ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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聖蹄祭の続き回


第124話 ファンの声

「ほい!これでええかな?」

 

 

 ボクはファンの子と握手を交わす。ファンの子は嬉しそうな表情を浮かべると、ボクにお礼を言う。

 

 

「は、はい!ありがとうございます、テンポイントさん!」

 

 

「ええですよこれくらい。なんぼでも受けたります。これからも応援よろしゅうお願いしますね!」

 

 

「勿論です!復帰レース、楽しみに待ってますね!」

 

 

 そう言って、ボクのファンの子は足早に去っていった。ボクとトレーナーはそれを笑顔で見送る。ファン感謝祭ではこういったファンとの交流も可能なので彼ら彼女らの声を直接聞けるというのはありがたい限りだ。

 トレーナーがからかうような口調でボクに言う。

 

 

「人気者だな。握手はこれで20人目、声を掛けてきたのはもう数えきれないくらいだからな」

 

 

「フフン、それほどでもあるわ。やけど、やっぱ嬉しいな。こうやってファンの子達から直接応援の声を貰うんは」

 

 

「そうだな。ファンの声が力になる。時には重荷にもなるが、やっぱり応援されたら嬉しいからな」

 

 

 そんな会話をしながらボク達は目的地へと向かう。目的の場所は、リギルが開いている出店だ。パンフレットによると、どうやら軽食を中心としたカフェを開いているらしい。

 それから歩いていると、リギルのお店に着く。ただ、結構並んでいた。春のファン感謝祭でもかなりの数並んでいたので、やはり人気のあるチームなのだと再認識させられる。

 待ってる間、トレーナーと会話をして時間を潰したり、リギルの人から渡されたメニュー表を確認しながらどれを食べるかを決めていく。こうやって待つ時間もお祭りの醍醐味だろう。不思議と嫌な気分はなく、むしろ少し気持ちは高揚していた。

 しばらくトレーナーと会話をしながら待っているとボク達の番がくる。

 

 

「は~い!そこのイケイケなウマ娘とヤンエグなトレーナーさ~ん!お姉さんが席にご案内いたしますね~!」

 

 

「お姉さんも何も、ボクと変わらんやろ。マル」

 

 

「どういうコンセプトの店なんだ。服はメイド服なのに」

 

 

「やぁねぇ。知り合いだから固いこといいっこなしなし!ホラホラ、席に案内するわ!」

 

 

 そう言われて、ロングスカートのメイド服を着たマルの案内に連れられてボク達は席に着く。見渡す限りでも、席は満席だった。大盛況らしい。

 しばらく待つと店員さんが注文を聞きにやってきた。ボクはその姿を確認する……と同時に、目を見開いた。

 

 

「おっ帰りなさいませー!ご主人様……ってテンさんと誠司さんじゃねぇか!来てくれたんだな!嬉しいぜ!」

 

 

 注文を聞きに来たのは、なんとボーイだった。しかも、マルと同じようにロングスカートのメイド服を着て結構ノリノリだ。普段からあまりスカートを好まない傾向にあるボーイがスカートというだけでもレアなのに、さらにメイド服だ。驚きで思わず固まってしまう。

 驚きで固まっているボクとは違い、トレーナーはそのまま注文を始める。

 

 

「すいません、オムライスを1つと……テンポイントはこのサンドイッチのセットだったよな?」

 

 

「え、あ、うん。それで」

 

 

「かっしこまりました!オムライスとサンドイッチのセットですね!ごゆっくりとお待ちくださーい!」

 

 

 ボーイはそのままカウンターの方へと向かっていった。そこでようやくボクは固まった状態から復活する。

 

 

「ビックリしたぁ。ボーイのスカートなんてレアなんてもんやないで。執事服もあるみたいやからそっちを選んどると思うてたわ」

 

 

「まぁトウショウボーイの性格を考えたらそっちの方が自然かもな。でも似合ってるんじゃないか?」

 

 

 そう言われてボクはボーイの姿を遠目で確認する。

 

 

「……まぁ似合っとるな。悔しいけど」

 

 

「なんの悔しさだよ」

 

 

 トレーナーからのツッコミが入りつつもボクはボーイの様子を観察する。どうやら、お客さんには大好評らしい。あちらこちらで黄色い声が上がっていた。少しばかり嫉妬する。

 

 

「トレーナー。ボクかてメイド服を着ればあんくらい……!」

 

 

「何を競ってるんだお前は」

 

 

 トレーナーは呆れたような表情でボクを見ている。確かに、意味不明なことを口走ったとボク自身思っている。

 程なくして注文した料理がボク達のところへと運ばれてきた。運んできたのは、これまたメイド服を着たハイセイコー先輩である。どうやらボーイ経由でボク達が来たことを知ったらしい。笑みを浮かべていた。

 

 

「お待たせしましたご主人様。ご注文のオムライスとサンドイッチのセットですね」

 

 

 ハイセイコー先輩は注文した料理をボク達のテーブルへと置く。そして、そのままボク達の席に座ってきた。一体どうしたのだろうか?

