ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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春のファン大感謝祭をテンポイントとトレーナーが見て回る話。


第49話 春のファン大感謝祭

 入学式も終わってしばらく経ち、トレセン学園では春のファン大感謝祭が開催されていた。秋にある聖蹄祭とは違い、こちらは通常の学校の体育祭の側面が強い。普段は平地で走ることを主としているボクたちだがこの日は違い球技や駅伝などあまり触れる機会のないスポーツ種目が各場所で行われている。また、スポーツ系が中心とはいえ聖蹄祭同様お店を出店しているチームも勿論ある。ボクのところも出店側の1人だ。

 

 

「今度はたこ焼きかいな……。しかもむっちゃ美味いのが腹立つ……」

 

 

「テンポイント、2パック出来上がったぞ」

 

 

「はいはい」

 

 

 聖蹄祭の時のようにトレーナーに駆り出されたボクは今度はたこ焼き屋として売り子をしていた。別に誰とも回る予定はなかったので暇と言えば暇だったからいいのだが。

 ボーイはリギル主催の、カイザーはハダル主催のものが別々にあったので一緒に回ることはできないと前もって言われていた。グラスはと言うと最近スピカにも新入部員が入ってきたらしく、チームで何かをする予定らしい。暇ができたらそれぞれのところに行ってみるのもいいかもしれない。

 当初はキングスと回ろうとも思ったのだが先日の友達みんなと仲良さそうに回っている姿を見て邪魔してはいけないと思い誘うのは止めた。楽しい学園生活を送れているようで姉としては嬉しかった。

 最後にトレーナーに声を掛けたのだがその結果が今の状況である。トレーナーが作るたこ焼き屋の売り子として精を出す羽目になった。まあバイト代に加えて好きなものを何でも作ると言われて手伝うと即決したボクも悪いのだが。

 お店の方はと言うと大盛況である。トレーナーがSNSでボクが売り子をしているということを宣伝していた効果とトレーナーが作るたこ焼き自体が美味しいと評判になっていることもあり先程からお客さんがひっきりなしに来ている。お客さんの反応はというと

 

 

「うわぁ……!本物のテンポイントだぁ!」

 

 

「ホントにたこ焼き売ってる~!」

 

 

「すいません、たこ焼き2パックください!」

 

 

「店員さん、たこ焼き買った数に応じて特典みたいなものはないんですか!?」

 

 

「うちはそういうのやってないんで諦めてくださいね」

 

 

上々である。たまに大量に買うから写真を撮らせてくれだの勝手に撮ろうとする輩もいるのだがそれにはトレーナーが逐一対応していた。近くに警備役としてテスコガビー先輩を配置しているため勝手に撮影した場合先輩に捕縛されて他の警備員に連行されていく。先輩はリギルの方はいいのかと聞くと

 

 

「ちゃんと東条トレーナーからは許可は取ってある。それに神藤トレーナーにはお世話になってばかりだから少しでも恩を返したくてな。リギルは人手も足りてるだろうから大丈夫だ」

 

 

大丈夫らしい。ならボクからこれ以上何か言うことはないだろう。

 そうしてたこ焼きを売っていきたまに現れる不埒な輩を先輩が成敗する時間が過ぎていく。お昼になる頃にはもう完売していた。周りはまだ売っているのを見ると驚きの速さである。

 トレーナーはエプロンを外してボクに話しかけてる。

 

 

「さて、完売したからもう終わりだ。後は自由に回っていいぞテンポイント。お疲れ様」

 

 

「あぁ~……、やっと終わったわ……」

 

 

 開催と同時からお客さんがひっきりなしに来ていたためかなり疲れた。ボクは伸びをする。そんなボクに先輩がドリンクを差し入れてくれた。お礼を言って受け取る。

 ドリンクを飲んでいるとトレーナーがボクに質問してきた。

 

 

「テンポイントはこの後どうするんだ?またみんなと見て回る予定か?」

 

