ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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グリーングラスと沖野Tの出会いから菊花賞までの回想。


閑話3 緑の少女の回顧録

『グラスちゃんの身体大きいね!』

 

 

『将来絶対強くなれるよ!』

 

 

 昔から言われてきた言葉だ。幼い頃から身長の高かった私、グリーングラスは周りのウマ娘の子たちよりも頭1つ抜けた大きさだったことを覚えている。女の子が大きいとか言われても微妙な気分になるだけだったが、強くなれるという言葉には喜んでいたことは確かだ。

 だが、私が大きいのは身長だけだったようでしばしば風邪を引いては発熱を起こしていた。食生活を改めたり運動をすることで何とか改善に努めようとしたが、その努力空しくトレセン学園に入学してからもこの身体の弱さは治ることはなかった。

 昔よりは大分減ったものの入学してからも風邪で実技は休みがちな日々は続いていたが、選抜レースの日は何とか体調の良い状態で迎えることができた。トゥインクルシリーズに出走するためにもトレーナーの存在は必要不可欠でありこの選抜レースで実力を示すことができればスカウトの声は必ず来る。私は一層気合を入れて臨んだ。

 現実は非情なものであり、出走したレースの結果は8人中の4着。そんな私にスカウトの声がかかるはずもなかった。悔しかった。万全な体調で挑みながらもこのザマにはもはや笑いしか出てこなかった。それにこの選抜レースには入学してから仲良くなった友達の1人であるテンちゃんも出走しており、ほとんどのトレーナーはテンちゃん目当てでこの選抜レースを見に来ていたと言っても過言ではなく、尚更私に注目が集まることはなかった。

 その後はテンちゃんのレースを見ていたのだが、私とは違い走る前から圧倒的な存在感を放っており抜群のスタートを切ったかと思うと他の子を寄せつけないままそのレースを勝利していた。そんな走りをしたものだからトレーナー陣も彼女を囲んで口々にスカウトの言葉を投げかけていた。私はそれを遠巻きに見ている。

 

 

『……帰ろう。ここにいても惨めになるだけだもの……』

 

 

 私は選抜レースの会場を後にしようとした。自分の不甲斐なさに、惨めさに耐えきれなくなる前に。

 そうして会場を出て少し歩いた頃、突如として私の脚に違和感が襲った。何かに触られているような感覚。それに驚いて思わずその何かを蹴っ飛ばしてしまう。

 

 

『わぁぁぁぁぁ!?』

 

 

『ゴフッ!?』

 

 

 思わず蹴っ飛ばしてしまったが、声がしたということはもしかして人だったのかもしれない。私は後ろを振り向いてその姿を確認する。そこには癖毛を後ろで1つに束ね、左の側頭部を刈り上げている黄色いシャツに紺色のベストを着た男性が倒れていた。おそらく彼が私に蹴っ飛ばされた人物だろう。しかしいきなり脚を触ってきたのであちらが悪い……はずだ。

 ただウマ娘の脚力で蹴ってしまったので一応謝罪の言葉を入れる。

 

 

『ご、ごめんね~。大丈夫~?』

 

 

 しかし、彼は問題ないと言わんばかりに立ち上がる。仮にもウマ娘に蹴られたのに身体が丈夫過ぎないだろうか?

 

 

『いや、大丈夫だ。こっちこそ悪いな、急に脚を触ったりして』

 

 

『分かってるんだったら~自制した方がいいんじゃないですか~?』

 

 

『スマン!いいトモだったからつい……!』

 

 

 その男性は手を合わせてこちらに謝り倒してきている。どうやら本当に悪いとは思っているようだ。だから私は次からは気をつけるようにした方がいいと告げる。ただいいトモと言われたことは嬉しかった。

 謝罪もあったということで私はその場を後にしようとする。その瞬間、その男性から待ったの声がかかった。私は聞き返す。

 

 

『どうしたの~?私にまだ何か用があるの~?』

 

 

 そう聞いた瞬間、男性から思ってもいない言葉が飛び出してきた。

 

 

『単刀直入に言う、俺と一緒にトゥインクルシリーズを駆け抜けないか!』

 

