ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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最近暑すぎて死にそうです。


第43話 年末の出会い・時代を築いた2人

 クリスマスパーティが終わって数日が経ち、今日は年末。年末ということでトレーナーとしての仕事も少なくやることと言えば来年以降注意すべき相手のリストアップぐらいのものだった。それもすでに終わっており用務員としての仕事も今日は非番なためやることがない。

 

 

「さて、テンポイントの練習メニューも組み終わったし本格的にやることが無くなってきたな……」

 

 

 正直このまま何もせずに無気力に過ごそうかとも考えたが、どうにも身体を動かさないと落ち着かない。それに夜は車を使って遠出する予定がある。今仮眠をとるわけにはいかない。なので俺は気晴らしに外に出ようと思い外出の準備をする。

 いざ外に出てみたのはいいが、ただ目的もなく出かけたので歩いているだけだ。気づいたらショッピングモールへと辿り着く。どうやら結構歩いていたようだ。そのまま俺はショッピングモールを散策する。

 そんな俺の目に書店が目に留まる。丁度いい、何か参考になるものがないか探してみよう。

 

 

「テンポイントの練習に繋がるような本があるといいんだが」

 

 

 店内をあてもなくふらつく。そんな時、店内で見知った顔を見かけた。クライムカイザーだ。何やら沈んだ表情を見せている。体調でも悪いのだろうか?

 俺は彼女に心配そうに声を掛ける。ただ周りには他のお客さんもいるので、できる限り声を小さくする。

 

 

「やぁ、クライムカイザー。どうかしたのか?浮かない顔をしているけど」

 

 

「……あっ、神藤さん。大丈夫です、何でもないですから……」

 

 

「そうか?俺には何かあったような顔にしか見えないが」

 

 

「ほ、本当に大丈夫ですから!それでは!」

 

 

 そう言って足早に彼女は書店を後にした。俺は彼女が立ち止まっていた場所の本を見る。どうやらレース雑誌のようだ。

 俺は手に取ってレース雑誌の中身を確認する。トウショウボーイとテンポイントが中心の特集記事のようだ。確か同じものがトレーナー室にあったはずなので帰ったら確認してみよう。ただもしなかった場合を考えて俺は雑誌を購入することを決意する。

 

 

(まあもしあったとしても誰かに譲ればいいだけだしな)

 

 

 結局書店ではその雑誌とトレーニングの教本を数冊、後は何となく気になった整体の本を買って書店を後にする。

 店を出ると何やら人だかりができていた。不思議に思った俺はその人だかりの方へと向かう。

 人だかりの中心にいた顔にはとても見覚えがあった。ハイセイコーである。思わず顔をしかめてしまった。

 

 

(まさか休日にアイツに会うとは……。バレないうちに退散しよう)

 

 

 そう思い人だかりから去ろうとする。しかし時すでに遅し、向こうは俺を補足したようで笑顔を浮かべながらこちらへと向かって歩を進めていた。

 諦めて俺はその場に立ち止まる。ハイセイコーは楽しそうに俺へと話しかけてきた。

 

 

「やぁ神藤さん。こんなところで奇遇だね。あなたもお買い物かい?」

 

 

「まあそうだが……。もう用事も終わって帰るところだ。悪いなハイセイコー、じゃあこれで」

 

 

「まあ待ちたまえよ」

 

 

 そう言いながら彼女は俺の腕を掴んできた。逃げられないようにガッシリと。

 

 

「離せ。俺はもう帰るところなんだ」

 

 

「まあまあつれないこと言わないでくれよ。いいだろう?私の買い物に付き合うぐらい」

 

 

「お前と2人きりなんて嫌な予感しかしないんだよ」

 

 

「おや?神藤さんは私と2人きりだと都合が悪いのかい?それはなんでかな?とても気になるね」

 

 

 口調が完全にからかっているそれだ。何とかうまい言い訳を思いついてこの場を離れなければならない。俺は頭をフル回転させる。

 そんなやり取りをしていると誰かが話しかけてきた。

 

 

「おやぁ?ハイセイコーじゃないかぁ。こんなところで奇遇だねぇ」

 

 

「げっ、タケホープ」

 

 

 その人物の姿を見た瞬間、ハイセイコーが思いっきり顔を歪めた。とてものんびりとした口調で話しかけてきた人物とはハイセイコーにとって数少ない天敵の1人であるタケホープだ。