 

 聖蹄祭の時がそうだったのでまたみんなと見て回ると思ったのだろう。ボクはトレーナーの質問を否定する。

 

 

「いや、みんな予定ある言うてたから一緒には回れへんな。この後もなんもすることないし適当にどっか見て回ろ思うてるわ」

 

 

「そうか。せっかくのファン大感謝祭なのに1人ってのは寂しいな」

 

 

 確かにそうだが。しかし今から誘おうにも手の空いている人物はいるのだろうか?そんなことを考えているとテスコガビー先輩が不思議そうな顔でこちらへと提案してきた。

 

 

「テンポイントと、神藤トレーナーの2人で回ればいいのではないか?お互いに暇だったらの話になるが」

 

 

 先輩の言葉にボクとトレーナーはお互いに驚いた表情をしていた。おそらくだが考えていることは一緒だろう。ボクとトレーナーの声が重なる。

 

 

「「その手があったか!」」

 

 

「……普通真っ先に思いつくようなことではないか?」

 

 

 先輩は呆れ顔だがボクはトレーナーに暇かを聞く。

 

 

「トレーナー!この後時間大丈夫なんか!?」

 

 

「勿論暇だ!よっしゃ、2人で屋台制覇するぞ!」

 

 

「「おーっ!」」

 

 

 この瞬間、ボクのこの後の予定はトレーナーと一緒に感謝祭を見て回ることになった。先輩はやることは終わったと告げて別行動になる。おそらくだがリギルの方へと戻るのだろう。別れを告げてボクたちは別々の方向へと歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋台を見て回り食料を買い込んだボクたちは練習場の方へと足を運ぶ。途中で配布されていたプログラムによるともうすぐリギルによる障害物競走が行われるらしい。面白そうなので見に行くことにした。

 練習場に着くと丁度始まるところだったらしい。ボクらはスタンド席の最前列へと移動した。走者が横一列に並んでいる。その中にはなんとハイセイコー先輩がいた。

 旗を持っているリギルの部員のコールによって一斉にスタートする。コースはトラック1周分。障害は色々あり、飴食い競争・コスプレ競争・借り物競争が複合したものみたいになっている。障害競走と呼べるものではないかもしれないが、お客さんを最大限楽しませようとした結果なのかもしれないというのがトレーナーの見解だ。ボクもそれに同意する。

 走者が最初の障害である飴の障害に入ったところでトレーナーは呟く。

 

 

「あいつがやたらと俺に見に来るように誘っていたのはこれが理由か……」

 

 

 ボクはそれを聞き逃さず、トレーナーに質問する。

 

 

「なんやトレーナー。ハイセイコー先輩から誘われてたんか?」

 

 

 トレーナーはボクの質問に答える。

 

 

「誘われていた、と言うよりはこの障害物競走は絶対に見に来てくれ。とだけは言われていたな。何を考えているのかは分からんが……」

 

 

「警戒しすぎとちゃうか?」

 

 

「あいつ相手には警戒しすぎるぐらいが丁度いい」

 

 

「今まで何されてきたんやホント」

 

 

 そんな会話をしていると走者は2つ目のコスプレ競争へと移っていた。一番最初に飛び出してきたのはハイセイコー先輩である。すでにトゥインクルシリーズを半ば引退している人だがその走りはやはり一級品だ。そんなハイセイコー先輩の衣装はと言うと

 

 

「王子様風の衣装だな」

 

 

「せやね。黄色い歓声が上がっとるわ、主に女性の人から」

 

 

おとぎ話に出てくる王子をモチーフとしたコスプレだった。とても似合っている。会場のあちらこちらから悲鳴にも似た歓声が上がっている。そしてハイセイコー先輩に続くように他の走者も飛び出してきた。それぞれの衣装はイロモノだったり正統派な衣装だったりと様々だ。

