ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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何のレースと間違えたんだ私は……(京都記念の着差)。過去話のは修正済みです。


第48話 春を迎えて

 積もっていた雪が解け桜舞う季節となったこの頃、トレセン学園では入学式を迎えていた。今年も様々な夢を持ってこのトレセン学園に入学してきた後輩たちのことを思うと心が躍る。ただ、ボクの心が躍っている理由は別にあるが。

 在学生であるボクに入学式は特に関係がないため休みとなっている。そのためいつものように練習に励んでいた。特に今月末には春の天皇賞が控えている。1日でも練習を休むわけにはいかない。そんなことを考えながら休憩に入ろうとすると

 

 

「お姉!お~ね~え~!」

 

 

とても聞き覚えのある声が誰かを大声で呼んでいた。この声でお姉と呼ぶということは間違いなくあの子だろう。

 

 

「キングス!入学おめでとさん!待っとったで!」

 

 

 ボクはこっちに向かって走ってくるキングスを抱きとめる。ただ向こうの方が体格が大きいため少しキツいが。

 ボクの心が躍っていた理由は妹であるキングスポイントの入学のことだ。無事に試験を合格したらしく、今年晴れてトレセン学園に入学することができたのだ。ボクにとっては可愛い妹、合格の報せを聞いた時は我が事のように喜んだ。

 トレセン学園の制服を身に包んだキングスの姿をじっくりと見る。我が妹ながら可愛い。キングスはそのまま嬉しそうにこちらへと話しかける。

 

 

「お姉!どうかな?あたし制服似合う?似合ってるかな?」

 

 

「むっちゃ似合っとるで!ホンマかわええなぁキングス」

 

 

「えへへ。勉強頑張った甲斐があったし!」

 

 

 そう言って屈んでいるキングスの頭を撫でる。キングスは気持ちよさそうに目を細める。トレーナーもこちらの邪魔をしないためか少し離れた位置に立っていた。トレーナーの顔は微笑ましそうなものを見ている顔だった。

 そのまま頭を撫でているとキングスは何かを思い出したかのような顔をした後、こちらに話しかけてくる。

 

 

「そうだお姉!京都記念と鳴尾記念の連勝おめでとうだし!この調子で春天も楽勝だし!」

 

 

 キングスからのお祝いの言葉にボクは微妙な感情になる。思わず顔に出そうになったが踏みとどまってキングスにお礼を言う。

 

 

「あぁ~……、ありがとなキングス。せやな、このまま春天制覇や」

 

 

 しかしどうやら顔に少しだけ出ていらしくキングスは怪訝な顔をしながら尋ねてきた。

 

 

「あれ?お姉あんま嬉しそうじゃないし。何かあったし?」

 

 

「いや、そういうわけやないんやけど……」

 

 

 ボクは困ったことになったと思った。会話が聞こえていたのかトレーナーも苦笑いを浮かべてこちらを見ている。

 確かにボクは2月の京都記念と3月の鳴尾記念を連勝した。それは事実だ。しかし素直に喜べないレースだったのだ。その理由は着差にある。2レースとも2着とクビ差の接戦だったことだ。

 別に自分の強さに慢心しているわけじゃないが、もう少しやれたんじゃないだろうか?というのがボクとトレーナーの見解だ。特に有マ記念以降ボーイに勝つことを目標としている以上、このまま慢心しているわけにはいかない。彼女は強いウマ娘だから。

 そんな事情を知らないキングスは無邪気な笑顔のままこちらへと話を続ける。

 

 

「まあでもお姉なら心配ないし!あのトウショウボーイって奴も楽勝だし!」

 

 

「あぁ~……それは、なんとも……」

 

 

 痛い、妹からの純粋な尊敬の視線が痛い。ボクが勝つと信じて疑わない妹からの視線がとても痛い。ふとトレーナーの方へと視線を向けるとしきりに頷いていた。キングスの意見に同調しているのかもしれない。

 キングスの視線に耐えられなくなったボクは無理矢理にでも話題を変える。丁度良く入学式の日だ。ボクは気になっていることを質問する。

 

 

「せや!キングス、トレセン学園で仲良うしてくれる友達はおりそうか?お姉はそれが心配で心配で……」

 

 

「友達?それなら心配はいらないし!初日から早速できたし!」

 

 

 その言葉にボクは驚く。離れた位置のトレーナーも驚いた表情をしていた。それはそうだろう。人見知りが激しいキングスが初日から友達を作るなんてお母様が聞いても驚くだろう。

 ボクは驚きを隠せないままキングスに聞き返す。

 

 

「そ、それホンマか?嘘やないよな?」

 

 

 するとキングスは自信満々に答える。

 

 

「嘘じゃないし!何なら今こっちに向かってるし!」

 

 

 そう言って彼女は練習場の外の方へと視線を向けた。ボクもそちらへと視線を向ける。するとこちらへと走ってきている数人のウマ娘がいた。彼女たちがキングスの言っていた友達だろうか?

