海外から来たというウマ娘、デッドに一杯食わされたような気分を味合わせられた休日が明けて次の日。ボクはクラスでカイザー達と話していた。
みんなはデッドについて何か知っているだろうかと思い、ボクはみんなに尋ねる。
「そうや、みんなに聞きたいことがあるねんけど。デッドスペシメンてウマ娘聞いたことあるか?」
ボクの言葉にボーイとグラスは頭に疑問を浮かべている。
「う~ん、悪い。オレは知らねぇな」
「私も~。聞いたことないかな~」
ただ、カイザーはどうやら知っていたらしい。携帯を操作しながら答える。
「私も詳しくは知りませんが……あぁありました。この人ですよね?」
やがて目当ての記事を見つけたのか、携帯の画面をボクに見せながら説明してくれる。携帯に写っていたのは、ボクが昨日であったデッドその人である。
ボクは記事の内容に目を通す。
「<追跡者>デッドスペシメン……。総合戦績35戦11勝……て、強!?」
「しかも日本でいう重賞も勝利しています。アメリカで行われる招待レースを制したこともありますよ」
「ふんふん……アメリカを拠点にしている、というよりは海外遠征を主にしてんのか」
「そうだね~。凱旋門賞にもキングジョージにも出走してるっぽいね~」
「しかも凱旋門賞は掲示板内……、えらい人物と会うたんやなボク」
ボクの言葉にボーイは驚いたような表情を見せる。その表情のままボクに詰め寄ってきた。
「マジかよテンさん!どこで会ったんだ!?」
「うん?昨日練習休みやったからな。ショッピングモールぶらついとる時に偶然会うたんや」
「へ~すごい偶然だね~」
「ちくしょー!オレも会いたかったぜ!そんでそんで!あわよくば模擬レースを……!」
「どうでしょう?受けてくれるんですかね?」
「昨日会うた感じやと、受けてくれそうやけどな。デッドはそういう性格しとったし」
「デッド!?滅茶苦茶親しそうじゃねぇか!」
ボーイの言葉を聞きながら、ボクは記事を流し見していく。一際気になったのは、彼女の異名である<追跡者>のことだ。
レース映像はないっぽいが、その異名のことについて書かれている文面がある。ボクはその箇所を注視した。
「デッドスペシメンは前でレースを展開することを得意としている。特筆すべきは、目標に定めた相手には必ず先着しているという点である、か」
おそらく、<追跡者>の異名はここからきているのだろう。記事には目標に定めた相手のことを徹底的に調べ上げてマークするということが書かれていた。
そんな会話をボーイ達としていると、教室の扉を開けて先生が遠慮がちに入ってきた。思わず時間を確認するが、朝のホームルームまではまだ時間がある。一体どうしたのだろうか?
「あ、あの~。テンポイントさんはいらっしゃいますか~……?」
「は、はい。ボクならここにおりますけど。どうしたんですか?」
どうやらボクに用事があったらしい。扉の方まで近づいて先生の方へと足を運ぶ。先生はそのままボクに告げた。
「実はテンポイントさんの知り合いだという方が来てまして……。嘘か本当か確かめるためにも先生についてきてくれますか?」
「あ、分かりました」
ボクの知り合い?一体誰だろうか?お母様達はもう北海道に帰っているだろうし、本当に見当がつかない。
そう考えて廊下に出ると、ボクの知り合いだという人物はすでにここまで来ていた。ボクを発見した途端、嬉しそうな表情で抱き着いてくる。
「『ハァイ!テンポイント!昨日ぶりだね!』」
「わぷっ!?」
突然のことに驚きながらも、その声で誰が来たかは分かっていた。
金色の中にところどころ赤が混じったロングヘア、190は超えているだろうという身長にこのナイスバディ、極めつけに英語で話しかけてきた。この特徴でボクの知り合いは、1人しか該当しない。
昨日出会い、先程ボーイ達との話題に挙げていたデッドスペシメンである。
ひとまず苦しいのでデッドに話しかける。
「く、苦しい!離してくれデッド!」
「『え~?私日本語分かんないな~』」
「思いっきり分かっとるやんけ!しかも昨日普通に日本語で別れの挨拶をしたから日本語話せるんは分かっとるで!」
「はいはい。全く、シャイだねテンポイントは」
そう言ってデッドは抱き着くのを止めた。息を整えているボクにデッドが話しかけてくる。
「……ね?昨日言った通りすぐに会えたでしょ?」
その表情は、悪戯が成功したような笑みだった。ボクは呆れながらもデッドに尋ねる。