 最後の借り物競争へと舞台は移る。ハイセイコー先輩は封筒を1枚取って中身を確認する。確認が終わったのだろうか会場を見渡していた。

 すると最前列に立っているボクらと目が合った瞬間、猛然とこちらへと走ってきた。表情は見えていないが目的のものはこちらにあるのかもしれない。ボクは辺りを見渡す。そして1つの可能性に思い立った。

 

 

「……ハッ!まさか、ボクが持っとる食べ物!?」

 

 

「多分違うと思うぞ」

 

 

 トレーナーからのツッコミが入る。まあこちらに来たら分かることだろう。

 そう思っているとハイセイコー先輩はボクらの目の前で立ち止まった。とてもいい笑顔でトレーナーのことを見ている。そして開口一番、

 

 

「私と一緒に来てくれるかな?神藤さん」

 

 

トレーナーにそう告げて片膝をついて跪く。ポーズだけ見たら求婚のそれだ。周りの人たちからまた黄色い悲鳴が上がる。肝心のトレーナーの表情はと言うと苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 

 

「……これが狙いか、ハイセイコー」

 

 

「はて?何のことでしょうか?さぁ、私の手を取って。ともに参りましょう!」

 

 

 やたらと芝居がかった口調でトレーナーに同行を求めてくる。ボクはその光景を見ながらトレーナーに告げる。

 

 

「ええんちゃうか?トレーナー。先輩の目的はトレーナーみたいやし、一緒に行けばええやろ?」

 

 

「……まあそうだな。分かった、ハイセイコー。どこへでも連れていけ」

 

 

「いや、連れてかれるのはゴールやろ」

 

 

 トレーナーはそう告げるとハイセイコー先輩は笑みを浮かべたままトレーナーへと手を伸ばす。手を取って走っていくのだろうか?

 そう思った次の瞬間、先輩はトレーナーに足払いをすると倒れそうになった身体を抱きかかえる。お姫様抱っこだ。創作でしか見たことないようなものにボクは呆然となる。トレーナーも唖然とした表情をしていた。何かを言うこともできずに先輩はゴールへと駆け出して行った。

 ゴールでの様子を見守っているとどうやら合格だったらしい。1着はハイセイコー先輩だというアナウンスが入った。会場からは拍手が飛ぶ。先輩はその拍手に応えるように手を振っていた。

 しばらくしてトレーナーがこちらへと戻ってくる。その表情は呆れていた。一体どんなお題だったのだろうか?トレーナーに聞いてみると素直に答えてくれた。

 

 

「……あなたが気になってる人物だとよ。けどお姫様抱っこで運ぶ必要はねぇだろ。アイツ完全にこれが狙いだったな」

 

 

「……トレーナー、ちなみに嬉しかったりしたん?」

 

 

「んなわけねぇだろ」

 

 

 ボクの質問をトレーナーは一蹴した。それはそうだろう。いくらウマ娘とはいえ男が女にお姫様抱っこされて嬉しいことは普通ない。逆ならともかく。

 その後は周りからの好奇の視線に耐えきれなくなったトレーナーに連れられて別の場所へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に向かったのはハダルの出し物だった。まあグラスのいるスピカの出し物はどこを探しても見当たらなかったので友達の場所を回るのはここが最後になるだろう。トレーナーに続いて教室を改造した店内へと入る。

 どうやら和風をモチーフにした喫茶店らしい。席に案内されメニューを見ると団子や羊羹と言った和のお菓子で統一されていた。飲み物も抹茶などで統一されている。注文するものが決まったボクはトレーナーの方へと目を向ける。すると向こうも決まったようで店員さんを呼んだ。

 

 

「すいませーん、注文よろしいですかー?」

 

 

「はーい!ただいまー!」

 

 

