午前中の授業が終わり、お昼ご飯を食べるためにとボクたちはカフェテリアへと向かうことになった。ボクは松葉杖での移動に苦戦しながらもなんとかカフェテリアへと向かう。
「くっ、やっぱ慣れてへんから動きづらくてしゃあないわ」
そんなボクの様子をボーイ・グラス・カイザーの3人は心配そうに声を掛けてくる。
「なぁ、やっぱオレがおぶっていこうか?テンさん軽いし余裕だからさ」
「あんまり無理しない方がいいよ~?怪我が悪化するかもしれないしさ~」
「そうですよ。無理せず頼ってください!私たちでよければ力になりますので!」
ここで意地を張るのもいいが、正直おぶって移動してくれるのはありがたい話だ。時間がかかってご飯の時間が無くなるよりはマシだろう。
ボクは3人の申し出に感謝しながら答える。
「ホンマ?やったらお言葉に甘えさせてもらおうかな。ありがとなみんな」
ボクの言葉にボーイが真っ先に反応してボクのもとに近寄る。どうやら先程の言葉通りボーイがボクをおぶる気らしい。松葉杖はグラスが持つのか、こちらに渡すように手を出してきた。
ボクは手すりに掴まりながらグラスに松葉杖を渡す。それを確認した後ボーイがしゃがんで背中に乗るように促してきた。
「よっしゃ!乗りなテンさん!トウショウボーイ特急が無事にカフェテリアまで送ってやるぜ!」
「なんやねんそれ」
ボクは笑いながらもボーイの背中に乗る。意外と乗りやすくて快適だ。
「ええやん、快適やな」
「しっかり掴まっとけよ~?じゃ、行こうぜグラス、カイザー」
「ラジャ~。松葉杖もしっかり持ったよ~」
「私だけ何もしないって言うのは申し訳ないので、テンポイントさんの料理は私がお取りしますね」
ボーイの言葉に、グラスとカイザーがそれぞれ返事をした。準備が完了したということでボクたちは改めてカフェテリアへと向かう。
ボクは1人考える。
(今度また別の形でお礼せんとアカンなこれは)
3人へのお礼をどうしようか考えながら、ボーイの背に乗って向かっていった。
カフェテリアの前につくと、突然ボーイが立ち止まった。一体どうしたのだろうか?
ボクはボーイに声を掛ける。
「どしたん?ボーイ。急に立ち止まって」
「ん?あぁ、あそこに知り合いがいたからさ。お~い!マル~!」
ボーイの声にマルと呼ばれた子がこちらを振り向く。こちらの姿を確認すると笑顔を浮かべながら小走りで向かってきた。
マルと呼ばれたその子がボーイに話しかける。
「あら、ショウさんじゃない!奇遇ねこんなところで」
「マルこそ珍しいな?いつもはカフェテリアじゃ食べてないじゃねぇか。何かあったのか?」
「そうなのよ!聞いてショウさん!今日の朝起きたら登校時間ギリギリでね?用意する時間がなかったのよ!」
「あちゃ~。そりゃ災難だったな~」
「もう、本当チョベリバよ!」
ボーイとマルと呼ばれた子の会話をボクたちは呆然としながら聞いていた。それはそうだろう。面識も何もない人間が仲の良さそうなこの2人の会話に入れるはずがない。それはそうとチョベリバとは何だろうか?
