ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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出走前準備回


※1話を改稿しました


第136話 最強の答え

 大晦日の東京レース場。例年通りであればレースは開催されないはずの東京レース場は、多くの人で溢れかえっていた。ある者は友達や家族と仲良く談笑していたり、またある者は会場が開くその時を今か今かと待ちわびていた。ここに来た人々の目的はただ1つ、今日この場所で開催されるレース<ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ>を現地で見に来た人達だ。

 今この会場には、先日開催された有マ記念やウィンタードリームトロフィーの観客の数よりもさらに多いであろう人で溢れかえっている。その理由は、このレースに海外のウマ娘が参戦するから……というだけではない。

 京都レース場で起きた悲劇から1年が経とうとしている今日。あのウマ娘がターフに帰ってくる。その情報が流れたのがつい1週間程前のこと。その情報を見た時、人々はそのウマ娘を一目見ようと、またターフの上で走る姿を見ようとこうして現地を訪れていた。

 

 

「本当に、テンポイント出走するのかな?」

 

 

「あの番組に出てたんだ!きっと出走するって!」

 

 

「でも、体調不良とか、あの番組に出てたこと自体夢とかだったらって考えるとさ……」

 

 

「テンポイントが走る姿、もう一度見たいなぁ。見れるかなぁ?」

 

 

 そんな声が大半を占めていた。他にも出走するウマ娘はいる。海外のウマ娘が参戦するのだから話題性だってばっちりだ。だが、ほとんどの話題がテンポイントである辺り、テンポイントというウマ娘の人気の高さが伺える。

 そんな彼らのもとに、アナウンスの声が響き渡る。

 

 

 

 

《……長らくお待たせいたしました。東京レース場まもなく開場となります。怪我防止のために、最前列の方からゆっくりと前にお進みください。〈ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ〉は12:30からの出走となります》

 

 

 

 

 その言葉とともに、東京レース場の門が開く。人々は、会場へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京レース場の控室。ボクは準備をしていた。

 

 

(ついに迎えたか……。〈ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ〉……)

 

 

 最後までトラウマは克服できなかった。そのことが重くのしかかる。気にしないようにと思っていても、どうしても引っかかってしまう。

 何とか悪い考えを振り払おうと四苦八苦していると、控室の扉がノックされた。

 

 

「?は~い。ええですよ~」

 

 

 一体誰だろうか?そう思いながら扉の方へと視線を向ける。

 そこに立っていたのは、笑みを浮かべていたボーイだった。いや、ボーイだけじゃない。グラスにカイザー、クインにハイセイコー先輩達が立っていた。

 ボクが驚いていると、ボーイ達はそのまま控室へと入ってくる。

 

 

「よ、テンさん!調子はどうだ?」

 

 

「出走前に、こうしてみなさんで激励しに来ちゃいました」

 

 

「いや~神藤さんのおかげだね~」

 

 

 いつも通りのみんな。その姿を見ていると、先程までの悪い考えはどこかへと行ってしまった。ボクは笑みを浮かべつつ答える。

 

 

「絶好調や!みんなありがとな!わざわざここまできてくれて!」

 

 

「何言ってんだよ!これぐらいなんでもねぇって!」

 

 

「それにしても~……それ、新しい勝負服~?似合ってるね~」

 

 

「本当だね。いつもの君の勝負服が貴公子を前面に押し出しているのならば……今の君の勝負服は流星をモチーフにしているのかな?」

 

 

「あ、はい。そん通りですハイセイコー先輩」

 

 

 今のボクの勝負服は、年度代表ウマ娘になった時に新しく仕立てたものだ。

 深い青色を基調とした勝負服は、ボクの愛称でもある<流星の貴公子>の流星を前面に押し出したデザインとなっている。ただ、貴公子要素が完全になくなったわけではなく、ズボンスタイルなのはそのまま継続だ。別に拘りがあるわけじゃないが。髪型もいつもとは変えており、髪を1つに纏めて、低めのサイドポニーにしている。纏めた髪は肩に乗せて胸の前に出している。

