ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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練習と休みの日回


第125話 不思議な一日

 聖蹄祭が終わってからしばらく経って10月に入った頃。復帰レースも決まったということでボクはより一層気合を入れて練習に励んでいた。

 まず一番に取り組むべきなのは、トラウマを克服すること。いくら落ちた筋力が戻ろうが、元のフォームに戻ろうが第4コーナーを曲がれないという弱点を何とかしないとボクは戦いの土俵にすら上がらせてもらえない。相手は世界だ。なんとしてでもレースの日までには弱点を克服しなければ。そう思いながら練習に取り組む。

 今やっているのは、そのトラウマ克服に向けた練習。第4コーナーをわざと減速してどの程度の速度ならば問題ないかを検証、それが分かったら今度はその速度で曲がることを意識して第4コーナーを曲がれることを身体に覚えさせるものだ。こうして徐々に成功体験を積み重ねていくことで、最終的には元の状態まで走れるようにする……というのが狙いだ。

 トレーナーが指定した距離、2400mをボクは走っている。今は第3コーナー、ここでボクは意図的に、大きく減速した。不安な気持ちを抱えながらもボクは第4コーナーへと差し掛かる。

 

 

(……ッ!まだアカンか!)

 

 

 そうして第4コーナーに差し掛かった時、日経新春杯の光景がフラッシュバックしてきた。さらに減速することになる。減速したところで、ボクは一旦走るのを止めた。

 息を整えながら、ボクは現状について冷静に分析する。

 

 

(この速度でもダメとなると……、ホンマに競歩レベルまで速度落とさんと厳しいっちゅうことか……)

 

 

 一応、競歩程度であれば問題なく曲がれるレベルまで回復したのは前の練習で判明してある。なので、今はそれよりも速度を上げて走ったのだが、いかんせん上手く曲がれなかった。ただ、悲観してばかりもいられない。気持ちを切り替えるべきだ。

 立ち止まって少し休憩を取ったらスタート地点にいるトレーナーの下へと向かった。今後のことについて話し合う。

 

 

「今の速度でもダメか」

 

 

「やな。競歩レベルまで速度を下げんと曲がれんわ」

 

 

 ボクは歯がゆさから拳を強く握りしめる。悲観すべきでないのは分かっている。ただ、それでも復帰レースが決まり、その相手が世界のウマ娘であることが分かった今、やはり焦りは生まれてしまう。

 

 

(どうしても焦ってまう……。割り切るんはやっぱ難しいわ……)

 

 

 ボクの気持ちに気づいてか、トレーナーが気を使ってくれた。

 

 

「……復帰レースに関してはまだ時間はある。焦る気持ちは分かるが、一歩ずつ確実に進んでいくぞ」

 

 

「……分かっとる。焦ったとこでどうにもならんことは、ボクが一番よう分かっとるからな」

 

 

 ボクはそう答える。トレーナーの励ましもあってか気持ちも、幾分か楽になった。

 その後は競歩に近い速度で第4コーナーを曲がることを意識して練習をする。そのまま時間は過ぎて行って、やがて練習が終わる時間になった。

 トレーナー室でミーティングがてら、今日の練習の反省に移る。撮ってあった練習中のビデオを2人で確認しながら今後のことを話し合っていく。

 

 

「今日のとこはほぼ進捗無しやな。まだ競歩程度の速度でしか曲がれんわ」

 

 

「そうだな。だが、フォームの崩れは少しずつだが防げてきている。徐々に速度を上げて曲がれるようになるだろう」

 

 

「その徐々に、が焦点やけどな。成果が出てへんからどうしても焦ってまうわ」

 

 

「その気持ちは分かる。成果が出ないと焦る気持ちはどうしても生まれてしまうからな。だが一歩も進んでいないわけじゃない。地道に積み重ねていくぞ」

 

 

「はいよ。筋肉も戻ってきとるし、フォームの修正も着々と進んどるからな。後はホンマに第4コーナーだけや」

 

 

 今後中心的に取り組むべき練習を2人で決めていく。いい時間になったところで、トレーナーから晩御飯を受け取って帰ることになった。

 帰り際、トレーナーがボクに告げる。

 

 

「そうそう、明日は練習休みだ。最近は根を詰めていたし、学園も休みだからどこかに遊びに行くとかして、ゆっくり休んでくれ」

 

 

「ん、了解」

 

 

