ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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テンポイントが復帰したり次の目標について話し合う回。


第29話 完治、そして次の目標は

 リハビリ施設に通うこと1ヶ月、8月を迎えてトレセン学園の夏休みもあと半月となっている。そんな中俺とテンポイントは病院の医師と緊張した面持ちで対面していた。

 テンポイントのテーピングを外してもらい、医師が触診をしている中レントゲンの写真が届いた。俺たちは医師の人からの言葉を待つ。

 

 

「……はい、レントゲンを見る限り骨も元通りになっております。これならもう大丈夫でしょう。約3ヶ月の間よく頑張りましたね、テンポイントさん」

 

 

「……ッ!よっしゃー!やっと治ったわ!」

 

 

 テンポイントが歓喜の声を上げる。特に彼女にとって走りが解禁されたことが何よりも嬉しいだろう。怪我をしている間は本気で走ることは勿論軽めに流すことも満足にできなかったのだから。俺も声を上げこそしないが滅茶苦茶に嬉しい。

 俺たちは改めて医師の人にお礼を言う。

 

 

「ありがとうございます、先生」

 

 

「ホンマ、ありがとうございます!」

 

 

「いえいえ、それが我々のお仕事ですから。お身体に気をつけて練習なさってください」

 

 

 医師の人は朗らかに笑いながらそう答える。その言葉を聞いた後テンポイントに手を引かれながら病院を後にする。

 ようやくまともに走れるようになったことが余程嬉しいのか、帰りの車の中でも走りたそうに身体を震わせていた。なのでしっかりと釘を刺す。

 

 

「完治して嬉しいのは分かるが、トレセン学園まで我慢してくれよ?」

 

 

「分かっとる分かっとる!いやー、それにしてもやっと治ったわ!」

 

 

 正直ここから走って帰るとか言い出さなくて本当に良かった。そう考えながらトレセン学園へと車を走らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みに入っている関係上、大体のウマ娘は帰省しているか合宿に行っているため練習場の予約は思いの外簡単に取ることができた。なので早速練習場へとテンポイント共に向かう。復帰明けということで今日はあまり激しい練習はせずあくまで流しでの走りを行うことにした。その後はまた身体作りの筋トレである。

 最初はテンポイントが速く走りたそうにしているので、数本流しで走らせることにした。ウッドチップコースの距離1600m、まあ軽めということでこれでいいだろう。早速テンポイントは準備に取り掛かる。

 

 

「よっしゃ!久しぶりに走れるで~。気張っていこか!」

 

 

「つっても怪我明けだ。あくまで流しってことを忘れるなよ!」

 

 

「了解や!うし、しっかり見とき!」

 

 

 スタートの構えを取ったので今回は声での合図を出す。俺がスタートの合図を出したのと同時にテンポイントが走り出す。見ているこちらからも分かるぐらいに楽しそうだ。この約3ヶ月の鬱憤を存分に晴らすかのように駆け抜ける。

 程なくしてコースを1周しテンポイントは戻ってきた。一応タイムも図っていたので彼女に見せる。可もなく不可もなく。まあ復帰明けなのでこんなものだろう、そんな感じの反応をしていた。その反応の後こちらにお願いをしてくる。まあ何を言ってくるかは分かっているが。

 

 

「なぁトレーナー?走り足りひんからもうちょい走ってもええ?」

 

 

 両手を合わせてお願いしてきた。まあ後2本くらいならいいだろう。

 

 

「……一応、骨折明けだから後2本までな。それ以上はダメだ」

 

 

 俺の答えに彼女は花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 

 

「ええんか!?よっしゃ!やったらはよいこうや!」

 

 

 余程嬉しいのかそのまま走っていきそうな勢いだ。心配はあるが今日くらいはいいだろう。医師からもお墨付きはもらっているし。

 そのまま2本目を走り始めたテンポイントを遠くから眺めてみて1つ気づいたことがある。それは彼女の体格だ。

 

 

「やっぱり気のせいじゃなかったか。想像以上に逞しくなってきているな」

 

 

 デビュー前から着々と身体つきは良くなっていたのだが、いかんせん華奢な印象が抜けなかった彼女の体格がこの怪我の間でじっくりと筋トレに励んだ甲斐あってかしっかりとしてきた。これなら菊花賞には間に合わせることができるかもしれない。あわよくばそのまま制することも夢じゃないだろう。

