ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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合宿最終日回


第120話 足掻き

 色々とあったサマードリームトロフィーも終わってボクはまた合宿で練習漬けの日々となった。朝は太陽が昇ってから夜は日が沈むまでみっちりと練習する。そんな日々へと戻っていた。全ては怪我をする前の状態に少しでも早く戻るために。

 今日は合宿最終日。朝のヒルクライムもこれで最後だと思うと少し名残惜しさを感じる。キツいことはキツいのだが、それでもこれで少しのお別れだと思ったら寂しくなる。そんな気持ちになりながらもボクはペダルを漕いで峠道を上っていた。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 

「いいペースだテンポイント!そのペースを崩すなよ!」

 

 

「分かっ、とる、よ!こん、まま、行ったる、わ!」

 

 

 トレーナーからの応援の言葉を聞きながらペダルを漕ぐ。朝焼けからずっと自転車で走っており、すでに1回はゴールした後だ。これは2回目のゴールの景色。ギアは勿論最大。前回のノウハウがあるにしても、ボクはそこまで戻ってくることができた。

 ペダルを漕ぐこと少し。ボクは2度目のゴールを迎える。自転車から降りて息を整えながら休憩を取った。トレーナーから飲み物とタオルを受け取る。

 

 

「よし。時間も丁度いい感じだし、朝の練習はここで切り上げて旅館に戻るぞ。予定は憶えているか?」

 

 

「覚えとるよ。こんまま昼食だけとって、旅館から引き上げて学園に戻って練習やろ?レース感……っちゅうよりはトラウマを抑えるための走りを見つける特訓」

 

 

「そうだ。夏合宿最初の方以降走ることはなかったが、対策だけは考えてきた。今日の午後はそれを1つずつ試していくぞ。相手も用意している」

 

 

「相手って、誰なん?」

 

 

 ボクの質問にトレーナーは少し嬉しそうに答える。

 

 

「今回の相手の1人にクライムカイザーが立候補してくれた。お前が戻るために力を貸したい……ってさ」

 

 

「カイザーか!それはええな!」

 

 

 ボクも少しばかりテンションが高くなる。トレーナーは言葉を続けた。

 

 

「ま、カイザー以外にも何人かのメンバーが立候補してくれている。人数はカイザー含めて11人。実戦形式での練習を行うことになる」

 

 

「実戦形式か……。それやったら、考えた対策を1つずつ実践していこか」

 

 

「そうだ。落ちた筋力も大分戻ってきて、フォームの修正も着々と進んでいる。そんなお前が完全に復活するための最後のピース……。怪我をした時のトラウマをいかに抑える、もしくは乗り越えるか。それを見つけるための合宿最後の練習だ」

 

 

 ボクはトレーナーの言葉に頷く。

 その後は旅館へと戻り、部屋から荷物を回収して昼食を食べる。食べ終わった後は、トレーナーの車でトレセン学園へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレセン学園に戻ってきて、トレーナー室に荷物を置いた後練習場へと向かう。今回の模擬レースの相手となる子達はすでにターフの上でウォーミングアップをしていた。

 その中にカイザーの姿を見つける。ボクは足取り軽やかにカイザーに駆け寄る。向こうもボクに気づいたのか、嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

 

「テンポイントさん!今日はよろしくお願いしますね!」

 

 

「カイザー!こっちこそよろしゅうな!」

 

 

 ただ、模擬レースをする相手はカイザーだけじゃない。ひとまずカイザーへの挨拶はこれだけにして他の子達へと挨拶をしていく。

 そしてカイザー以外の10人に挨拶が終わった後、ボクはまたカイザーのところに戻ってカイザーと話をする。

 

 

「久しぶり!……言うても、あんま久しぶりやないな」

 

 

「そうですね。あんまり久しぶりって気はしませんね」

 

 

