ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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皐月賞前最後の練習……?


第17話 皐月への最終調整

 不安が残る結果となったスプリングステークスから時間が経ちすでに皐月賞が目前へと迫った今、テンポイントの最終調整をしている。前の走りと同じ轍は踏まない、そのためにも俺はいつも以上に気合の入れた練習を組んでいた。

 現在は芝のコースで走っているのだが、テンポイントにも疲れが出てきたのか苦しそうにしている。

 

 

「……ハァ!……ハァ!」

 

 

 その姿を見て俺は檄を飛ばす。

 

 

「どうしたテンポイント!もう限界か?」

 

 

「んなわけないやろ、まだまだ余裕や!」

 

 

 檄が効いたのか、彼女はペースを上げて走り始める。どうやら彼女も気合が入っているようだ。後は気合を入れすぎて怪我しないように俺がしっかりと調整をしていくだけだ。ちなみにだが、前回作ったショットガンタッチ用の機械はテンポイント自身がこの練習のやり過ぎでペース配分を考えないことと先日壊れてしまったことから封印している。いつか直して改良版を出す予定ではあるが。

 そのまま数10分ほど経った頃だろうか。そろそろ限界も近いように見えたのでテンポイントに休憩を促す。

 

 

「よーし、そろそろ休憩取るぞ!上がれー!」

 

 

 その言葉を聞いてテンポイントがこちらへと近づいてくる。そしてベンチに置いてあった給水用のドリンクとタオルを手に取り、汗を拭きながら水分補給を行う。

 そしてこの休憩のタイミングでこの後の予定を彼女に伝える。

 

 

「さてテンポイント、この後は他のウマ娘の子と併走してもらうぞ。皐月賞前の最後の併走だ、気合を入れて臨んでいけ」

 

 

 すると彼女は息を切らしながら

 

 

「了解や。しかし身体丈夫なってきたからキツくしてもええとは言うたけど、ここまで露骨に変わるとは思わんかったわ……」

 

 

と答えた。まあ確かにそうだが今までが彼女の身体を気遣いすぎて優しくしすぎたのかもしれない。だからこそここは心を鬼にしなければ。

 

 

「今までが優しすぎたからな。それともなんだ?前のようにするか?」

 

 

 すると彼女は不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

 

「いや、むしろこれでええくらいや。もっとキツくしてもええで?」

 

 

「ならお望み通り……と言いたいが、今が限界だろ?」

 

 

「うっ。そ、ソンナコトナイデー」

 

 

「目泳ぎまくってんぞ。後今回はあくまで皐月賞前の追い込みだからな。練習で怪我して出走できませんでしたーってならないためにも怪我には注意していくぞ」

 

 

はーい、と間延びした声でテンポイントが答える。これで怪我でもしようものなら悔やんでも悔やみきれないことになる。特に皐月賞は一生のうち一度しか出走できないレースだ。細心の注意を払って挑むべきだろう。

 そんなやり取りをしていると、今日の併走の相手を依頼したトレーナーとウマ娘の子がやってくる。お互いに軽い挨拶を交わす。

 

 

「柳さん、今日は無理なお願いを聞いてもらってありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 

「いや、こちらとしてもありがたい申し入れだったよ神藤君。お手柔らかにね」

 

 

 ただテンポイントはまだ休憩に入ったばかりなので準備が整うまでの間相手の子にはウォーミングアップをしてもらう。

 そしてテンポイントの休憩も終わったタイミングで向こうのウォーミングアップも終わったらしく、併走を始めることにした。テンポイントは内、相手は外を走っている。

 二人の走りを見ていると相手のトレーナーが感嘆の声を上げる。

 

 

「なるほど……、これがクラシックの大本命テンポイントか……。噂通りの傑物だな」

 

 

「ありがとうございます。でも、まだまだ安心はできません」

 

 

「慎重だね、まあその気持ちも分かるが」

 

 

 皐月賞のトライアルレースである弥生賞を制したクライムカイザー、弥生賞で敗戦はしたもののそれまで4戦無敗だったボールドシンボリ、そしてテンポイントの対抗としてあげられるトウショウボーイ。ざっと挙げただけだがどのウマ娘も一筋縄ではいかない相手だ。慎重になるのも当然である。

