ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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水曜日って一番憂鬱な日ですよね。週のちょうど真ん中なので。


第20話 それぞれのチームの部員事情

 皐月賞が終わって初めて迎える週の半ば、5限目は自習となったため皆好きなように過ごしている。それはボクらも同じだ。早々に課題を終わらせてボーイ・グラス・カイザーとボクの4人で会話をしている。今の話題はそれぞれのチームの新入部員のことである。

 ボーイが口火を切る。

 

 

「皐月賞で忘れてたけどさ、そろそろ新入部員の時期だよな?みんなのとこは新しい子入ったのか?」

 

 

 その言葉に真っ先に反応したのはボクだ。ボクのトレーナーはまだ新人ということもあってか新しいウマ娘をスカウトするつもりはないと本人が言っていたことを思い出す。

 

 

「ボクんとこは入ってないで。新人やし、ボク以外を担当するつもりはまだない言うてたわ」

 

 

 そう言うとボーイは納得したように頷く。

 

 

「あ~、確かにテンさんとこはそうだよな。人気ありそうな気はするけどまだ新しい子を見る余裕はないってことか」

 

 

 まあ確かにボクのトレーナーは学生人気が凄く高い。親しみやすいというのもあるが困ったことがあれば彼のとこに行けば大体解決してくれるからだろう。人気があるからと言って担当してもらいたいかはまた別の話のような気はするが。

 次に反応したのはカイザーだった。ハダルは実力も実績もあるし新人は入ったと思うがどうなのだろうか。カイザーが話始める。

 

 

「私のところは1人だけですね。先輩方が何人か卒業して余裕ができたので。ひとまずは1人だけですけどまた何人か増えると思います」

 

 

「へ~、どんな子なの~?」

 

 

 グラスが興味津々と言った感じで質問する。

 

 

「そうですね、芦毛の子ですよ。私は皐月賞の調整があったからまだそんなに話していないんですけど礼儀正しくていい子だって先輩たちは言ってました。将来有望とも言ってましたね」

 

 

 カイザーのチームに入った新人はどうやら将来有望らしい。まあ強豪ハダルに入れる時点で実力者なのは間違いないのだが。

 次はグラスの番となる。彼女も個人トレーナーなのだが担当を増やすのか気になるところだ。そう思っているとグラスが話始める。

 

 

「そうだね~私のところはまだ入る予定はないって言ってたよ~」

 

 

「テンさんと一緒か。確か個人トレーナーだしそれも当然か?」

 

 

 しかしグラスはそれはちょっと違うかな~、と言ってボーイの言葉を否定する。グラスは言葉を続ける。

 

 

「なんでもチームを再建するみたいで~準備しないといけないのとまだ新人を見る予定はないんだって~」

 

 

 その言葉にボクらは驚く。驚いてるこちらをよそにグラスは言葉を続ける。

 

 

「元からチーム自体はあったらしいんだけど~復帰したばかりだからってまだ私しか見る予定はないってさ~。おきのんはそう言ってたよ~」

 

 

 どうやら元からチーム自体はあったようだ。尤もグラス1人しか見る予定がないことからそれはチームなのかという疑問が出てくるが。

 その時ボクはみんなとトレーナーと契約したかというかなり前に話していたことをふと思い出した。あの時グラスは個人トレーナーと契約したと言っていたが実際にはチームトレーナーだったわけだ。その辺はどうなっているのだろうか?ボクはグラスに質問する。

 

 

「グラス、大分前話した時は個人トレーナー言うてたけどまさか知らんかったんか?沖野さんがチーム作っとったこと」

 

 

 その質問にグラスは困ったような笑みを浮かべながら答える。

 

 

「いや~契約した後知ったんだよね~。元々そのチームのトレーナーだったらしいんだけど~、一度トレーナー職から離れた時に一旦なくなっちゃったんだって~。でも~おきのんが戻ってきたから理事長からのお願いもあってチームを復活させることにしたんだってさ~」

 

 

「なるほど、そういう理由か。まあ確かにトレーナーがいなくなったらチームを存続できないもんな」

 

 

 するとカイザーは新たな疑問が生まれたのか首を傾げている。

 

 

「あれ?でもそうなると沖野トレーナーや東条トレーナーの年齢って……」

 

