「クリスマスパーティ?」
「そう!明日やろうと思ってんだけどさ、テンさんも来ねぇか?」
有マ記念から数日が経ち、トレセン学園の終業式を明日に控えた今日ボーイからそんな提案をされた。時間はすでに下校時刻であり、クラスには生徒たちがまばらに残っていた。
興味があるのでボクは鞄に教科書類をしまう作業を止めてボーイに詳細を聞く。
「具体的には何するん?」
「別に凝ったことをする予定はないぜ。みんなでご飯食べて、プレゼント持ち寄って騒ごうぜー!みたいな感じで考えてる」
「今んとこの面子は?」
「他の子は別の友達やトレーナーとやるって断られたから、今決まってるのはグラスとカイザーとクインだな。これからマルも誘おうと思ってる」
「なんだかんだいつものメンバーやな」
いつもと変わらないメンバーだが、それもいいだろう。ボクは参加することをボーイに伝える。
「ええで、ボクも参加する」
するとボーイは笑顔を浮かべて手を握ってきた。
「ありがとう!終業式は午前中で終わりだからさ、終わったらすぐにみんなでショッピングモールに行ってさ!各々プレゼント買ってこようぜ!」
「了解了解。嬉しいんは分かったから手ぇ離してくれ」
「っと、わりぃわりぃ」
そう言ってボーイは手を離す。その後鞄を担いで教室の扉の方へと向かっていった。そのまま明日の予定を告げてくる。
「じゃあ明日!13時にショッピングモール集合な!」
ボクは了承の言葉を伝えるとボーイはそのまま教室を出ていった。クリスマスパーティか。
「そういや聞くん忘れとったけど、どこでやる予定なんや?」
どこで開催するのか聞くのを忘れたが、明日の買い物が終わったら連れて行ってくれるだろう。そう思いボクは下校の準備を再開した。
そして迎えた次の日、終業式も終わって寮へと戻りすぐに出かける準備をする。一応だが寮長に外泊許可証を提出してボクは寮を出た。受理してもらったのを確認した後、待ち合わせ場所であるショッピングモールへと向かう。
待ち合わせ場所に到着すると、カイザーとクインがすでに着いていた。向こうもこちらに気づいたのか手を振っている。ボクも手を振って応える。
周りを見渡してもこの2人しかまだいない。ベンチに1人座っているのだが、帽子を深く被っているため顔は分からない。怪しいがボクは2人に話しかけることにした。
「2人とも早いな。ボクもすぐ出たつもりやったんやけど」
ボクの言葉にカイザーは苦笑いで答える。
「まあ私たちは1人暮らしですから。距離的にも住んでるところが近いってのもありますけど」
「そうですね。では、テンポイント様が来たのでこれで後はトウショウボーイ様とグリーングラス様だけですね」
クインがそう言った時、辺りを見渡すとボーイの奴が遠くに見えた。ボクが手を振るとあちらも気づいたのか手を振ってこちらへと向かってくる。
こちらと合流してボーイは話始める。
「みんな早いな!これで後はグラスだけか?」
「そうですね。後はグラスさんだけです」
「まあグラスが遅刻なんて考えられへんし大丈夫やろ」
ボクの言葉にクインが同意する。
「そうですね、気長に待ちましょう」
その間、ボクはボーイに気になったことを質問する。
「せや、ボーイ。結局マルは誘えたんか?」
するとボーイは残念そうな表情を浮かべる。
「あー、マルは用事あんだって。今回は無理だってさ」
どうやらマルは用事があるから来れなかったらしい。だが用事があったのなら仕方がないだろう。
グラスを待っている間も他愛もない話をしていたのだが、どんなに待ってもグラスが一向に現れない。さすがにおかしいと思ったのかカイザーが話を切り出す。