 トゥインクルシリーズ時代散々苦渋を舐めさせられた相手であるためかハイセイコーはタケホープのことを特に苦手としていた。その割には同じ生徒会役員として働いているのだが。仕事自体は優秀であるためハイセイコー自身助かってはいるらしい。しかし、彼女は前にこう言っていた。

 

 

『仕事が優秀だからと言って、私の中の苦手意識がなくなるわけじゃないよ。彼女は、タケホープは何というか、とにかく苦手なんだ』

 

 

 何となくその気持ちは分からんでもない。つい最近、というわけでもないがそういう気持ちを体験したのだから。

 タケホープはそのまま言葉を続ける。

 

 

「ハイセイコーも神藤さんも暇なのかい?だったらぁ、私も同行させてもらっても構わないよねぇ?3人なら神藤さんも安心だろぉう?」

 

 

「そうだな。3人なら俺は文句もない」

 

 

「急に掌を返して……!すまない、用事を思い出したから私は帰るよ」

 

 

 そう言ってハイセイコーは俺の腕を離して帰ろうとした。しかし今度はハイセイコーの腕をタケホープがガッシリと掴む。

 

 

「おやおやぁ?つれないじゃないかハイセイコー。それにさっき買い物だと言っていただろぉう?私たちと一緒に買い物をしようじゃないかぁ」

 

 

 タケホープはハイセイコーを引きずるように歩き出す。俺はその後ろをついて行く。観念したのかハイセイコーは大声でタケホープに訴えかけた。

 

 

「分かった!分かったから!せめて普通に歩かせてくれタケホープ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……!こんなはずじゃなかったのに……!神藤さんをからかって遊ぼうと思ったのにとんだ誤算だよ全く……!」

 

 

「やっぱろくでもないこと考えてたじゃねぇかお前」

 

 

「いやぁ、楽しかったねぇ」

 

 

 ショッピングモールの帰り道、日も傾きかけてきたため帰ることにした俺たちは荷物を抱えて帰路についている。ハイセイコーはやはりろくでもないことを考えていたらしく悔しそうにタケホープを睨んでいる。だが誤算の原因であるタケホープはどこ吹く風で楽しそうにしていた。

 そんな中ハイセイコーが俺に質問をしてきた。

 

 

「時に神藤さん、あなたはこの後どうするつもりだい?」

 

 

「俺か?トレーナー室に戻って仮眠をとる予定だが」

 

 

「そうか。では私にご飯を振舞ってくれたまえ」

 

 

「すげぇな。話の前後が何も繋がっていない」

 

 

 一体俺の言葉をどう受け取ったらそんな言葉が出てくるのか不思議でならない。するとハイセイコーは抗議するように俺に言ってきた。

 

 

「いいじゃないか減るものではあるまいし。それにボーイからあなたの料理は美味いと評判だからね。是非ともその腕前を見せてもらいたいのさ」

 

 

「あぁ、カイちゃんもそんなことを言っていたねぇ。なら私もご相伴に預からせてもらおうかなぁ?」

 

 

「君は帰りたまえよタケホープ。神藤さんの迷惑を考えるんだ」

 

 

「鏡見てこいよお前」

 

 

 まあ確かに減るものじゃないしご飯を振舞うぐらいはいいだろう。

 

 

「まあいいぞ。学園に戻ることになるがそれでもいいか?」

 

 

「タケホープがいるのはアレだが……、まあいい。私は構わないよ」

 

 

「いやぁ、食費が浮いたねぇ。ありがたやありがたやぁ」

 

 

 方針が決まったということで俺たちは学園へと戻ることになった。

 無事学園へと戻った俺たちはそのままトレーナー室へと向かい、俺は料理の準備に、2人はくつろいでもらうように部屋の中へ案内する。今回作るのは年末なのですき焼きだ。

 日も完全に沈んだ頃、料理が完成したので俺は2人をテーブルへと案内する。

 

 

「できたぞ。年末ということですき焼きだ」

 

 

「いいねぇ、美味しそうじゃないかぁ」

 

 

 タケホープはそう言って取り皿に具材を入れていく。入れ終わった後手を合わせていただきますをした後口にする。彼女はひとしきり頷いた後、

 

 

「うん、普通のすき焼きだねぇ。美味しいよぉ神藤さん」

 

 

