ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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色々と見放されていた主人公とテンポイントの反省会。


第19話 皐月賞を終えて・反省会

 ことごとく神に見放された皐月賞が終わって次の日、現在俺とテンポイントは学園のトレーナー室で今回のレースの反省と改善を話し合うために集まった。

 しかし、お互いに言いたいことがあるのか言葉が被る。

 

 

「しかしまあ……」「ホンマに……」

 

 

 言いたいことは一緒なのだろう。俺たちは深くため息をついた後その言葉を発する。

 

 

「あそこまで運に見放されるとは……」「あそこまで運に見放されるとは思わんやん……」

 

 

 そう、今回の皐月賞はいくらなんでも酷すぎた。テンポイントのレースが、ではなくそれ以外の要素が。大きく分けると3つある。

 まず一番痛かったのがレースが延期したことだろう。元々順延しないと思って1週間前に最終調整をしていたのにいざ蓋を開けてみたらストライキによってレースは延期、しかも別会場で行われる結果となった。延期したといっても、レースまでの間は普通の練習もするので疲労は蓄積していく。そうなると最終調整の疲労が抜けるはずもなく最悪の調子で出走することを余儀なくされた。

 しかしこれは他のウマ娘も同じことであるので、完全に俺の読みが外れただけである。俺はテンポイントに愚痴る。

 

 

「おハナさんは始めから皐月賞が延期することを見越して俺たちが最終調整している頃は軽めの調整にしてたらしいからな……。先見の目がありすぎだろ……」

 

 

「マジか……。預言者か何かとちゃう?」

 

 

「多分単純に俺が先見の目がなさすぎるだけだと思う」

 

 

 この辺の想定外のことをいつまで引きずってもしょうがないが。

 次に頭を抱えたのが枠番だ。7枠12番、基本外枠は不利とされているがこれがまだ中山レース場ならよかった。直線があるからまだ何とかなるからである。しかし今回は会場も変更されており、中山ではなく東京レース場での開催となったのが痛手だった。東京の2000mは1コーナーの奥がスタート地点であり第2コーナーまでの距離が非常に短い。テンポイントは基本前の方で走る戦法を得意としている。外枠から前の方につけるには内のウマ娘が全員差しや追い込みでもない限り初めからトバすしかない。そして今回の内枠のほとんどはトウショウボーイを筆頭に前でのレースを得意とするウマ娘だったことに加えて逃げのボールドシンボリもいた。こんな状況で前につけるのは非常に難しいだろう。だがそれでも最初は前の方につけていたのでさすがはテンポイントと言わざるを得ない。

 レースの展開について俺は彼女に質問する。

 

 

「第2コーナーを過ぎて向こう正面に入ったあたりだったか?抑えて走っていたがトウショウボーイをマークするためか?」

 

 

「せやな、元々そういう作戦やったし」

 

 

 まあそうか。元々トウショウボーイに徹底的につける作戦だったのだから。ただ結果として俺の考えたその作戦が今回は振るわなかったわけだ。

 

 

「今回は俺の作戦ミスだな。トウショウボーイに気を取られるあまり他のウマ娘のマークを疎かにしてしまった。すまなかった」

 

 

「せやなぁ、結果論やけどボーイをマークしすぎたせいでカイザーが上がってきてることに気づかんかったし」

 

 

 これが3つ目の失敗だ。ボーイのマークに集中力を割きすぎたせいで元々想定していた進路がふさがれていたことに気づかずその結果大外を回らされることになった。大外を走ることになったら内を走るよりも距離は伸びるし体力を消耗することになる。元々五分五分の実力なのにこれだけ不利を背負わされたら勝てる勝負も勝てないだろう。

 テンポイントとは逆にトウショウボーイはしっかりと内につけていたため、やや外を回るだけで済んでいた。余力も十分、最後の直線で全力で走ることができた理想のコース取りと言えるだろう。

 今回のレースでの反省点をテンポイントに告げる。

 

 

「延期や枠番は運がなかったとしか言えないから省くぞ。今回のレースでの一番の反省点は位置取りだな。序盤のスタートがよかったが自分にとっての好位置につけるまでが良くなかった」

 

 

「自分の思うた通りにはいかんもんやな……。いつの間にか10番手くらいまで下がってもうたし……」

 

