ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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第142話 終戦

《残り400を切った!ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップもいよいよ大詰め!残り400を切りました!先頭はテンポイント!テンポイントが先頭だ!しかし内から猛然とバルニフィカスが上がってくる!バルニフィカスがどんどん差を詰める!これが英国2冠の強さだ!バルニフィカスが一気に先頭を走るテンポイントへと差を詰めていきます!先頭と後続との差はそこまで差がありません!ここから他のウマ娘差し切る可能性も十分に考えられます!》

 

 

《バルニフィカスの末脚は本当に凄い!テンポイントのライバルの1人、トウショウボーイを彷彿とさせる速さです!しかし、ならばなおのこと負けられない!テンポイントも先頭で粘ります!》

 

 

《大外にはデッドスペシメン!デッドスペシメンが半バ身程後ろになったか!しかしデッドスペシメンもギアを上げる!デッドスペシメンも上がってきている!テンポイントに並ぼうとしている!そんなデッドスペシメンの内にはホクトボーイだ!ホクトボーイが上がってきた!4人のウマ娘が並ぼうとしている!サンクルー大賞のオブリガシオンは……ッ!ようやく仕掛けた!ようやくオブリガシオンも仕掛ける!しかしこれは間に合うかどうか!》

 

 

 

 

 東京レース場のゲストルームでは悲鳴が上がっていた。その原因は、今先頭を走っているウマ娘が原因である。

 テンポイントというウマ娘は第4コーナーで必ず減速するという弱点がある。そんな情報を彼らは鵜呑みにしていた。だが、現実は彼女は第4コーナーで減速することなく今もなお先頭で走っている。メインに据えていた作戦が無に帰したのだ。悲鳴をあげたくもなるだろう。

 ただこの情報は他者から渡されたものだ。そんな情報を信じた方が悪いと言えばそこまでである。なぜ彼らがそんな情報を信じたのかというと、情報源が世界一の情報網を持っているとまで称されるデッドスペシメンだったからだろう。情報に関しての妥協を許さず、虚偽の情報を流布したという話もない彼女からの話だ。信じてしまうのも無理はない。

 そんな中、デッドスペシメンのトレーナーであるデイビットは驚きに満ちた表情でレースを見ていた。

 

 

「『信じられねぇ……。アイツ、本当に……』」

 

 

 デイビットはデッドスペシメンがテンポイントをマークするという話を聞いた時、無駄なことだと一蹴した。第4コーナーを曲がれない欠陥、11ヶ月というブランク、そもそも世界で目立った実績がない日本のウマ娘。マークする必要すらないウマ娘だと、デイビットはテンポイントをそう判断していた。

 だが、現実は違う。自分が終わったと判断したウマ娘は今も先頭で走っている。第4コーナーをしっかりと、減速することなく曲がった。デッドスペシメンが言っていた通りになったのだ。

 自分の担当であるデッドスペシメンはそれを必死に追いかけている。徐々に差は縮まってきていた。だが……。

 彼は、今の状況にただ呟く。

 

 

「『相手を見くびるな……か。ハハッ、デッドやチーフに口酸っぱく言われていたことが……今ようやく理解できた。でも、今になって、それが分かるなんて……』」

 

 

 後悔しているように、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲストルーム、愕然としている人が多い中私はレースを見守っている。先頭を走るのは4人のウマ娘。私の担当ウマ娘であるフィーと、フィーと競り合う日本のテンポイント。大外にデッドスペシメン。デッドスペシメンと競り合うホクトボーイ。後は、集団からやっと抜けだしたオブリガシオンが凄い勢いで上がってきている。この5人での争いになるだろう。

 だが、問題はない。オブリガシオンはあの位置からでは追いつけない。他の4人も直に抜きされるだろう。

 

 

(フィーの必勝パターンに入った。こうなれば、もう終わりだ)

 

 

 自身の担当ウマ娘であるバルニフィカスの必勝パターン。内からの追い上げ。それが決まったのだ。このレースは終わった。私はそう判断する。

 ……だが、いつもならすぐに追い越せるはずのフィーが追い抜くのに手間取っている。決して手を抜いていない。必死に、全力で走っていることは分かる。だが、いつまでたってもテンポイントを抜けない。そんな状況に陥っていた。

 

 

「『進路が塞がれているわけではない……。一体どうして?』」

 

 

 確かにテンポイントというウマ娘は強い。出走するウマ娘だけではなく、他のウマ娘のデータと比較してもトップクラスの子であることは分かっていた。ただ、それでもフィーには及ばない。私はそう判断した。

 だからこそ、今の状況は不可解だった。フィーが追い抜けないでいる。今まで同じ状況になってもすぐに抜き去った、余裕そうに抜き去っていた彼女が。テンポイントというウマ娘を抜くことができないでいる。思わず呟く。

 

 

「『確かに彼女の勝負根性は驚異的だが……ッ!』」

 

 

 言って、気づく。彼女達の、テンポイント達の意図に。

 これまでの展開。今の状況。まさか、彼女達は……ッ!