 カイザーは苦笑い気味に答える。最後に会ったのはサマードリームトロフィーの時なので2週間程度しか経っていない。カイザーの言っている通りである。

 ただ、ボクは極力サマードリームトロフィーの話題には触れないように気をつける。カイザーからしたら、黒歴史以外のなにものでもないだろう。レース自体は勝ったが、その後がアレだったから。

 しかし、急にカイザーは達観したような表情をするとボクが触れないようにと気をつけていた話題を切り込んできた。

 

 

「そうだ、テンポイントさん。あのサマードリームトロフィー以降、私がなんて言われてるか聞いています?」

 

 

「……」

 

 

 ボクはカイザーから目を逸らす。気まずさからくるものだ。

 あのサマードリームトロフィー以降、カイザーがなんて言われているのか勿論知っている。あのレースの2強として名を馳せていたボーイとカブラヤオー先輩を破って中距離部門を優勝したウマ娘として大々的に取り上げられていたのだから。それ自体はカイザーからしたら嬉しいことだろう。……普通なら。

 

 

「あ~……そ、そうやな!ニュースで取り上げられとったから勿論知っとるで!」

 

 

「……」

 

 

「すごいもんな!雑誌にも引っ張りだこで!やっぱボーイとカブラヤオー先輩に勝ったんが響いたんやろうな!」

 

 

「……」

 

 

 カイザーは無言だ。ボクはあることに触れないように気をつける。

 

 

「これで世間はカイザーは強いて認識したもんな!やっぱ嬉しいんちゃうか!?」

 

 

「そうですね。確かに認識されましたね」

 

 

 カイザーは笑みを浮かべて答える。そして、触れないようにしていたワードをカイザーはぶっ込んできた。

 

 

「〈犯罪皇帝〉クライムカイザーとして、ね」

 

 

「……」

 

 

 ボクはカイザーから視線を外して遠くを見て、考える。

 

 

(うん……まぁ、そうやろなぁ……)

 

 

 あのサマードリームトロフィーを見たら、そう思われても仕方ないんじゃないか?とボクは考えている。

 レースに関してだけだったら何も言われなかっただろう。あのレース映像は評論家の間でも大好評だった。2強のレースを伏兵が差すという大番狂わせ。加えて寸分の狂いもない位置取りで見事に差し切ったカイザーを評論家達は大絶賛していた。そう、レースは。問題はその後だ。

 レース後のカイザー。その姿を思い出していると、カイザーは自嘲気味に続ける。

 

 

「いやぁ、これで私も有名人ですね。嬉しいなぁ」

 

 

「そ、そうやな。カイザーは有名人や」

 

 

「「アハハハハ!」」

 

 

 カイザーが笑って、ボクもつられて笑う。多分、愛想笑いだ。そう認識できるぐらいには分かった。

 しばらく笑った後、溜息を吐いてカイザーは続けた。

 

 

「なんで……なんでこんなことに……!元々は雑誌の誤植で始まったものだったのに……!」

 

 

「お、落ち着きやカイザー!」

 

 

「これでもう名実ともに私は<犯罪皇帝>じゃないですか!?自分が悪いのは分かってますけど、こんなのあんまりですよ!」

 

 

「あ、自分が悪いとは思っとるんやな」

 

 

「まぁ……レース終わった後にテンション高くなった結果あんなことしてましたから……」

 

 

 そう言ってカイザーは落ち込んだ。確かにあの姿を見たら、<犯罪皇帝>などと呼ばれても仕方はない気がする。それぐらい、あくどい笑みを浮かべながら高笑いをしていたのだから。

 ボクはこれ以上この話題を続けるわけにはいかないと思い、話題を逸らすために気になっていたことをカイザーに質問する。

 

 

「カイザー、なんでボクの模擬レースの相手に立候補してくれたんや?」

 

 

「へ?」

 

 

「いや、何となく気になってな。今のボクの状態知っとるやろ?」

 

 

「……そうですね。噂では聞いています。第4コーナーを曲がれなくなってるって」

 

 

 カイザーの言葉に、ボクは頷く。そして、カイザーは笑みを浮かべながら続けた。

 

 