 

「まあ誰かをマークして追うってのは今回が初めてだからな。今後はトウショウボーイだけでなくマークするべきウマ娘が増えてくる。そのための授業料だったと思えばいい」

 

 

「授業料にしては代償がデカすぎんか?」

 

 

「ウッ、まあ今回のことをいつまで引きずってても仕方ない!次のレースはもうすぐだぞ!」

 

 

「誤魔化したな」

 

 

 その言葉を聞こえないふりをして俺は今後のレースについて話すことにした。次はもう決まっている。

 

 

「次のレースは1ヶ月後、クラシックの2冠目、日本ダービーだ」

 

 

「日本ダービーか……。今回と同じ轍は踏まんようにせんとな」

 

 

 日本ダービー。おそらくクラシックレースの中で最も有名といってもいいだろう。このレースで勝つことは最高の栄誉であり、ダービーを制するのは一国の宰相になるより難しいとかなんとか言われている。日本のトゥインクルシリーズの中でも特に伝統と格式があるレースだ。

 その世代の最も速いウマ娘が勝つレースが皐月賞ならば、日本ダービーはもっとも運のあるウマ娘が勝つレースと言われている。この運とは枠番が絡んでいる。大体のレースは多くても18人での出走となるのだが、日本ダービーは特別なレースであるためか20人以上で出走することもある。そのため大外枠を取った場合、それだけで他のウマ娘よりも圧倒的な不利を背負わされることになる。過去にはこの枠番に泣いた子もいるくらいだと聞いている。だが何年か前のダービーに最後の直線だけで22人ぶっこ抜いたヤバい奴がいたと聞いている。だとしても外枠を走ることになるのは避けたい。

 しかしテンポイントはこちらが不安になるような一言を告げる。

 

 

「確かダービーは運が良いウマ娘が勝つんやろ?ボクら無理やん、皐月賞散々やったし」

 

 

「バカ野郎!今回が特別運が悪かっただけだ!こっからきっと上向きになるって!」

 

 

 確かに皐月賞の考えると俺たちに運なんてものはない。でもきっとこれから上がっていく……はずだ。そう思うしかない。

 その言葉の後にでも、と言った後テンポイントは続ける。

 

 

「やったろうやないか。運なんて実力でねじ伏せたる」

 

 

 やだかっこいい。俺はその言葉にすかさず反応する。

 

 

「その意気だ。お前の実力なら日本ダービーだって勝てる!今回は不覚を取ったが、ダービーは取るぞ!そのためにも練習だ!」

 

 

「せや!今からキッチリ鍛えてボーイにリベンジや!」

 

 

「まあレース明けだから今日の練習は身体を鍛えるんじゃなくてレースでの位置取りについての勉強になるけどな」

 

 

 その言葉にテンポイントはずっこける。見事なずっこけ方だ。

 彼女はこちらに文句を言ってくる。

 

 

「さっきまでの意気込み返せや!何のための気合い入れやったと思うとるんや!」

 

 

 俺は至極冷静に返す。

 

 

「そりゃレース疲れとかあるしな。特に今回は余計に」

 

 

 ただでさえ色々な予想外が重なって体調も最悪、疲労も貯まっている状態だ。こんな状態で身体を鍛えるわけにはいかないだろう。なので今日は今後の課題でもある位置取りについてのお勉強だ。

 俺は学園の図書室で借りた資料とビデオをテーブルに置く。けど参考になりそうなものを俺なりにピックアップしてさらに厳選したので数自体は少ない。

 テンポイントから疑問の声が飛んでくる。

 

 

「思うたより数少ないな……?」

 

 

「まあな、一気に詰め込むのは良くないから厳選したものだけを持ってきた。ひとまず今日はこれだけやるぞ。まずはこの問題集からだ」

 

 

 そう言って今日の練習という名の勉強が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勉強を始めてから1時間経ち、休憩を取ることにする。脳が疲れた時には糖分ということで俺は自作のケーキをテンポイントへと手渡す。

 すると彼女はケーキを見つめると俺に向かってこんなことを言ってきた。

 

 

「これ自作なんか?」

 

 

「そうだが?もしかしてイチゴじゃなくてチーズとかの方が良かったか?」

 

 

「いや大丈夫やけど……。前々から思うてたけどトレーナー料理得意なんか?」

 

