《各ウマ娘奇麗なスタートを切りました!16人のウマ娘が一斉にスタートを切ります!まずハナを取ったのは……ッ!やはりこのウマ娘だ!テンポイントが先頭に立った!1枠1番、最内枠を活かしてテンポイントが先頭に立った!後続15人を引き連れて快調に飛ばしていきます……がっ、外からデッドスペシメンだ!外から5番デッドスペシメンがテンポイントに併せてくる!》
ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップが幕を開けた。16人のウマ娘が誰一人出遅れることなく奇麗なスタートを切る。その中から先頭に立ったのはテンポイントだった。集団の中からいち早く抜け出そうと快調に飛ばしている。俺はひとまず安堵した。
観客席を見渡すと、すでに涙を流している人がいた。
「あぁ……ッ!テンポイントが走ってる……!」
「テンポイントがターフで走ってる……。それだけで満足だ……ッ!」
「頑張ってー!テンポイントー!」
テンポイントへの応援の声が多数を占めていた。
「なぁなぁ?お前誰が勝つと思う?」
「う~ん……ホクトボーイか、カネミノブに勝って欲しいけどなぁ」
「やっぱバルニフィカスかオブリガシオンじゃね?」
「いやいや、デッドスペシメンも外せないだろ~」
だが、テンポイントのは勝利への応援というよりも……。
「走ってることに対する応援、だね」
「お前もそう思うか、ハイセイコー」
俺の言葉にハイセイコーは頷く。同じことを考えていたらしい。
「まぁ、仕方ないと言えばそれまでだ。海外出身のウマ娘は向こうで結果を残してきた子ばかりだし、日本のウマ娘もトゥインクルシリーズの精鋭達だ。11ヶ月というブランクがあるテンポイントが勝つなんて、誰も思ってねぇだろうよ」
「加えて骨折明け。11ヶ月の約半分はリハビリに費やしていたわけだからね。勝つことよりも無事に走り切って欲しい、という感情の方が大きいんだろうさ。けれど、あなたは違うだろう?」
ハイセイコーは俺に対してウィンクしながら尋ねる。俺は真面目な表情で答えた。
「出走する以上勝つ気で臨んでいる。俺も、アイツもな。そして、俺はアイツなら勝てると信じている」
そう言いながら俺はレースを見る。先頭を走るテンポイントが第1コーナーへ入ろうかというところだった。展開は縦長の展開を見せている。
《……さぁ先頭が第1コーナーのカーブへと入っていきます。先頭を走るのは1番のテンポイント。そして先頭テンポイントをマークするように外から5番のデッドスペシメン!時折テンポイントを躱して抜かすような仕草も見せているがテンポイントこれには無理に付き合わない様子!それを見てかデッドスペシメンも大人しく控えるようだ!つかず離れずの位置をキープしているぞ5番のデッドスペシメン!》
《デッドスペシメンが標的に定めたのはテンポイントのようですね。先着率100%を誇るデッドスペシメンの徹底マーク。果たしてテンポイントは追跡を振り切ることができるのか?》
《そこから2バ身程離れて11番オブリガシオンを中心として4人のウマ娘が集団を形成しています。3番手は2番、4番手11番オブリガシオン。サンクルー大賞を制したオブリガシオンはこの位置だ。オブリガシオンの内に15番、その外6番手は8番、ドイツのウマ娘がこの位置にいます》
思った通り、デッドはテンポイントを徹底マークする様子を見せていた。テンポイントがどう動いてもいいようにつかず離れずの位置をキープしている。
マルゼンスキーがレースの様子を見て呟く。
「後続は様子見……ってとこかしら?テンさんあまり注目されてないわね。もっとも……」
「一番厄介な相手にマークされている。これがどう響くか、だな」
テスコガビーの言うように、あの追跡者にテンポイントはマークされている。そのことが気がかりになっているようだ。
だが、デッドがテンポイントをマークすることは予想していたことだ。俺は焦っていない。それに、どうやらデッドは展開を早めようという意図はないように感じられる。テンポイントがペースを上げれば自分も上げ、ペースを下げれば自分も下げる。前を走るテンポイントにプレッシャーをかけ続ける。そんな位置取りをしていた。
《6番手から2バ身離れた位置に7番手9番のカネミノブ、有マ記念覇者のカネミノブがこの位置。7番、12番、13番とともに中団を形成する形。最後方は14番ホクトボーイ、その後方に16番バルニフィカスだ。大外枠バルニフィカスはこの位置にいる》
《各ウマ娘がそれぞれ自分のベストな位置取りに着きましたね。レースは縦長の展開を見せています》
俺は先頭を走るテンポイントを見つめる。手に自然と力が入っていた。
ゲートが開いた。それと同時にボクは飛び出す。
作戦を立ててこそいるものの、まずはハナを取る。幸いにも今回の出走者の中には逃げで走るウマ娘はいない。だからこそ。
(苦もなく先頭を取れるはずや!)