「立候補した理由は単純ですよ。友達が困ってるから助けたい、それだけです」

 

 

「……」

 

 

「それに、テンポイントさんは私が諦めようとしていた時に励ましてくれたことがあったじゃないですか。そのご恩もありますから」

 

 

「……ありがとな。カイザー」

 

 

 ボクは少し涙ぐみそうになった。最後にカイザーは無邪気な笑みを浮かべてボクに告げる。

 

 

「それに、完全に復活したテンポイントさんを潰さないと意味がありませんから。ボーイさんには勝ちましたけど、テンポイントさんにはまだ勝ててませんし。不肖クライムカイザー、テンポイントさんが復帰するためのお手伝いをさせてもらいます!」

 

 

「あ、う、うん。ありがとな」

 

 

 ボクは曖昧な笑みを浮かべて返事をする。そして、内心無邪気な笑みの裏にある黒い部分を見せるカイザーに恐怖を抱く。

 

 

(こっっっわ!?タケホープ先輩みたいになっとる!?)

 

 

 元に戻ったと思ったら、少し黒い部分が見え隠れするようになった。ポジティブに捉えるなら、自分の本音を隠さなくなったと思えばいいのだろうか?それが嬉しいことなのか、それとも悲しむべきなのかは分からないが。

 だからといって付き合いが変わるわけでもないだろう。ボクはカイザーとの会話を切り上げて自分のウォーミングアップをすることにした。カイザーに別れを告げる。

 

 

「じゃ、カイザー。今日はよろしゅうな」

 

 

「はい!よろしくお願いします、テンポイントさん!」

 

 

 ボクは模擬レースのためにウォーミングアップを始める。その間に考えるのは今回の模擬レースで見つけるべきこと。

 

 

(日経新春杯のトラウマがフラッシュバックしないためにも、少しでも当時の状況から遠ざける……。まずはスパートのタイミングをずらすとこから始めよか)

 

 

 ウォーミングアップを終えて、今回走るメンバーがスタート位置に着く。ボクは内側だ。

 

 

「よーい……スタート!」

 

 

 トレーナーの声とともに、全員が一斉にスタートを切る。ボクは勿論先頭を走る。レースは淀みなく進んだ。

 そして迎えた問題の第4コーナー。いつもならばここらでスパートをかける……が、レース前に予定していた通り、スパートのタイミングを遅らせる。

 ただ、あまり効果はなかった。再びボクの脳裏にあの時の光景が甦ってきて、思うような走りができなくなる。後続の子達にどんどん抜かされていった。

 

 

(クッソ!やっぱそんな甘ないか!)

 

 

 何とか持ち直して走る。ただ、それでも2、3人抜かすのが精一杯だった。ドベから4人目。1着はカイザーである。

 息を整えながら次の模擬レースでどう対策するかを考える。

 

 

(次は……外で走ってみるか。走る距離は増えるけど、あの光景がフラッシュバックするよかマシや)

 

 

 少しの休憩の後、再び全員がスタート位置に着く。トレーナーの合図とともに、再びスタートが切られた。先程と変わらずボクが先頭でみんなを引っ張る形になる。ただ、今度はさっきとは違ってボクは内ではなく外で走っていた。

 とにかく試すのが目的なので、ボクは大外を回って第4コーナーに入る。そして、再び脳裏にあの日の記憶が甦ってきた。ただ、今までとは違って症状は軽い。脚が立ち止まるほどではなかった。だが……。

 

 

(ダメや!それでも減速してまう!こんままやと……ッ!)

 

 

「甘いですよ、テンポイントさん」

 

 

 そう告げて、カイザーはボクを抜かしてさっさと行ってしまった。ボクも必死に追いかけるが、追いつくことができず、他の子にも抜かされて最終的には12人中8着になる。

 

 

(ただでさえ大外回る不利背負うてんのに、減速してしまうんは痛すぎる!そうなったら、後続の子に抜かされるんは当たり前や!)