 

 

「……なんで座ってるんだ?ハイセイコー。仕事に戻った方がいいんじゃないか?」

 

 

 トレーナーの疑問に、先輩は涼しい顔で答える。

 

 

「私は今から休憩でね。せっかくだからお話でもしていかないかい?」

 

 

「周りの奴らの視線を見てみろ。俺にだけ殺意の籠った視線を送られてるぞ。どこかに行ってくれ」

 

 

「なんだい?神藤さんはこんなに可愛いメイドさんと会話をしてくれないのかい?私は悲しいよ……。神藤さんがそんなに薄情な人だったなんて……」

 

 

 ハイセイコー先輩はわざとらしく泣きまねをしている。それと同時に、トレーナーに向けられる目線は一層鋭くなった。観念したようにトレーナーは答える。

 

 

「そのわざとらしい泣きまねを止めてくれ!分かったから!」

 

 

「最初からそう言ってくれればいいのさ」

 

 

 やはり泣きまねだったらしい。ハイセイコー先輩の表情はコロッと変わっていた。

 

 

「しかし、俺達に何か用でもあるのか?別になくても構わないけど」

 

 

「まぁ特別用があるわけじゃないさ。ただ楽しくお話がしたい、それだけだよ」

 

 

「やけど、先輩人気ですし他の人達が黙ってないんやないですか?」

 

 

「大丈夫さテンポイント。何も神藤さんをからかうためにこういうことをやっているわけじゃないのさ」

 

 

 そう言ってハイセイコー先輩はボク達に一枚のビラを渡してきた。そこには、【あなたの推しウマ娘と素敵なひと時を!リギルの喫茶店へ是非ご来店ください!】と書かれていた。そして、リギル所属のウマ娘との会話も可!とも書かれている。

 つまるところ、これも出し物の一環なのだろう。それをわざわざ休憩時間を割いてやってくれているのだから先輩に対して尊敬の情念が湧く。ただ、ハイセイコー先輩を苦手としているトレーナーは何ともいえない表情をしていたが。

 そこからハイセイコー先輩ととりとめのない会話をしていく。話題は基本的にボクのことだった。

 

 

「時にテンポイント。練習は順調かな?」

 

 

「順調です。これやったら年内には復帰できそうです。まぁ、ちょい大きな壁がありますけど……」

 

 

「そうだね。私も、少しだけ話には聞いている。きっと、君も苦しんでいるだろう」

 

 

 ハイセイコー先輩は柔らかい笑みを浮かべてボクに告げる。

 

 

「でも、君には私達やファンの子達、それに何より、神藤さんがついている。きっと乗り越えられるさ。君が復帰できるその日を心から願っているよ、テンポイント」

 

 

「……はい!ありがとうございます!」

 

 

 ボクは頭を下げてハイセイコー先輩にお礼を言う。

 そんな時、周りの声が聞こえてきた。

 

 

「……見てみて!ハイセイコー様とテンポイント様のツーショットよ!……」

 

 

「……さ、撮影禁止なのが惜しまれるぐらいの状況!だから、せめて私の記憶に焼きつけておかないと!……」

 

 

「……あそこにいるのはテンポイントのトレーナーか?クソ、テンポイントだけでも羨ましいのにハイセイコーにも気に入られてるなんて!……」

 

 

「……今羨ましいっていう感情だけで人殺せるんだったら間違いなく殺せる。あの野郎……」

 

 

 多分、トレーナーにもその声は届いていると思うのだが涼しい顔をしてオムライスを食べていた。ボクはトレーナーの胆力を素直に尊敬する。

 そのまま食べ終わって会計を済ませると、足早にボク達は店を後にした。道中、ボクはトレーナーに尋ねる。

 

 

「トレーナー、あの状況でよう普通に食えたな?」

 

 

 トレーナーは苦々しい表情で答える。

 