 そうなると次のレースをどうするか。通常菊花賞のトライアルレースなら神戸新聞杯なのだがあまり出走させたくない理由がある。さすがに10月の初めに開催されるレースには間に合いそうにないという点だ。確かに走れるようにはなったがここから調整までとなるとまた話が変わってくる。それに菊花賞が終われば待っているのはシニア級のウマ娘たちとの闘い。その経験を早いうちに積ませたいという気持ちがある。なので次に狙うべきレースは……。

 

 

「京都大賞典……。このレースを目標に調整するか」

 

 

 同じ10月開催なら下旬にある京都新聞杯でもいいかもしれないが、今回は菊花賞の先を見据えることにした。今日の練習が終わったらテンポイントにこのことを伝えよう。

 考えも纏まったので視線をテンポイントに向けると、彼女はすでに2本目を走り終わってこちらに戻ってきており、目の前に立ってこちらを覗き込んでいた。ヤバい、全然気づかなかった。彼女はやっと気づいたとばかりに嘆息する。

 

 

「トレーナー?何ボーッとしとるん?もう2本目終わったで」

 

 

「あぁすまん。今後のことを考えてちょっとな。じゃあ少し休憩を入れて3本目走るか」

 

 

「何考えとったん?それ言うまでは3本目はいかへんで?」

 

 

 やたら嫌疑的な目を向けてくるが別に隠すようなことでもないので正直に話す。

 

 

「お前の次の目標レースだな。それについては練習が終わった後詳しく話そう」

 

 

「なんや次のレースか。てっきり危ないから走るの取りやめとか考えとんのかと思うたわ」

 

 

「それを考えてたらまず3本目を走らせないから安心してくれ」

 

 

「まあそれもそうやな。んじゃ3本目行ってくるわ」

 

 

 そう言って彼女は3本目を走る準備に取り掛かる。相変わらず楽しそうに走っているなぁ。

 夏休みなのでいつもより練習時間を長めに取ることができる。走り終わった後は筋力トレーニングを行いいつも以上に熱を入れて練習をしていった。合宿ができない分、合宿並かそれ以上の効果を得るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習が終わった後はトレーナー室で今後のミーティングをする。まずは先程も言った通り目標レースの話だ。

 

 

「さて、まずは練習中に言っていた通り目標とするレースの話だな。まず大目標は菊花賞、当面はこれに絞るぞ」

 

 

 俺の言葉にテンポイントは疑問の声を上げる。

 

 

「あれ?菊花賞は回避するかもしれんって言うてなかった?」

 

 

「最初はその方向で考えていたんだがな。怪我明けの状態、そして今日の走りを見て間に合うかもしれない、そう判断した。だから菊花賞を目標にレースを1つ走るぞ」

 

 

「ふ~ん、そのレースはなんや?やっぱ神戸新聞杯か?」

 

 

「いや、ステップレースには京都大賞典を使う」

 

 

 テンポイントは怪訝な表情を浮かべる。なぜそのレースを使うのか分からないといった感じだろうか。彼女は思った通り、なぜこのレースを使うのかという疑問をぶつけてきた。

 

 

「京都大賞典?なんでそないなレースを使うんや?普通やったら神戸新聞杯とか京都新聞杯やろ?」

 

 

「そうだな、まず神戸新聞杯だが怪我明けで調整が間に合わない可能性があるから候補からは除外した。で、ステップレースとして使うなら京都大賞典か京都新聞杯のどちらかにするってなったんだが、先を見据えて京都大賞典を選んだんだ」

 

 

「先を見据えて?」

 

 

「あぁ、京都大賞典はシニア級ウマ娘との混合レース。菊花賞が終わればお前もシニア級のレースに出走することになる。今のうちに経験を積んでおこうってことだ。だからと言ってお前が負けるとは微塵も思っていないが」

 

 

「そか。まあそういう理由なら分かったで。ボーイとカイザーへリベンジするんは菊花賞までお預けっちゅうことやな」

 

 

「そういうことだ」

 

 

 納得してくれたらしい。テンポイントは頷きながらそう答えた。

 次走も決まったことで次の話題はテンポイント自身の話になる。俺は今日感じたことをそのまま伝えた。

 

 

「しかしテンポイント、お前身長伸びたか?怪我する前よりも逞しく感じるぞ」

 

 

「ホンマか?いやぁ、やっと筋トレの成果が出始めたんやな!身長も、毎日牛乳飲んどるからやな!」

 

