ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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天皇賞・春本編。


第50話 雪辱を果たすため

 4月末の京都レース場。今年もこの日を迎えることができた。天皇賞・春。トゥインクルシリーズのG1最長距離を誇るこのレースが始まる時を観客たちは今か今かと興奮を抑えきれずにいる。そんな時、実況と解説のアナウンスが入る。

 

 

 

 

《今年もやってまいりました!唯一無二の春の盾をかけた戦い天皇賞!果たして栄光を手にするのはどのウマ娘か?天気は生憎の曇り空、バ場の状態は稍重と発表されています。これがレースにどう影響するか?今地下バ道を通って続々とウマ娘たちが入場してきています!》

 

 

 

 

 パドックでの紹介も終わり、ウマ娘たちはターフの上で各々準備運動をしている。観客たちがウマ娘たちを見守る中、実況からのウマ娘の紹介が入る。

 

 

 

 

《今回出走するウマ娘は14人。まずは3番人気のウマ娘の紹介から入りましょう。3番人気はゴールドイーグル!前走マイラーズカップ、前々走の大阪杯では見事に逃げ切り勝ちを決めました!今回の天皇賞でも逃げを宣言しています。枠番も1枠1番と逃げるにはうってつけの枠番です!》

 

 

《ここ2戦を連勝して調子を上げてきているウマ娘ですね。天皇賞での逃げ切り勝ちと言えば昨年のエリモジョージを思い出す人も多いでしょう。頑張ってほしいですね》

 

 

《続いて2番人気の紹介です。2番人気は2枠2番グリーングラス!昨年の菊花賞ウマ娘、重賞未勝利での菊花賞制覇はいまだに記憶に新しい人が多いでしょう!年明けのアメリカジョッキークラブカップでのレコード勝ちを引っ提げての本レース、果たしてどのようなレースを展開するのか!》

 

 

《菊花賞での勝利をフロック視する人々も多い中でのレコード勝ち。決してまぐれではないことを証明しました。前走の目黒記念は惜しくも2着に敗れています。ただ、パドックでの調子はあまり良くなさそうに見えました。調整不足でしょうか?少し不安が残ります》

 

 

《さぁさぁ!そして迎えました1番人気!1番人気は勿論このウマ娘!6枠10番テンポイント!昨年の成績は決していいと呼べる内容ではありませんでした。しかし今年は違うぞと言わんばかりに京都記念と鳴尾記念を連勝!おそらく皆様が1番期待を寄せているウマ娘でしょう!私もその1人です!》

 

 

《TT世代と評されました昨年のクラシック戦線。その理由はやはり有マ記念の影響が大きいでしょう。シニア級相手に突出した実力を見せつけた2人の内の1人です。ライバルであるトウショウボーイは出走を回避して不在の今レース。しかし菊花賞で敗北したグリーングラスに雪辱を晴らしたいところです》

 

 

《他にも菊花賞ウマ娘コクサイプリンス、TT世代のダービーウマ娘クライムカイザーなど錚々たる顔ぶれ!勝利の女神はどの子に微笑むのか!?各ウマ娘がゲートへと入っていきます!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都レース場のターフの上。ついにこの日を迎えた。ボクはそう思いながらウォーミングアップをしている。自分のお気に入りのウマ娘を応援する声、実況による各ウマ娘の紹介。その声を聞きながら。

 入場する前にトレーナーと立てた作戦を確認するように思い出していく。

 

 

(最重要で警戒するんはグラス……。特に菊花賞でのことがあるからな。もう絶対に油断はせぇへん。ただ他がおざなりになるんはNG。それと大事なんは自分のペースを乱さんこと……。そしたら絶対に勝てる言うとった……)

 

 

 そう思っているとグラスが視界に移った。彼女もウォーミングアップをしている。しかしあまり調子は良くなさそうだった。何かが気になるのか口元に手をやっている。真意は分からないが警戒の手は緩めない。

 ただトレーナーは最重要でグラスを警戒すべきとは言っていたがカイザーに関しては何も言ってこなかった。そのことを問い詰めるとこう答えた。

 

 

『クライムカイザーに長距離に対する適正はない。菊花賞も入着こそはしたが最後には力尽きている様子があったからな』

 

 

 トレーナー曰くこの距離でカイザーを警戒する必要はあまりないと言っていた。むしろあまり多くのウマ娘を警戒しすぎて注意力が分散しすぎないようにしろと助言された。

 幸いなことにボクの調子はいい。後はこの脚が最後まで持つかどうかにかかっている。

 

 

(いまだに骨膜炎はボクを蝕んどる……。やけど、もう負けるんは嫌や!絶対にボクが勝つ!)