 本当だったら、海外でお披露目になるはずだったこの勝負服。骨折さえなければ、ついそんなことを考えてしまいそうになる。

 ……そんな考え事をしていると、ボーイが突然ボクの前に跪いたかと思うとボクの左足を持った。突然の行動に驚く。思わず蹴っ飛ばしそうになったが何とか踏みとどまることができた。

 呆れながらボーイに尋ねる。

 

 

「……何しとん?ボーイ」

 

 

 そう聞くと、ボーイは笑顔で答えた。

 

 

「今念送ってんだ!頑張れ~、頑張れ~テンさん~ってな!」

 

 

「それ、直接言えばええんちゃうか?」

 

 

「そうだけどさ。それだけじゃ心配だからこうやって念送ってんだよ!」

 

 

(なんやそれ)

 

 

 思わず吹き出しそうになったが、別に悪い気分じゃない。そのままにしておくことにした。

 すると、カイザーが楽しそうな声で告げる。

 

 

「いいですねそれ。じゃあここにいるみなさんでここにいない人達の分も込めて念を送りますか!」

 

 

「いいねいいね~やるだけタダだからね~」

 

 

「で、では!私もやらせていただ来ます……ッ!頑張って下さ~い、テンポイント様~」

 

 

「なら、僭越ながら私もやらせてもらおうかな?」

 

 

「ちょちょ!?全員でやるつもりかい!?……まぁ、別にええけど」

 

 

 ボーイ以外のみんなも、ボーイと同じようにボクの左足を持って念を送るような仕草をしている。気持ちは嬉しい。だが、絵面は完全に怪しい儀式そのものである。傍から見れば誤解されかねない光景だ。

 1人ずつ、ボクに激励の言葉をかけてくる。

 

 

「頑張れ、テンさん!テンさんならきっと大丈夫だ!」

 

 

 ボーイ。

 

 

「頑張ってねテンちゃん。観客席で応援してるよ」

 

 

 グラス。

 

 

「無事に走り切れること、祈ってますよ。テンポイントさん」

 

 

 カイザー。

 

 

「テンポイント様。テンポイント様は1人ではありません。私達がついております」

 

 

 クイン。

 

 

「武運を、テンポイント。頑張ってくれ。ここにいる私達だけじゃない、他の子達も君を応援しているよ」

 

 

 ハイセイコー先輩。

 ここにいるみんなで念を送りながらそう激励してくれた。ただ、激励の言葉を贈った後も念を送るのは継続していた。何でもここにいないみんなの分、キングスやカシュウ達の分も送っているらしい。

 そんな時、扉を開けて誰かが入ってくる。ボクのトレーナーだった。トレーナーは、部屋の中を見て疑問たっぷりといった表情をしていた。

 

 

「……何してんだお前ら?」

 

 

「シッ!静かに誠司さん!今テンさんに念送ってんだから!」

 

 

「そ、そうか」

 

 

 トレーナーはそれだけ言って引き下がった。何も言わない方がいいと判断したんだろう。

 しばらくして、念を送り終わったのか全員が立ち上がった。そのタイミングでトレーナーがボーイ達に告げる。

 

 

「それじゃ、これから作戦の打ち合わせとかあるからそろそろ会場の方に向かってくれ。わざわざありがとな、ここまできてくれて」

 

 

「いいんすよ誠司さん!誠司さんこそ、オレ達の我儘を聞いてくれてありがとな!」

 

 

 そう言ってボーイ達はトレーナーにお礼を言って控室から退室していった。部屋の中はボクとトレーナーだけになる。

 なんだかここで2人っきりで話すのも随分久しぶりのように感じる。日経新春杯の時はみんながいたから、有マ記念以来だろうか?