ボクたちが蚊帳の外であることに気づいたのか、ボーイがマルと呼ばれた子を紹介する。
「あ、わりぃわりぃ。3人とも初めてだったよな?この子はマルゼンスキー、前にどっかで話したと思うけどリギルの後輩なんだ。オレはマルって呼んでる!」
ボーイの言葉にマルゼンスキーが続けて自己紹介する。
「ハァイ、あたしはマルゼンスキーよ!好きなように呼んでくれて構わないわ。普段はお弁当なんだけど、今日は寝坊しちゃってね。皆さんはショウさんのお友達かしら?あたしとも仲良くしてくれると嬉しいわ!」
どうやらマルゼンスキーはフランクな人物らしい。ボクの第一印象はそれだった。
あちらが自己紹介してきたのでボクたちも自己紹介をする。
「ボクはテンポイントや。こないな格好ですまんな。足を骨折しとるからボーイに運んでもろうてたんよ。ボクのことも好きに呼んでくれて構わんで」
「私グリーングラス~。ボーイちゃんのお友達だよ~。よろしくね~マルゼンちゃ~ん」
「あ、私はクライムカイザーです。よろしくお願いしますねマルゼンスキーさん」
「テンさんに、グラスにカイザーね。ヨロピク!テンさんは大丈夫かしら?お大事にね?」
年も変わらないので敬語で話すのもおかしいと思ったのか、あちらはそのままのフランクな言葉遣いのまま接してきてくれた。ボクは堅苦しいのがあまり好きじゃないので正直ありがたい。ただ、ヨロピクとは何だろうか?意味合いからしてよろしくに近い感じだとは思うのだが。
全員の自己紹介が終わったところでボーイが先導する形でカフェテリアへと入る。せっかくだからとマルも一緒に食事を取ることになった。ボクらは席を取って料理を取りに向かう。ただボクの分はカイザーが取りに行ってくれた。
そして昼食時の話題はマルの話題一色になった。今日が初対面なのでみんな気になるからであろう。グラスが最初に話を切り出す。
「いや~それにしてもキミがボーイちゃんの言ってたマルゼンちゃんか~」
「あら?ショウさんはあたしのことをなんて言ってたのかしら?」
「そうだね~とっても速い子だって言ってたよ~」
そういえばそんなことを言っていた気がする。するとマルは満更でもないのか嬉しそうにしていた。
「あら、嬉しいわね。ショウさんからそんなこと言われてたなんて」
「いやいや、実際マルはめっちゃくちゃ速いじゃねぇか!オレ最初に走ってるのを見た時マジでびっくりしたんだぜ?」
「そんなに褒めたってなにも出ないわよ~?」
ただ、上機嫌なのかマルの耳は嬉しそうに動いている。尻尾もそうだ。
次にカイザーが質問する。
「そういえば、寝坊って言ってましたけど同室の子は起こしてくれなかったんですか?」
「あぁ、あたし1人暮らしなのよ。トレセン近くのマンションに住んでるわ」
その言葉にボーイ・グラス・カイザーの1人暮らし組が反応を示す。
「そうなのか?オレも1人暮らしだぜ」
「私も私も~。1人暮らしの子って結構珍しいけど~ここに4人も集まるなんて奇遇だね~」
「1人暮らしだと色々大変ですよね。お掃除とか」
掃除、という言葉に反応したのかマルは慌てた素振りを見せる。
「え!?えぇ、そうね、ホント大変で困っちゃうわ~」
……反応から察するに、マルの部屋は散らかっているのかもしれない。
しかし寮に入る生徒も多い中、実家暮らしではなく1人暮らししているのがこんなに集まっているのは珍しい。ボクは寮暮らしなので少しの疎外感と羨ましさを感じる。
その後も会話は進んでいったのだが、少し気になることが出てきた。というのも度々マルから聞き覚えのない言葉が出てくるのである。
例えば朝にやることの話になった時は
「やっぱり朝シャンは欠かせないわよね~」
だったり、箸を落としてしまった時に
「メンゴメンゴ!新しいの持ってくるわね」
だったり、ボクのトレーナーの話になった時に
「神藤さん?知ってるわよ、あの人もヤンエグで有名よね~」