 

「そこまでやカイザー。そこにツッコんだらアカン気がする」

 

 

 なぜかそれ以上言わせたらいけない気がしたのでカイザーの言葉を即座に遮る。

 しかし、今回沖野トレーナーがチームのトレーナーだったということで個人トレーナーはボクだけということになった。そのことに気づいたのかグラスからも言われる。

 

 

「いや~これで正真正銘の個人トレーナーと契約してるのはテンちゃんだけになったね~。希少価値高いよ~」

 

 

「それ喜んでええことか?希少価値も何もここにボクだけしかおらんってだけで個人トレーナーと契約しとる子は沢山おるやろ。それこそクインとかそうやん」

 

 

「まあそうなんだけどね~」

 

 

 さて、これで3人は話し終わったわけだ。後はボーイのとこのリギルだけになる。とはいってもリギルはすでに定員一杯だったはずだから新入部員はいないとは思うが。

 ボクはボーイに聞いてみる。

 

 

「で?リギルは入ったんか?新しい子」

 

 

 しかし、いざ聞いてみるとその予想とは裏腹にボーイはとても嬉しそうに話し始めた。

 

 

「よくぞ聞いてくれた!なんとリギルにも新入部員が入ったんだぜ!」

 

 

 どうやら入ったらしい、新入部員。しかしそれはちょっとおかしくないだろうか?

 

 

「え?入ったんですか?新しい子」

 

 

 カイザーもボクと同じ疑問を抱いたのかボーイに質問する。定員一杯なのになぜ新入部員が入ったのか?その疑問はすぐに氷解することになる。

 

 

「いやー、この新しい子がそれはもうスゲーんだ!なんていうのかな、積んでるエンジンが違うっていうか、とにかく速いしすごい!だから枠を1人増やすぐらいなら大丈夫だからってことでおハナさんがスカウトしたらしいぜ!」

 

 

 かなりの有望株だったらしく、スカウトを決行したらしい。あの厳格な東条トレーナーが珍しいな、と思いながらもそこまでの逸材に興味が湧かないわけがない。

 ボクはボーイにその子のことを聞いてみることにした。

 

 

「ふーん、そこまで言うなんて珍しいやん。なんて名前なんその子?」

 

 

「あぁ!マルゼンスキーって言うんだけどさ、オレも一緒に走ってみたんだけどホントにスゲーんだこの子!それにチームに入って初めてできた後輩だからさ、もう可愛いのなんのって!」

 

 

 相変わらずスゲーとしか言わないので具体的なことはよく分からないがここまで興奮気味に話すということはそれだけ気に入っているのだろう。そんなに気に入ってる相手なら一度くらい走ってみたいものだ。

 カイザーはまだ疑問に感じているのか独り言を呟いている。その声は聞こえないが気になってみたのでカイザーに話を振る。

 

 

「どうしたんカイザー?まだなんか気になることあるんか?」

 

 

 その言葉にカイザーは自身が感じていたであろう疑問をボーイに聞こえないようにこちらに耳打ちしてきた。

 

 

「おかしいと思いませんか?基本的にチームのルールを曲げることがないリギルのトレーナーがどうしてルールを曲げてまでその子を入れたのか」

 

 

「さっきボーイも言うてたやん。それだけ有望やってことやろ?」

 

 

「だとしてもですよ?私には何か裏があるとしか思えないんです」

 

 

「ほうほう?例えば~?」

 

 

 こちらが2人で会話をしていたのに気づいて気になったのかグラスも会話に入ってくる。カイザーはその質問に答える。

 

 

「そうですね……、一番考えられるのはリギルから退部者が出た、とかでしょうか?」

 

 

 その考えをボクたちは即座に否定する。

 

 

「それやったらボーイが知らんのはおかしいやろ。仮にもチームのメンバーのことやで?」

 

 

「だよね~。もしボーイちゃんだけが知らなかったとしても~、なんでボーイちゃんだけ知らされてないのかって話になるよね~」

 

 

「そこなんですよね……。でも私の推測になりますが、何らかの理由があることは確かだと思うんです。ルールを曲げた本当の理由が」

 

 

「そこまで疑問に思うことやろうか?気にしすぎやと思うけどな」

 

 

