ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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今日は短め。皐月賞前の箸休め回みたいな感じです。


第16話 不安要素

 最近は冬の寒さもなくなり桜の開花もチラホラ見えてきた3月末、俺は今中山レース場でテンポイントのレースを見ている。来月に開催される皐月賞への前哨戦として選んだレース、スプリングステークスだ。現在第4コーナーを回ろうかというところ。だが……

 

 

 

 

《さぁ6人が一団となって第4コーナーを回りました!先頭はどの子でしょうか!?内からはメジロサガミが来ている、テンポイントはまだ先頭ではありません!いやわずかに出たか!?わずかにテンポイント先頭か!?カミノリュウオーが突っ込んできた!エリモファーザーも頑張っている!》

 

 

 

 

メイクデビューからの3連戦を圧勝で勝ってきたテンポイント。しかし、前走の共同通信杯からその圧勝さはなくなり始めてきた。単純に相手が強くなっているのもあるだろう。周りの観客が声援を送る中、俺はそのままレースを見続ける。

 

 

 

 

《さぁ最後にはやや坂があります!テンポイント苦しいか!?苦しいがわずかにテンポイントが先頭!メジロサガミとエリモファーザーも懸命に粘っている!しかしテンポイントがわずかに出ている!ほんのわずかの差!ほんのわずかの差のままゴールイン!意地で勝ちましたテンポイント!しかし皐月賞へはやや不安が残る結果となったか?2着はメジロサガミ、3着はエリモファーザーです》

 

 

 

 

 結果はアタマ差での勝ち。共同通信杯は1/2バ身差での勝ちだったがそれよりも詰められている。しかも有力なウマ娘がいない状況でだ。俺は誰にも聞こえない声で反省のセリフを呟く。

 

 

「やっぱり追い切りを甘くしすぎたか……?いつもより精彩を欠いていたしそれが原因かもしれないな」

 

 

 今回の追い切りはテンポイントの体調のことも考えて少し甘めにしていた。しかしその結果が今回のギリギリの勝利なので大事にしすぎたことが裏目に出てしまった。勝ちは勝ちだが反省が出るようなことをするのは望ましいことではない。クラシック1冠目である皐月賞も近い。皐月賞を勝つためにも今後は多少キツめの調整をしておこう、そう心の中で思った。

 考えも纏まったところでテンポイントの方へと目を向けると彼女は明らかに納得していない表情をしていた。おそらく自分の思い描いていたレース展開をできなかったのだろう。結果としてギリギリ勝利することはできたが素直に喜べない、と言ったところか。前回の分の鬱憤も溜まっているのかもしれない。

 少し不安の残るテンポイントとは違い、トウショウボーイは順調なように感じられる。2戦目のつくし賞と3戦目のれんげ賞をそれぞれ快勝していた。その時ふと、1週間前のれんげ賞でのトウショウボーイのレースを思い出す。ウィナーズ・サークルでのインタビューでおハナさんが言っていたことだ。

 

 

『確かにテンポイントは強いでしょう。ですが決して負かせない相手ではありません。それを皐月賞で証明して見せます』

 

 

「決して負かせない相手じゃない……ね」

 

 

 侮られているわけではないのだろう。確かにトウショウボーイの調子を見る限りだと勝てるかもしれない。けれどそれでも勝つのはテンポイントだ。俺はそう信じている。

 ひとまずこの後は勝利者インタビューもあるということで俺はウィナーズ・サークルへと向かった。始めは緊張しながらインタビューを受けていたがさすがに5回目となると人間慣れてくるもの。しっかりと受け答えをする。

 今回質問されたことはいつもの勝利の感想以外に2つ。

・皐月賞への意気込み

・トウショウボーイとの対戦

この2つだった。まあ実質一つだろう。なので俺はこう答えた。

 

 

「出走するからには勝ちます。東条トレーナーは負かせない相手ではないと言っていましたがそれはこちらも同じ。テンポイントが勝ちますよ」

 

 

 その言葉に記者たちは盛り上がる。テンポイントの方も

 

 

「勝たせてもらいます。友達である以上にライバルですから」

 

 

と、やるからには負けないと意気込みを語っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてスプリングステークスも終わり、数日が経った頃俺は休憩時間の間に買ってきたウマ娘のレース情報雑誌を見ている。そして特に目を惹くコラムがあった。そのコラムとは

 

 

「【テンポイントは怪物ではない】……ふーん?」

 

 

簡単に言えばテンポイントの実力を疑問視するものだった。その記事の内容を要約するとこうだ。

 

 

【確かにメイクデビューからの3連戦は圧勝劇を繰り返していたがここ2戦を見てみるとあの勝ちは有力なウマ娘がいなかっただけのように思える】

 

 

【また、スプリングステークスも同様であったがアタマ差でギリギリの勝利だったこともあり、その強さに疑問を感じずにはいられない。これならトウショウボーイの方が上だろう】

 

 

 この雑誌を読み終わり、俺は目を閉じてこの記事に対する評価を下す。

 

 

(は?うちのテン様のが上なんだが?にわかかこの記者?中山のターフに埋めんぞ?)