 そして併走も終わりタイムを確認する。今までで一番の時計だ。テンポイントが記録が書かれている容姿をのぞき込んでくる。

 

 

「なぁなぁ、タイムどうだったん?」

 

 

「いい調子だ、今までで一番のタイムだぞ」

 

 

「お、やったぁ!よーし、このままの調子で皐月賞制したるでー!」

 

 

 そして彼女はまた元気よく駆け出していく。その様子を柳さんは微笑ましそうに見ていた。

 

 

「フフ、いいね。元気があって」

 

 

「まあ、たまに元気がありすぎる気もしますけどね」

 

 

 そう切り返すと彼はふと俺にお礼を言ってきた。

 

 

「今日は本当にありがとう、神藤君。おかげでうちの子にもいい刺激になったよ」

 

 

「どうしたんですか急に?」

 

 

そう聞くと彼はこの併走を受けた目的について話してくれた。

 

 

「あの子はここのところ調子が落ちてきていてね。だから年下の子と走ってもらって気分を変えさせようとしたんだ。そしたらあの子も負けん気が出てきたのかタイムも伸びていい感じになってくれたよ」

 

 

「そうですか……。そちらにも有益になってくれてよかったです」

 

 

 そしてもう一本計測した後併走を終えてその日は終了となる。一言ずつお礼を言った後彼らとは別れることになった。

 

 

「今日はありがとう神藤君。また困ったことがあれば呼んでくれ。力になるよ」

 

 

「いえ、こちらこそありがとうございました柳さん。また今度お礼に参ります」

 

 

 彼らの姿が見えなくなるまで見送る。相手の子もいい笑顔をしていたし、彼女にとってもテンポイントにとっても有意義な時間だっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 併走も終わったということで俺たちも練習を切り上げてトレーナー室へと戻ってくる。次にやるべきことは皐月賞の作戦会議だ。

 

 

「さて、皐月賞も残すとこ後3日だ。そのための作戦会議をしていくぞ」

 

 

「おー!」

 

 

「まずはマスコミが挙げている有力なウマ娘たちの情報をおさらいしていくぞ」

 

 

 そう言って俺はホワイトボードに名前を書いていく。まず1人目はボールドシンボリだ。

 

 

「ボールドシンボリの特徴は覚えているな?朝日杯を勝ったウマ娘で弥生賞で負けるまでは4戦無敗だった子だ」

 

 

「確か得意なんは逃げやったっけ?」

 

 

「そうだ、あまり深追いしてスタミナを切らすのもよくないが自由に走らせてそのまま逃げ切りなんてことがないようにな」

 

 

 2人目はクライムカイザー。ボールドシンボリの無敗を止めたテンポイントの友達だ。

 

 

「次はクライムカイザーだ。その強さは共同通信杯で対戦したから覚えているだろう」

 

 

「しっかり覚えとるで。ギリギリの勝利やったし」

 

 

 後方からの末脚で一気に上がってくるいわゆる差しを得意としたウマ娘だ。レース展開次第ではその力を発揮できずに終わる可能性もあるがだからと言って油断はできない。

 マスコミが挙げたクラシックの有力候補は4人。うち1人はテンポイントのため残りはあと1人なのだが、この1人がとても厄介だ。

 

 

「今回の皐月賞、分かっていると思うが最も警戒すべきなのはトウショウボーイだ。ハッキリ言ってこいつの強さは先に挙げた2人よりも上位だろう」

 

 

 3戦3勝、しかもそのレースのどれもが強い勝ち方をしているテンポイントと並ぶクラシックの有力候補である。

 

 

「やっぱ最優先で警戒すべきはボーイやな。戦法もボクと似とるし、徹底マークするのもええんちゃう?」

 

 

「そうだな、皐月賞はトウショウボーイをマークする作戦でいこう」

 

 

 確かにトウショウボーイは速いがテンポイントも同じくらい速い。最後の直線での競り合いになったら五分五分だと俺は見ている。後はレースの展開次第だろう。

 そして俺はテンポイントに聞く。それは皐月賞のことだ。

 

 