思った通り、無理に先頭に立とうとしている子はいなかった。ボクはそのまま内を走ってハナを取る……が、どうやら1人だけいたらしい。そいつは外からボクに併せてきた。
「さっきぶりだねテンポイント!ソロは寂しいでしょ?私が付き合ってあげる!」
デッドだ。挑発しながらボクの外へと進路を取っている。徹底マークする形を取っていた。
だが、予想通りの展開だ。ボクに焦りはない。デッドの挑発も、あえて乗らずに無視をすることに決めた。向こうはボクを揺さぶろうと時折ボクを躱して先頭に立ったりしているが、ボクはペースを一定に保っている。
「……ふ~ん。冷静だね。挑発には乗らないし、抜かされても気にしない……ってとこかな?ならいいや!本来のプラン通りに行こう!」
そう言いながらデッドはボクの半バ身後ろの位置についた。今度はボクがデッドを揺さぶるようにペースを速めたり遅くしたりするが、向こうはボクに合わせるようにペースを変えている。
(なるほどな……。ボクを後ろでマークする姿勢に徹する……っちゅうことか)
ならありがたい限りだ。ボクは少し遅めのペースで走る。もうすぐ第1コーナーへと入ろうとしていた。
東京レース場の最後の直線は長い。逃げで走るのには少し不利なコースだ。考えなしにペースを飛ばして走ったらカブラヤオー先輩でもない限り後続に捕まってしまうのがオチである。幸いにもデッド以外のマークは緩い。ボクよりも他の子をけん制するように動いているのだろう。ここで1つの考えが浮かんだ。
(多分やけど、ボクの弱点は広まっとるって考えた方がええな。やないと、ここまでマークが緩いんはおかしい)
まだ序盤なので判断しかねるがボクに対するマークはかなり緩い。まぁ、11ヶ月も前線から退いていた身だ。弱点のことなしにしてもマークが緩いのは納得できる。デッドが異端なだけだろう。デッドの場合は、それだけボクを警戒しているということになるが。
そんなデッドは第1コーナーを曲がっている時にもボクにささやくように挑発してきている。
「いいのかな?そんなペースで。追いぬいちゃうかもしれないよ?」
こちらの集中を乱すように。
「もしかして、脚を残そうとしているのかな?でも、それで大丈夫なのかな?」
的確に痛いところをついてくる。
「君は第4コーナーで必ず減速する。今のうちに、大逃げにシフトした方がいいんじゃないかい?」
そんなデッドに対して、ボクは冷静に言葉を返す。
「アメリカのウマ娘はお喋りなんやな。負けた時の保険でもかけとるんか?」
……なんかこっちも挑発みたいになってしまった。
だが、ボクの言葉を受けてデッドは困ったような声で反応した。
「ふ~ん……。言葉での挑発は無意味か。あんまり効いた様子はないし、ペースも変わらない。だったらもう無駄なおしゃべりは止めようか!」
同時に、デッドからかけられるプレッシャーが増した。思わず怯みそうになる。
(ッ!いや、問題はない。ボクはボクのペースで走ればええ!)