「ホンマにすぐやったな。で?一体何の用でトレセン学園に来たんや?」
「うん?あぁ、私はデイビット……昨日の男の人の付き添いだよ。彼がここのアカデミーのプリンシパルとの話し合いがあるらしくてね。ただ待ってるだけってのは暇だからこうやって遊びに来たってわけ!」
「そういうことやったんやな」
通りで学園内に入ってこれるわけである。付き添いで来たというのであれば彼女にも当然入校許可証はあるのだろう。彼女の姿を改めてよく見ると、首からその入校許可証を下げていた。後はそこそこ大きめの鞄も下げている。
ボクがデッドと話していると、クラスのみんなが興味津々といった感じでこちらを覗いていた。ここで会話をしているのもなんだし、教室に入るように促す。
「まぁ立ち話もなんや。教室に入ってみるか?ええですよね?先生」
「は、はい。それは勿論大丈夫です。テンポイントさんの知り合いだということも分かりましたので」
「じゃ、お言葉に甘えて!」
デッドはボクに促されるまま教室へと入る。クラスの子達はデッドの身長の高さに改めて驚いている様子を見せていた。ボクはボーイ達のところへと戻る。
ボーイはキラキラした目で、グラスは呆けた表情で、カイザーは少し懐疑的な目でデッドを見ている。三者三様の表情を見せていた。
いの一番にボーイがデッドに話しかける。
「まさか話題に挙げていたら本人が来るなんてな!オレはトウショウボーイ!好きなように呼んでくれ!」
「私も好きなように呼んでくれて構わないよショウ!短い間だけどよろしくね?〈天を駆けるウマ娘〉さん?」
「オレのこと知ってんのか!?」
驚いた表情で問いかけるボーイにデッドは笑みを浮かべながら答えた。
「オフコース!私のチームは日本が大好きでね!日本のニュースは逐一追っているんだ!だから君達のことも勿論知ってるよ?〈流星の貴公子〉テンポイント、〈天を駆けるウマ娘〉トウショウボーイ、〈緑の刺客〉グリーングラス、そして……〈犯罪皇帝〉クライムカイザー!」
「お~私のことも知ってるんだ~」
「ちょっと待ってください!?なんでそっちの方で認知されてるんですか私は!?」
「サマードリームトロフィーのレース映像見たらそりゃ犯罪皇帝の方で認知されるんじゃねぇかな……」
カイザーの抗議の声にボーイがそうツッコむ。ただ、デッドは意外そうな表情を見せた。
「えぇ?クールじゃないかな?犯罪皇帝だなんて。現に私達のチームメンバーには大好評だよ君。最高にロックだって」
「ぐぬぬ……ッ!嬉しいのに嬉しくない!」
カイザーは複雑な表情を浮かべる。まぁ本人はあまり気に入ってない異名だしそれも仕方ないかもしれない。
ボクはデッドに尋ねた。
「デッドはいつまで日本に滞在するんや?さすがにずっとおるわけやないやろ?」
「そうだねぇ……。明日には1回アメリカに帰るよ。お土産も沢山買ったことだし、それをチームのみんなに渡さなきゃいけないからね」
ということは、今日が最後らしい。少し残念に思っていると、デッドが真剣な表情でこちらを見ていた。ボクも思わず気を引き締める。
真剣な表情のままデッドはボク達に話しかけてきた。
「だから、君達にお願いがあるんだ。今日はそのお願いをするために来たといっても過言じゃないよ」
「ボク達に、お願い?」
「いいぜ!なんでも言ってみてくれ!」
「私達に~叶えられる範囲なら大丈夫だよ~」
「そのお願いとは、何でしょうか?」
全員が真剣な表情をしている。訪れる静寂。クラスのみんなも事の成り行きを見守っている。その沈黙を破るように、デッドは鞄から何かを取り出したかと思うとボク達に頭を下げてお願いしてきた。
「お願いだ!みんなのサインをこの色紙に書いてくれ!」
その言葉に、ボクは思わずずっこけそうになる。みんな同じ気持ちなのか、肩透かしを食らったような表情をしていた。
代表して、ボクがデッドに言う。
「えらい真剣な表情でお願いしてくる思うたらそんだけかい!」
「何を言うんだ!これは重要なことだよ!特にテンポイント、君のサインは是が非でも欲しい!」
デッドは真剣な表情でお願いしている。まぁサインぐらい別にいいのだが。なんというか肩透かしを食らった気分だ。
「……まぁサインぐらいなんぼでもしたるわ。ボクのサインでよければな」
その言葉に、デッドは花が咲いたような笑みを浮かべてボクに抱き着いてきた。またこのパターンか!