 明日は練習は休みだ。やはりというか、休みというのはテンションが上がる。明日は何をしようかと考えて、ボクの気分は高揚した。

 それは明日にでも考えればいいだろう。ボクはふと我に返ってトレーナーに別れを告げる。

 

 

「それじゃトレーナー。また明後日やな」

 

 

「あぁテンポイント。またな」

 

 

 ボクはトレーナーと別れて寮へと帰る。寮ではジョージといつものやり取りをして就寝した。明日の休みに何をしようかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明けて次の日の昼過ぎ。特に思いつくこともなかったのでボクは普通にショッピングモールで遊ぶことにした。久しぶりに1人でゆっくりしているような気がする。少し新鮮な気持ちを味わいながらボクはショッピングモールをぶらついていた。

 

 

(しかし何しようかな。新しい服を見るのもええし、映画を見るんもええな。何をしようか迷うわ)

 

 

 時間はたっぷりとある。急がずに気になったものを見ていこう。そう思い適当に歩いている。

 そんな時、気になる光景が目に入った。金色の髪に赤が少し混じったような、とても身長の高いウマ娘がこのショッピングモールで購入したであろう商品を両手に下げながら困った様子で道行く人に話しかけているのだ。話しかけられた人は、皆一様に困った表情を見せて申し訳なさそうにそのウマ娘のもとから去っている。その度にウマ娘の人は落ち込んだような様子を見せた後、また別の人に話しかけに行く。

 ボクはその様子が気になって会話を聞いてみた。そのウマ娘が別の人に話しかけている。

 

 

「~~~?~~」

 

 

「え、あ、そ、ソーリー!」

 

 

「~~!?~~!」

 

 

 話しかけられた人は先程までの人達と同様に去っていっている。だが、その原因は分かった。

 

 

(あの人、英語圏の人なんかな?英語で喋っとるし)

 

 

 どうやら件のウマ娘は海外のウマ娘らしい。英語で話しかけては、見事に撃沈している。旅行にでも来ているのだろうか?

 だとしたら見過ごすわけにはいかない。せっかくの旅行を、言語の壁で楽しめくなるというのはあまりにも悲しいことだ。幸いにも、ボクは英語の勉強は散々トレーナーとしてきた。なので、彼女の言っていることは分かる。

 ボクは彼女に話しかける。勿論、英語で。

 

 

「『少しいいかな?何か困ってるみたいだけど』」

 

 

「『……え?』」

 

 

 ボクが英語で話してきたことに驚いたのか、彼女は目を見開いている。直後、ボクと会話ができることが分かったのか、嬉しそうな表情を浮かべて抱きついてきた。

 

 

「『良かった!英語を話せる人がいたんだね!嬉しい!』」

 

 

「『そ、それは良かった。ところで離してくれるかい?苦しいんだけど』」

 

 

 彼女の身長はとても高い。高身長というとグラスが思い浮かぶが、彼女はそれ以上だ。少なくとも180後半はあるだろう。加えて、ナイスバディ。少しばかり嫉妬を覚える。海外のウマ娘はみんなこうなのだろうか?

 ボクがそう言うと、彼女は少し残念がりながらも離れる。

 

 

「『ごめんごめん。やっと英語が分かる人がいてつい、ね』」

 

 

「『気持ちは分からないでもないよ。さっきから話しかけては撃沈しているのを見ていたからね』」

 

 

「『えぇ!?だったらさっさと話しかけてくれたら良かったのに!意地悪だね君は』」

 

 

「『そうは言っても、見たのは本当についさっきだ。そこは誤解しないでくれ』」

 

 

「『分かってるさ。ちょっと意地悪したかっただけ。それよりも、名前を聞いてもいいかな?』」

 

 

 彼女の問いかけにボクは素直に答える。

 

 

「『ボクの名前はテンポイント。好きなように呼んでくれ』」

 

 

「『ッ!へぇ、テンポイント……。そう、君が』」

 

 

「『ボクを知っているのかい?』」

 

 

 ボクの質問に彼女は笑顔で答える。

 

 

「『勿論!君はこの国では有名人だもの!〈流星の貴公子〉テンポイント!とても優れた容姿に加えてレースの実力も折り紙つき、日本中の人がファンなんじゃないかってぐらい大人気だってね!こうして会ってみると、本当に美人だね君!』」

 

 

「『そう褒められると悪い気はしないね。ありがとう。ところで、キミの名前を聞いていもいいかい?』」

 

 

「『あぁ、自己紹介がまだだったね!私はデッドスペシメン。気軽にデッドって呼んでくれて構わないよ!』」

 