「あの、グラスさんさすがに遅くないですか?もう集合時間ですよ?」
「そうですね……、グリーングラス様が遅刻なんて珍しい……」
「なんかあったのかな?もしかして、寝坊とか!?」
「終業式終わってすぐ言うたのに寝るわけないやろ」
そんな会話をしていると、ベンチにいた人物が立ち上がった。そのままボクたちに話しかけてくる。
「時間になったね~。じゃあ行こうかみんな~」
「ぐ、グラス!?ベンチに座っとたんグラスやったんか!?」
なんとベンチに座っていた人物はグラスだったらしい。顔が分からなかったとはいえ、ボクたちはとても驚く。驚いているボクらを尻目にグラスは自慢げに答える。
「ふふ~ん、実は誰よりも早く来てました~。パチパチ~」
グラスの言葉にカイザーが声を大にして答える。
「だったら教えてくださいよ!ビックリするじゃないですか!」
カイザーの言葉にクインが同意する。
「そうですよ!本当にビックリしたんですから!せめて一言何か仰ってください!」
2人の言葉にグラスは楽しそうに答える。
「いや~、本当は誰よりも早く着いてベンチに座ってたんだけどさ~、カイザーちゃんとクインちゃんの2人が来たんだけど私に気づいてなかったみたいで~。話しかけようと思ったんだけど面白いからこのまま黙ってようかな~って思ったんだ~。そしたら案の定面白い反応が見れたよ~」
どうやらからかい目的であえて黙っていたらしい。結果としてボクら全員が気づかなかったのだから大したものだ。カイザーとクインはグラスに怒りをぶつけており、グラスは平謝りをしている。ボクとボーイはその光景を楽しそうに見るだけだ。
しかし本来の目的を忘れてもらっては困るためボクはみんなに話しかける。
「カイザーもクインも、もうその辺にしとき。みんな集まったんや、早うお昼食べてクリスマスパーティ用のプレゼント買いに行こうや」
グラスに怒っていた2人もボクの言葉の通りだと思ったのか不承不承ながらも納得した。まだお昼を食べていないためまずはお昼を食べに行った。
ボクらはお昼を食べた後、各々プレゼントを選ぶために別れた。ボクが来たのはネックレスやイヤリングなどがあるアクセサリーショップだ。
「普段から身に着けられるし、無難やけどこの辺やな」
そう思い、何かいいものはないかと店内を見て回る。そうして店内で商品を探すこと小一時間、よさげな商品を見つけたのでこれにすることに決めた。ボクは商品を持ってレジへと足を運ぶ。無事に買うことができたので店を後にした。
店から出るとボクは意外な人物の姿を目にした。なんとショッピングモールにトレーナーがいたのだ。ボクは声を掛けようとして、止めた。
理由は1つ、彼の姿にあった。スーツ姿、まあこれはいいだろう。いつもの格好なのだから。もしかしたらまだ仕事中なのかもしれない。
だが彼は後ろにリヤカーのようなものを引いていたのだ。後ろにはおそらく彼が買ったであろう商品が大量に積まれている。リヤカー自体も結構な大きさなのに一杯に入っているとなるとかなりの重さになるはずだ。一体どうやって引いていたのだろう?
ボクが呆気に取られていると、トレーナーが立ち止まっているお店の中から1人のウマ娘が出てきた。アレはテスコガビー先輩だろうか?確か先輩は復帰戦のレースで負けて以降、サポート科へと転科しその後はリギルのサポートをしているとボーイが言っていた。ボーイは先輩がもう走らないことに悲しそうにしていたし、ハダルに所属しているカブラヤオー先輩も1週間は意気消沈していたとカイザーが言っていた。まああんなに素晴らしい走りをしていた先輩がもう走らないとなればその反応も頷けるだろう。だがどうしてトレーナーと一緒にいるのだろうか?
