ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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あの日のトラウマを乗り越えて、後はただ勝利へ


第141話 運命を越えて

 各ウマ娘が第4コーナーへと入った。俺達はただ一点、テンポイントだけを見つめている。テンポイントが抱える弱点、第4コーナーの減速。その行く末を見守っていた。

 雪はいつの間にか止んでいる。あの日とは違う左回りのコース。ただ、練習では最後まで克服できなかった。そのことが、みんなの心に残り続けていたのだろう。全員が縋るように、祈るようにテンポイントを見ている。

 そんな中テンポイントは、第4コーナーでスパートをかけた。まるで問題ないとばかりに内側を走る。コーナリングも問題ない。前は誰もいない。詰められた差を再び突き放しにかかった。俺は思わずフェンスから手を離してガッツポーズをする。

 

 

「……シッ!」

 

 

 テンポイントは、減速することなく第4コーナーを曲がった!そのことが、たまらなく嬉しい!

 

 

 

 

《ウマ娘達が第4コーナーを回っている!第4コーナー半分を過ぎて先頭を走るのはテンポイントだ!後続に詰められた差をもう一度突き放す!これは上手いコーナリングだ!最短経路で内を走っているぞテンポイント!デッドスペシメンは大外を回っている!これがどう響くか!》

 

 

《バルニフィカスは内へ内へと進路を取っています!すでに前から7番手のオブリガシオンの隣まで来ている!しかし進路はありません!一体どうするつもりなのか!?》

 

 

《おそらく彼女には何かが見えているのでしょう!勝利に繋がる何かが見えているのかもしれません!バルニフィカスとは対称的にホクトボーイは外から上がってきている!ホクトボーイが外から順位を上げている!ゴールまで残り600mを切りました!まもなく最後の直線へと入ろうとしている!先頭はテンポイントです!》

 

 

 

 

 実況の言葉で我に帰る。まだ第4コーナーを抜けただけだ。作戦の、第一段階をクリアしただけ。勝ったわけじゃない。けれど……。

 

 

(よしッ……。よしッ!)

 

 

 喜んだって、許されるはずだ。俺は歓喜に震えている。

 それは、他のみんなも同様だった。テンポイントが第4コーナーを無事に曲がった、トラウマを克服したという事実に肩を抱き合って喜び合っている。

 

 

「みんな見ろよ!テンさん、無事に曲がれてるぜ!」

 

 

「ホント……ッ!ホントによかった……ッ!」

 

 

「でも、まだです!テンポイントさんはまだ勝ってません!だから、応援しましょう!」

 

 

「そうですね!頑張ってください、テンポイント様ー!」

 

 

 トウショウボーイ達は声援を送っている。他の子達もみんなテンポイントを応援していた。

 そんな中、シンボリルドルフが俺に尋ねてくる。

 

 

「……神藤さん。何故、あれほどまで苦労していた第4コーナーの弱点を克服できたのですか?我々との最後の模擬レースでは克服できていなかった。この3日間の間に、テンポイントさんに一体何が?」

 

 

「特別なことはなんもしてないさ」

 

 

 俺はシンボリルドルフの疑問にそう答える。彼女は納得のいかない表情をしていたが、俺は構わず続けた。

 

 

「テンポイントは第4コーナーを曲がる時、日経新春杯の光景がフラッシュバックすると言っていた。それが原因で減速してしまうと。思い出したくなくても思い出してしまうぐらいにアイツの記憶と身体に事故の記憶が刻まれていた」

 

 

「……」

 

 

「トラウマを克服するには、恐怖と向き合って乗り越えることが大事らしい。そのために練習はしてきた。結局模擬レースでは克服できなかったが、乗り越えるための土台はちゃんとあったんだ。それが本番で発揮された。俺はそう思っている。後は……お前達の応援もあるだろうな。お前達の応援が、テンポイントが恐怖を乗り越える力をくれた」

 

 

 俺はみんなに向けてお礼を言う。全員に聞こえるように。

 

 

「ありがとう、みんな!」

 

 

 俺の言葉に、みんな様々な反応を見せた。素直に受け取ったり、茶化したり、気を引き締めるように言ったりと反応は色々だった。

 俺の言葉を聞いてシンボリルドルフは笑みを零していた。

 

 

「成程……。みんなとなら、ですか。感恩戴徳。ありがとうございます神藤さん。私の疑問に答えてくれて」

 

 

「いや、納得のいく答えだったのなら良かったよ」

 

 

 俺は表情を引き締める。

 

 

「ま、テンポイントはこうして第4コーナーを無事に曲がることができた。後は」

 

 

「勝つだけ、だね」

 

 

 ハイセイコーが俺達の会話に割り込みながらそう言った。目尻の方には少し涙が見える。ただ、表情は笑顔だった。

 

 

 

 

