ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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水着ゴルシも水着マックイーンも当てられない敗北者は私です。


第38話 決意再確認

 季節は12月を過ぎた頃、有マ記念への出走も決定したということでボクは練習にいつも以上の気合を入れて臨んでいる。今は走り込みの練習中。走りながらボクは今回の有馬記念のメンバーについて考えていた。

 今回出走するメンバーは天皇賞を制したウマ娘やボクたちと同世代で桜花賞とオークスを勝ちダブルティアラを手にしたウマ娘も出走を表明している。当たり前のことだが錚々たるメンバーが今年も集まっている。ただその中でも特に負けられないのが1人だけいた。トウショウボーイである。

 

 

(菊花賞の勝ちは天に恵まれとっただけや……。純粋な力勝負ではまだ一度も勝ててへん)

 

 

 ボクがボーイに先着したのは菊花賞の1回のみ。それに対してボーイは皐月賞とダービーでボクに先着している。1勝2敗。負け越しているという現状、出走するウマ娘の中でも特にボーイにだけは負けられないという気持ちが強い。

 その気持ちが前面に押し出しすぎていたのか、トレーナーからの声が飛んできた。

 

 

「テンポイント!気合入れるのはいいがペースが速すぎるぞ!少し落ち着け!」

 

 

 言われて気づいた。まだそこまで走っていないと思ったら結構な距離を走っていたのだ。どうやら思考に没頭するあまり自分が想定したペースよりも速いペースで走っていたらしい。そのためボクはペースを下げる。ペースを下げたことを遠目で確認したらしいトレーナーは視線を落として資料とにらめっこしていた。今もボクが有マ記念で勝つための作戦を考えているのだろう。難しい顔をしながらああでもない、こうでもないといった様子で首を傾げながら考えている様子が走りこんでいる最中でも見える。

 やがて予め決めていた時間が経ったようでトレーナーがこちらへと声を掛けてくる。

 

 

「クールダウンだ!徐々にスピードを落としていけ!」

 

 

 その声とともにボクは走るペースを徐々に緩めていき、最後には歩いてトレーナーの下へと戻っていった。その後は軽いストレッチをして身体をほぐしていく。

 ストレッチが終わった後、トレーナーはこちらにタッパーを差し出してくる。中身が分からないのでボクは質問する。

 

 

「トレーナー、なんやこれ?」

 

 

「レモンのはちみつ漬けだ。ベタだが変に奇をてらうよりはいいだろ?」

 

 

 そう言いながらトレーナーはタッパーを空ける。そこにはごく普通のレモンのはちみつ漬けがタッパーに詰まっていた。ボクはタッパーを受け取り口をつける。疲れた身体に栄養が行き渡る……感じがする。実際のところはよく分からないが疲れが取れていくのは感じられた。

 そのまま食べているとトレーナーはこちらへと質問を飛ばしてきた。

 

 

「テンポイント、途中で走るペースを上げていたがトウショウボーイのことでも考えていたのか?」

 

 

「な、なんで分かったん?」

 

 

 思わず食べているレモンを落としそうになったがギリギリのところで踏ん張れた。トレーナーはなぜ分かったのかを教えてくれた。

 

 

「いつも冷静なお前が決められたペースを逸脱する時は気持ちが前に出すぎている時だ。で、お前が一番意識しそうな相手と言えばトウショウボーイだ。有マ記念も近いし、今んとこ負け越してるからな、次は勝ちたいっていう気持ちが出てもおかしくない。違うか?」

 

 

「……まぁ、合っとるけど。なんか癪やわ」

 

 

「なんでだよ」

 

 

 ピタリと当てられたので少し面白くない。トレーナーは続けて質問してきた。

 

 

「そういえば、お前たちっていつ頃から仲が良いんだ?」

 

 

「それってボーイたちのことか?やったら入学してそんなに経っとらん時やな」

 

 

 特にボーイは当時から目立っていたのでよく覚えている。するとトレーナーは興味が出てきたのか

 

