ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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日本ダービー本番。果たしてテンポイントはどうなるのか。


第25話 激闘!日本ダービー

 日本ダービー。クラシックレースの中でも最高峰ともいわれ、このレースで勝利することは全てのウマ娘とトレーナーにとっての憧れである。そのレースが今、この東京レース場で開催されようとしていた。

 

 

 

 

《今年もこの日を迎えました、クラシックレースの2冠目日本ダービー。天気は曇りとなっておりますがバ場の状態は良と発表されています。もっとも運のあるウマ娘が勝利すると言われるこのレースを制するのはどの子になるのか?今選ばれた精鋭たちが続々と入場してきています!》

 

 

 

 

 出走が叶ったウマ娘たちが東京レース場のターフに続々と入場してきている。ダービーの歴史に蹄跡を刻むことになるのは誰か?レース場にファンファーレの音が鳴り渡る。実況・解説からの出走するメンバーの紹介が始まる。

 

 

 

 

《今回の日本ダービー、4枠11番のケイシュウフォードが出走を取り消したため27人での出走となります。まず3番人気のウマ娘の紹介から参りましょう!3番人気は1枠1番コーヨーチカラ!》

 

 

《前走のNHKマイルカップで1着。さらに今回のダービーでは最内枠を勝ち取りました。運は発揮された、後は実力を示すだけですね》

 

 

《そして!今回のダービーでは評価が二分される形となりました!そのうちの1人を紹介しましょう、2番人気2枠5番テンポイント!》

 

 

《前走の皐月賞では2着。今回はその雪辱を晴らすことができるか?好走に期待しましょう》

 

 

 

 

 テンポイントの名前が呼ばれた瞬間、先程のコーヨーチカラの時よりも一際大きな歓声が飛んだ。コーヨーチカラも決して人気がないというわけではない。だが、やはり人気という意味でテンポイントは他のウマ娘とは一線を画している。それが如実に表れていた。

 テンポイントは観客の声援に答えながら1人考え込む。

 

 

(正直、皐月賞よりマシやけど調子が完全に戻ったわけやない。6割……よくて7割。でも関係あらへん。絶対に勝ったる!)

 

 

 テンポイントは気合を入れる。ダービーを勝つために。

 そして実況・解説が1番人気の紹介に入る。

 

 

 

 

《1番人気はこのウマ娘!前走皐月賞は圧倒的5バ身差を見せて他の子に強さを見せつけました!3枠8番、天翔けるウマ娘トウショウボーイ!今回我々にどのような走りを見せてくれるのか、今から楽しみです!》

 

 

《まだ彼女の強さは底を見せていないように感じられます。皐月に続いてダービーを制することはできるか?もしできたのであればシンザン以来の3冠達成はほぼ確実と言えるかもしれません》

 

 

 

 

 その紹介が入った瞬間、テンポイントの時と負けず劣らずの歓声が響き渡った。皐月賞で見せた走りに期待しているファン、伝説を目撃できるかもしれないという期待、そういった歓声が聞こえている。

 その声援にトウショウボーイは笑顔で手を振り応えていた。

 

 

「みんなー!今日も応援よろしくな―!」

 

 

 その様子に緊張というものは見られない。それは自信か、余裕の表れか。他のウマ娘たちはトウショウボーイを警戒するように睨みつける。このレースで一番警戒すべき相手が余裕そうにしていたらこのような態度になるのも当然だろう。

 そんな中、深く呼吸をして落ち着き払っているウマ娘が1人いた。クライムカイザーである。今回彼女は4番人気であるものの、あまり注目されているという実感はなかった。その状況でクライムカイザーは今回のために立てた作戦を確認していく。

 

 

「勝負は最後の直線……。もし失敗すれば負けるだけじゃ済まないでしょう……。けれど、先輩たちからはお墨付きはもらった、後はこの大舞台でそれを発揮するだけ……。大丈夫、私ならできる……ッ!」

 

 

 クライムカイザーは1人決意を固める。全てはこのレースに勝利するために。

 実況によるウマ娘たちの紹介が終わり、続々とゲートに入っていく。運命の一戦が今始まろうとしていた。

 

 

 

 

《今最後のウマ娘がゲートに入り出走の準備が整いました。果たして勝利の栄光は誰の手に渡るのか?皐月に続いてトウショウボーイが2冠目を手にするのか?巻き返しを図るテンポイントが雪辱を晴らすか?それとも別のウマ娘になるのか?日本ダービーが今……スタートです!》

 

 

 

 

 実況の言葉が止まる。その数瞬後、ゲートが開く。27人のウマ娘が一斉に走り出す。

 日本ダービーが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 各ウマ娘は誰1人出遅れることなく好調なスタートを切り、先頭に立ったのはトウショウボーイだった。

 

 

 

 

