9月半ば、朝のトレセン学園。この日はいつもとは違って生徒や職員だけではなく一般の人達にも校内を出歩いている。
今日は聖蹄祭の日。校内では個人で郷土品をアピールしている生徒やチームでお店を開いている生徒達の屋台が所狭しと並んでおり、大きな賑わいを見せている。特設ステージや体育館ではトレセン学園の生徒達による演劇やミニライブが開かれており、ファンの人達は自分の推しウマ娘の姿を見ようとプログラムと睨めっこしながら予定を立てているのか考え込んでいた。
そんな中ボクはトレーナーと一緒に出店を回っていた。目標は勿論、いつかの春のファン大感謝祭で立てた屋台全店舗制覇である。
時間はたっぷりとあるのでトレーナーと歩きながら屋台を眺めていた。
「今年もいろんなお店があるなぁ。どれから入ろうか迷うわ」
「そうだなぁ……おっ、地方出身のウマ娘が郷土品を紹介しているぞ。ちょっと見て行かないか?」
「お、ええやん。どこの郷土品やろ?」
そんな会話をしながらボク達は2人で聖蹄祭を見て回っていた。心なしか、ボク達のテンションはいつもより高かった。お祭りの雰囲気にあてられているのかもしれない。トレーナーはこういった催しが好きだし、ボクも嫌いではない。2人で聖蹄祭を楽しんでいた。
ただ1つ、残念な、というよりは疑問に思っていることがある。トレーナーも疑問を抱いていたのか、ボクに尋ねてきた。
「そういえば、ワカクモさん達はどうしたんだろうな?俺達と回ろうっていったら遠慮しだして」
「う~ん……分からへん。お母様何考えてねんやろな?」
「それに、どこか様子もおかしかったよな?俺達を見てニヤニヤしてたし」
「なんやったろうな?あの表情」
元々この聖蹄祭はお母様達と見て回ろうと思っていたのだが、ボクとトレーナーが一緒にいる姿を見た瞬間、ニヤニヤした表情で遠慮しだしたのだ。その時のことを思い出す。
朝の時間、聖蹄祭も始まって間もない頃。ボクはキングスと一緒に正門前でお母様達を待っていた。
『お姉、母さんは何時に来るって言ってたし?』
ボクは時計を確認して、お母様からのメッセージを確認する。
『そろそろやな。もうちょいで来ると思うで』
『それにしても、お姉と感謝祭を見て回るのは初めてだし!あたし楽しみだし!』
キングスは笑顔でそう告げる。ボクも頬を綻ばせながらキングスの言葉に答える。
『なんやかんや、キングスと一緒に回ったことないもんな。ボクも楽しみやで!』
『うん!今日は楽しもうね、お姉!』
ボク達は笑顔でそう会話をしていた。
それから程なくしてお母様達が手を振りながらこちらへと近づいてきた。
『テン!キン!来たわよ!』
『2人とも元気そうやなぁ!良かった良かった!』
『母さん!父さん!待ってたし!』
キングスは嬉しそうにお母様達の下へと向かう。そんな折、丁度いいタイミングで仕事の引継ぎが終わったトレーナーがやってきた。
『待たせたなテンポイント。それと、お久しぶりです。ワカクモさん、ご主人』
『トレーナー。いや、丁度ええタイミングや。お母様達も今来たところやしな』
トレーナーの登場に、お母様達は笑みを浮かべて応対した。
『まぁ神藤さん!お久しぶりですね。テンやキンがいつもお世話になっております!』
『神藤さん!いつも出店してるて聞いとりますけど、今回は出店はなさらないんですか?』
『あぁ、今回はテンポイントから一緒に見て回らないか、と誘われておりまして。なので出店は見送ろうかと。どうしても出店しないといけない理由があるわけでもありませんし』
『へぇ、テンが……』
『ほうほう、テンが……』
トレーナーの言葉に、お母様達はまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべてながら呟いた。一体どうしたのだろうかと思っていると、お母様達は何かを思いついたかのような表情をした後、ボク達に申し訳なさそうに告げた。
『ごめんねぇテン。母さんたちど~~~しても寄りたいところがあるのよぉ』
『せやせや!ど~~~しても寄りたいもんがあってな!申し訳ないんやけど、一緒に見て回れそうにないわ!』
……なんというか、すごくわざとらしくそう言われた。ただ、そう言うのであれば仕方がない。少し残念だが、お母様は多分曲げないだろうし、お父様も曲げることはないだろう。
