじゃない。観客の人達も戸惑っているような声を上げていた。
焦りながらも、レースを実況する声が聞こえる。
《な、な、なんと!3番手は14番クライムカイザー!最後方に控えていたはずのクライムカイザーが3番手に上がってきていた!一体いつの間に上がってきたのか!?全く分かりませんでした!それだけではありません!他の2人よりもはるかに速いスピードでスパートをかけているぞ!先頭内を走るトウショウボーイと外を走るカブラヤオーのさらに外!嘗てダービーを登りつめた皇帝が猛然と襲い掛かります!》
《一体どのタイミングで抜け出してきたのか!?本当に分かりません!ただ分かるのは、クライムカイザーはまだ余力を十分に残しているということだけははっきりと分かります!》
《サマードリームトロフィー中距離部門残り200mを切った!まさかここにきて伏兵が現れるとは予想だにしなかったでしょう!先頭は依然として12番カブラヤオーと3番トウショウボーイ!だが、だが!外から14番クライムカイザー!外から14番のクライムカイザーだ!外から皇帝の末脚が炸裂する!あっという間に並んだ!》
観客を支配しているのは驚きと戸惑い。悲鳴すら聞こえてきそうだった。
「嘘だろ!?いつの間に来てたんだよ!?」
「そんな!負けないでー!カブラヤオー!」
「抜かせるなー!トウショウボーイー!」
だが、そんな観客の声を嘲笑うようにカイザーは加速する。
《観客席からは悲鳴が聞こえてきている!後続はハイペースでいっぱいいっぱいか末脚は思ったように伸びていない!ただ1人を除いて末脚は伸びてこない!序盤からカブラヤオーとトウショウボーイの対決となっていたサマードリームトロフィー中距離部門!しかししかし!まさかの伏兵がここにきて飛んできた!外から14番クライムカイザーが2人を躱したぁぁぁぁぁ!》
ボーイもカブラヤオー先輩も必死に粘っている。だが、それすらも笑うようにカイザーは他とは段違いの速度で走っている。
そして。
《そのまま14番クライムカイザーが突き放す!その差を広げる!残り100m!これはもう決まった!完全に決まった!嘗てダービーを登りつめた皇帝が!天を駆けるウマ娘を!狂気の逃げウマ娘を!跪かせた!トウショウボーイもカブラヤオーも!クライムカイザーの前に跪くしかなかった!サマードリームトロフィー中距離部門を制したのは14番のクライムカイザーだぁぁぁぁぁ!》
決着が着いた。激戦区と呼ばれたサマードリームトロフィー中距離部門を制したのは、カイザーだった。
ウマ娘3期やったー!