褒めてるのかよく分からないことを言っていた。ハイセイコーも同意見だったらしく

 

 

「美味しいけど、普通のすき焼きだね」

 

 

と同じことを口にした。当たり前だろと前置きして俺は反論する。

 

 

「すき焼きなんて誰が作っても同じになるだろ。ホレ、新しい料理だ」

 

 

 そう言って彼女たちの前に次々と料理を置いていく。それに彼女たちは口へと運ぶ。お気に召したのか次々と口へ運んでいきすぐに空になった。そのペースに合わせるようにすき焼きの具材もなくなっていき、こちらも空になった。

 タケホープが感想を言う。

 

 

「いやぁ、噂に違わずだねぇ。いくらでも食べられそうだよぉ。ごちそうさまぁ」

 

 

 ハイセイコーもそれに続くように感想を述べる。

 

 

「確かにこれは素晴らしいね。もっと食べたくなる味だったよ。ご馳走様」

 

 

「はい、お粗末さん」

 

 

 俺は皿を片付けて2人を家に送る準備をする。その準備をしていると急にハイセイコーが話を切り出してきた。

 

 

「ところで神藤さん。どうやら書店で本を買っていたようだけど何を買っていたんだい?差支えがなければ教えてもらえるかな?」

 

 

「別に構わないぞ。買ったのはレース雑誌とトレーニングの教本、後は整体の本だな」

 

 

 隠すようなことでもないので素直に買ってきた本を広げる。するとハイセイコーはレース雑誌を手に取って不思議そうな顔をしていた。

 

 

「おや?これは同じような冊子を先程見かけたが……。同じのを買ってしまったのかい?」

 

 

「やっぱりあったのか。欲しければやるよそれ」

 

 

「いや、大丈夫だよ。ただどうして買ったんだい?」

 

 

 俺は素直に買った理由を話す。

 

 

「実は書店で偶然クライムカイザーに会ってな。沈んだ表情をしながらこの雑誌を見ていたから何か悪いことでも書かれていたのかなと思って買ったんだよ」

 

 

「さっき雑誌の中身を見た限りではクライムカイザーのことへの言及はなかったね」

 

 

 ハイセイコーは険しい表情を浮かべたままそう告げる。となるとなぜクライムカイザーは沈んだ表情をしていたのか?そう思ったのもつかの間、俺はすぐにその理由へと至る。

 

 

「……問題なのは悪いことが書かれていたことじゃない、何も書かれていないことが問題ってことか」

 

 

「だろうね。中身を見てごらん」

 

 

 ハイセイコーは言いながら雑誌をこちらへと手渡してくる。中身は一度見ているが改めて見て見ると気づく。なぜクライムカイザーが落ち込んでいたのかが判明した。

 

 

「【世代を代表する2人。トウショウボーイとテンポイント】……。雑誌の内容もこの2人を褒めているだけで他の子への言及は無し……か」

 

 

 確かにこれは堪えるだろう。自分だってダービーを制したウマ娘なのに見向きもされていないとなると落ち込むのも頷ける。それにこれが1社だけならどれだけよかっただろうか。

 俺は他の出版社の雑誌も確認する。すると案の定だった。

 

 

「……どこもかしこもテンポイントとトウショウボーイのことについての言及しかしていないな。クライムカイザーとグリーングラスについて触れているものはごくわずか。今月発売の雑誌に至っては0だ」

 

 

「TT対決……ライバル2人の頂上決戦……。そう言えば聞こえはいいがね。世間からはライバルとすら見られていないという事実がクライムカイザーには堪えたんだろう」

 

 

 すると今まで黙っていたタケホープが厳しい意見を言う。

 

 

「それは仕方ないさぁ。カイちゃんはダービー以降勝ち星はない。厳しいことを言うけど結果を出せていない以上、あのダービーはフロックだって意見が大半だからねぇ」

 

 

 ……キツい言い方をしているが、本当はこの場の誰よりも歯がゆい思いをしているのはタケホープだろう。その証拠に今にも血が出そうなほどに拳を握り締めている。それを察してかハイセイコーも何も言わない。

 

 

「まあ、この評価を覆すには勝つしかないってことだな」

 

 

「そうだねぇ。だからカイちゃんには是非とも頑張ってもらわないとぉ」

 

 

 タケホープはそう言って雰囲気を和らげた。その後も俺が買った雑誌を3人で見ていく。

 そろそろ2人を家に帰そうと思い俺は外へ出るように促す。

 