《さぁ最後の直線に入りました!東京レース場の長い長い直線に入りました!一番最初に駆け抜けてきたのはテンポイント!テンポイントだテンポイント先頭!》

 

 

《ブランクなんて関係ない、日本の総大将は自分だ!海外のウマ娘を蹴散らしてやると言わんばかりの見事な走りです!しかし後続もスパートをかけ始めています!》

 

 

《2番手大外にデッドスペシメン!テンポイントとの差はほとんどない!大外にデッドスペシメン!そして……ッ!内からバルニフィカスだ!内からバルニフィカスが上がってきている!テンポイントよりもさらに内!テンポイントと内ラチに空いたウマ娘1人分の隙間を狙っているぞ!オブリガシオンはまだ仕掛けない!オブリガシオンはまだ仕掛けない!》

 

 

 

 

 今の状況を見て、俺はもう一度ガッツポーズをしそうになった。俺達の狙い通り……ッ!

 

 

「罠に掛かってくれたな、バルニフィカス!」

 

 

 勝負は最後の直線へと持ち込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第4コーナーを外で回る。大袈裟ともいえるぐらいには外を回っていた。

 

 

(でも、警戒しすぎるにこしたことはないからね!それに……)

 

 

 私は内ラチ沿いを走っているテンポイントを見る。彼女は、減速することなく第4コーナーを曲がっていた。相手だというのに、レース中だというのに笑みが零れる。

 

 

(やっぱり君は克服してきたね!私の予想通りだ!)

 

 

 しかし、思考を切り替える。勝つために全力を尽くさなければ。

 テンポイントというウマ娘は非情にバランスよくまとまったウマ娘だ。彼女のライバル筆頭候補であるトウショウボーイはスピードに優れている。グリーングラスはスタミナに恵まれている。クライムカイザーはサマードリームトロフィーで類まれなる戦術眼を得た。それぞれ突出した武器がある。

 テンポイントは、全てのパラメーターをトップレベルに備えているウマ娘なのだ。スピードもあるし、長距離を走れるだけのスタミナもある。加えて、戦術眼にも優れている。器用貧乏とも取れるが、彼女の場合は器用貧乏の枠組みに収まらない。いうなれば……。

 

 

(真の意味での万能型……ッ!それが、私がテンポイントに下した評価!)

 

 

 対戦する上でこの上なく厄介な相手だ。しかも彼女は逃げで走る。大逃げで走る子でもいない限り、絶対に先頭に近い位置で走る。今のオブリガシオンのように、集団に閉じ込めることは難しい。

 加えて、テンポイントにはトウショウボーイ達のようにとても大きな強みがある。それは、負けん気がとても強い、すさまじい勝負根性の持ち主だということだ。競り合いになればほぼ勝てる。そんな強さを持っている。

 

 

(競り合わなくても強いし、競り合っても強い。勘弁してほしいね!)

 

 

 ただ、特化型にどうしても劣るという点、テンポイント自身が追う展開になったら弱いという明確な弱点がある。しかし、私は悔しいことに特化型というわけではない。逃げで走るから追う展開になることもほとんどない。

 競り合えば限界以上の強さを発揮することがあるテンポイント。ただ、競り合わなければ私でも十分に勝機はある。だからこそ、私が取ったのは菊花賞のグリーングラスのように彼女の意識外から抜かしにかかるという作戦。

 

 

(これだけ大外にいれば君の眼には入らないでしょ?)

 

 

 私とテンポイントの間はかなり開いている。意識的にこっちを見ないと分からないレベルだ。これぐらいあれば、彼女との競り合いは発生しない。後続が追い上げてくるだろうが、あのレベルなら追いつかれても限界以上の強さは発揮されないだろう。私は安心してレースを展開する。

 すでに最後の直線に入っている。残り300mを切っていた。このままいけば私の勝利は盤石のものとなる。私は内を走るテンポイントを見て……思わず目を見開いてしまった。

 いつの間にか私よりも前を走っている。加えて、スピードもいつもの彼女の数値から予想していた値から大きく逸脱している。私は、困惑していた。

 

 

(What's!?どういうこと!?あれじゃあまるで……)

 

 

 彼女が競り合っている時の数値。それも、かなりの猛者と競り合っている時の数値だ。まるで、有マ記念でのトウショウボーイのような……。

 だが、そんな相手はいないはず!オブリガシオンがいるであろう位置を確認する。彼女は抜け出すのに手間取っている。ならホクトボーイ?いや、ホクトボーイも姿が見えない。カネミノブもだ。誰だ?一体誰が競り合っているの!?

 テンポイントの方を見ると、奥の方からチラリと藍色の髪が見えた。

 

 

(藍色の髪?……って、まさか!?)

 

 

 その髪には見覚えがあった。けど、まさか!そんなはずはない!