 

 

 そう考えて凹みそうになるが、そんな暇はない。どうすれば減速せずにスパートをかけられるか、どうすればあの時の光景がフラッシュバックしないかを必死に考え、その度に試す。何度も、何度も。

 だが、現実はそう甘くはなかった。あの日以降トレーナーと必死に考えた策はことごとく失敗に終わった。どうしても第4コーナーでの減速は免れず、思うような走りができなくなる。悔しさから歯噛みしてしまう。

 しかし、失敗だけじゃない。少しだけ光明は見えていた。

 

 

(いつもより外を走れば、多少ではあるけど減速は免れる……。それが分かったことだけでも収穫やな)

 

 

 トレーナーもそれは分かっているだろう。後は、これをどうレースに組み込むか。トレーナーと相談していかなければならない。

 他の子達は今回の模擬レースのお礼を言った後別れた。最後にカイザーだけが残る。トレーナーは一足先にトレーナー室に戻ったので、この場にいるのはボクとカイザー2人だけだ。

 しばらく無言の時間が流れる。無言の空間を破ったのはカイザーの方だった。

 

 

「やっぱりすごいですね、テンポイントさんは」

 

 

「お、なんやなんや?今回の模擬レースずっと1着やったからってボクを煽っとるんか?」

 

 

 からかい半分にボクはカイザーの言葉に答える。するとカイザーは慌てたように弁明してきた。

 

 

「ち、違いますよ!決してそんな意図はありません!」

 

 

「分かっとるよ。冗談や冗談」

 

 

「も、もう!質の悪い冗談はやめてください!」

 

 

 そう言ってカイザーは少し怒った。ただ、さっきまでとは違ってあんまり怖くはない。やっぱり素のカイザーは変わっていなかったことにボクは少し安堵して、お互いに顔を見合わせて笑いあう。

 ひとしきり笑った後、ボクはカイザーに尋ねる。

 

 

「で?ボクが凄いって何がや?」

 

 

「そうですね……。やっぱり、そのメンタルでしょうか?」

 

 

「メンタル?」

 

 

 ボクの言葉に、カイザーは頷いて答える。

 

 

「はい。普通だったら、お医者様から諦めろと言われたら諦める子が多いと思うんです。それはきっと、骨と一緒に心も折れてしまうからだと思います」

 

 

「やろうな。1回重い骨折したから分かるわ。先が見えないことへの恐怖、本当にまた走れるようになるんかっちゅう不安が骨折した脚を見る度に出てくるんやからな」

 

 

「はい。けれど、テンポイントさんはそんな状況でも諦めることなく頑張っています。どんなに辛く苦しい道のりだとしても、決してあきらめることなく頑張っている。この模擬レースで一緒に走ってみて、それを強く実感しました」

 

 

 カイザーは言葉を続ける。

 

 

「トラウマが刺激されて第4コーナーを曲がれない……。そんな諦めてしまいそうな状況に陥っても尽くせる手を尽くして走る……。そんな姿を見ていると、やっぱりテンポイントさんは凄いんだなって、今日改めてそう思いました」

 

 

「なんやなんや?褒めてもなんもでぇへんで?」

 

 

 ただ褒められて悪い気はしない。内心喜ぶ。カイザーは笑みを浮かべてボクに告げる。

 

 

「また、模擬レースがしたくなったら声を掛けてください!私はいつでも相手になりますよ!」

 

 

 カイザーの言葉に、ボクも笑顔で答えた。

 

 

「……うん。そん時はまた頼らせてもらうわ!カイザー!」

 

 

「はい!好きなだけ頼ってください!」

 

 

 また、お互いに顔を見合わせて笑いあう。

 夏合宿で大分前に進んだといえども、完全復帰には程遠いという現実を突きつけられた今回の模擬レース。でも、ボクの心に暗い気持ちはない。頼もしいトレーナーに加えて、頼もしい友達や仲間がいる。それだけで、ボクの心はいくらでも前を向けるのだから。




次のガチャ更新はナカヤマフェスタらしいですね。まだだ、まだ我慢できる……!
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