 キングスが友達といった彼女たちはボクの姿を見ると感嘆の声を上げる。そのままボクへと嬉しそうに声を掛けてきた。

 

 

「あ、あの!失礼を承知でお伺いしますが本物のテンポイント様でしょうか!?」

 

 

 なんだろうか、圧が凄い。ボクは少し気圧されながら答える。

 

 

「う、うん。ボクがテンポイントやけど……」

 

 

 すると彼女たちは黄色い歓声を上げた後感極まったような声でそれぞれ呟く。

 

 

「ほ、本物のテンポイント様だわ……」

 

 

「ど、どうしよう!?ウチ変じゃないかな!?」

 

 

「あぁ、私もう死んでもいい……ッ!」

 

 

「ダメよ!これからもテンポイント様を応援するために生きなさい!」

 

 

 ……この反応はとても見覚えがある。おそらくだが彼女たちはボクのファンなのだろう。ファン交流イベントなどで見たことがある反応だ。

 ボクはまだ若干気圧されながらもキングスへと質問する。

 

 

「キングス、この子たちが言うとった友達か?」

 

 

「そうだし!みんなお姉の魅力が分かるいいやつらだし!」

 

 

 キングスはとても嬉しそうに答える。ボクは何とも言えない気持ちになった。

 

 

(キングスに友達ができたんは嬉しいけど……。まさかのボクのファン繋がりやったんか……)

 

 

 思えば、人見知りなキングスが誰かと関わろうとするならばボク関係の話題に食いつくぐらいだろう。嬉しいのやら恥ずかしいのやらよく分からない感情になる。

 そんなことを考えていたら、キングスの友達の内1人がこちらへと近寄ってきた。

 

 

「あ、あの!テンポイント様!」

 

 

「なぁ、様は止めてくれへん?せめて先輩て呼んでくれへんか?」

 

 

 しかし彼女は様呼びを継続したまま話しかける。

 

 

「テンポイント様!ご、ご、ご迷惑でなければ握手してもらえませんか!?」

 

 

「あ、握手?まあそれぐらいかまへんけど……」

 

 

 そう言ってボクは手を差し出して近づいてきた彼女と握手をする。すると握手をした彼女はその場へとへたり込んでしまった。ボクは驚いて声を掛ける。

 

 

「ちょお!?大丈夫か自分!?」

 

 

「あ……ッ!あ……ッ!私、中央に入学できて良かった……ッ!」

 

 

(たかが握手で!?)

 

 

 ボクは戦慄した。まさか握手でここまで言ってくれるとは思ってもいなかった。するとボクが握手をしている姿を目にしたのか、他の子たちが口々にボクにお願いしてくる。

 

 

「あっ!抜け駆けなんてずるい!」

 

 

「テンポイント様!私とも、私ともお願いします!」

 

 

「いや、握手くらいなんぼでもしたるけど……。そないに嬉しいか?」

 

 

「「「勿論です!」」」

 

 

 彼女たちは息を揃えて答える。

 どうやらちょっと、かなり、大分個性的な友達らしい。そう思ってしまったボクは悪くないはずだ。

 そんなことをしているとキングスはボクのトレーナーの方へと走っていき何やら会話をしていた。丁度いい。キングスがいる間には聞けないと思ったことがあったのだ。ボクはこの機会を逃すまいと彼女たちへと質問する。

 

 

「なぁ、ちょいええか?」

 

 

「はい!なんでもお申しつけください!テンポイント様の質問ならなんでも答えます!」

 

 

「いや、別にそない大したこと聞く気はないから」

 

 

 ボクは気になったことを彼女たちに問いかける。

 

 

「あんま疑うような真似はしたないんやけど……、ホンマにキングスと友達になってくれたんか?あの子のお姉としては心配でな……」

 

 

 そう聞くと彼女たちは一様にキョトンとした表情を浮かべていた。そのままボクへとそれぞれの考えを答えてくれた。

 

 

「え?まだちょっとしか接していませんけどキングスちゃんっていい子じゃないですか?」

 

 

「だよね。ウチらの会話を聞いても気持ち悪がらずに接してくれてるし。それにテンポイント様が大好きなのも伝わってきましたし」

 

 

「それになんだかほっとけないじゃないですか、キングスちゃん」

 

 

「だからテンポイント様が心配するようなことは何もないですよ」

 

 

「それにキングスちゃんがテンポイント様の妹ってのも今知りましたし」

 

 

「そうそう!マジビックリ!」

 

 

「でもでも~?」

 

 

「そんなの関係ない!ってね」

 

 

 そう言って彼女たちは笑いながら答えてくれた。どうやら嘘ではなく本心で言っているようだ。

 

 

(良かった……。これなら大丈夫そうやな……。キングスも悪う思うてないみたいやし)

 

 

 心配するようなことはなかったとボクは安堵する。そのまま彼女たちにお願いする。

 

 

「良かったら、あの子と仲良うしてくれると嬉しいわ。ボクんこと抜きにしてもな」

 

 

 彼女たちは元気よく答える。

 

 

「「「勿論です!テンポイント様!」」」

 

 

 相変わらずの様付けだがこれなら心配はいらないだろう。

 キングスとトレーナーの会話はどうなっただろうか?そう思いトレーナーの方へと顔を向けるとあちらも丁度話が終わったらしくキングスがこっちへと戻ってきていた。キングスはとてもいい笑顔を浮かべているが何かいいことでもあったのだろうか?気にはなるが追及することでもないと思ったボクは何も聞かないことにした。こちらに戻ってきたキングスに彼女たちを大事にするように言う。

 

 

「キングス。せっかくの仲良うしてくれる友達や。大事にするんやで」

 

 

「勿論だし!」

 

 

 キングスは元気よくそう答えた。これなら大丈夫だろう。

 そのままキングスは友達を連れて学園の方へと戻っていった。寮の方で荷造りをするらしい。ボクは彼女たちを手を振って見送る。手を振るボクの姿にまた黄色い歓声が上がるがもう気にしないことにした。

 トレーナーがこちらへと近づいて話しかけてくる。

 

 

「あれなら、キングスのことは心配なさそうだな。みんないい子たちそうだし」

 

 

「せやな。心配せんでもよさそうや」

 

 

 彼女たちが去った後、練習を再開するために準備をする。すると不思議なことに肩が軽くなったように感じた。もしかしたら気づかぬうちに気負いすぎていたのかもしれない。彼女たちと話したことで気が楽になったのだろう。その後の練習はとても調子が良かった。




個性的な友達が増えたよやったねキングスちゃん
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