 

「もう練習も上がりだし、良かったらお前とトウショウボーイが出会った時の話をしてくれないか?少し興味が出てきた」

 

 

と頼んできた。別に特別なことではないのでボクは了承する。

 

 

「ええよ別に。アレは確か入学してすぐのホームルームやったか……」

 

 

 言いながらボクは当時のことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入学式も終わり、それぞれに割り当てられたクラスで自己紹介をしている。ボクの番が来たので席を立ち自己紹介をする。

 

 

『テンポイント言います。趣味は毎朝新聞を読むことです。仲良うしてくれると嬉しいです』

 

 

 特に奇をてらおうなどとは思っていなかったので自分の趣味を答えて席に座る。拍手がまばらに響いていた。

 そのまま自己紹介は進んでいき、ボクの隣に座っていた奴の番になる。そいつは名前を呼ばれると元気よく答えながら席を立った。

 

 

『ハイッ!』

 

 

 まず思ったのは横顔を見る限り人懐っこそうな顔をしているな、と思った。そしてそのままそいつの自己紹介が始まる。

 

 

『オレはトウショウボーイ!好きなのは走ることと人の笑顔!後困ってる人は見過ごせないから趣味は人助け!みんなよろしくな!』

 

 

 思わずボクは疑ってしまった。まさか人助けが趣味だということを平然と言ってのける人物がいるとは思わなかったからだ。しかし顔を見て見ると冗談ではなく本気で言ったということが分かる。

 その時はただこんな奴もいるんだな、としか思わなかった。だがそいつは席に座ると人懐っこい笑みを浮かべたままこちらへと話しかけてきた。

 

 

『これからよろしくな!』

 

 

『あ、あぁ、うん。よろしゅう』

 

 

 思わずたじろいだが普通の反応だったはずだ。これがボクとトウショウボーイのファーストコンタクトである。

 ……と終わりたいところだが、そうはいかなかった。入学式ということでその日はホームルームだけで終わる予定だった。ボクは寮に戻って荷解きの続きに入ろうと思っていたので手早く帰り支度を済ませてそのまま教室を出ようとする。しかしボクの腕は何者かに掴まれてしまった。誰だと思い手が伸びている方向へと視線を向けるとトウショウボーイがボクの腕を掴んでいた。先程の自己紹介と同じような笑顔を浮かべて。

 

 

『あの、なんか用です?ボク早う帰りたいんですけど』

 

 

 ボクがそう質問すると彼女は腕を掴んだまま答える。

 

 

『改めて自己紹介をしようと思ってな!オレはトウショウボーイ、好きなように呼んでくれ!』

 

 

『……テンポイント』

 

 

 あまりの圧に気圧されながら名前だけ答える。すると彼女は腕を離して話を続ける。

 

 

『テンポイント……ならテンさんだな!お隣さん同士仲良くしようぜ!』

 

 

 そう言って風のように去っていった。一体何だったのだろうか?そう思っていると彼女は似たようなことをクラスのみんなにやっていた。さすがに全員ではなかったが次の日登校していたらやっていない子にも同じようなことをやっているのを見た。なんていうか、嵐のような奴だと思った。

 席が隣同士ということもあり、トウショウボーイはよくボクに絡んできた。そして絡んでくる彼女を邪険に扱うこともできず、律儀に反応する。そのやり取りを繰り返しているうちにボクらは自然と仲良くなっていった。そして彼女と関わっていくうちに彼女がとくにちょっかいを掛けていたグリーングラスとクライムカイザーとも仲良くなり、今の関係に至っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、まあこんな感じやな」

 

 

「入学当時から変わんねぇんだなトウショウボーイは」

 

 

「まあそれがボーイのええとこやからな」

 

 

 トレーナーは苦笑いをしている。まあまさか全員初めましてのホームルームで人助けが趣味と自己紹介する人物など見たことも聞いたこともないだろう。

 トレーナーはまた質問をしてくる。

 