トレーナーは残念そうにしている。
『そうですか……少し残念ですね。色々とお話ししたいこととかあったのですが』
『ほんっと~に!申し訳ありません神藤さん!』
『それに!話やったら聖蹄祭が終わった後にでもゆっくり話しましょ!私達も今日と明日はこっちにおる予定ですし!』
手を合わせて謝っている。だが、どことなくわざとらしさを感じるのは気のせいだろうか?まぁ、気にするだけ無駄だろう。
するとキングスがボクの方へと近づいてくる。
『じゃあ、あたしはお姉達と一緒に……』
しかし、キングスがこちらに来ることは叶わなかった。お母様とお父様に肩をしっかりと掴まれてそれ以上ボク達のところへと近づくことは許されなかった。
キングスは戸惑いながらお母様達に尋ねる。
『え、え~と……母さん?父さん?あたしお姉達と一緒に見て回るんだけど……』
しかし、圧の強い笑みを浮かべながらお母様がキングスに告げる。
『何言ってるのキン。あなたには私達の案内をする役目があるでしょ?』
『せや。どうしても行きたいとこある言うても、どこにあるかまでは分からへんからな。お前に案内してもらわんと』
『え、それだったら別にあたしじゃなくても……』
キングスの主張もお構いなしに、お母様達はキングスの手を引っ張っていった。
『さぁ行くわよキン!それでは神藤さん、私達は私達で聖蹄祭を楽しみますので!』
『積もる話は、また夜にでも会って話しましょう!ホラ、はよ行くでキン!』
『ちょ、ちょっと待って!?あたしはお姉達と……ッ!ちょ、力強!?歩くから!歩くからそれ以上引っ張らないで欲しいし!』
そのまま、お母様達はどこかへといってしまった。最後までお母様とお父様はニヤついた表情だった。
『……なんやったんや?』
『分からん……。とにかくいえることは、俺とお前の2人で聖蹄祭を回ることになったってことだな』
残されたボク達は、そう呟くしかなった。
……まぁ、こんなことがあって元々予定していたお母様達と聖蹄祭を見て回るという約束はあちらの都合でなくなり、代わりにボクとトレーナーの2人で聖蹄祭を回ることとなったのだ。終始浮かべていた笑顔の真意は、ボクとトレーナーもどちらも分からなかった。
そんなことを考えながら、トレーナーと一緒に屋台を見て回り気になったお店があったら立ち寄り購入する商品を吟味する。やがて、2人の考えが一致した商品を買うことになった。
「すいませ~ん店員さん、こちらを1つ」
「は~い!お買い上げありがとうございま~す……って、神藤さんじゃないですか!なら、こちらおまけしときますね!」
「おいおい良いのか?」
「いいんですよ!この前私の小物を直してもらったお礼です!」
「そういうことだったら、ありがたくもらっておくよ」
「それじゃあ!また来てくださいね~!」
店員の生徒はこちらに手を振りながら見送ってくれた。ボクもトレーナーも手を振って答える。この対応にも慣れたものだ。
こうしておまけを貰うのは初めてじゃない。割と、というよりは結構な数の屋台でトレーナーはおまけと称して色々な物を貰っていた。理由はトレーナーにお世話になったお礼というのが大半を占めている。こういったトレーナーの姿を見ていると、やっぱり生徒からの人気は高いだな、と思わずにはいられない。それに、トレーナーが他の生徒に慕われているとなるとボクも誇らしい気分になる。後、謎の優越感に浸れる。
そうして優越感に浸っていると、ボクは誰かから声を掛けられた。
「あ、あの。テンポイントさんですよね?」
「?はい、そうです。ボクに御用でしょうか?」
振り向いて確認してみると、若い女性の2人組がボクをキラキラした目で見ていた。そしてボクの答えに黄色い声を上げる。
「や、やっぱり本物だ!まさか偶然会えるなんて……!」
「あ、あの!一緒に写真撮ってもらってもいいですか!?」
ファンの人達の言葉に、ボクは笑みを浮かべながら答える。
「勿論、ええですよ。トレーナー、ちょいええか?」
「どうした……って、写真か。分かった。それではお姉さん方、私が撮りますので携帯をお借りしますね」
「は、はい!お願いします!」