 

 手を差し出してきている。私をスカウトする気だったらしい。なら私の言うことは1つだ。

 

 

『誰かと間違えてない~?テンちゃんならまだ会場にいるから今からいっても間に合うと思うよ~』

 

 

 きっと誰かと間違えているのだろう。そう結論づけて会場に戻ることを提案する。あんな走りをした私にスカウトするような物好きなんているはずがないのだから。

 しかし私の言葉を否定するようにその男性は首を振る。

 

 

『いいや、間違ってないさ。俺はお前をスカウトしたいと思っている』

 

 

 ……どうやら物好きな人だったらしい。しかしなぜ私をスカウトしようと思ったのか?理由を尋ねる。

 

 

『なんで私なのかな~?あのレース見てたら普通スカウトなんてしないと思うけど~』

 

 

 自分のことだからこそよく分かる。あんなレースをしておいてスカウトしようなんて普通は思わないだろう。目の前の人は普通じゃないということだが。

 私の問いに男性はそんなことはない、と前置きした後あのレースに対する私見を答えた。

 

 

『負けた理由は単純だ。あの距離はお前さんには短すぎる。それにスパートをかけるタイミングも遅かった。だからこそ最後の直線で追いつくことができなかったんだ。もう少し距離が長ければ勝っていたのはお前さんだったろうよ』

 

 

 この人は随分私のことを買ってくれているらしい。それは嬉しいことだ。ただ疑心が入っている私は本当に自分で良いのかと、自分が抱える欠点とともに聞く。

 

 

『でも~私身体も弱いからレースに出れるかも分からないですよ~?それでもいいんですか~?』

 

 

『身体なんてこれから強くしていきゃあいいさ。とにかく俺はお前の走りを見てスカウトしたいって決めたんだ!受けてくれるか?』

 

 

 ……ここまで自分を買ってくれるのだ。それにもうスカウトが来るかどうか分からない。多少性格に難はあるかもしれないがこのスカウトを私は受けることにした。

 

 

『分かった~。これからよろしくね~。え~っと?』

 

 

『沖野だ。好きなように呼んでくれ』

 

 

『じゃあおきのんだ~。私はグリーングラス、これからよろしくね~』

 

 

 こうして私にトレーナーがついた。今思い返してみるとこの出会いがなければ私はデビューすらままならなかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事にトレーナーがついてデビューの準備は整ったものの、私の身体は相変わらず弱いままだった。元々夏にデビューする予定だったはずなのに、それも肺炎に罹ってしまい叶うことはなかった。本当に自分の身体の弱さに嫌になる。そんなことを思っていると沖野トレーナーが私をとある場所へと連れていきたいと私を車に乗せてある場所へと向かった。その場所とはリハビリ施設だった。

 別に脚を故障したわけじゃないのだがどうしてこんなところに連れてきたのかを尋ねる。

 

 

『おきの~ん、なんでリハビリ施設なんて来たの~?』

 

 

 私の言葉に沖野トレーナーは意気揚々と答える。

 

 

『ここはな、ただのリハビリ施設じゃない。温泉もある施設なんだ。温泉にはリラックス効果もあるしトレーニングを積むことだってできる。ここでグラスの身体の弱さを克服しながら頑張っていくぞ!』

 

 

 どうやらここには温泉もあるらしい。それは嬉しいことだ。温泉は好きだしトレーニング後に入れるというのなら想像しただけでも喜びがあふれそうになる。

 ただ、私には1つの考えがよぎった。それはお金の問題だ。

 

 

『おきの~ん、温泉があるのは分かったけどさ~ここって結構高いんじゃないの~?』

 

 

 いつも金欠そうにしているのに大丈夫なのだろうか?だが沖野トレーナーは問題ないとばかりに答える。

 

 

『お金の心配なら大丈夫だ。最近は余裕もできてきたからな。それに、お前の身体が丈夫になるってんならこれぐらい安いもんだ』

 

 

