ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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海外のウマ娘を少し研究する回


第133話 着実に一歩ずつ

 有マ記念が終わり、ボクはいつものように練習の日々に戻っていた。今は練習場でボーイとカイザーを筆頭にしたリギルの未デビューのメンバーと模擬レースをしている。グラスは有マ記念後ということもあってか今日はボク達のサポートに回っている。

 12月の初めの方からボクの助けになりたいからと提案されたこの模擬レース。この模擬レースが始まってからというものの、今までは見違えるぐらいに順調に進んでいた。先月までは競歩程度の速度しか出せなかった。だが、今のボクはタイムを徐々に縮めてきている。この調子なら、年末に間に合うんじゃないだろうか?そう思うぐらいには順調に進んでいた。

 模擬レースも第4コーナーへと入る。ボクは、試す意味を込めてスパートをかけながら入ることにした。

 

 

(今なら、行けるかもしれん……ッ!)

 

 

 だが、そう簡単にはいかなかった。第4コーナーを全力で走ろうとしたその時、日経新春杯の少しひび割れた光景がボクの脳裏にフラッシュバックする。いつもと同じように、脚がすくんでしまい大きく減速した。内心舌打ちをする。

 

 

(やっぱ、そんな甘ないか!)

 

 

 急いで減速から立て直そうとする。だが、その間にも他の子達はどんどんボクを抜いて最後の直線へと入っていった。ボクも、それからかなり遅れて最後の直線へと入る。

 だが、減速から立ち直った状態でどうにかなることはなく、ボクは12人中10人目のゴールとなった。肩で息をしながら先程の第4コーナーのことを考える。

 

 

(確かに経過は順調そのものや……。やけど、まだ全力で走れん。全力で走れんかったら、海外の子に勝つなんて夢のまた夢や!)

 

 

 復帰レースである<ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ>。そこに出走を予定している海外のウマ娘達が相手と考えたら、今の状態では絶対に勝てない。トレーナーが入手した彼女達のレースを観た時から、その気持ちが強くなった。

 休憩しつつ、トレーナーと一緒に海外のウマ娘達のレース映像を見た時のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーが今のうちに敵についての研究もしていこうということで始まったデッド達の研究。彼女達のレース映像をどこからか入手してきたトレーナーが資料を片手にボクに話しかけてきた。

 

 

『ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップに出てくる海外のウマ娘の中で特に注目されているのは3人だ。この3人を中心に対策を組み立てていくぞ』

 

 

『3人……。デッドは確定として、他の2人は誰や?』

 

 

『イギリスのウマ娘バルニフィカス、フランスのウマ娘オブリガシオンだ』

 

 

 バルニフィカスについてはボクも少し調べたので凄さは知っている。やはりこのレースでも最注目ウマ娘の1人らしい。

 トレーナーが早速レース映像を再生し始める。ボクはトレーナー同様に細かい動きを見逃さないようにレース映像を凝視していた。

 トレーナーはレースが始まる前に大まかな説明を入れてくれた。

 

 

『まずはデッドスペシメン。彼女は基本的に前で走っているが、この点に関しては無視してもらって構わない』

 

 

『目標に決めた相手が後方で展開するんやったら、躊躇なく後ろでも展開するから……やな?』

 

 

『そういうことだ。そういう意味では、デッドスペシメンの脚質は変幻自在と言ってもいいだろう。前で粘ろうが後ろから追い上げようが変わらないからな』

 

 

 この万能性こそが、デッド最大の強みなのかもしれない。トレーナーとそう話しながらデッドの映像を見ていく。

 見た映像は2つ。前で展開したレースと後ろで展開したレースの2つだ。どちらもデッドの勝利を飾ったレースである。そのどちらでも、デッドは特に苦にした様子もなく勝利していた。思わず舌を巻く。

 

 

『この万能性こそが、デッドの一番の武器……っちゅうことか?』

 

 

『そうだな。だが、明確な弱点がある。トップスピードがそこまで速くないってとこだ』

 

 

『え?やけど追い込んで勝ってへんかった?』

 