 するとトレーナーが小包のようなものを取り出した。

 

 

「トレーナー。なんやそれ?」

 

 

 ボクの質問にトレーナーは笑みを浮かべながらボクに小包を渡してくる。

 

 

「いや、ちょっと遅めのクリスマスプレゼントだ。今年はパーティで潰れたからな」

 

 

「もう年末やけどな。開けてもええか?」

 

 

「いいぞ」

 

 

 ボクは早速小包を開けた。中に入っていたのは……朱色の髪飾りだ。バーミリオンカラーといっただろうか?今ボクが着けているのと同じ色である。そしてもう一つ、ダイヤモンドのブローチが入っている。

 

 

「いやいやいや!これ高いんやないか!?素人目にも分かるで!」

 

 

 入っていた物に対してボクは思わずそう言った。だが、トレーナーは特に気にした様子を見せずに答える。

 

 

「まぁ確かに高かったが他にいいプレゼントも思いつかなくてな。お金にも余裕あったし。後どっちも俺の手作りだ」

 

 

「なんも驚かん。もうなんも驚かんでボクは」

 

 

 ツッコむだけ無駄だと判断したボクはもう気にしないことにした。

 ……せっかくのトレーナーからのプレゼントだ。これを着けてレースに挑みたい。ただ、自分で着けるよりも……。

 

 

「……なぁ、せっかくやからトレーナーが着けてくれへん?」

 

 

 ボクはトレーナーにそうお願いした。トレーナーは少し驚いたような表情を浮かべている。

 

 

「俺がか?」

 

 

「せや。せっかくのトレーナーからのプレゼントや。着けて挑みたいねん。それに、ボクが着けるよりもトレーナーに着けて欲しいし」

 

 

「ま、それぐらい構わんぞ。くすぐったかったら言ってくれ」

 

 

 トレーナーに髪飾りとブローチを渡す。確認したところ、このブローチは髪留めにも使えるようなのでこちらは今髪を束ねるのに使っているゴムを外してこちらを着けよう。

 トレーナーに髪飾りを着けてもらう。少しくすぐったい。トレーナーがボクに話しかけてきた。

 

 

「……テンポイント、いよいよだな」

 

 

「うん。いよいよやな」

 

 

「作戦に関しては、特に変更はない。あの作戦で行くぞ」

 

 

「了解や」

 

 

「……ま、作戦であぁだこうだ言ったけどよ」

 

 

 トレーナーは髪飾りを2つとも着け終わったのかボクから離れる。ボクはトレーナーの顔を真っ直ぐに見据えた。彼は、笑顔で告げる。

 

 

「勝つとか負けるとか、一旦置いとけ!思いっきり、お前らしく走ってこい!」

 

 

 それは、ボクのメイクデビューの日に言われた言葉と一緒だった。ボクは思わず吹き出して笑う。

 

 

「ッププ!それ、メイクデビューの時に言うとった言葉やん!懐かしいなぁ!」

 

 

「そうだったか?まぁ作戦とか色々立てたけどよ。一番大事なのはお前らしく走ることだ。それを頭の中に入れて走ってくれ」

 

 

「了解了解!いやぁ、ホンマに懐かしいなぁ!」

 

 

 ボク達はお互いに笑いあう。不安も、緊張も何もかも忘れてお互いに笑いあった。

 しばらく雑談をしていると、トレーナーが時計を確認する。

 

 

「……さて、俺もそろそろ会場の方に向かうとするよ」

 

 

「あー……もうそんな時間か」

 

 

 少し名残惜しいが仕方がない。

 トレーナーは拳をこちらへと突き出してきた。

 

 

「頑張れよ、テンポイント。俺が惚れたお前の走りを見せてくれ!」

 

 

 ボクも同じように拳を突き出す。いつもと変わらないボクらのルーティン。

 

 

「行ってくるわ、トレーナー。しっかり見とき?キミが惚れたボクの走りで、1着取ってくるわ!」

 

 

 拳を軽く合わせる。

 その後トレーナーは部屋を退出した。ボクもパドックに向かう準備をする。その前に、トレーナーから貰った髪飾りを手で触る。思わず笑みが零れた。

 

 

「……ふふっ」

 

 

 もう不安も緊張も、何もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はテンポイントの控室から出ると、誰かから声を掛けられた。

 

 

「やぁ神藤さん。話は終わったかい?」

 

 

「待ってたよぉ神藤さぁん」

 

 

 ハイセイコーと、タケホープだった。

 