《各ウマ娘好スタートを切りました。横一列に奇麗に並んでのスタート。トウショウボーイが真ん中からスーッっと伸びてくる。内からはテンポイント、ドウカンソロン、アカネバンリウが上がってきました。外からはニッポーキングとユザワジョウが上がってきています。第1コーナーに差し掛かるところトウショウボーイが早くも先頭に立ちました。1バ身のリードを取って外に2番手アカネバンリウ内にテンポイント・ミヤリサンヒーロー・ユザワジョウそしてニッポーキングこの5人が先頭集団を形成しています。下がって中団には大外にボールドシンボリ。逃げウマ娘ボールドシンボリは今日はこの位置につけています。内ラチ沿いにはコーヨーチカラ好位置につけている。これは珍しい展開、トウショウボーイが27人を引っ張る形》

 

 

《彼女にしては珍しいですね。いいスタートを切りすぎたのかもしれません》

 

 

《中央外にはボールドシンボリ、より後ろにクライムカイザーが控えています。ここからどういったレース展開を迎えるのか?先頭は第1コーナーを回って第2コーナーへとさしかかる》

 

 

 

 

 27人の先頭に立って走る。トウショウボーイがその事実に気づいたのは第2コーナーにさしかかろうかという所だ。そのことに彼女は焦る。自らがペースメーカーとなっていることに。

 

 

(やっべぇ!まさかの先頭かよ!今までのレースでも先頭に立ってレースしたことはあるけどさすがにこれだけの大人数を抱えて走ったことはねぇぞ!?)

 

 

 トウショウボーイは1人心の中で愚痴る。抑えるか?いや、そうした場合最悪集団に飲まれて体力を削られる可能性がある。そのことは皐月賞で自身のライバルであるテンポイントが証明していた。なら取るべき行動はただ1つだ。このままペースを維持して走る。願わくば自分より前にウマ娘が来ることを祈りながら。

 

 

 

 

《第2コーナーを回って向こう正面へと入ります。レースは縦長の展開を見せています。先頭は依然としてトウショウボーイが2バ身のリードを取っております。2番手はアカネバンリウと内からミヤリサンヒーローこの2人が争う形。4番手にはユザワジョウ、インコースにテンポイントはこの位置につけています。外にはフェアスポートとメルシーシャダイが上がってきています。内ラチ沿いにはコーヨーチカラがじりじりと前との差を詰めていっています。どう見ますかこの展開?》

 

 

《先頭に立つトウショウボーイ、最初こそ焦っていたと思いますが今は焦っている姿は見られませんね。このままのペースを維持していきたいところです。テンポイントは絶好の位置につけましたね。この位置をキープしたいところ》

 

 

《ここから第3コーナーの坂を下ります。先頭トウショウボーイは2バ身のリード。ミヤリサンヒーローとアカネバンリウが2番手の位置で争う。4番手外はユザワジョウ内はトウショウボーイとコーヨーチカラが競り合う形の中今残り1000mを切りました。トウショウボーイが依然として逃げる!このまま逃げ切ることができるかトウショウボーイ!2番手グループも固まりましたアカネバンリウとユザワジョウ、ミヤリサンヒーローは力尽きたのかゆっくりと後退していく!その後ろ中団の位置ではテンポイントが6・7番手につけています!ここから上がりたいところ!》

 

 

 

 

 先頭を走るトウショウボーイは結局自分の前を走るウマ娘が来なかったことを1人心の中で愚痴る。だがそうなってしまったものは仕方がない。こうなったら最後まで先頭を走って逃げきってやる。そう思っていた。

 しかし、この時は彼女も会場の誰もが気づいていなかった。後方集団からバ群を縫って上がってくる1人のウマ娘に。トウショウボーイを喰らわんとしようと忍び寄るその影に。それに気づくことがないまま勝負は第4コーナーを回り最後の直線へと持ち込まれる。

 脚は十二分に残っている。このペースを維持すれば勝てる。そう、思っていた。

 

 

 

 

《さぁ第4コーナーを回って最後の直線へと入っていった!先頭はトウショウボーイ!内ラチ一杯に回ってトウショウボーイが先頭だ!このまま逃げ切れるか!?2番手には……!?》

 

 

 

 

 

 残り400m。このまま逃げ切れる。そう思いトウショウボーイはスパートをかけようとする。

 

 

(うし!このままいけば……ッ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが……あなたの隙です、ボーイさん!」

 

 

 そう言いながら、スパートをかけようとしていたトウショウボーイに突如として1人のウマ娘が急襲してきた。後方集団で控えていたはずのクライムカイザーが内をついて上がってきていたのだ。彼女は内を走るトウショウボーイに外から思いっきり併せる。その行動にトウショウボーイは思わず怯んでしまう。

 

 

「うわぁ!な、なんだぁ!?」

 

 

 

 

《いつの間に上がってきたのか!?2番手の位置についているのはクライムカイザー!クライムカイザーが後方集団からいつの間にか2番手の位置につけていました!そして内を走っているトウショウボーイに外から併せる!これにはトウショウボーイも思わず怯んでしまった!その隙をついてクライムカイザーが並んだ!スパートをかける!トウショウボーイも遅れてスパートをかけるがクライムカイザーが先頭に立った!先頭はクライムカイザーだ!トウショウボーイを数バ身引き離す!ゴールまで残り400m!トウショウボーイ間に合うか!》