 

「人並みにはできるぞ」

 

 

 その言葉に彼女はケーキを口につけた後、呆れたような顔をしてこう言ってきた。

 

 

「人並みで済ませてええレベルやないやろ。最優秀ジュニアウマ娘の時のパーティで食わせてもろうた料理もそうやしこのケーキもそうやけど店出せるレベルやでコレ」

 

 

「そうか?料理なんて基本自分しか食わないし自分好みの味付けにしてるから店出すってなっても多分無理だぞ」

 

 

 まあ昔から父親の親戚連中からいいもん食わせてもらっていたので味覚を鍛えてもらったこともあってか、同僚連中からは舌が肥えているとはよく言われていた。

 テンポイントは続ける。

 

 

「しかしホンマ美味いな。後で何個か作ってくれへん?」

 

 

「別にいいぞ。友達や同室の子も食えるように多めに作って渡しておく」

 

 

彼女の要求を俺は快諾する。まあ別に手間でもないからそのくらいならお安い御用だ。

続けて質問してくる。

 

 

「もしかしてそういう免許とか持ってたりするんか?」

 

 

「調理師免許のことか?持ってるぞ」

 

 

「なんでも資格持っとるなトレーナー。この前なんかトラックとかリフト運転しとるのを見たって言う子もおったし」

 

 

 その言葉に俺はやや否定気味に返す。

 

 

「さすがに専門の学校を卒業する必要がある資格なんかは持ってないけどな。医師免許とか」

 

 

「逆にそれ持っとったら年いくつやねん」

 

 

 確かにそうなのだが。

  その後は日本ダービーに向けての話し合いとなる。俺は今自分が考えている作戦を彼女に伝える。

 

 

「ダービーでもトウショウボーイをマークする作戦は継続していこう。ただ皐月の反省点を活かして無理に抑えて走る必要はない。もしトウショウボーイよりも前に出る展開になったらそのまま前を走り続けるようにしよう」

 

 

「せやな。無理に下がったらどうなるか、今回のレースでよう分かったわ」

 

 

 トウショウボーイを警戒するあまり好位置につけなかったら元も子もない。だから俺が提示したのは無理に下がらないことだ。そもそもテンポイントは先頭とまではいかなくても前で走るタイプだ。無理に下がって囲まれるよりもよっぽどいいだろう。

 今回の皐月賞を見て確信したことだが、トウショウボーイとテンポイントにはそこまで差がない。決して勝てない相手ではないだろう。だから問題となってくるのは、

 

 

(この華奢な身体……。これが一番の問題点だな)

 

 

身体の弱さだ。デビューしたての頃からは多少マシになっているとはいえ、これからのことを考えるともっと丈夫にならないといけないだろう。しかしこればかりは本人の成長を待たなくてはいけない。

 そういえばウマ娘には本格化と呼ばれる時期があることを思い出す。もし、テンポイントにはその時期がまだ来ていないのだとしたら、もしくはまだ成長途中なのだとしたら。もし完全に本格化を迎えた時どうなるのだろうか?

 しかしその考えを俺はすぐに一蹴する。

 

 

(まあ、いつ来るかも分からない、すでに迎えているかもしれないことを考えても無駄か。今できることをしっかりとやろう)

 

 

 彼女の身体を丈夫にするために今後のメニューを調整していこう。そう考えていると休憩時間が終わる。

 

 

「そろそろ休憩も終わりか。じゃあ勉強再開するぞ」

 

 

「ホンマやな。あっちゅう間やったわ」

 

 

 そしてその後はレースについての知識を深めていき、その日の勉強を終わる。帰りにはテンポイントのからの要望であったケーキを持たせて解散となった。

 後日、彼女に持たせたケーキは寮のルームメイトや彼女の友達連中に大好評だったらしくもっとくれと言われたらしい。そこまで手間ではないからいいが、俺は余計な仕事を増やしてしまったと少し後悔した。




ちなみにですがダービーで22頭ぶっこ抜きしたのはヒカルイマイという競走馬です。当時第1コーナーを10番手以内で回らなければ勝てないと言われていたダービーの常識を覆した名馬ですね。当時のレース映像を見てみると圧巻の走りでした。


※細かいところを微修正 7/22
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