ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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フラッシュバックする条件を改めて模索する回


第122話 トラウマの条件

 夏休みが明けて今日は始業式の日だ。なので授業は午前中で終わる。時刻は12時を回ろうかというところ。テンポイントには事前に午後からは練習の時間にあてると言っているのでもう少ししたら来るだろう。始業式に出席した後トレーナー室へと帰ってきた俺は練習の準備をしておく。

 ただ、朝の間にできるだけのことは済ませておいたので後はテンポイントを待つのみとなった。トレーナー室で少し暇を持て余しながら、テンポイントのことを考える。

 

 

「この夏合宿で落ちた筋力は大分取り戻してきた……。このまま順調にいけば目標通りに行けるだろう。ただ……」

 

 

 このままではレースの世界への復帰は難しい。俺はそう考えていた。その理由は、骨折した時のトラウマが原因で第4コーナーを曲がれないという現状だ。

 テンポイントもきっと、頭の中では分かっているのだろう。所詮過去のことだと、頭の中ではそう割り切ることはできる。だが、彼女の身体はそうはいかない。また折れてしまわないかという恐怖、それが彼女の身体を縛りつけているのかもしれない。俺達は第4コーナーを曲がれない原因についてそう結論を出した。

 元々、医者の先生からもトラウマのことは言われていたがそれでもショックは大きい。順調に来ていた道のりに突如として現れた大きい壁。それが目の前に立ちはだかっているのだから。

 ただ、不安は不思議となかった。理由は単純。

 

 

「俺達なら乗り越えられる、きっと、テンポイントもそう思っているはずだからな」

 

 

 弾んだ声でそう呟く。呟いてから辺りを見回して誰かいないかを確認するが、誰もいなかったことに胸をなでおろした。そのまま、テンポイントが来るまでの間PCと向き合ってトラウマの対策について考えていく。不安はないといっても、楽観視していられないのも事実だ。少しでも万全の状態に戻すため、情報を集める必要がある。

 

 

「う~ん……、やはりこの方法が今打てる最善手か……」

 

 

 俺はトラウマの克服に関する数ある情報の中から1つの情報が目に留まる。それは成功体験を徐々に積み重ねていく、というもの。

 最初からハードルを高くするのではなく、低いハードルを徐々に上げていって最後にはトラウマ自体を克服するという方法だ。時間こそ掛かるが、最も確実な方法と言える。

 短期でトラウマを克服する方法なら、トラウマ自体を忘れるというものもあった。ただ、これはあまり期待できないだろう。嘆息しながら呟く。

 

 

「第4コーナーはほぼ全てのレースに存在している。忘れるなんてことはできないだろう」

 

 

 そもそも記憶から忘れたところで身体が覚えているのだ。多分やったとこで無意味だろう。

 PCの画面とにらめっこしながら作業をしていると、扉を開けて誰かが入ってきた。相手は分かっているので俺は入ってきた人物に声を掛ける。

 

 

「来たか、テンポイント」

 

 

「おはようさん、トレーナー。とりあえず昼食にしよか」

 

 

「そうだな。用意してあるからソファにでも座って待っててくれ」

 

 

「はいはーい」

 

 

 そう言ってテンポイントはソファに座ってテレビを見始めた。俺は用意してあった昼食をテンポイントの下へと運んでいく。

 昼食を食べているテンポイントに俺は今日の練習の予定を説明する。

 

 

「さて、食べながらになるが聞いてくれ。今日の練習の予定だ」

 

 

 テンポイントは食べているものをしっかりと飲み込んでから答える。

 

 

「ん、了解。今日はなにするんや?」

 

 

「今日の練習はトラウマが起きる条件を改めて確認していこうと思っている。1人で走っていても起きるのか、本当に第4コーナーを曲がることが条件なのか、他に条件があったりしないか、それをしっかりと確認していく。それが判明したら、次はそれを克服するためにどう対策するかをもう一度2人で考えていこう」

 

 

 テンポイントは昼食を食べながら頷く。

 

 

「じゃあ、食べ終わって2時間ほど経ったら練習を始めよう。今回は夏合宿の時とは違って他に走る相手はいない。自分のペースで走ってみてくれ」

 

 

「んく。了解や」

 

 

 そのまま俺はテンポイントが食べ終わるまで一緒にテレビを見ながら待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を食べ終わって少し経った後。俺達はレース場へと足を運んでいた。テンポイントは走る前にしっかりとウォーミングアップを済ませている。

 彼女のウォーミングアップが済んだ後、俺は早速今日の練習を始めることにした。

 

 