 

「待ってたって……なんで俺なんかを待ってたんだ?というか、タケホープはなんでここに?」

 

 

 率直な疑問を2人にぶつける。俺の疑問にタケホープが答えた。

 

 

「私がここにいるのはぁ、ハダルからも1人出るからだねぇ。その子の控室からの帰り道さぁ。そのタイミングでハイセイコーと偶然会ってねぇ。聞いたところによると神藤さんが出てくるのを待っているらしいじゃあないかぁ。だから私も待ってた、というわけさぁ」

 

 

「私はこの機会に聞いておこうと思ってね。それに、タケホープもいるから都合がいい」

 

 

「なんか聞きたいことでもあったか?」

 

 

「何、あの日の答えさ」

 

 

 ハイセイコーは一拍おいた後、俺に問いかける。

 

 

「神藤さん、あなたが思う最強のウマ娘……それの答えを聞かせてもらえるかな?」

 

 

「神藤さんが何を思ってテンポイントを最強と思うのかぁ、それを聞かせてもらおうと思ってねぇ。答えは、出たのかぁい?」

 

 

「そうだな……」

 

 

 言われて合点がいった。テンポイントがクラシック級の時に2人から聞かれた質問。一時期は忘れていたが、ハイセイコーから言われて思い出したこと。俺が何を思ってテンポイントを最強だと思っているのか、それの答え。

 少し逡巡した後、俺は2人の質問に答える。

 

 

「……見つけたよ。俺なりの最強の答えってやつを」

 

 

「へぇ?是非聞かせてもらおうじゃないか」

 

 

「楽しみだねぇ」

 

 

 2人は少し楽しそうにいている。俺はそのまま自分なりの答えを告げる。

 

 

「誰かの記憶に残るような走りをするウマ娘。その中でも、多くの人の記憶に残るような……そんなウマ娘こそが、最強なんじゃないかって俺は結論を出した」

 

 

「へぇ?」「ふぅん?」

 

 

「いろんな奴に聞いたんだ。自分が思う最強のウマ娘はどの子かって。当たり前だけど、答えはバラバラだったよ。そりゃそうだ。最強の定義なんて人それぞれなんだからな。バラバラの答えになるのは当たり前だ」

 

 

「まぁそうだね。一理ある」

 

 

「でもぉ、神藤さんがその答えに至った理由はなんだぁい?」

 

 

「共通点があったんだ。みんな挙げた最強のウマ娘……それには1つ共通点があった。それは、記憶に刻まれているという点だった」

 

 

 全員が印象深いレースをしていた。それが、俺が思った最強のウマ娘の共通点。

 

 

「思えば、スカウトした時から答えは出ているようなもんだった。俺がテンポイントをスカウトしたのは、アイツの走りが記憶に刻まれたから、誰よりも印象深いレースをしていたからだ」

 

 

「だから、テンポイントこそが最強だと?」

 

 

「そうだ。そして、このレースで証明してやるさ」

 

 

「ふぅん?何をだぁい?」

 

 

 タケホープの質問に、俺は笑顔で答える。

 

 

「テンポイントこそが最強のウマ娘だと。世界中の人間の記憶に、テンポイントっていうウマ娘のレースを刻んでやる!」

 

 

 2人は俺の宣言に少し無言になる。しばしの静寂。沈黙を破るように2人は笑みを浮かべつつ喋り始める。

 

 

「フフッ。成程、それがあなたの最強の答えか。成程成程……」

 

 

「アハハ!成程ねぇ、記憶に残るウマ娘かぁ。うんうん、いいんじゃあないかなぁ?私は好きだよぉそういうのぉ」

 

 

 2人は笑いながらそう答えた。

 

 

「さて、じゃあ俺達も会場に向かうか。キングス達が場所を取ってくれているはずだからな」

 

 

「そうだね。早速向かおうか」

 

 

「じゃあ、レッツらごぉ」

 

 

 俺達は会場へと向かう。

 <ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ>出走まで、もうすぐだ。




明日の新衣装ウマ娘の発表を心待ちにしています。
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