 

 

(内側からの追い抜き!彼女が最も得意とするやり方!必勝パターン!そんなこと、君達だってわかっているはずだ!)

 

 

 テンポイントが誰と競り合っているのか。その正体は分かっている。だからこそ、理解できない。

 瞬間、テンポイント達の意図を理解した。まさか……、まさか!

 

 

(私が競り合わないことを想定して、あの子をわざと誘い込んだとでも言うの!?)

 

 

 確かに彼女ならば乗ってくるだろう。自分の実力に絶対の自信を持っている彼女ならば、内側が空いていれば必ずその進路を取る。現実としてその進路を取っていた。だからこそ、今テンポイントは競り合って私が想定していた値よりも高いスピードで走っている。

 

 

(だからって、普通そんな作戦取る!?)

 

 

 あまりにもリスクが高すぎる。勝算が低い、賭けのような勝負を仕掛ける意味が理解できない!まったくもって彼女達が理解できない!こんな場面で、フィフティーフィフティーがいいとこのギャンブルを仕掛ける意味が、到底理解できない!

 

 

「クレイジー……ッ!」

 

 

 思わずそう呟いてしまった。その時。

 

 

「余所見たぁ随分余裕だな!」

 

 

 ホクトボーイが私のすぐ近くにいた。一気に現実に引き戻される。

 そうだ。今はまだ勝負の最中だ。想定外のことに驚いてしまったが、まだ勝算は残っている!

 

 

「ハハッ!どんな時でも余裕は持つものさホクトボーイ!」

 

 

「それで負けちゃあ世話ないなデッドスペシメンさんよぉ!抜かせてもらうぜ!」

 

 

「ノン!そうはさせないよ!私だって意地があるからね!」

 

 

 実際余裕なんてものはないが。私は全力で走る。その先の勝利へと向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第4コーナーを抜けて最後の直線へと入る。ボクは今まで第4コーナーで減速していたのが嘘のようにスパートをかけることができた。そのことに歓喜している。

 だが、喜んでばかりもいられない。これはまだ作戦の第一段階。ここから作戦は第二段階に入る。ボクはそのために内側の進路を先程と同じように空けて走った。丁度、ウマ娘が1人走れるぐらいの間隔だ。

 

 

(トレーナーは言うとった!こうすれば、バルニフィカスは必ず罠に掛かるって!)

 

 

 バルニフィカスというウマ娘は確かに強い。だからこそ弱点があるとトレーナーは言っていた。

 

 

『こいつは自分の強さに絶対の自信を持っている。自分の必勝パターンに持ち込めば絶対に負けない。それだけの自負がバルニフィカスはある』

 

 

 だからこそ、トレーナーはそれを利用すると言っていた。

 

 

『第4コーナー……できれば第3コーナーからだな。内側を空けて走ってくれ。そうすれば、バルニフィカスは内側から抜くことを決めるはずだ。明確に自分の必勝パターンのルートが空いている。それを見逃すアイツじゃない。これが作戦の第二段階だ』

 

 

 その時ボクはトレーナーに、他のウマ娘が内側に入ってくるんじゃないか?と疑問をぶつけた。だが、トレーナーは首を横に振って答えた。

 

 

『大体のウマ娘はお前を外から躱そうとするはずだ。お前が競り合いに強いという情報は全員が知っているからな。必然的に競り合う位置になる内側から抜こうとするウマ娘はいない。バルニフィカスを除いてな』

 

 

 そして。残り400を切ろうかというところでボクの真後ろから強烈な気配を感じる。その気配は、ボクの内側から上がってきた。内を見ると、その姿が確認できる。

 

 

「『わざわざ内を空けてくれてありがと~。第4コーナーで減速しなかったのはちょぉっとびっくりしたけど……。お礼に敗北をあ・げ・る』」

 

 

 バルニフィカスだ。ボクを小ばかにするように挑発してくる。だが、ボクは極めて冷静だ。すでに第4コーナーは抜けた!ボクには、何の不安要素もない!

 ここからだ。ここからが重要な場面。トレーナーが立てた作戦の、最後の段階!

 

 

『そして作戦の第三段階……最終段階だ』

 

 

 いつも以上に脚を回す。スローペースで展開したおかげでスタミナも、脚も十分に残している。何ら問題はない。

 ボクは気合を入れて臨む。最後に、バルニフィカスを挑発し返す。

 

 

「『その余裕な態度崩してあげるよ。キミの得意な土俵に立たせてあげた上で……』」

 

 

『バルニフィカスに競り勝て!お前の方が上だと、お前の方が強いと!お前というウマ娘を世界に証明してやれ!』

 

 

「『ボクの影を踏ませてやる!』」

 

 

「『やってみろよ!僕相手にそんな口を利いたこと、後悔させてやる!』」

 

 

 ボクは全力を出して走る。残り、およそ300m。

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