「ありがとうテンポイント!チームのみんなも喜ぶこと間違いなしさ!」
「分かった分かった!ええ加減抱き着くの止めてくれ!」
「恥ずかしがる必要はないさ!私達の国ではこれぐらい普通だよ?」
「単純に苦しいねん!」
そう言うと、渋々ながらもデッドは引き下がった。ボクは彼女から色紙を受け取ってサインを書く。
「……ほい、これでええか?」
「ありがとうテンポイント!チームのみんなもきっと喜ぶよ!ところで、ショウ達のサインも貰ってもいいかい?」
デッドの言葉に、ボーイ達は笑顔で答える。
「もっちろん!そんぐらいいくらでも書くぜ!」
「私のでよければ~勿論いいよ~」
「まぁサインぐらいなら大丈夫ですよ」
そう言ってみんなデッドから色紙を受け取って自分達のサインを書いていく。それを受け取ると、デッドは心から嬉しそうな表情でみんなに抱き着きながらお礼を言っていた。ボーイはそれに応えるように、グラスとカイザーは少し恥ずかしそうにしていた。
そうして会話をしていると、朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴る。デッドは残念そうな表情をしながら別れを告げる。
「残念だけど、タイムリミットみたいだね。もう少しお話ししたかったけど、そろそろ戻らないとデイビットに怒られちゃうからね」
「そっか。残念だな……」
「また日本に来たら~遊ぼうね~デッドさ~ん」
「はい。私達はいつでも歓迎しますので」
「日本に来たらいつでも頼ってや、デッド」
「……みんな、ありがとう!また会おうね!」
そうして手を振りながらデッドは教室を出ていった。おそらく、デイビットというトレーナーのところへと向かったのだろう。入れ替わりで先生が入ってきた。
先生から朝の連絡事項があった後、ボク達は次の授業のための準備をする。その間に、ボクは気になったことをカイザーに尋ねた。
「なぁカイザー。デッドに会うた時、なんや疑うような目をしとったけどなんか気になることでもあったんか?」
ボクの質問にカイザーは特に迷う素振りを見せずに答えた。
「いえ、私の気のせいだったんで大丈夫ですよ。敵情視察にでも来たのかと思いまして」
「敵情視察?何のために?」
ボクの言葉にカイザーは意外そうな表情をした後答える。
「多分ですけど、デッドスペシメンさんは年末のレースに出走するために日本に来たんじゃないですか?こっちの芝の感触を確かめる為とか、そんな理由で」
「……あ~、あり得そうやな」
「特に、彼女の異名を考えると日本のウマ娘の実力を測りに来たっていうのが主な目的じゃないですか?」
「<追跡者>……やったか?」
カイザーは頷く。確かに、彼女のスタイルと異名から考えるとその線は間違ってなさそうだ。
そんな会話をした後、ボク達は授業の準備を済ませたので先生が来るまで教室で待つ。しかし、ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップにデッドが出走してくるかもしれない……。ということは、強敵の1人になることは間違いないだろう。トレーナーに、彼女のレース映像はあるか聞いてみるのもいいかもしれない。そう思いながら先生を待っていた。
デッドスペシメンはオリジナルウマ娘です。特にモチーフはありません。