「テンポイント、皐月賞はどんなレースなのか覚えているか?」

 

 

その言葉に彼女はすぐに言葉を返す。

 

 

「最も速いウマ娘が勝つ……やろ?」

 

 

「そうだ、そしてクラシック3冠の一つでもある。俺がお前をスカウトする時に言った言葉、覚えてるか?」

 

 

これにも彼女はすぐに返す。

 

 

「最強のウマ娘にしてやる……やろ?今でも覚えとるで」

 

 

あの時は笑い死ぬ思うたわ、と一言余計な言葉を添えて答えた。だが俺はあくまで真面目な口調で続ける。

 

 

「俺が超えるべき目標に掲げたウマ娘の1人、シンザンは3冠を取っている。だったら超えたってことを分かりやすくするためにもこっちも3冠取ってやろうじゃねぇか!」

 

 

 その言葉にテンポイントは面白いといったような表情で答える。

 

 

「そうやな!まずは最初の1冠目、取ったろうやないか!目指せ皐月賞優勝や!」

 

 

「その意気だテンポイント!」

 

 

 そして皐月賞に向けての作戦会議も終わり、一服するために俺はテレビを点ける。まあ今の時間はニュースしかやっていないがラジオ代わりにはなるだろう。

 すると冷蔵庫から自分の分の牛乳と俺の分のお茶を取ってきたテンポイントがソファに座り話しかけてくる。

 

 

「そういやトレーナー、こんな噂知っとるか?」

 

 

「うん?何の噂だ?」

 

 

「皐月賞が順延、もしくはレースが中止になるかもしれへんって噂や」

 

 

「あぁ、それか」

 

 

 実は最近組合の方が揉めているらしく、団体交渉を重ねているという話が上がっている。そのためレースが順延する、もしくは中止するかもしれないという噂が立っているのだ。そしてそのレースには皐月賞も含まれている。

 しかし俺はまるで心配していないように振舞う。

 

 

「大丈夫だろ。なんてったって皐月賞は大きなレースだ、中止なんてできないだろうしもし順延になったらもっと前に告知が来るだろ」

 

 

「でも火のない所に煙は立たぬって言うで?ホンマに大丈夫やろか?」

 

 

「心配性だなぁ。確かに順延になったら今日の練習とかほぼ全て無駄になる上に疲れが残るから来週はキツめの練習ができなくなるとは言え、まさか順延になんてならないだろ。あんまりネガティブになるとホントにそうなるぞ?」

 

 

「それもそうやな!気楽に構えよか!」

 

 

「そうだそうだ!ポジティブに考えようぜ!」

 

 

 そう楽観視している俺たちの前に一つのニュースが流れてくる。

 

 

 

 

《次のニュースです。レース場で働く従業員の賃金の値上げを要求し今日まで組合側と運営側で団体交渉が行われていましたが、その交渉が決裂したことで17日と18日の48時間、組合側はストを行うとの声明がありました。これによってURAは中山レース場と阪神レース場で開催される予定だった全レースを中止または延期にすると発表し延期の場合は別のレース場で開催するとの声明を……》

 

 

 

 

 ……え?中山レース場の全レースが順延?マジで言ってる?その中には皐月賞もあったよね?今日の練習なんだったん?

 テンポイントと顔を見合わせる。彼女も言葉が出ないと言わんばかりにこちらを見ていた。そしてその瞬間、俺たちの心は一つとなり同時に叫びを上げる。

 

 

「「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皐月賞順延。その代償はあまりにも大きく、開催すら危ぶまれている状況で追い切りなどできるはずもなく体調面を気にしてキツめの練習もできなかった。そして皐月賞は本来行われる予定だった翌週の25日に東京レース場で開催されると発表された。別にURAが悪いわけではないのだがそれでもこれだけは言いたい。

 

 

「「今更遅いわ!」」

 

 

 その叫びで何か起こるわけでもなく、とんでもなく大きい不安を抱えたまま俺たちは皐月賞を迎えることになった。




現実のテンポイントの皐月賞も順延したのは結構有名ですね。これによって予定通り行われると予想していた陣営は頭を抱えたそう。でも実際こんなことになったら頭抱えたくもなるわ……。
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