《各ウマ娘第3コーナーの登りへと入ります。先頭はゴールドイーグルとホシバージこの2人が差がなく競り合っております!3番手の位置にグリーングラス、その後ろにテンポイントだテンポイントが仕掛けている!グリーングラスに並びかける!テンポイントだけではない!後方からクライムカイザーも上がってきた!この3人が1団を形成しています!》
《……うん?ゴールドイーグルが先頭から後退していっていますね。力尽きたのでしょうか?登り終えようかというところで後ろへ、後ろへと下がっていっています》
《さぁゴールドイーグルが後退して先頭争いから脱落しました!先頭はホシバージだ!坂を下り残り800mを通過して先頭はホシバージ!しかし2番手にテンポイントが上がってきた!その勢いのままテンポイント2番手からホシバージへと並んだ!そしてテンポイントの外からクライムカイザーも上がってくる!クライムカイザーが3番手の位置!ホシバージ・テンポイント・クライムカイザーの3人が並んだ!第3コーナーの中間で3人が並ぶ!先頭はこの3人だ!先頭から離れること2バ身の位置にはクラウンピラードも上がってきた!内にはグリーングラスも控えているぞ!先頭は第3コーナーの坂を下りきろうとしています!》
第3コーナーの坂を登ろうかというところ、ボクはそのタイミングで仕掛ける。後ろからカイザーが来ていることもそうだが最後の直線で先頭に立つためにはこのタイミングで前に行くしかない。前を走っていた逃げウマ娘の内1人は後退してきている。それを外から交わして先頭を走るウマ娘に肉迫する。
そして3コーナーの坂を登り切ったというタイミングでボクは先頭を走る子に追いついた。後はこの子を交わして最後の直線を迎えるだけだ。そう思っていた時、外から強烈な気配を感じる。
(カイザー……ッ!もう上がってきたんか!)
間違いないだろう。クライムカイザーだ。向こう正面に入った時はまだ遠くに感じていたが、この登りを使って先頭へと追いついてきたらしい。すぐ近くに気配を感じる。彼女は外へと進路を取ったようだ。
そのままボクは京都レース場の坂を下っていく。途中まではボクとカイザー、そして今まで先頭争いをしていた子ともう1人の計4人で競り合っていたが、先頭を争いをしていた子はスタミナが無くなったのか坂を下りきった後に後退していった。
(後2人……。カイザーともう一人を振り切って先頭に立ったる!)
ボクはさらに速度を上げる。外へと視線をやるとカイザーが相変わらず背後にいた。先頭に立とうとしている。だが抜かせるわけにはいかない。ボクも必死に脚を動かして走る。もう1人は分からない。グラスは第3コーナーに入ったところから見ていない。しかしグラスは必ず内からやってくるだろう。警戒を強める。
(もうちょい……、もうちょいや……!)
あともう少しで勝利へと手が届く。そう思いながらボクは第4コーナーを回り始めた。
《……第3コーナーと第4コーナーの中腹に入ってホシバージは先頭から後退していきます先頭はテンポイント!しかしすぐ外にはクライムカイザーだ!クライムカイザーが先頭に立とうとしている!しかしテンポイントは抜かせまいと必死になっている!クライムカイザーの後ろにはスーパーフイルド!4番手の位置にはクラウンピラード5番手内をついてグリーングラスが来ている!》
《グリーングラスは最内を走っていますね。菊花賞と全く同じコース取りです。これは菊花賞の再現となるか?》
《さぁテンポイントかクライムカイザーか!第4コーナーの生垣を回ってほとんど差がなく最後の直線へと入ってきた!先頭はテンポイントだ!外からはクライムカイザー!内をついてまたグリーングラスだ!内からグリーングラスも上がってきた!昨年のクラシック戦線を賑わせた3人の対決なるか!?しかしクライムカイザーのさらに外からクラウンピラードが突っ込んでくる!少しヨレながらもクラウンピラードが突っ込んでくる!おっと!?テンポイントもヨレた!テンポイントもヨレました!クライムカイザーの進路をカットしそうになる!しかし何とか持ち直す!》
《テンポイントは菊花賞の時も不自然に外にヨレていましたね。癖なのでしょうか?》
《天皇賞・春もいよいよ大詰め!春の盾を賜るのはどのウマ娘か!》
第4コーナーを回って直線に入る。ボクは先頭で直線に入ることができた。だが油断はできない。すぐ外にはカイザーがいるし内にはグラスもいる。
スパートをかけるために速度を上げようとする。だが、その瞬間ボクの脚に痛みが走った。
(またか……ッ!菊花賞ん時と同じ……ッ!)