 

「……生まれて初めてだよ。味を感じなかったのは」

 

 

 ……結構堪えていたらしい。ボクは励ますようにトレーナーの肩にそっと手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リギルの後はデザートということでハダルの和風喫茶へと足を運んだ。その道中、グラスと出会う。向こうもこちらに気づいたのか、手を振っていた。

 

 

 

「テンちゃ~ん、神藤さ~ん。2人は今からどこに行くの~?」

 

 

「ボク達はカイザーんとこ行くとこやな」

 

 

「そうなんだ~。私も一緒に行っていい~?暇なんだよね~」

 

 

「構わないぞ。一緒に行くか」

 

 

 というわけで、偶然出会ったグラスと一緒にハダルの和風喫茶へと行くことになった。

 こちらもリギルに負けず劣らず、中々の盛況ぶりである。店員さんたちは忙しそうに目を回していた。

 ただ、そんな中でも特に目立つ子がいる。銀色の髪をウルフカットにした少女、プレストウコウだ。彼女はお客さんに向かってめいいっぱいアピールをしている。

 

 

「みなさーん!今日はこのプレストウコウを!このプレストウコウの名前を覚えて帰ってくださいねー!私お手製のグッズもありますよー!安いですよー!」

 

 

「勝手に変な物売っちゃだめだよぉプレちゃぁん?さっさと注文取ってきてねぇ」

 

 

「変な物とは何ですかタケホープ先輩!これは私のイメージを上げるためにも必要なものです!それはそれとして注文は取りにいきます!」

 

 

 プレストウコウは小走りでお客さんの下へと向かっていった。それを見てボクは微笑ましく思いながらトレーナーと会話をする。

 

 

「努力が報われるとええな。プレストウコウ」

 

 

「今までのレース、基本的に不憫な目にしかあってないからな。ファン人気はあるからここからイメージアップにつながることを願っておこう」

 

 

「春の天皇賞はアレだったからね~。頑張って欲しいよね~」

 

 

 ボク達は注文した和風のデザートをつまみながらそう会話をする。そんな時、お客さんから声を掛けられた。

 

 

「テンポイントだー!」

 

 

「うん?」

 

 

 そちらの方へと視線を向けると、小さい男の子がボクの方を指さしてボクの名前を呼んでいた。近くにいる両親が慌てた様子で子供をたしなめている。

 

 

「こ、コラ!す、すいませんうちの息子が……」

 

 

「大丈夫ですよ。ほ~らぼく~?本物のテンポイントやで~」

 

 

 そう言いながらボクは笑みを浮かべて子供の方へと向かい握手を交わす。その子はとても喜んでいた。ただ、途端に暗い表情をする。何か粗相をしてしまったのだろうか?そう思っていると、少し小さい声でその子はボクに尋ねてきた。

 

 

「……ねぇ?てんぽいんとは本当にふっきできる?」

 

 

「ん?どういうことや?」

 

 

 心配させないように、ボクはやんわりとした口調でその子に尋ねる。するとその子はポツポツと話始めた。

 

 

「友だちが言うんだ。大きいけがしちゃったからてんぽいんとはもうダメだって。それで、ぼく、不安になっちゃって……」

 

 

「……そっか」

 

 

 トレーナーは黙って見守っている。ボクはその子を安心させるように、笑顔で答える。

 

 

「大丈夫や!ボクはちゃんと復帰するし、これからレースでバンバン一着取ったる!」

 

 

「……ほんと?」

 

 

「本当や!約束したる!やから、これからもボクのこと応援よろしゅうな!」

 

 

「……うん!」

 

 

 ボクがそう告げると、その子の表情に笑顔が戻った。ボクは胸をなでおろす。

 ただ、ここはハダルの店内である。勿論他にお客さんがいるわけで、ボクの対応は一部始終みられていたというわけだ。周りから拍手が上がる。それに加えて、ボクを称賛する声も上がっていた。グラスから茶化すように言われる。

 

 

「いよ、テンちゃん神対応~。かっこいいぞ~ひゅーひゅー」

 

 

「やめやグラス!」

 

 

 なんだか恥ずかしくなって、残っていたものをすぐに食べてトレーナーとグラスにも急ぐように促す。

 

 

「ほ、ホラ!トレーナー!グラス!急いで出るで!」

 

 

「ちょ!?待てって!まだ食い終わってないんだから!」

 

 

「別に恥ずかしがることないと思うんだけどな~。あ、私はこのままゆっくり食べてるからお構いなく~」

 