 

「『そうか。だったらそう呼ばせてもらうよデッド。デッドはなにしに日本に来たんだい?』」

 

 

 ボクの言葉に少し考える素振りを見せた後、デッドは答える。

 

 

「『……ありきたりな理由だけど、観光さ。元々人づてに聞いていた日本に興味はあったんだけど、中々機会に恵まれなくてね。でも、ようやくその機会が来たから観光に来たってわけ!』」

 

 

「『そうか。もしよければ、今日はボクが案内しようか?そんなに遠くには行けないけど』」

 

 

 ボクの言葉に、デッドは花が咲いたような表情を見せる。そのままボクに抱きついてきた。

 

 

「『本当かい!?是非頼むよ!このショッピングモールで行きたいお店があってね。是非とも頼みたい!』」

 

 

「『わ、分かった。分かったから離してくれるか?苦しいんだが』」

 

 

「『おっと、ごめんごめん。つい癖でね』」

 

 

 そう言ってデッドはすぐにボクから離れた。このスキンシップは向こうでは普通のことなのだろうか?

 

 

「『ところで、デッドはこのショッピングモールにいつぐらいから居たんだい?』」

 

 

「『このショッピングモールに?朝から居たよ。開店凸、って言うのかな?』」

 

 

(朝からおったんか。やったらこの荷物の量も納得やな)

 

 

 しかし、彼女はどうやって商品を購入したのだろうか?そんな疑問が浮かんだが、すぐに結論を出す。

 

 

(大方ガイドさんがおったんやろ。で、別行動中に手当たり次第に話しかけとった、と)

 

 

 そう思っていると、デッドがボクの手を取って歩き出した。

 

 

「『ホラホラ!早く行こうテンポイント!時間は待ってくれないよ!』」

 

 

 そんな彼女の行動に少し微笑ましく思いつつも手をつないだままボク達はショッピングモールを散策することになった。

 時にはアクセサリーショップ

 

 

「『やはり日本の品はいいね。全てのものが高品質だ。あ、これくださーい!』」

 

 

「『ボクがお会計するよ』」

 

 

 時には洋服

 

 

「『こんなに身長が大きいと、私に合う服が中々なくてね』」

 

 

「『だったらサイズ直しをしてもらうといい。最悪このお店ならオーダーメイドも受け付けているからね。気に入った柄の服があれば、それを自分の身長に合わせたものを仕立ててくれるよ』」

 

 

「『それは本当かい!?だったらこの服をお願いしようかな?』」

 

 

 時には運動がてら遊戯場

 

 

「『……テンポイント、君球技はてんでダメだね』」

 

 

「『うるさい!もう一回だ!次は勝つ!』」

 

 

「『しかも諦め悪いし。まあ付き合ってあげるけど』」

 

 

 ショッピングモールでボクとデッドは楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空がオレンジ色になってきた頃。どうやらデッドは見たいお店は一通り回ったらしく、満足した表情でボクにお礼を言ってきた。

 

 

「『今日はありがとうテンポイント!君という日本のスターと会えただけでも幸運なのに、こうやって案内までしてもらえるなんて!本当に楽しい一日だったよ!』」

 

 

「『それは良かった。楽しんでもらえたようでボクも嬉しいよ』」

 

 

 そう会話をしていると、これまた日本人とは思えない男性がこちらに近づいてくる。ボクは警戒するが、デッドがその男性に親しそうに話しかけていった。

 

 

「『デイビッド!お迎えに来てくれたのかい?』」

 

 

 デイビッドと呼ばれた男性は不機嫌そうな表情を隠さずに答える。

 

 

「『……お迎えも何も、ショッピングモールに行くといってお前が勝手に出て行ったんだろ。おかげで朝から大変だったんだからなこっちは』」

 

 

「『あれ?書置き残さなかったっけ?』」

 

 

「『書置き程度でどうにかなると思うな!全くお前は……』」

 

 

 デッドよりも頭1つ分ぐらい小さいその男性、デイビットはデッドに対して呆れていた。日常茶飯事なのかもしれない。

 デッド達の会話を呆けながら聞いていると、デッドがこちらに別れの言葉を告げる。

 

 

「『ごめんねテンポイント。お迎えが来ちゃったみたいだ。ここでお別れだね』」

 

 

「『そうか。こちらも楽しかったよデッド。またどこかで会おう』」

 

 

「『フフ、きっとすぐ会えるよ。きっと、ね』」

 