プレッシャーこそ増したものの、デッドは戦法を変えるつもりはないようだ。ボクの半バ身後ろ、外側の位置をキープしている。
ボクは試すように少し外へ進路を取る素振りを見せる。
「……フフッ、ダメだよ?そっちには行かせない」
するとその進路を塞ぐようにデッドはペースを上げた。ボクは進路を戻して内を走る。これで、この位置取りの理由が分かった。
(ボクを内に閉じ込める……っちゅうことか)
その位置取りをしている理由もなんとなく察しはついているが問題はない。ボクは変わらず内を走る。
第1コーナーの中間、まだレースは始まったばかり。滑り出しは上々といったところだ。
第1コーナーを走るテンポイント。それを追うデッドスペシメン。そこからさらに3バ身程離れた先頭集団。縦長の展開になっている。
デッドはテンポイントの外に陣取っている。内の最短経路ではなく、外をだ。その理由は何となく察しがついている。
(第4コーナーを内で回らせるため、外に行かせないためか……)
これでハッキリした。デッドスペシメンはテンポイントの弱点を知っている。俺達が外へと進路を取ろうとしていた作戦を立てているのだと思っているのかもしれない。徹底してテンポイントを外へ行かせないような立ち回りをしていた。
こんな序盤で、と思わなくもないがそれだけ危険視しているのだろう。テンポイントという不確定要素を。俺は冷静にそう考えていた。
そんな時、観客の会話が聞こえてきた。
「あ~……テンポイントはデッドスペシメンにマークされてるのかぁ」
「確か先着率100%だろ?テンポイントは怪我明けだし、かなり厳しいよな~」
「何言ってんだよ。無事に走っている姿が見れるだけでも……ッ!うぅ……ッ!」
主観の会話。それも内輪の何気ない会話だ。気にする必要はない。だが、キングスポイントの方を見ると悔しそうに歯噛みしていた。彼女にも会話が聞こえていたのだろう。
「うぅ~……!お姉は負けないし!お姉~!頑張れー!負けんなしー!」
ここで観客相手に噛みつきに行かない辺り、キングスも成長しているようだ。代わりに、テンポイントに対して精一杯の応援を送っている。
その光景を少し微笑ましく思いながら視線を戻そうとすると、いつの間にか隣にエリモジョージがいた。思わず飛びのく。
「うわっ!?いつの間にいたんだエリモジョージ!?」
「どうしたんだい?神藤さん……ってエリモジョージ、いつの間に来てたんだい?」
「やほー 神藤 ハイセイコー。ついさっき」
「ホクトの応援にはいかなくていいんすか?多分、時田トレーナーのとこにいたんですよね?エリモジョージ先輩」
「ううん。野暮用 あった。ついさっき 着いた」
どうやらエリモジョージはついさっき着いたらしい。何故時田トレーナーのところではなくこちらにきたかをトウショウボーイが尋ねたところ、俺達ならここにいるだろうと察しがついていたから迷わなかったこと、時田トレーナーはどこにいるのか分からないのでとりあえず場所が分かっている俺達のところへと来たらしい。
「野暮用ってのは何なんだ?」
俺の質問にエリモジョージは答える。
「テンポイント 両親 連れてきた。大変だった」
「ワカクモさん達を?で、そのワカクモさん達は?」
「あそこ」
エリモジョージが指を指した方を見る。少し離れた位置に、観客に紛れるようにワカクモさん達がいた。向こうもこちらに気づいて手を振っている。お2人が無事に会場に来れたことを喜びながら俺も手を振る。
気を取り直して、俺はレースを見る。テンポイントは丁度第2コーナーへと入ろうかというところだった。
《レースは縦長の展開を見せています。各ウマ娘が自分の位置でレースをしようと少しペースを抑える形を取っている。先頭は依然としてテンポイントその半バ身後ろの位置をキープしているのはアメリカのウマ娘デッドスペシメン!》
《追跡者がマークしているのは海外のウマ娘ではなく日本のウマ娘!流星の貴公子は追跡者を振り切ることができるのかこれからの展開に注目です》
《後続は依然として変わりがありません。デッドスペシメンから4バ身程、いや少し差が縮まりました。2バ身離れた位置に3番手オブリガシオンを中心とした4人の先頭集団。先頭集団から1バ身離れて7番手カネミノブ、8番手は内に12番外に7番。最後方も変わらずホクトボーイとバルニフィカスこの2人が最後方だ》
《レースは第2コーナーへ入ろうかというところ。まだまだ始まったばかり。ここから荒れるか?目が離せません!》
今のところ俺とテンポイントの作戦に支障はない。レースは第2コーナーへと入っていく。
序盤は静かに。