「よし。じゃあまずは当時の状況で走ってみよう。右回り1周を外ではなく内側を走るイメージで頼む」

 

 

「日経新春杯と同条件やな。分かった」

 

 

 テンポイントは位置について、俺の合図で走り始める。ストップウォッチを確認しながらテンポイントの走りを観察する。

 走りのフォームも大分戻ってきており、全盛期のタイムよりは落ちるものの、復帰から3ヶ月でこれならば上出来という他ないだろう。第3コーナーまでは快調に飛ばしていた。

 そして迎えた第4コーナー。やはりというかテンポイントは失速する。先程までブレなかったフォームに突如としてブレが生じる。そのせいで思うように加速することができず、結果として減速することとなった。思わず顔が歪みそうになるが、何とか表情には出さないように気をつける。

 1周して戻ってきたテンポイントにタオルを渡しながら尋ねる。

 

 

「やっぱり、フラッシュバックしたか?」

 

 

 息を整えながらテンポイントは答える。

 

 

「やな。やっぱおんなじ条件やし、当たり前な気はするけど」

 

 

「一応の確認だからな。悪い」

 

 

「ええよ。これもトラウマ克服して復帰するためや。問題ないで」

 

 

「よし。なら休憩を取った後は今度は左回りで1周だ」

 

 

「分かった」

 

 

 テンポイントはそう答えて休憩を取る。

 休憩を取り終わったテンポイントは早速スタート位置に着いた。今度は左回りで走り始める。先程と同じように、第3コーナーまでは問題なかった。しかし、第4コーナーでやはりというべきか大きく減速する。

 その後も色々な条件で走ってみた。内で走るのが原因か、それとも外が原因か。走る距離を長くしても起こるのか。それとも短くすると起こらないのか。他のウマ娘がいるのかは併走相手がいなかったので後日に回すことになったが、それ以外の条件はできる限り試し続けた。

 少し空が夕暮れに染まってきた頃。最後の走りを終えたところで俺はテンポイントに告げる。

 

 

「よし!今日の練習はここまでだ!早めに切り上げるぞ!」

 

 

 俺の言葉に、テンポイントは疑問の表情を浮かべていた。

 

 

「あれ?もう終わりなん?まだ時間あると思うんやけど」

 

 

「今日の練習はあくまでトラウマの条件を調べるためのものだからな。今日の走りのビデオは撮ってあるし、この後はそのビデオを見ながらこれから先どうしていくかを考えていくぞ」

 

 

「分かった。やったら、トレーナー室戻ろか」

 

 

 俺達はトレーナー室へと戻る。

 トレーナー室に戻った俺達は今日撮ったビデオを見ながらトラウマの条件が何かを考え始める。とは言っても、夏合宿で大体察しがついていた通りの条件だった。

 

 

「距離は特に関係なし。やっぱり第4コーナーを曲がることが条件のようだな」

 

 

「やな。加えるんやったら第4コーナーを内で曲がろうとすると、やな」

 

 

「スパートのタイミングは特に関係なし。外で走ると多少緩和はされるもののそれでも減速は免れない……といったところだな」

 

 

「右回りも左回りも関係ないんは模擬レースで分かっとったことやからあんまり驚かんけど、スパートのタイミングも関係なかったんやな。これは結構デカいんやないか?」

 

 

「確かにデカいが、第4コーナーで減速が免れないという現状、スパートのタイミングは必然的にずらす必要がある。タイミングを早めるか、それとも遅くするか……それも課題だな」

 

 

「早めても減速するし、そっからまた加速することになるやろ?スタミナと脚の消費も激しそうやし、遅くする方がええんちゃうか?」

 

 

 2人で話し合いをしながら走りをどうするかを考えていく。そんな折、俺は朝調べていたトラウマの克服方法についてテンポイントに話すことにした。

 

 

「そうだテンポイント。お前が来るまでの間トラウマの克服方法について考えていたんだが、丁度いいのがあったんだ」

 

 

「ん?どんな方法なん?」

 

 

 俺は少し緊張しながらもテンポイントに告げる。

 

 

「初めから高いハードルを越えようとするんじゃなくて、低いハードルを徐々に高くしていくものだ。成功体験を積み重ねるってやつだな。最初はそうだな……第4コーナー競歩に近い速度で回ってみることから始めるか」

 

 

「そうやな……。確かに、今のボクらはトラウマをどう抑えて走るかに焦点を当てとったけど、いずれ完全に復帰するんやったらトラウマは克服せなアカン。時間はかかるけど、それをやってみるのもありかもしれんな」

 

 