痛みで外にヨレてしまった。だが、ボクは気力を振り絞って何とか持ち直す。ここでまた外にヨレていってしまったら菊花賞の二の舞だ。そんなことは、そんなことだけは
(絶対に……ッ!許せるわけないやろ!ボケがッ!後ちょっとや、後ちょっとだけ持ってくれ……ッ、ボクの脚!)
襲い来る痛みを必死に耐えながらゴール板を目指して走る。最後の直線400mがとても長く感じる。それでもボクは必死に走る。
スタミナももう限界に近い。脚ももうこれ以上残っていない。だからこそ、後は気力、根性の勝負だ。絶対に負けられない。その一心でボクは走る。ただがむしゃらに脚を動かす。春の盾を勝ち取るのは……、栄光をつかみ取るのは……!
「ボクやぁぁぁぁぁ!!!」
声を上げる。自分の残っている力を全て脚へと回して走り続ける。勝利を掴み取るために。
《最後の直線残り200mを切りました!先頭はテンポイント!先頭はテンポイントだ!内からはグリーングラスが来ている!グリーングラスが菊花賞同様に内からまっすぐ伸びてくる!テンポイントとグリーングラスの間を割って入るようにホクトボーイも突っ込んできた!外にはクライムカイザーも来ているぞ残り100m!クライムカイザーの外を回ってクラウンピラードが突っ込んでくる!今日は外の方が怖いぞテンポイント!しかし先頭は譲らない!テンポイントが先頭だ!》
残り100mを切った。スタンドからは必至の声援が飛んでいる。
「粘れー!テンポイントー!」
「あともう少しだー!クライムカイザー!」
「TTだけじゃないってとこを見せてくれー!グリーングラスー!」
今、決着が付こうとしている。勝利の女神がほほ笑んだのは。
走る、走る、走る。ただゴールを見据えて走っている。
こんなにゴールまでが長く感じたのは初めての経験だった。残り200mのハロン棒を確認する。内にはグラスがいる。けれどボクは1つのことを確信していた。
(もう……脚が残ってへんやろ……!グラス!)
思えば、レースの最初の方から調子が悪そうにしていた。普段は中団に控えている彼女が先団に混じっている、ペース配分をミスった、脚に不調を抱えている、理由は分からない。だがグラスはもうここから伸びてくることはない。そう確信する。
そのままがむしゃらに走り続ける。外から猛烈な勢いで誰かが追い上げてくる気配を感じる。けれど、絶対に抜かせない。必死に走る。
そして、ボクの身体は誰よりも早くゴール板を駆け抜けた。ゴール板を過ぎたという事実に気づいて速度を緩めてやがて立ち止まる。
肩で息をする。脚は相変わらず痛む。けれどボクは着順が気になり掲示板へと視線を移す。誰よりも早く駆け抜けたというのも自分がそう思っただけかもしれない。疑問を確信に帰るために視線を移す。
掲示板の1着のところに点灯している番号は10番。10番はボクの数字だ。ということは……!
(勝っ……たぁ……ッ!)