 

 そう疑問をぶつけたボクにトレーナーは説明を始めた。

 

 

『追い込みで勝ったレースはデッドの格下が相手だからハマっただけだ。現に、大レースで追い込みを選択したレースのほとんどは掲示板外に沈んでいる』

 

 

『っちゅうことは、ボクに見せたレースはたまたまハマったレースを見せただけ?』

 

 

『そうだ。一応追い込みもできるぞってことを頭に入れさせるためにな。そして、デッドの万能性に次ぐ武器。トップスピードが速くないデッドがレースで勝ってきた武器……』

 

 

『カイザーみたいな情報処理能力……やな?』

 

 

 ボクの言葉にトレーナーは頷いた。

 

 

『対戦相手のウマ娘の弱点を的確について思い通りのレースをさせない……。ある意味では一番厄介な相手だな。デッドが誰をマークするかは分からない。だが、アイツがマークするのはお前の可能性が高い』

 

 

『まぁ、理由は何となく分かるわ。ボクには不確定要素が多すぎるから、やろ』

 

 

『そうだ。そもそも出走してくるかも分からないし、出走してきても本調子かどうかは判明していない。そんな不確定な相手だからこそ、デッドならマークしてくる可能性が高い。実力が判明している相手よりもな』

 

 

『分かった。本番では注意しとくわ』

 

 

 その後、次のレース映像を見る。写っているのはフランスのオブリガシオンだ。トレーナーが説明する。

 

 

『オブリガシオンは先頭ではなくその後ろ、前か中団でレースを展開することが多い。トップスピードも中々のものだ』

 

 

 ボクはその説明を聞きながらレース映像を見る。サンクルー大賞のものだ。

 確かに、実力はある。スピードも、トレーナーが言うように中々のものだ。だが、彼女はデッドと違い対処しやすい弱点がある。ボクはそれを指摘した。

 

 

『……中団におることが多いから展開に左右されやすいってとこやな。サンクルー大賞は実力を十全に発揮できた舞台やけど、格下のレースで負けとるレースもあるみたいやし』

 

 

『王道的なレースを展開する。それゆえに対処はしやすい。対策されても勝ったレースはあるから実力が高いことは間違いないんだがな。お前が全力を出せるならまず負けない相手だ』

 

 

『ま、まだ全力出せへんねやけどな』

 

 

 ボクの言葉にトレーナーは苦笑いを浮かべる。こればっかりは今後の練習次第だから仕方がない。

 オブリガシオンに関してはそこまで問題視していない。展開に左右されやすいというのと、デッドがいることから彼女は思い通りにレースをさせてもらえないだろうからだ。加えて、オブリガシオンはデッドを苦手としているのか、オブリガシオンは1回目の凱旋門賞でデッドにこっぴどくやられていたレース映像があった。デッド自身は掲示板内に入っているが、オブリガシオンはデッドに揺さぶられ続けた影響か11着。良くも悪くもムラがある、というのがボク達が下した評価だ。

 最後に、イギリスのウマ娘バルニフィカスの映像を見ていく。ただ、トレーナーが神妙な顔つきでボクに告げた。

 

 

『……おそらくだが、こいつが今回のレースで一番強いかもしれない。心して映像を見てくれ』

 

 

 イギリスの2冠ウマ娘だから強いとはボクも思っている。だが、トレーナーがここまで念押しするってことは、相当な実力者なのだろう。ボクは頷いた。トレーナーが映像を見せる。

 結論から言って、圧巻の一言だった。

 

 

『……ヤバいな、これは。後方でレースしとるから展開に左右されやすいて思うてたけど』

 

 

『バルニフィカスの場合、展開とか関係なしに全員ぶち抜いてくる。凱旋門賞も、あんだけマークされてたのに最後方から2着まで捲ってきたからな』

 

 

 バルニフィカスのレース映像を見て感じたのは、とにかく速い。その一言に尽きる。トップスピードに至るまでがとんでもなく速い。加えて、レース勘もあるのか囲まれる前に集団から抜け出して勝利をかっさらっている。