「なら、次からはそうしてみよう。ちなみに短期で克服する手立ての中にトラウマ自体を忘れるなんてものもあったぞ」

 

 

 俺は冗談交じりに短期でトラウマを克服する方法を告げる。向こうも冗談だと分かっているのか、笑いながら答えた。

 

 

「無理に決まっとるやろ!そんなすぐ忘れたら苦労してへんわ!催眠術でもやるんか?」

 

 

「だよな。ま、短期の克服方法については没だ。成功体験を積み重ねていく方法で頑張っていこう」

 

 

「そうやな。小さいことからコツコツと……やな」

 

 

 俺達はそう結論を出した。後は今後の練習方法について詰めていく。

 話し合いが一段落したところで、俺達は飲み物でも飲みながらゆっくりすることにした。特に話すことなく時間は流れていく……と思ったら、テンポイントがこちらに話題を切り出してきた。

 

 

「そうやトレーナー。今度の聖蹄祭はどうするん?」

 

 

「聖蹄祭か……そういえばもうそんな時期だな」

 

 

 色々とやることがあったのですっかり忘れていたが、もうすぐ聖蹄祭の時期だ。俺は少し考える。

 いつもならば何かの屋台を出していたが、今年に関しては特に予定が決まっていなかった。つまるところ、何も考えていない。俺は素直にそう答える。

 

 

「今年はなに出すか決まってないな」

 

 

「そうかそうか。やったらボクトレーナーにお願いがあるねん」

 

 

 テンポイントが声を弾ませてそう言ってきた。

 

 

「何か予定があるんだったら、俺1人でなんかの屋台を出しておくが?」

 

 

「いや、それやと都合が悪くなるねん。できれば屋台は出さんでもらえると助かるわ」

 

 

「うん?どういうことだ?」

 

 

 頭に疑問符を浮かべている俺に、テンポイントは笑顔で告げる。

 

 

「簡単や。今度の聖蹄祭、ボクと一緒に見て回らんか?前言うてたやろ?一緒に屋台制覇したろうって」

 

 

「あぁ、そういえばそんなこと言ってたな」

 

 

 特に予定も決まってなかったことだし、別に問題はない。俺はテンポイントの提案を快諾する。

 

 

「分かった。だったら予定は空けておこう。聖蹄祭、一緒に見て回るか」

 

 

「あ、もしかしたらキングスやお母様とも見て回ることになるかもしれへんけどそれでもええか?」

 

 

「別に問題ないぞ。大人数の方が楽しいだろ」

 

 

「よっしゃよっしゃ!やったらそれで頼むわ!」

 

 

 テンポイントは小躍りしそうな勢いで喜んでいる。その姿に俺は自然と笑みが零れる。

 その後は少しだけ会話をして、テンポイントに晩御飯を渡して別れる。お互い笑顔で別れた後、俺は1人になったトレーナー室で1人呟く。

 

 

「……さて、今後の練習内容もある程度固まってきた。後はアイツの復帰レースをどうするか、だな」

 

 

 普通であれば、オープンレースを使うのが望ましいだろう。復帰レースで重賞を狙うのは得策じゃないし、調子を確認するという意味でもオープンレースが最適だ。普通ならば。

 だが、今回に限っては少し状況が違った。俺はある資料に目を通しながら1人呟く。

 

 

「海外のウマ娘と鎬を削るいい機会、お祭りのようなものだと思ってくれ……、か。勝敗を気にしなくていいってのは、気が楽かもしれないな」

 

 

 もっとも、出る以上は勝ちに行く。その気持ちは変わらない。

 

 

「出走登録はまだ、応募者多数の場合はURAの審査の下出走するウマ娘が選ばれる。だが、重賞の選定基準でいくのであればテンポイントなら間違いなく出走できるはずだ」

 

 

 怪我によって離脱しているものの、テンポイントの実績を考えたらほぼ間違いなく出走できるだろう。俺はそう確信していた。

 だからこそ、俺はこのレースをテンポイントの復帰戦にすることに決めた。後はテンポイントが首を縦に振るかである。

 

 

「せっかくの機会だ。試させてもらうとしますか」

 

 

 ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ。世界のウマ娘と闘えるこの機会を逃すわけにはいかない。これをあの日進むことのできなかった海外挑戦への足掛かりにする。

 なら後は、復帰のために全力を尽くすだけだ。テンポイントをベストな状態で持っていくために。タイムリミットは年末。長いようで、短い。だが、問題はない。

 俺は自然と笑みがこぼれながらも、テンポイントの今後の練習内容を考えていった。




ブルーロック全巻を揃えましたやったぜ。
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