2人組はトレーナーに携帯を渡してボクの方へと近づいてくる。そして、ボクを挟むような立ち位置を取った。
「は~い、それじゃあ撮りますよー」
「「お、お願いします!」」
「……はい!撮りました!こんな感じで大丈夫ですか?」
トレーナーがファンの人に携帯を返す。撮った写真を確認すると、嬉しそうな声を上げてお礼を言ってきた。
「ありがとうございます!テンポイントさんと、そのトレーナーさん!」
「復帰レース、楽しみに待ってますね!」
「応援おおきにです!復帰する日を楽しみに待っとってください!」
2人組は足早にどこかへと向かっていった。ボク達は笑顔で見送る。
姿が見えなくなったタイミングで、トレーナーがボクに楽しそうな声で話しかけてきた。
「人気者だな。今の2人組で何人目だっけか?」
「う~ん……、8人目やったか?応援してもらえるんは素直に嬉しいわ」
「ま、そうだな」
「ボクもそうやけど、トレーナーもモテモテやんか。さっきおまけしてもろうたんで何人目や?」
ボクはニヤつきを抑えながらもそう尋ねる。トレーナーは特に表情を崩すことなく答えた。
「5人目だな。他のお客さんよりも贔屓されている感があるから良くないとは分かっているんだが、好意を無下にはできないからな」
「それに、トレーナーに世話んなった子達やろ?やったら問題ないんちゃう?商品やないみたいやし」
「まあ大丈夫だろう。それに、慕われるのはやっぱり嬉しいからな」
ボク達はそんな他愛もない会話をしながら次はどこに行こうかと歩いていた。
しばらく歩いていると、カイザーと会った。向こうもボク達に気づいたのか、手を振りながらこちらへと近づいてくる。
「テンポイントさん!神藤さん!お2人で回ってるんですか?」
「カイザー!そうやで。ボクとトレーナーで回っとるとこやねん。カイザーはなにしてるんや?」
「私ですか?私は今からハダルの方でシフトが入ってるので向かってるところです」
「ハダルの出し物っていうと……、春のファン大感謝祭でも好評だった和風喫茶だったか?」
「そうですね。良かったらお2人も来ませんか?サービスしますよ!」
カイザーが笑みを浮かべながら提案してきた。丁度休憩をしようかと思っていたところだったので、カイザーのお願いを承諾する。
「ええなぁ。サービスって何してくれるん?」
「そうですね……お冷を出します」
「……いや、それ普通のことやんけ!サービスには違いないけど!」
ボクがそうツッコむと、カイザーはおかしそうに笑いながら答える。
「フフッ、冗談ですよ冗談。はい、これを差し上げますね」
そう言って、カイザーはボク達に一枚の紙を手渡してきた。確認してみると、どうやらクーポンのようである。
カイザーは続ける。
「本当はハダルが主催しているミニゲームをクリアすると貰えるものなんですけど、お2人には特別に差し上げますね。問題なく使えるはずです」
「ええんか?問題になったりせぇへん?」
「大丈夫ですよ。お祭りなので気にする人はいません。チームメイトの何人かも、親しい人物に配っているみたいですし」
そういうことなら、ありがたく使わせてもらおう。カイザーにお礼を言う。
「そういうことやったらありがとな!カイザー!後で行かせてもらうわ!」
「はい。お待ちしてますね、テンポイントさん、神藤さん」
そうしてカイザーはハダルのお店の方へと向かっていったのだろう。ボク達と別れた。
確か、ハダルの出し物は春のファン大感謝祭と同じ和風喫茶。だったら、昼食を食べてから行った方がいいだろう。それに時間も丁度いい感じだ。トレーナーに提案する。
「トレーナー。丁度ええ時間やし、お昼食べに行かんか?」
「そうだな。だったら、リギルの出し物に向かうか。確かそれ系の店を出してるはずだし」
「そうやな。それにもしかしたら、ボーイの接客しとるとこ見れるかもしれんしな。揶揄いがてら向かうおうや!」
「はいはい」
ボクとトレーナーはお昼ご飯を食べるためにリギルの出し物へと向かう。これからのことを考えると、道中ボクはスキップしそうなぐらいにはテンションが上がっていた。
聖蹄祭はまだまだ始まったばかりである。
今期のアニメは豊作だなぁ。個人的イチ押しはブルーロックとぼっち・ざ・ろっくです。