「私もそう思うな~。カイザーちゃんの気にしすぎだと思うよ~?」

 

 

「だといいんですけど……」

 

 

 自分だけ蚊帳の外になっていることに気づいたのかボーイがこちらに向かって声を掛けてくる。

 

 

「お~い、みんなして何話してんだ?オレにも教えてくれよ」

 

 

 まさかリギルに退部者が出たのかもしれないという不確定なことを言うわけにはいかないだろう。憶測でものを語るのはよくないと思ったボクらは急いで口裏を合わせ話題をそらす。

 

 

「いや、何でもないで。次のレースについて話しとっただけや」

 

 

 ボクの言葉にカイザーも続ける。

 

 

「そ、そうですね。どんな準備をしているかって話してたとこなんですよ」

 

 

「そうそう~、今私がNHKマイルカップ出るって話してたとこ~」

 

 

 その情報は正直初耳だが今は悟られないためにもそれを口にはしない。するとボーイは納得したのかすぐにこちらに話を合わせてくる。

 

 

「へ~グラスはNHKマイルカップに出るのか!やっぱダービーを目指してか?」

 

 

 基本的にダービーの優先出走権を得られるレースは青葉賞が有名なのだが、NHKマイルカップからダービーへと出走するウマ娘も少なくない。ボーイはそう思ったのだろう。

 その言葉にグラスは肯定する。

 

 

「そうだよ~、ギリギリ出走権をもぎ取ってきました~」

 

 

「よかったじゃん!頑張れよ!」

 

 

 NHKマイルカップと言えば確か今週末だったはずだ。その日はトレーナーが休みと言っていたので丁度暇である。ならグラスの応援に行こう。

 

 

「せやな、確か今週末やったか?ボク練習休みやから応援行くで」

 

 

 その言葉にボーイとカイザーが同意を示してきた。

 

 

「テンさんも休みなのか?オレもそうだから一緒に行こうぜ!」

 

 

「私も休みですね。じゃあ週末は皆さんでグラスさんの応援に行きましょう!」

 

 

 ボクたちの応援に行くという言葉が嬉しかったのかグラスはお礼を言ってきた。

 

 

「わ~みんなありがとう~!私嬉しいよ~。頑張っちゃうぞ~」

 

 

 彼女の間延びした口調のせいかいまいち気合が入っているのか分かりづらい。だが、次の瞬間彼女の空気が一変した。この空気には覚えがある。彼女が本気を出す時のものだ。

 グラスはそのまま言葉を続ける。

 

 

「皐月賞、私だけ走れなかったからね。だからダービーは出走して見せるよ」

 

 

 いつもの間延びした口調ではない。かなりの気合いの入りようだ。これはもしかしたら……勝つかもしれない。そう思わせてくれるほどの圧だ。

 そしてこの圧を感じてボーイとカイザーもボクと同じことを思ったのだろう。思わず喉を鳴らしていた。言葉を交わさずとも分かった、2人も同様の期待をしているのだろう。

 

 

(NHKマイルカップ……、ボクは出走せんけど楽しみやな……!)

 

 

 グラスの本気の走りが見れるかもしれない。そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迎えた週末、NHKマイルカップ。グラスはどうなったのかというと──

 

 

 

 

《NHKマイルカップを制したのは2番コーヨーチカラ!力強い走りを見せてくれました!すでにダービーへの出走への意思を示しているのでこれからのレースが楽しみです!2着はメルシーシャダイ、3着はケンセカイとなります。ここまで1勝ながら5番人気に支持されました9番グリーングラスはなんと12着の大敗に沈みました!》

 

 

 

 

「負けてんじゃねーか!?」

 

 

「負けとるやないか!?」

 

 

「負けてるじゃないですか!?」

 

 

 ボクらの声は1つになった。あれだけ気合が入っていたのできっと驚くようなレースを見せてくれるのかと思っていたのでこの結果にはさすがにビックリするしかないだろう。

 後日、本人の口からは

 

 

「あんなに囲まれたらむ~り~」

 

 

という言い訳が語られた。




今回初めてウマ娘に実装されてるキャラが出ました。(存在が示唆されただけ)
タグはこれ増やした方がいいんじゃない?というのがあれば教えていただけると幸いです。
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