 

 

 ボクはそう気合を入れなおす。そしてゲートに入る順番が来たのでゲートの中で出走開始の時を待つ。この天皇賞、勝つのはボクだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《各ウマ娘がゲートに入りました。出走の瞬間を大勢の人が待ちわびています。G1レースで最長距離を誇る春の天皇賞、見事1着でゴールし春の盾を賜るのはどのウマ娘か?天皇賞・春が今……》

 

 

 

 

 実況からのアナウンスが入る。京都レース場は出走の瞬間を待つかのように静寂に包まれていた。少しの静寂の後、ゲートが開く。ゲートが開いたとともに各ウマ娘が一斉にスタートする。

 

 

 

 

《スタートです!》

 

 

 

 

 激戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

《まずハナを取ったのはゴールドイーグル宣言通り逃げに出ましたゴールドイーグルがペースを握ってその差を2バ身3バ身と広げていきます。2番手は最内にグリーングラス、ケイシュウフォードその外にコクサイプリンスとホシバーシが上がってきています。この4人が2番手の位置につけて集団を形成している。2番手集団から1バ身程離れた位置にテンポイント、テンポイントは丁度6番手の位置で様子を見る形です。さらにタイホウヒーローとグランプリウマ娘イシノアラシもこの位置です》

 

 

《グリーングラス今回は先行気味に立ち回る展開を見せていますね。果たしてどのような思惑があるのか?ゴールドイーグルも上手く先頭に立つことができました。ここからペースを握っていきたいところ》

 

 

《先頭ゴールドイーグルはこれから1周目の第4コーナーのカーブへと迫っていきます。ゴールドイーグル快調に飛ばしてその差を広げているリードは4バ身から5バ身といったところ。2番手にはホシバージが上がってきました。その後ろ1バ身程遅れて外にコクサイプリンス、内にケイシュウフォードが3番手の位置につけている。内のケイシュウフォードの後ろにグリーングラスがつけている。テンポイントは変わらず6番手の位置。スーパーフイルド、イシノアラシ、タイホウヒーローこの4人が中団を形成する形。後方にはホクトボーイとクライムカイザーが控えている》

 

 

《ゆっくりとしたペースで進んでいきますね。ここからの展開が気になるところ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スタートはいつも通り良好。ボクは焦ることなくレースを展開する。今回トレーナーと決めたことはグラスをマークすることだ。やはり菊花賞で苦渋を舐めさせられた相手ということに加えてステイヤータイプの彼女。このレースに置いて最も警戒すべき相手だということで2人でグラスをマークする作戦を立てていた。

 しかし、後ろで様子を窺っていたのだがどうにも走りづらそうにしている。というよりいつもは中団に控えている展開が多いのに今回は前の方でレースを展開していた。何かの作戦だろうか?ボクは警戒を強めるが、トレーナーからの言葉を思い出し冷静になる。

 

 

『いいか?テンポイント。今回のレースは自分のペースを維持して走ることを忘れるな。今回の出走メンバーとお前の調子を鑑みれば自分のペースを崩さない限り負けることはない』

 

 

 相変わらずトレーナーはボクの強さを信じてくれている。クラシック戦線では不甲斐ない成績だったのにも関わらずだ。本心なのかお世辞なのかは分からない。お世辞だとは思うが、ボクは嬉しくなった。けれど、なんか悔しいので代わりにトレーナーを軽めに小突いた。

 余計なことまで思い出したが、トレーナーはこのレース負ける要素はほぼないと断言していた。だからこそ大事なのはペースを乱さないこと。頭の中を常に冷静に保ちながらレースを展開する。