極めつけにカイザーがハダルに入った新入部員がマルをライバル視していることを知ると
「その子ってあの芦毛のマブい子かしら?それはテンションがアゲアゲになるわね!」
と言っていたりしていた。どれもこれも聞き覚えのない言葉で戸惑っている。マル以外のみんなも同じ気持ちなのか度々頭に疑問符を浮かべていそうな顔をしていた。
そんな中意を決してボクはマルに質問する。
「なぁ、ちょっとええかマル?」
「ん?どうしたのかしらテンさん?」
「いやな?度々マルから知らん言葉が出てくるからそれなんやろうなと思うて」
その言葉にマルは驚いていた。すると喜々として彼女は話し出す。
「この言葉はね、あたしのお母さんから流行りの言葉を教えてもらったのよ!あたしって昔からどこかセンスがずれててね?だからみんなに話を合わせられるようにって頑張って覚えたのよ~」
どうやら彼女の母親から教わったものらしい。しかしどうやらこれが今時の流行り言葉だったとは。ボクも知らなかった。
みんなも同じ気持ちだったのか、口々にマルを尊敬の目で見ていた。
「へぇ、そうなのか!今の流行りなんだなその言葉!」
「いいな~。私もそういうの疎いからな~」
「これが今の流行りなんですね……、しっかりと覚えておかないと!」
するとマルがこんな提案をしてきた。
「なら、あたしが教えてあげましょうか?」
「え?いいのか!?」
「モチのロンよ!せっかく仲良くなったんだもの!みんなもイケイケになりましょ!」
「お~よく分からないけどこれで私も流行りのガールになれるのかな~」
「ホンマにええんか?ありがとなマル!」
ボクらの言葉にマルは構わないと言って言葉を続ける。
「それじゃ、みんなもナウなヤングになるために頑張るわよ~!」
その後は、マルからずっと流行りの言葉を教えてもらっていた。知らなかったことばかりで本当に新鮮だった。
ご飯も食べ終わり、授業も終わって放課後。このまま寮に帰ってもやることは授業の復習か宿題だけなので、ボクはトレーナー室へと向かっていた。
そしていつものプレハブ小屋に着いてトレーナー室の扉を開けるとそこにはトレーナーが書類仕事をしていた。
トレーナーはボクが入ってきたことに気づいたのか、挨拶をしてくる。
「ようテンポイント。どうしたんだ?」
まあ今日は練習が休みの日だ。そう聞かれるのは当然だろう。なのでボクも正直に答える。
「いやな、このまま寮に帰ってもなんもないからここで勉強してこかなーっと」
その言葉にトレーナーは納得したのか許可を出す。
「そうか。まああまり遅くならないうちに切り上げろよ?帰りは送っていくから」
「りょ……」
了解や、と言おうと思ったがせっかくなのでマルから教えてもらった流行りの言葉を使ってみよう。きっとトレーナーは驚くかもしれない。
「モチのロンや!さぁ、テンションアゲアゲでいくでー!」
「は?」
正直、勉強にテンションを上げる要素は特にないかもしれないがそこは使ってみたかっただけである。ただ、トレーナーはこちらを変な目で見ていた。
ボクはそのままマルから教えてもらった言葉を続けて使う。
「フフン、すごいやろ?今日教えてもろうたんよ!なんでもナウなヤングにバカウケらしいで!」
「あ、あー……うん、そうなのか」
どうやらトレーナーは驚いているのか言葉が続かないらしい。それに気分を良くしたボクは続ける。
「いやぁ、流行りの言葉も教えてもろうて、ボクの気分もルンルンや!今なら何でもできそうな気がするで!」
するとトレーナーは言いにくそうにボクに告げる。
「あー……、テンポイント?気分が上がっているところ悪いんだが……」
「なんや?何でも言うてみぃ?」
意を決したようにトレーナーは二の句を告げた。
「お前が使っているその言葉、流行ったのは大分前だぞ?バブルの時期って言えば分かるか?大体その辺りで流行った言葉だぞ、ソレ」
……おったまげー。
正直、活躍した年代が近いためか一番やりたかったネタです。