ボクは勝ったのだ。天皇賞・春で。ボクは勝ったのだ。グラスに、カイザーに。その事実に喜びの感情が溢れそうになる。しかし疲れのためかガッツポーズすることすらできない。ボクはただその場に立つだけだ。
実況の声が聞こえてくる。
《テンポイント1着だ!テンポイント1着!夢にまで見た栄光のゴール!テンポイントです!待ちに待った栄光のゴール板、会場からは割れんばかりの大歓声と拍手が送られています!どうだ見たかと、ゴール板を通過しました!ついにやりましたテンポイント!<貴公子>テンポイントに春が訪れた!》
《今まで大レースでは2着ばかりだった彼女ですがついにビッグタイトルを手にしました!まさに感無量とばかりにターフの上で静かに佇んでいますテンポイント!》
《2着は3/4バ身でクラウンピラード、そこから1バ身離れてホクトボーイが3着です!2番人気グリーングラスは道中精彩を欠いたか4着、5着にはクライムカイザーです!》
(勝った……、勝った……!勝った……ッ!)
実況を聞いて改めて喜びを噛みしめる。今まで勝てなかった大レース。あと一歩が届かなかったタイトル。それに手が届いたのだ。ボーイの奴に借りを返せなかったのだけは残念だがそれはまたの機会にやり返せばいいだろう。
何とか脚の痛みも治まってきたボクはトレーナーと合流してウィナーズサークルへと向かう。記者からの取材が始まった。いまだに苦手意識があるので冷静を保つように答える。
「まずはテンポイントさん、念願のビッグタイトル獲得おめでとうございます!」
「おおきにです。やけど、これはまだ始まりです。これを皮切りにしてこれからも勝っていきます」
「神藤トレーナー、今回のレースはどのように感じていましたか?」
「そうですね……、周りも強いウマ娘たちが出走するとは思っていましたがテンポイントの調子と距離を鑑みて、自分のペースを維持できれば勝てると思っていました。それが確信に変わったのはパドックを見た時ですね。唯一の不安要素だったグリーングラスが調子を落としていると思ったのであぁ、これはもらったな。と、そう思っていました」
「次のレースは何を予定していますか?」
「次走は出走が叶えばですけど宝塚記念へ直行しようと思っています」
「それではテンポイントさん、今後の抱負についてお聞かせください」
「せやね……、今回はリベンジ果たせんかったボーイが出走するんやったら、そのリベンジをしたいと思うてます。特に今回はグラスとカイザーにはリベンジできたんで、後はボーイだけですから」
「成程、ありがとうございます。それでは次の質問ですが……」
そのまま何個か質問されていたのだが、脚の痛みが完全に引いたわけではなく今でも少し痛みが走っている。しかし記者はボクが脚を痛めていることを知らないため、お構いなしに質問を飛ばしてきている。別に記者の人たちが悪いわけではないのだが、今までの件から記者にいい印象を抱いていないボクは苛立ちを募らせていた。思わず耳を絞ってしまう。
そんなことを考えているとトレーナーが一瞬こちらを向く。一瞥した後記者たちに告げた。
「すいません、先程レース後にテンポイントが脚の調子を悪そうにしていたので今日はここまででお願いできますか?残りの質問はまた後日、私が承りますので」
その言葉に記者たちは納得していない様子を見せていたが、ウイニングライブが控えているということ、脚の調子が悪いということで不承不承ながらも了承した。ボクとトレーナーは一礼した後ウィナーズサークルを後にする。
控室に戻る際中、ボクはトレーナーへとお礼を言う。
「スマンな、トレーナー。気ぃ遣わせてもうて」
「気にするな。脚の調子が悪いことも本当のことだろ?できるだけ休ませておきたいからな」
トレーナーはそう答えた。相変わらずボクのことをよく見てくれているトレーナーだ。
そのままトレーナーは言葉を続ける。
「さて、と。今日のレース苦しかっただろうがよく頑張ったな、テンポイント。この調子でこれからも勝ち続けるぞ!」
「おう!任しとき!」
ボクらはそう誓いあう。この調子でボーイの奴にも勝ってリベンジする。そしてボクの強さを見せつけてやる。
そのまま会話を続けていると控室へと到着する。控室へと着いた後トレーナーと別れ、ウイニングライブへと向かっていった。
……もはや何も言う気はないが、相変わらず最前列でトレーナーとキングスがボクのことを応援していた。しかも今回からはキングスの友達が増えていた。毎度毎度ご苦労なことである。
ついにビッグタイトルを手にしたテンポイント。けれどまだまだシニア級は始まったばかりです。