 

 

『コイツ相手に展開なんてものは求めるな。そんなこと関係なしに、こいつはぶち抜いてくる。そう思った方がいい。バルニフィカスは特に内からの追い上げを得意としている。そのことを頭に入れておけ』

 

 

『……分かった』

 

 

 そこからレース映像を改めておさらいしていった。彼女達の癖、弱点となりそうなもの。それらを見逃さないように映像をトレーナーとともに見ていった。

 その日は特に有効的な手が見つからず解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海外のウマ娘の強さは分かっていたつもりだ。だが、あの映像を見てからは自分の考えが少し甘かったことを痛感させられた。

 その気持ちが練習にも表れてしまったのか、つい無茶をしてしまう。トレーナーのもとへ向かうと、そのことを少し咎めるような口調で指摘された。

 

 

「どうしたテンポイント。あの第4コーナー、怪我をする前の状態のつもりで走ってたみたいだが?」

 

 

「……ゴメン、ちょい焦ってもうたわ。次からは気をつける」

 

 

「焦る気持ちは分からなくもない。海外のウマ娘の強さを改めて見て、そういう気持ちが生まれるのも仕方がないと思っている。だが、まずは目の前の課題をクリアすることから始めるぞ」

 

 

「……分かった!最優先はトラウマ克服、やもんな!」

 

 

 ボクの言葉にトレーナーは笑みを浮かべつつ頷く。もう少ししたら次の計測が始まる。ボクはスタート位置へと向かった。

 次の計測が始まって、ボクは走りながらトレーナーとのことを思い出す。

 思えばトレーナーにもお世話になりっぱなしだ。退院してからずっとお弁当を作ってくれているし、練習終わりには欠かさずマッサージをしてくれている。感謝してもしきれない。そんなトレーナーに報いるために、ボクにできることは何だろうか?年末のレースで勝つこと?

 

 

(……いや、ちゃうな。それはちゃうわ。多分、トレーナーが望んどるのは)

 

 

 ボクが無事に走り切ること。ボクが元のように走れること。ボクが、笑顔で走っていること。それがトレーナーの望んでいることだろう。ボクに復帰レースを告げたあの日、結果次第では海外挑戦すると言っていた。けれど、トレーナーのことを考えたらどんな順位でも、きっとボクの意思を尊重してくれるだろう。掲示板外でもボクが行きたいと言えば行くし、1着を取っても行きたくないと言えば行かない。そんなことを考えていたら、レース中にも関わらず自然と笑みが零れた。

 

 

(ホンマにええトレーナーに恵まれた。ボクにとってのトレーナーは、誠司しかおらん)

 

 

 そう考えながらボクは第4コーナーへと差し掛かる。ただ、ほぼ減速せずに入ったのでまた日経新春杯の光景がフラッシュバックして脚がすくんでしまった。さっき自分で気をつけると言ったばかりなのに。また反省だ。

 ただ、フラッシュバックした光景にあったひびが、広がっていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから何度か計測したものの、トラウマの克服とはならなかった。ただ、深く考えても仕方がない。切り替えることにする。

 日が沈む時間。ボクはトレーナー室のソファでくつろぎながらテレビを見る。

 しばらくして、トレーナーがお弁当を持ってソファの方に来た。

 

 

「ほら、今日の分だぞ」

 

 

「いつもありがとさんトレーナー」

 

 

 そう言ってボクはお弁当を受け取る。すぐに帰ってもよかったのだが、何となくまだ帰る気分にはならなかったのでトレーナーと世間話をしてから帰ることにした。

 他愛もない話で盛り上がる。学園での話、ボーイ達との話題。トレーナーの仕事の話、新しく取ろうとしている資格の話。そんなとりとめのない会話をしている。トレーナーの表情は終始笑顔だった。ボクもつられて笑みを浮かべる。

 この日常に喜びを感じながら、ボクはトレーナーとの会話を楽しんだ。




ブルーロックのアニメ7話約束された神回でした。
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