 

 

「『わざと誘い込んだとでもいうのか!?テンポイントの強さを発揮させるために、わざとフィーを最内に!?』」

 

 

 思わず大声を上げる。他のトレーナー達がビックリしたように私を見ているがそんなことは関係ない。

 思えば、最内が空いているのはおかしい。テンポイントはとても利口だと聞いている。フィーのことを警戒しているのであれば、フィーの必勝パターンは封じ込めてくるはずだ。なのに、まるで無警戒とばかりに最内を空けていた。

 これが最後の直線ならまだ分かる。だが、レースを見た感じ第3コーナー辺りから最内は空いていた。だからこそフィーは内へと進路をとったのだから。

 テンポイントの強み、デッドスペシメンがそれを知った上で取る対策、フィーの性格……それらを考えると何故内側が空いていたのか、理解できた。

 

 

「『フィーを誘い込むため……ッ!テンポイント本来の強みを最大限発揮するために、フィーを誘い込んだ……ッ!全てはテンポイントの強みを発揮させる舞台、競り合いという状況を作るために!』」

 

 

 それと同時に理解する。テンポイントのトレーナー、神藤誠司……といっただろうか?彼の意図を、私は理解した。

 

 

「『彼は、テンポイントなら勝てると……テンポイントなら、英国2冠ウマ娘であるフィーにも勝てると、そう踏んでこの作戦を立てたのか!?』」

 

 

 だとすれば、尊敬の念が上がってくる。誰が相手でも、どんな相手でも関係ない。自分の担当が勝つことを愚直に信じるその姿勢、称賛に値する。

 だが、それでもフィーの方が上だ。

 そう思っていても、私は不安と、ドキドキを感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京レース場の熱気は最高潮に達しようとしていた。第3コーナーを過ぎた辺りでもしかしたら……なんて声が上がっていた。その声は、第4コーナーを越えてテンポイントが先頭を走っているあたりから確信に変わった。テンポイントが、勝つんじゃないかと。

 会場のあちこちからテンポイントを応援する声が飛ぶ。会場にいるほぼ全員が今もなお先頭を走るテンポイントを応援していた。

 

 

「これ、もしかして……もしかするんじゃないか!?」

 

 

「バカ!そんなこと言っている暇あったら応援しろ!頑張れー!テンポイントー!」

 

 

「負けないでー!テンポイントー!」

 

 

「日本の力みせてやれー!」

 

 

「頑張れー!頑張れー!お姉ー!」

 

 

「「「負けないでー!テンポイント様ー!」」」

 

 

「負けんなー!テンさーん!」

 

 

「頑張れー!テンちゃーん!」

 

 

「もう少しですよ!テンポイントさん!」

 

 

「テンポイント様!もうひと踏ん張りです!頑張ってくださーい!」

 

 

「エンジンフルスロットルで行きなさーい!テンさん!」

 

 

「勝て!テンポイント!」

 

 

「テンポイント!君の力を、みんなに見せてやれ!」

 

 

 会場から湧き上がる応援の声。テンポイントを応援する声が東京レース場を支配していた。

 実況と解説にも熱が入っている。

 

 

 

 

《レースは残り200を切りました!先頭は4人のウマ娘が並んでいる!内を走るテンポイントとバルニフィカス!大外を走るデッドスペシメンとホクトボーイ!この4人がほとんど横並びだ!この4人がほとんど横並びで200を切った!誰が勝つか全く予想がつきません!》

 

 

《そしてこの4人にオブリガシオンが猛追してきましたね!オブリガシオンも猛追してきています!オブリガシオンが前の4人に並びかけています!これは凄い脚だオブリガシオン!前との差をグングン詰めてくる!》

 

 

《やはり彼女もまた強いウマ娘!いえ!このレースに出走しているウマ娘は誰もが強い!誰もが認めるウマ娘達ばかりです!ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ!栄冠を勝ち取るのは誰か!泣いても笑っても最後の200m!頑張れ日本!頑張れ海外!》