 聞き覚えのある声だ。そう思い店員さんの顔を見ると案の定カイザーだった。和風喫茶というコンセプトに合わせているためか和服を着こなしている。時代劇でよく見る給仕のような格好だ。着物は彼女の髪色に近い黒色を主としておりとてもよく似合っている。向こうもこちらに気づいたのか嬉しそうな声を上げる。

 

 

「神藤さん、テンポイントさん!来てくださったんですね!」

 

 

「こっちはもう閉店したからな。寄らせてもらったよ。注文はみたらし団子と抹茶の団子を1セットずつ。抹茶を2つでお願いします」

 

 

「似合っとるやんカイザー」

 

 

「えへへ、ありがとうございます!みたらしと抹茶の団子を1セット、抹茶を2つですね!ただいまお持ちいたします!」

 

 

 注文を受け取るとカイザーは裏の方へと走っていった。その光景を微笑まし気にボクは見る。最近暗いことが多いカイザーだったが元気にしているようで何よりだ。

 しばらく待っているとカイザーが注文の品を運んできた。

 

 

「ごゆるりとお寛ぎください!」

 

 

 一言告げて新しいお客さんの方へと走っていく。盛況のようで何よりだ。そのままボクたちは団子を食べ始める。食べたトレーナーは一言呟く。

 

 

「次の聖蹄祭は団子でも売るか……。しかし作ったことがあまりないからな。どこかで本格的に習うか……?」

 

 

「お願いやから止めてくれトレーナー」

 

 

 ……どうやらお気に召したらしく、本格的な団子を作ろうとよからぬことを画策しようとしていた。ボクは全力で止める。冗談だと思うかもしれないがトレーナーなら本気でやりかねない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後もトレーナーと2人でファン感謝祭を見て楽しく回っていた。しかし楽しい時間と言うものはあっという間で終了のアナウンスが流れる。学園内にいる一般の人たちは続々と帰っていく。その光景をボクたちは見ていた。

 トレーナーは呟く。

 

 

「終わっちまったな。ファン感謝祭」

 

 

「せやなぁ。楽しい時間っちゅうんはあっという間やわ」

 

 

「屋台全部制覇は、来年にお預けだな」

 

 

「そん時は店出さんで最初から回った方がええんちゃうか?」

 

 

「いや、効率よく最速で回ればあるいは……」

 

 

「店出さなええ話やろ……」

 

 

 気が早いが来年以降のファン感謝祭の話をし始める。けれど忘れてはならない。もう少しで天皇賞春が開催されることを。ボクにとっては絶対に負けられない戦いが始まることを。

 トレーナーもそれが分かっているのか話題を変える。

 

 

「それよりもまずは春天だな。トウショウボーイが出走を回避したから借りを返せないのは残念だが……それでもグリーングラスとクライムカイザーは出走してくる」

 

 

「せやな。2人には先着はしても優勝はしてへん。やから春天は絶対に獲る」

 

 

 そしてぼくは宣言する。

 

 

「証明したるわ。いっちゃん強いんはボクやって事を」

 

 

 ……正直言って虚勢に近い宣言だ。本当に2人に勝てるのか?クラシックのように負けたりしないだろうか?不安でたまらない。それでも勝つことを誓う。

 ボクの不安な気持ちが伝わってきたのかは分からないが、トレーナーはボクの背中を軽く叩く。エールを送るかのように。

 

 

「頑張れよテンポイント。お前は強い、俺が保証する」

 

 

 その言葉に少し救われる。けどボクはからかうように答える。

 

 

「新人のトレーナーに言われてもなぁ。ちょい不安やわぁ」

 

 

「……そうだけどさ。これだけは覚えててくれ。俺はいつでも、どんな時でもお前が勝つって信じてることをな」

 

 

 嘘か本当なのかは分からない。けれどその言葉に気分は軽くなったのは確かだ。トレーナーにお礼を言いながら寮へと戻っていく。

 春の天皇賞まで、あともう少し。




お盆休みに入ったので最初の話の方を順次改稿していこうと思っています。
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