 

 デッドはそう意味深に笑った。どういうことだろうか?そう思っていると、デイビットと呼ばれた男がボクを値踏みするように見ていた。

 

 

「『テンポイント?そうか、こいつが……』」

 

 

 しかし、すぐに興味を失ったのか鼻を鳴らしてボクから視線を逸らす。思わず不快感を覚えた。

 

 

(デッドと違って、こいつはえらい性格が悪そうやな。ま、どうでもええけど)

 

 

 そう考えていると、デッド達はショッピングモールの出口へと歩いていった。帰り際、デッドがこちらを向いてボクに話しかけてくる。

 

 

「それじゃ、今日は楽しかったよテンポイント。また遊ぼうね?それと、英語上手だね君。海外でも通用するよ!」

 

 

 思いっきり、日本語で。手を振りながら帰るデッドを、ボクは呆然とした表情で見つめる。

 話せたのか?日本語を?そう考えて、ボクは彼女が朝から購入したであろう商品を両手に持っていたことを思い出し、すぐにある考えに至る。

 

 

(普通、ガイドさんがおるにしても別行動なんてするか?それに、デッドが英語で話しかけとる時も他の人は助ける素振りも見せんかった……。コールセンターの人を呼べばええ話なのに……)

 

 

 じゃあ、デッドは一体何のためにわざわざ英語で話しかけていたのだ?

 ……考えても結論は出ない。ボクは諦めることにした。それに、デッドは気になることを言っていた。それはすぐに会えるということ。

 

 

「……考えても仕方あらへんか。早いとこ帰ろ」

 

 

 ボクはそう思い帰路につく。何とも不思議な一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『……で?目的のテンポイントに接触した感想はどうだ?』」

 

 

「『あぁ知ってたんだ?私の目的』」

 

 

 日本での宿泊先に帰る途中、私デッドスペシメンは本国のチームのサブトレであるデイビットと会話をする。

 私の質問にデイビットは鼻を鳴らしながら答える。

 

 

「『当たり前だろ。こっちに来たらぜひ会いたいって向こうで散々聞かされたからな。しかも、自分から話しかけるんじゃなくてわざわざ向こうから話しかけるように仕向けてまでな。アイツはお前が日本語話せるの知らなかったようだし』」

 

 

「『彼女には悪いことをしちゃったね。ま、期待通り……いや、期待以上の子だったよ』」

 

 

 遊戯場で少し遊んでみたが、彼女、テンポイントはとても負けん気が強い。それこそ、本国でも中々いないレベルでだ。加えて、レース映像を見たから分かるポテンシャルの高さ。それらがレースで発揮されるとなると……とても楽しみだ。思わず身体が震える。日本で言う、武者震いというやつだろうか?

 しかし、デイビットは嘲笑するように私に言う。

 

 

「『とは言っても、アイツは確か1月に大怪我をしたんだろ?お前が出走するお祭りレースには出てこないだろうし、仮に出てきてもお前が負ける確率は0だ。ま、怪我なんてしてなくてもアイツが勝てる確率は0だがな』」

 

 

 ……本当に、この男は。溜息を吐きながらも私は彼に告げる。

 

 

「『デイビット、だから君はいつまでたってもチーフに認めてもらえない二流なんだよ。そうやって相手を見くびる癖、止めた方がいいってチーフに言われてるだろ?』」

 

 

 その言葉が逆鱗に触れたのか、デイビットは大声で私に反論してきた。

 

 

「『うるさい!俺が認めてもらえないのはあの野郎の嫉妬だ!くだらない嫉妬で俺の邪魔しやがって……!』」

 

 

「『そのすぐ感情的になるのも止めろと言われてるだろ?……何言っても無駄だね、こりゃ』」

 

 

 隣で喚いているデイビットの言葉を受け流しながら私はテンポイントのことを考える。

 ……普通であれば出走は難しいだろう。ただ、何となく彼女は出走する。そう思っていた。私がこの国に来た理由、〈ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ〉に。

 開催は12月末なのに、今来た理由は日本のウマ娘の実力を測るため、という側面が大きい。そして、結果的に来て大正解だったといえるだろう。後進国などとデイビットは言っているがそんなことはない。どの子も内に強い闘志を秘めている。実力だって私達の国、アメリカに負けず劣らずだ。そんな子達と闘えると思うと……。

 

 

(心が躍るね!)

 

 

 闘える時が楽しみだ。そう思いながら宿泊先へと帰っていく。




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