 

 

 

 

 テンポイントのトレーナーである神藤は、先頭を走るテンポイントを見る。その瞳に、揺らぎはない。己の担当が勝つ、1着でゴール板を駆け抜けることを信じている。そんな目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り200を示すハロン棒を通過する。ボクはまだバルニフィカスと競り合っていた。お互いに一歩も譲らない力勝負。ただただバルニフィカスというウマ娘の実力に驚くしかない。

 

 

(ホンマに強い!あの態度、言葉も納得できるぐらいの強さがある!流石は英国2冠っちゅうとこやな!)

 

 

 だからといって負けるつもりはさらさらない。ボクはバルニフィカスと競り合いながらそう感じていた。

 強いのはバルニフィカスだけではない。ボクを最初から最後まで徹底マークして対策を講じていたデッドも、トゥインクルシリーズで戦った同じ天皇賞ウマ娘のホクトも、勿論他のウマ娘も。全員が強い。今でも絶対に勝つ、絶対に負けたくないという思いを背中にヒシヒシと感じる!それでも!

 

 

(勝つんはボクや!ボクが、絶対に勝つ!)

 

 

 大外にはデッドとホクトが、真ん中を突っ切ってオブリガシオンが並ぼうとしている。ただ、オブリガシオンはかなり消耗しているように感じられた。それでもここまで来たのは彼女の意地というやつだろう。自分の国を誇りに思っているであろう彼女の、意地。

 

 

「『負けられない!祖国の、フランスの誇りにかけて!私は負けるわけにはいかない!』」

 

 

 そう叫んでいた。

 走る。ただがむしゃらに走る。ここまで来たらもう何も考える必要はない。ただ、誰よりも早くゴール板を駆け抜ける!それだけだ!

 バルニフィカスは依然としてボクの後塵を拝している。彼女も、息は絶え絶えだった。それでも絞り出すように必死の形相でボクに問いかけてきた。

 

 

「『なんなんだよ……ッ!なんなんだよお前!僕の方が強いのに、僕の方が速いのに!なんで追い抜けないんだよ!』」

 

 

 彼女は薄々感づいているのだろう。400mを過ぎた辺りから競りかけられてきたが、今だにボクを追い抜くことができていない。彼女は疑問に思っていることだろう。自分の方が速いはずなのになんで追い抜けないのか。なんで自分がいまだに競り勝てないのか。なんで負けているのか。

 

 

(ボクは、誰にも負けへん!トレーナーが信じる最強のウマ娘!それがボクや!)

 

 

 バルニフィカスはそれを認めたくないように、今も必死に走りながら、叫ぶようにボクに言い放った。

 

 

「『お前は……ッ!なんなんだよ!誰なんだよ!?』」

 

 

 その言葉に、ボクは答える。

 

 

「しっかり覚えとき……ッ!ボクの名前を、お前を負かしたウマ娘の名前を!」

 

 

 それと同時に。

 

 

「ボクはテンポイント!世界一のウマ娘やァァァァァ!」

 

 

 ボクは彼女を振り切る。残り100m。ボクは単独で抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《残り100mを切って……ッ!抜けた抜けた!抜け出した!テンポイント抜け出した!内から〈流星の貴公子〉だ!内から〈流星の貴公子〉が抜け出した!後続との差を開いていく!1バ身!2バ身と差を開いていく!テンポイントだテンポイント!テンポイント先頭だ!》

 

 

《後続も必死に食い下がります!バルニフィカスも、オブリガシオンも、デッドスペシメンも、ホクトボーイも!全員が食い下がる!しかしこれはもう決まった!》

 

 

《さぁ行け、それ行けテンポイント!もうお前を縛るものは何もない!あの日の記憶を乗り越えて!テンポイント独走!テンポイント先頭!テンポイント先頭!》

 

 

 

 

「いけー!テンポイントー!」

 

 

「駆け抜けろー!」

 

 

「いっっっけぇぇぇぇぇ!」

 

 

 東京レース場に、テンポイントを応援する声が響き渡る。そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テンポイントは、俺の担当ウマ娘は。トゥインクルシリーズの精鋭達相手に、世界のウマ娘を相手に。年末、大晦日のこの日。東京レース場で行われた〈ジャパン・ユニバーサル・レーシング・カップ〉のゴールを。

 誰よりも早く駆け抜けた。

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