ボクは2人にばれないように近づいて聞き耳を立てる。周りの客の声などもあるが聞き取ることは可能だ。
「神藤さん、これで買うものは全部か?」
「そうだな、後はこれを車まで運ぶだけだ。手伝わせてしまって悪いなテスコガビー」
「気にしないでくれ、神藤さん。神藤さんにはたくさん世話になっているからな。これくらいお安い御用だ」
「そう言ってくれると助かる」
どうやら何かを買いに来たらしい。テスコガビー先輩はその手伝いのようだ。ボクはそのまま聞き耳を立てる。
「しかし、こんなに大量の食品を買ってどうするつもりなんだ?後は食器類もそうだ。何をするつもりなんだ?」
「実はな、お前んとこのトウショウボーイからクリスマスパーティを企画されてな。その場所と料理を俺が提供することになったんだよ」
「……後でキツく叱っておこう」
「いやいや、気にしないでくれ。むしろ俺としても嬉しい提案だったよ。楽しいことは大好きだからな」
「すまない、そう言ってくれると助かる」
偶然ではあるが、今日の会場が判明した。どうやらトレーナーのところでパーティをするらしい。しかしそんなスペースあっただろうか?あのプレハブ小屋はトレーナー室の隣はガレージになっているからとても食べるようなところではない。可能性としては2階にある居住スペースの隣の部屋が考えられるがそもそも夜に学園に留まるのは良くないのではないだろうか?
すごく今更な考えが頭をよぎったところでボクは2人の会話に集中する。
「良かったらお前も来るか?」
「せっかくのお誘いありがたいが遠慮しておこう。夜は私も用事があってな。行けそうにない」
「そっか。なら仕方ないな。お礼はまた別の形でやらせてもらうよ」
「別に大丈夫なのだが……。律儀だな」
「手伝ってくれたお礼くらいしないとな。俺の気が済まない」
「そうか、なら今度は私の仕事を手伝ってもらうことにしよう」
「おう!どんと任せとけ!」
そう言って2人はリヤカーを引いたままどこかへと向かっていった。その後を追いかけることはせずボクはその場に立ち続ける。
あの2人を見てただこう思った。
「トレーナーとテスコガビー先輩……相性悪う思うてたけどそないなことあらへんのやな……」
ボーイに近い気質のあるトレーナーと生真面目な先輩だと仲は良くないと思っていたのだがそんなことはないようだ。仲が良さそうで羨ましい限りである。
まあ、
(トレーナーと1番仲ええのはボクやけどな!)
と謎の優越感に浸る。本当になんでこう思ったのかは我ながら謎だ。
プレゼントも決まったということでボクは別れる前に決めた集合場所へと向かう。どうやらボクが一番乗りだったらしい。誰もいなかった。
それからしばらく待っているとボーイが来た。こちらへと手を振って向かってくる。そのまま話しかけてきた。
「早いなテンさん、もう決まったのか!」
「ん、まぁな。最初から目星つけとったからな。後は良さげなものを見繕って終いや」
「そっかそっか!オレもそんな感じだったんだけど、思ったより時間かかっちまってさ。でも2番目か、他のみんなはまだかかってるみたいだな」
「せやな。まあ気長に待とか。それはそうとボーイ」
「ん?なんだよテンさん?」
不思議そうな顔をしているボーイにボクは自分が先程聞いた会話のことを問い詰める。
「さっきトレーナー見かけたんやけど、会場はトレーナーのところらしいやないか。いつ決めたんやそれ?」
「マジ?誠司さんいたの?そりゃ会って見たかったな」
「質問に答えや、いつ決めたんや会場ンこと」
「確か……みんなを誘った後だから~、昨日の放課後だな!」
その言葉にボクは呆れる。まあトレーナーもそこまで気にしている様子はなかったし、怒るのはやめておこう。
「ハァ……、トレーナーやから良かったけど、ホンマやったらもっと前に相談しとった方がええで?」
その言葉にボーイは謝罪をするが、彼女からしても受けてくれたことは意外だったらしい。そう言ってきた。
「まあオレも正直受けてくれるとは思わなかったけどな。もしダメだったらオレの家でやるだけだったし」
「そうなんか?……まあ本人もそこまで気にしてへんかったからええか」
「そうそう!細かいこと考えるのは良くないぜ?」
「お前はもうちょい気にしろや」
そんな会話をしているとみんなが戻ってきた。どうやら無事にプレゼントを買えたらしい。みんな揃ったということで今回のクリスマスパーティの会場へと向かおうとしたのだが、まだ時間があったのでみんなでボウリングをして時間を潰すことにした。
クリスマスパーティ、今から楽しみである。
クリスマスの思い出……、ビックリするほど何も出てこない。