 1周目のスタンド正面へと入る。ボクはまだ6番手の位置をキープし続けていた。レースの展開としてはゆっくり目。この展開になると警戒すべきはクライムカイザーのような追い込みのウマ娘だろう。

 

 

(前につけとるグラスは相変わらずラチ沿いに走っとる……。もしもに備えて外に抜け出すんもありやな……)

 

 

 有マ記念では外に出る判断が遅れたせいで負けた。それと同じ轍は踏むまいといつでも外へと交わせるように最内ではない進路を選ぶ。内には1人、外には2人いるが外にいた2人はペースを上げて先頭集団に着けようとしている。これで進路の確保は容易になった。だが今外に出るのではなくまだ内をキープするように走る。

 今のところ、自分のペースを維持しながら走ることができている。残る不安要素は脚。菊花賞では痛みで外にヨレてしまった。今度は同じ轍を踏まない。

 

 

(例え痛みが襲っても、意地でも踏ん張ったる!)

 

 

 そう心に誓いながらボクはスタンド正面を抜けて第1コーナーへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……各ウマ娘がスタンド正面を抜けて第1コーナーのカーブへと入っていきます。先頭は依然ゴールドイーグルしかしその差はなくなってきたか?2番手にはホシバージがつけています2番手はホシバージ。グリーングラスが上がってきました。内を回ってケイシュウフォードその後ろにコクサイプリンス。コクサイプリンスの後ろ内からテンポイントが来ました。1番人気テンポイントは内から上がっていきます》

 

 

《テンポイントは6番手をキープし続けていますね。無理に前で争うより自分のペースを維持することを目的としているか?》

 

 

《内で様子窺うテンポイント。その後ろをスーパーフイルドとイシノアラシが続きます。イシノアラシから遅れること3バ身から4バ身程の位置にタイホウヒーロー。その外からクライムカイザーが上がってきました。第2コーナー手前の位置からダービーウマ娘クライムカイザーが徐々にペースを上げてきています。どう見ますかこの展開?》

 

 

《おそらくテンポイントを警戒しているのでしょう。最後の直線で彼女が先頭に立った場合のことを考えてか、できるだけ前の位置をキープしたいと考えているのかもしれません》

 

 

《成程。っと先頭はすでに第2コーナーを回って向こう正面へと入ります。先頭はゴールドイーグルとホシバージの2人。2人が競り合っています。そこから2バ身遅れること内からケイシュウフォード、その外にグリーングラスがつけています。常に内を走ってきたグリーングラス向こう正面では外につけている。この4人から1バ身程離れた位置にテンポイント。テンポイントが5番手に上がっています。しかし内からイシノアラシが徐々に差を詰めてきている。すでに向こう正面の中盤へと差し掛かろうかというところ。先頭集団にいたコクサイプリンスは徐々に、徐々に後退していっているこの位置まで下がっているぞ。クライムカイザーが外から上がってきて後方から中団へ、そして先団へと上がってきている。それを追うように後方にいたウマ娘たちもペースを上げてくる!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 向こう正面に入って今は5番手だろうか?内に控えているのはイシノアラシ先輩、前にはグラスがいる。

 ここまでボクはグラスをマークしていったが、第1コーナーを回った辺り、レース前から抱いていた疑問が確信に変わった。グラスは本調子ではない。ならばグラスを徹底マークする必要はないと思いボクはグラスへのマークを少し緩めて他のウマ娘に注意を向ける。

 マークを緩めてから少しして向こう正面の中盤へと入った辺り。外から覚えのある気配が上がってくるのを感じる。間違いない、カイザーだ。

 

 

(最終直線入る前にボクを抑えんと、でも思うてるんか……?早めに仕掛けとんな)

 

 

 そしてカイザーの気配を感じたのと同時に、後ろからのプレッシャーが一段と強くなったのを感じる。おそらくだがここからペースが上がっていく。ならばと飲まれないようにボクも徐々にペースを上げていく。前を走っている他の子たちとの差を詰めていく。

 まだ脚は大丈夫だ。スタミナも十分。行ける、そうボクは思った。

 

 

(菊花賞での雪辱……晴らさせてもらうで!グラス!)

 

 

 勝負は第3コーナーへと入っていく。




次回決着。思ったより改稿は時間かかりそうです。
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