 ……本当のところはどうなのか分からない。だが、自分にここまでしてくれるのだからそれに必ず報いなければならないだろう。私は心の中でそう思った。

 リハビリ施設でトレーニングを積む日々。だが、レースに出走できてもあまり勝てなかったため私はクラシックレースの内皐月とダービーに出走することは叶わなかった。そのレースで友達の活躍を耳にするたびに私は焦ってしまいそうになった。だがその度に沖野トレーナーは私を落ち着かせるように言い聞かせた。

 

 

『いいか?グラス。焦る気持ちは分かる。だがな、そんな時こそ落ち着いて深呼吸をするんだ。今お前がするべきことは何か?そのことだけに集中するんだ。そうすれば、いつかきっと報われる日が来るからな』

 

 

 今でも焦ってしまいそうな時はその言葉を思い出している。自分の成したいこと、大舞台で私も友人たちのように走って1着を獲るという目標にして。

 そして努力の甲斐あってか、私はギリギリでクラシック最後の冠である菊花賞への出走が叶った。これでようやく私も友人である彼女たちと一緒に走ることができる。そのことが嬉しくてたまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在は菊花賞前日、マークすべき相手を1人ずつ沖野トレーナーと確認している。

 

 

「さて、おさらいになるが警戒すべき相手は主に3人。トウショウボーイ・クライムカイザー・テンポイントだ。トウショウボーイは最後の直線に入った時の加速力は半端じゃねぇ。一度離されたらもう追いつけないと思え。クライムカイザーは脚質も近いからコース取りにだけは気をつけろよ?だが、この2人以上に警戒すべき相手がいる」

 

 

「分かってるよ~。テンちゃんだね~」

 

 

「そうだ、菊花賞の距離なら厄介さで言えばこの2人よりもテンポイントだ。スピードとスタミナが必要とされるこのレース、最後に前での根性勝負になったらまず勝ち目は薄いだろうな」

 

 

「テンちゃんしつこいからね~しっかりと気をつけなきゃ~」

 

 

 リハビリ施設で偶然会った時に泳ぎでの勝負をしたが、あの負けず嫌いは天下一品だろう。それがレースでも発揮されるとなると恐ろしいことこの上ない。

 そして作戦の確認へと移る。

 

 

「以上を踏まえた上でどういったレースを展開するか。考えているか?グラス」

 

 

「う~ん、やっぱりスタミナも温存したいから~いつも通り中団か後方集団で控えて~内ラチ沿いに走るかな~?」

 

 

「そうだな、内を取ることができればスタミナの消耗も抑えることができる。でもそろそろラチを頼って走るのはやめような?」

 

 

「う~ん、無理かな~」

 

 

「ちっとは考える素振りを見せろ、ったくよぉ」

 

 

 沖野トレーナーは呆れたように見るがこればっかりは仕方がないと諦めてもらうしかない。ただあまりにも内がキツいようなら外に回るほかないのだが。

 内を走るためにどうしようかと考えているところ、沖野トレーナーは何やらスマホを見ていた。そして嬉しそうな笑みを浮かべ、こちらへと話しかけてくる。

 

 

「喜べグラス。神様は俺たちに味方したようだぞ」

 

 

「何々~?どういうこと~?」

 

 

「こういうことだ」

 

 

 そう言ってスマホの画面を見せてくる。そこにはこの後夜に大雨が降ることが予想されるという天気予報だった。

 ……今から雨が降る、ということはつまり

 

 

「明日の菊花賞、開催されるなら重、良くても稍重ってことだね~?」

 

 

「そうだ、それに伴って荒れる内を走るウマ娘も少なくなるだろう。加えてお前は重バ場を苦にしない上に生粋のステイヤーだ。これだけの条件を揃えてくれるなんて神様に感謝しなきゃな」

 

 

「そうだね~ここまでお膳立てされたんだもの~」

 

 

私は気合を入れる。

 

 

「後は勝つ。それだけだね」

 

 

 明日が楽しみだ。テンちゃん、ボーイちゃん、カイザーちゃん。今までは並び立つことすらできなかった。けれどそれも今日で終わりだ。菊花賞、私が勝たせてもらうよ。




お馬さんの写真集は初めて買ったのですがこれはいいものですね。他のも買いたくなります。
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