 

 果たして牛乳が身長に本当に関係しているのかは分からないが、彼女の身長を念のため測ってみる。すると前回測った時よりも3cm程伸びていた。前が155cmぐらいだったので今は158cmだ。着実に成長してきているのだろう。

 テンポイントは嬉しそうに告げる。

 

 

「フフン、このまま身長伸ばしていずれはボーイを越えたるでー!」

 

 

 ……正直それは無理だと思うが。トウショウボーイは確か170cmぐらいあったはずなので今更追いつくのは無理だろう。それを口にしたら間違いなく拗ねる上に拳が飛んできかねないので何も言わない。

 そのまま話し合いは進んでいき、議題もなくなってきたところで解散となる。ただ少し時間があるので俺はテンポイントに1つ提案をする。

 

 

「そうだテンポイント、今から夜間外出の許可って取ることってできるか?」

 

 

「夜間外出?まあ取れんことないと思うけどなんでや?」

 

 

 俺は笑顔を浮かべながら答える。

 

 

「何、せっかくの夏だってのに夏らしいことを何ひとつしてねぇからな。だから、これで少しでも夏気分を味わおうって思ったんだよ」

 

 

 そう言って俺は花火セットを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜間外出許可は思ったよりすんなり通ったらしい。普段から模範的な学生生活を心がけているおかげだろう。許可を取るために寮に戻っていたテンポイントが小走りでプレハブ小屋の前まで来た。

 

 

「来たか。じゃあさっそく始めるぞ!」

 

 

「うわぁ、市販品の花火なんてえらい久しぶりやなぁ!ちょっとテンション上がるわ!」

 

 

 そう言ってお互いに花火に火をつける。通常の花火から簡易的な打ち上げ花火、ねずみ花火までより取り見取りだ。俺たちは花火をつけながらその様子を見て笑いあう。最初はこの年でどうかと思ったがやはりいくつになってもこういうのは楽しいものだ。

 そして花火も残り少なくなり、最後はやはり線香花火で締めることにした。そしてテンポイントから1つ提案をされる。

 

 

「なぁトレーナー。せっかくやからこれでひと勝負しようや」

 

 

「勝負?あぁ、どっちが火が長くもつかってやつだな?受けて立つぜ!」

 

 

「よっしゃ!やったら負けた方はペナルティでどうや?」

 

 

「うっ、あんまきついのはやめろよ?」

 

 

「分かっとる分かっとる!んじゃ、勝負や!」

 

 

 テンポイントから提案された線香花火の火をどっちが長くもたせられるかの勝負。やはり花火と言えばこれが定番だろう。その勝負が始まった。

 ただ始まったと言ってもどちらかの火が落ちるまでひたすら待つだけなのでものすごく地味だ。無言に耐えきれなくなったのかテンポイントが話をしてくる。

 

 

「なぁ、トレーナー」

 

 

「どうした?テンポイント」

 

 

 彼女は決意を込めた瞳でこちらを見てくる。

 

 

「ダービーでは情けへん走りを見せてもうた。やから菊花賞、取ってみせるで」

 

 

「……」

 

 

 彼女は目線をこちらに向けたままだ。お互いの視線が交錯する。少しの間の後俺は答える。

 

 

「あぁ、楽しみにしている。なんてたって、お前は俺が思う最強のウマ娘だからな」

 

 

「……!その期待、応えたるわ!」

 

 

 そう言って、俺たちは再び笑いあう。こうやってのんびり過ごすのも悪くない、そう思いながら。

 あ、そういえば線香花火はどうなったのだろうか?俺は視線を下に向ける。すると、

 

 

「あ~……」

 

 

「あちゃあ、どっちもいつの間にか落ちとるやん……」

 

 

俺たちの線香花火はとっくに落ちていた。これだとどっちが長くもったかなんて分からないだろう。しかも今のやつが最後の2本だったので続けることもできない。勝負は引き分けだろう。

 

 

「ま、今回のところは引き分けだな。片付けは俺が後でやっとくから寮まで送るよ」

 

 

 俺の言葉にテンポイントは頷く。

 

 

「せやな。やったら寮まで頼むわ」

 

 

 彼女を寮まで送り届け俺は花火の後片付けをする。明日からの練習を考えながら。




花火セット、もう何年も買ってませんね。書いててやりたくなってきてしまった。


※細かいところを微修正 7/22
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