 

「じゃあそうだな……トウショウボーイをライバルとして意識しだしたのはいつ頃なんだ?」

 

 

 ボクは顎に手をやって考える。

 

 

「特に意識しだしたんは皐月賞から後やけど、こいつがライバルになるんやろなって最初に思うたんは初めのレース実技の授業やろうな」

 

 

 トレーナーはボクの話に耳を傾けている。ボクは言葉を続ける。

 

 

「試しに走ってみることになったんやけど、そん時の走りを見て直感的に思うたんよ。あぁ、こいつにだけは負けたないってな」

 

 

「やっぱそういうのって直感的に感じるものなのか?」

 

 

「せやな。ホンマに直感的に分かるんよ」

 

 

 実際それまでは友達程度の認識だったのにいざ走りを見て見るとボーイにだけは負けたくないという気持ちが湧いてきた。我ながら不思議なものである。

 その後は主に学業についての話になった。トレーナーが質問してくる。

 

 

「お前たち4人って成績いいよな。いつも成績上位に入ってるって聞いてるぞ」

 

 

「まあせやな。ボクらでたまに勉強会したりするけど基本分からないことだけ質問する感じでただ黙々と進行するだけやし」

 

 

「本当の意味での勉強会ってことか……。学生なんかは毎回遊んでしまうって聞いているが」

 

 

「トレーナーはどうだったん?」

 

 

「俺は基本教える側だったからな。赤点とってもいいのかって脅して勉強させていた」

 

 

 どうやらトレーナーも成績上位側だったらしい。ライセンスを取れるぐらいだから頭がいいのは当たり前なのだが。

 そうして話していると結構な時間が経っていたようで帰る時間が迫っていた。話を切り上げてトレーナー室へと戻る。部屋に戻るとトレーナーがこちらに紙の束を渡してきた。中身を確認すると有マ記念に出走が決定しているウマ娘のリストだった。気をつけるべきポイントやどういったレースの展開が得意かなどが要点良く纏められている。

 トレーナーがボクに告げる。

 

 

「今回の有マ記念の出走者のリストだ。これを渡しておく。俺の主観での話も多いが気をつけるべき点などが書いてあるから目を通しておいてくれ」

 

 

「ん、了解や。やけど、結構大変やったんやないか?」

 

 

「大丈夫だ。これも有マ記念で勝つためだからな。役立ってくれると嬉しい」

 

 

 そう言ってトレーナーは笑顔を浮かべる。その笑顔を見てボクも笑顔を作りながら感謝をする。

 

 

「あんがとなトレーナー!しっかり見とき?有マ記念絶対勝ったるからな!」

 

 

 その笑顔の裏でボクは考え事をしていた。

 ……トレーナーは最近他のトレーナー間でよくない噂が流れているのをボクは知っていた。将来有望なウマ娘の才能を潰したダメトレーナーといった評価を下されていることも。それはボクが負けたことが絡んでいるのだろう。だが、それはボクのせいでもある。彼1人だけにその評価が下されるのはあんまりじゃないだろうか。少なくとも、ボクにとっては良いトレーナーなのだ。

 だからこそ、今度の有馬記念は勝たなければいけない。トレーナーはダメではないということを証明するために。そう胸に誓ってボクは寮へと帰っていく。

 寮に帰って渡された資料に目を通していると最後のページにはトレーナーの字でボクに対する励ましのメッセージが書かれていた。

 

 

【有マ記念お前なら勝てる!頑張るぞ!】

 

 

 そのメッセージにボクは思わず頬が緩んでしまった。そしてより一層気合が入りながらも、もういい時間なので眠りにつく。

 年末の決戦、有マ記念は近い。




ガチャに負けたので写真集を見て癒されます。
この前の生放送では新ウマ娘が盛りだくさんでしたね。実装が待ち遠しいです。


※有馬記念を有マ記念に修正 7/30
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