 

 

 

 

 トウショウボーイは今まで最後の直線で競り合ったことがなかった。本番のレースで誰かに併せられる経験など一度たりともなかった。だからこそ、初めての経験に彼女は思わず怯んでしまった。それは1秒を争うレースにおいて致命的な隙となる。先頭のクライムカイザーはすでに数バ身離れた位置を走っている。トウショウボーイは懸命に追いかける。

 

 

 

 

《クライムカイザーが先頭3バ身のリードを取る!トウショウボーイが懸命に追いかける!その差をどんどん縮めていく!テンポイントは内から上がってきているが伸びてこない!3番手はサンダイモン!2番手トウショウボーイがクライムカイザーを必死に追いかける!その差を2バ身と縮めていきますがこれまでか!クライムカイザーが先頭!そして今クライムカイザーがゴールイン!》

 

 

 

 

 しかし、トウショウボーイの必死の追走も叶わず1着に輝いたのはクライムカイザーだった。観客席は予想外の出来事に静まり返っている。

 観客は今の走りは斜行じゃないか?審議はないのか?とどよめきが広がる。しかし、審議を示すランプは灯ることはなかった。

 

 

 

 

《日本ダービーを制したのはクライムカイザー!トウショウボーイを外から急襲し怯んだ隙を見逃さずに見事にダービーの栄光を掴みました!2着はトウショウボーイ、3着はダイサンモン。しかし前の2人からは遠く離れてゴールしました》

 

 

《一歩間違えれば斜行とも取られかねない展開でしたが……、これはお見事という他ないでしょう。まさにクライムカイザーの技ありの勝利です》

 

 

 

 

 観客席はなおも静まり返っている。クライムカイザーはその光景に何かを思うわけでもなく、ただ一礼をするだけだった。しかし、彼女が一礼をした瞬間、おそらく彼女のファンであろう観客たちが意識を取り戻したように歓声を送る。

 

 

「よく頑張った!クライムカイザー!」

 

 

「すげぇ走りだったぜ!また見せてくれー!」

 

 

「次のレースもん頑張って!クライムカイザー!」

 

 

 その声の数は多くはないし、決して大きいとは言えないだろう。それでも、クライムカイザーは嬉しかった。立ち去ろうとしていたところを、感謝の意を込めて立ち止まって手を振る。その姿に観客は拍手を送った。

 

 

 

 

《クラシックレース2冠目を制したのはクライムカイザー!そして舞台は秋の菊花賞へと移っていきます。彼女たちのこれからのレースが楽しみですね》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてテンポイントはというと、

 

 

「7着……ッ!不甲斐ないにもほどがあるやろ……!」

 

 

先頭のクライムカイザーからは大分離れた7着に沈んでいた。完全に第3コーナーで力尽きてしまっていたのである。好位置につけることはできたが、今度は走りがてんでダメだった。自分の不甲斐なさにテンポイントは歯噛みする。

 控室に戻ってウイニングライブの準備をしようと戻る時、テンポイントは左足に違和感を感じた。

 

 

「なんや……?足に力が……ッ!」

 

 

 次の瞬間、テンポイントは突如感じた痛みに思わずうずくまる。なんとか歯を食いしばって左脚のシューズを確認してみるとなんと蹄鉄が外れていたのだ。どうやらレース中に落鉄していたようである。思うように力が入らなかったのもこれが原因だった。

 幸か不幸かすでに地下バ道にいたため誰にも見られることはなかった……と思っていたら遠くから声が聞こえる。

 

 

「大丈夫か!?テンポイント!」

 

 

 テンポイントのトレーナーである神藤だった。神藤はすぐにテンポイントへと近寄って足を診る。

 テンポイントは突然足を触られたことに驚くが、緊急事態なので特に何もしない。神藤へとお礼を告げる。

 

 

「スマン、トレーナー。勝てへんかった……ッ!」

 

 

「それよりも今は足の心配をしろ!大丈夫か?痛みは?」

 

 

「ヤバいな……ちょっとうまく力入らへんわ……。おまけにレース中に落鉄しとった……!」

 

 

「……分かった。この後のウイニングライブは欠席する連絡を入れておく。今は病院に行くぞ」

 

 

「ホンマにスマン……。迷惑かけてもうて……」

 

 

「気にするな」

 

 

 神藤はそう一言だけ告げると、運営にテンポイントの故障を理由にウイニングライブを欠席させてもらう旨を伝え、病院へと向かう。

 2冠目である日本ダービー。テンポイントに待ち受けていたのは自身が初めて経験することとなった大敗だった。




次回、テンポイントの怪我の具合と日常回になる(予定)。


※テンポイントがレース中に落鉄していたことを追加 7/30
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