 

 トレーナーもボクに倣うように急いで食べている。グラスはお言葉に甘えてさっさと出ることにした。会計はボクのトレーナーがまとめて払うらしい。グラスはお礼を言っていた。

 トレーナーが食べ終わったのを確認すると足早に会計へと向かった。レジ係をしていたカイザーが悪戯っ子のような笑みを浮かべてボクをからかう。

 

 

「人気者ですねぇ?テンポイントさん。神対応でしたよ」

 

 

「やめーや!はよお会計しぃ!」

 

 

「え~?どうしましょうかねぇ?みなさんテンポイントさんのお姿見たいでしょうしぃ?」

 

 

「はよ!お会計!」

 

 

「はいはい」

 

 

 会計を済ませてボクとトレーナーは足早にハダルのお店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから時間は経ち、日も傾きかけてもうすぐ聖蹄祭も終わろうかという時間になった。ボクとトレーナーは屋上で2人、休憩を取っている。

 それにしても、色々とあった一日だった。なんとか目標の全店舗制覇も成し遂げることができたし、何よりたくさんのファンから励ましの声を貰った。その度に、ボクは嬉しさを覚えた。

 トレーナーと話す。

 

 

「それにしても、色々あったなぁ今日は。ファンの人からもたっくさん応援の声をもろうたし、頑張らんといかんな!」

 

 

「そうだな。改めて、ファンのありがたみを感じたんじゃないか?」

 

 

「やな。みんなボクの復帰を楽しみに待ってくれとる。……ホンマに、ありがたい限りや」

 

 

 ボクは今日、ファンの人達から貰った応援の言葉を思い出しながら感傷に浸る。胸の奥が暖かくなった。トレーナーも、同じように感傷に浸っている。言葉は交わさずとも、何となくトレーナーの気持ちは分かっていた。きっとトレーナーも、ファンのありがたみを感じているのかもしれない。ボクに応援の言葉をくれたファンの人達を。

 屋上から下の景色を眺めている。そんな時ふと、思い出したかのようにトレーナーがボクに告げる。

 

 

「そうだ、テンポイント。お前に言いたいことがある」

 

 

「ん?なんや?」

 

 

 トレーナーはボクの方を向いて、真剣な表情をしている。トレーナーの言葉をボクは待った。少しの静寂の後、トレーナーが口を開く。

 

 

「お前の復帰レースが決まった」

 

 

 思わず、心臓が飛び跳ねる。冷静さを保ちながら、ボクはトレーナーに聞いた。

 

 

「……どのレースに出るんや?」

 

 

 再び訪れる一瞬の静寂。それを破るようにトレーナーがボクに告げる。

 

 

「〈ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ〉……。世界のウマ娘を相手に戦えるこの舞台を、お前の復帰戦として使うことを決めた」

 

 

「……ハッ。復帰戦にしては、えらい豪華やな?」

 

 

 ボクは身体が震えるのを感じる。世界のウマ娘と闘えるのだ。楽しくならないわけがない。今すぐにでも、走りたくなる衝動に駆られる。

 

 

「勝ち負けを気にする必要はない……。だが、出る以上負ける気はない。俺はお前が勝てると信じて調整をする」

 

 

「当然や。誰が相手やろうとボクは負ける気はないで」

 

 

「その意気だ。それに、これはお前が世界へ挑戦するための前哨戦だ。このレースの結果次第で、再び世界へ挑戦するかを決める」

 

 

「……あの日行くはずやった世界へ行くんやったら、これぐらい勝ってこい、ってことやな?」

 

 

「ま、そういうことだ。難しいことだとは分かっているが、それでも……」

 

 

「ボクなら大丈夫……やろ?」

 

 

「そういうことだ」

 

 

 ボク達はお互いに笑みを浮かべる。そして、拳を突き合わせて宣誓する。復帰レース、ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップで勝つことを。

 

 

「勝つぞ、テンポイント」

 

 

「勝つで、トレーナー」

 

 

 復帰レースで世界のウマ娘を相手に戦う。傍から見れば無謀極まりないものだろう。だが、ボクに不安はない。

 ボク達ならば問題ない。そう信じているから。聖蹄祭も終わりそうな夕焼け空の下、ボクはそう考えていた。




風斗探偵見たいのに独占配信だから見れない悲しみ。


※冒頭ファンとの握手のところのトレーナーとの会話を少し加筆 11/13
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