 

「もういい時間だ。送ってやるから外に出てくれ」

 

 

「ん、もうそんな時間だったか。すまないねこんな時間まで居座ってしまって」

 

 

「本当だねぇ。いやぁ、時間が経つのは早いねぇ」

 

 

 すると彼女たちは帰り支度をする。俺は車を回すためにその準備をする。

 外に出た時、今度はタケホープが質問をしてきた。

 

 

「時に神藤さぁん、風の噂で聞いた程度だけどぉ、あなたはまだテンポイントちゃんこそが最強だって信じているのかなぁ?」

 

 

 正直その質問は俺にとって愚問だ。迷わずに答える。

 

 

「当たり前だ。俺にとっての最強はテンポイント。それが揺らぐことはない」

 

 

「ふぅん?」

 

 

 明かりがあるので彼女の表情は良く見える。彼女は目を細めて俺に問いかけた。

 

 

「クラシック1個も取れないどころか有マも負けちゃったのに?それでも最強って信じられるのかい?」

 

 

「……そうだ。何が言いたい?」

 

 

 俺は彼女の物言いに苛立ちを隠せずに問いかける。すると彼女はこちらへと謝罪をしてきた。

 

 

「いや、気を悪くしたなら謝るよぉ。けれどそうなると1つ疑問が出てくるんだよねぇ」

 

 

 一呼吸置いた後、彼女は再度俺に問いかける。

 

 

「神藤さん、あなたにとって最強のウマ娘ってのは何なのかなぁ?」

 

 

「……それは」

 

 

 俺は言葉に詰まり、動揺する。今まで考えもしなかったことだ。

 最強のウマ娘。言うのは簡単だがその定義とは一体何なのか?実績?人気?走り?色々な考えが浮かんでは消えていく。何が何だか分からなくなる。

 俺の様子を見てタケホープは嘆息した。そのまま言葉を続ける。

 

 

「まあ、神藤さんと話したのは数回だけの私から言われたらムカつくかもしれないけれどもぉ、軽々しく最強って言っても薄っぺらいだけだと思うよぉ?」

 

 

「その意見には私も同意だね」

 

 

 ハイセイコーも会話に加わる。

 

 

「神藤さん、あなたにとっての最強とは一体なんだい?」

 

 

「……分からない」

 

 

 情けないが、俺はそう答えるしかなかった。ただ、俺はそれでも揺るがない事実を彼女らに告げる。

 

 

「けれど、俺にとっての最強は、1番はテンポイントだ。それが揺らぐことはない」

 

 

 俺の答えを聞いてタケホープは今度は笑いながら拍手をする。何故だ?俺は呆けた顔をしながら彼女を見ていると愉快そうに彼女は答える。

 

 

「いやいやぁ、ここまで思えるってのもすごいねぇ!そのテンポイントって子が羨ましいよぉ!ハイセイコーもそう思うだろう?」

 

 

「全くだ。妬けてしまいそうだよ」

 

 

 ハイセイコーも苦笑いを浮かべながら答える。2人にとって俺の回答は面白いものだったのだろう。

 その後彼女たちは表情を崩して俺に話しかける。

 

 

「まあ、これからじっくり探していけばいいと思うよぉ?神藤さんの思う最強のウマ娘ってやつをさぁ」

 

 

「そうだね。最強の定義は人それぞれだ。自分の中の最強をこれから探していけばいいんじゃないかな?トレーナーとしての成長にもつながると思うよ」

 

 

「……あぁ、探してみるよ。自分なりの最強ってやつを」

 

 

 その会話を終えた後、2人を車に乗せて家まで送る。2人を送った後俺はこの時間だともう間に合わないと思い、朝まで時間を潰すために車を充てもなく走らせる。

 その道中、思うことはタケホープから問われたこと。

 

 

「俺にとっての最強……か」

 

 

 今までテンポイントにお前は最強だと言っていたが、彼女たちと同じようなことを思っていたのかもしれない。ならば、最強という言葉に説得力を持たせるためにも見つける必要があるだろう。

 自分なりの最強のウマ娘の答えを。外ではどこからか除夜の鐘が鳴り響いていた。




主人公にとって色々と考えさせられた回です。彼なりの答えを見つけることはできるのか?


※最後の2人を送った後の描写を変更 8/4
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