 

 

 ……冗談は置いといて、こればかりは対戦してみないことには分からないことである。しかもテンポイントの調子は下降気味なのに対してトウショウボーイは好調を維持している。そうなるとトウショウボーイびいきになるのはまあ当然と言えば当然である。

 とりあえずこの雑誌は後で焼くことにした。そんなことを考えているとトレーナー室のドアが開く。来たのはテンポイントだ。

 

 

「お疲れートレーナー」

 

 

「おう、お疲れ」

 

 

 挨拶を交わすと彼女は最近パイプ椅子から変えたソファの方に座ってゆっくりし始める。今日は練習前にやることがあるからだ。それは今後のレースの作戦会議も含めたこれまでの反省会である。俺も彼女の対面のソファに座り、話を始める。

 

 

「さて、今日は練習前にスプリングステークスの反省会だ。正直、自分でも納得いっていないんだろう?」

 

 

 俺の問いかけにテンポイントは頷く。

 

 

「せやな、他の強いウマ娘は出走を回避か弥生賞に出走してたし楽勝やと思っとったけど……結果はギリギリ。正直納得できてへん」

 

 

「だな。お前の実力を鑑みればもっと離せたはずだが、これに関しては追い切りの調整が甘かったのが響いたな」

 

 

 俺の考えを素直にぶつける。心当たりがあるのだろう、テンポイントもこちらに意見をぶつけてくる。

 

 

「前々から思うてたけど、トレーナーボクのこと大事にしすぎやないか?さすがに身体も丈夫なってきたし、もっとキツくしたって大丈夫やで?」

 

 

「だよなぁ……。やっぱこの辺は経験不足なのが露骨に出るなぁホント」

 

 

 テンポイントが初めての担当というのもあり、ウマ娘はどれだけの負荷なら耐えられるのか、どこまでがギリギリのラインなのか、それを見定めるだけの経験値が俺には圧倒的に不足している。チームを任せられるようなトレーナーなら勿論、沖野さんもその辺はうまくできるのだろう。だが、俺はその経験が少ないのでどうしても慎重にならざるを得ない。まあこれは言い訳だ、仕方ないで済ませていい問題じゃない。

 なので今後に向けての俺の考えを伝える。

 

 

「今回の件に関しては俺も反省している。だからこれからの練習はいつも以上にしていくぞ!」

 

 

「おう!もっとキツくしてもええで!坂路にも慣れてきたしな!」

 

 

 テンポイントの言葉に俺は思い出す。そう、テンポイントも坂が慣れてきたのである。当時はあんなに嫌がっていた坂路練習もハイセイコーとの模擬レースが効いたのか積極的に取り組むようになり、今では坂での苦手意識も消えかけている。本人の努力の賜物だ。

 そのまま反省会は続き、話題は共同通信杯の話になる。俺はテンポイントに質問する。

 

 

「共同通信杯、前の反省会の時は質問してなかったな。クライムカイザーとの初対決となったが何か走ってみて気になることはあったか?」

 

 

「……そうやな、レースの結果だけじゃ見えへんものが分かったっちゅうんかな?うまく言えへんけど」

 

 

 そう言ってテンポイントは言葉を続ける。

 

 

「とにかくコース取りが巧いねんカイザーは。来てほしくないとこに来るし本人の実力も高いからそれが余計に厄介や」

 

 

「その辺はハダルのトレーナーの指導の賜物だろうな。あの人はそういうの得意だし」

 

 

 クライムカイザーは弥生賞でそれまで無敗であり、朝日杯で自身が負けたボールドシンボリを2バ身差で破っている。皐月賞で注意すべき相手の1人だろう。追い込みのウマ娘ゆえに戦績にムラがあるが嵌った時の恐ろしさは半端じゃない。共同通信杯もあわや負けるところまで来たのだから。

 クライムカイザーの戦績は10戦5勝。テンポイントの5戦5勝とトウショウボーイの3戦3勝に比べると見劣りするかもしれないが、これはこの2人がおかしいだけで彼女も十分に強敵だ。警戒をするに越したことはない。先程テンポイントが言っていたように彼女には数値では見えない強さがあるのだから。

 その後は反省会を終え、練習場へと向かいスピードを鍛えるためにショットガンタッチというものを行うことにした。テンポイントから疑問の言葉が投げかけられる。

 

 

「なぁトレーナー?この装置はなんや?テレビかなんかで見たことあるでこれ」

 

 

「お前が今想像しているのと多分同じだな。まずはこのボタンを押してと」

 

 

 俺がボタンを押すとボールが射出される。そのボールは俺たちから離れた位置に落ちる。良し、無事に動いたな。そう思っているとテンポイントが目を輝かせながら迫ってきた。

 

 

「すごっ!テレビで見たのとまんまやん!」

 

 

「知り合いから仕組みを教えてもらって作ってみた試作機だ。今日はこれで練習するぞ」

 

 

「ええやんええやん!楽しみや~!」

 

 

 俺が一通り装置の使い方を説明した後、テンポイントは所定の位置について早速試している。ボールが射出され、それと同時にテンポイントが走り遠く離れた位置に落ちようとしているボールを落ちる前にキャッチした。

 彼女はさらに目を輝かせ

 

 

「面白いわ~!気に入ったでコレ!」

 

 

そう言ってきた。かなり上機嫌である。あの顔を見れただけでもこの装置を徹夜で作った甲斐があるってもんだろう。

 その後はこの装置の虜になったのか、彼女はずっと続けていた。そして

 

 

「アカン、トレーナー……。もう一歩も動けん……」

 

 

テンポイントは一歩も動けなくなっていた。

 

 

「楽しいからって自分が動けなくなるまでやるな!」

 

 

 そのまま練習場に放置するわけにもいかないので寮までおんぶして運んだ。寮長には驚いた顔をされたが事情を説明して彼女の部屋まで送り届けてもらった。




テンポイントとクライムカイザーの初対決となった東京4歳ステークス(現:共同通信杯)。今回はさらっと流していますが後々どこかのタイミングでレースの回想を書く予定です。
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