ウマ娘の方ではスイープトウショウが実装されましたね。私はガチャを引いていませんが引けた人はおめでとうございます!
「はぁ~、ホンマ最悪や」
トレーナーと契約してから時は少し経ち今は6月。最近は本格的に梅雨入りしたのか雨が多くなり、じめじめとした暑さが続いている。トレセン学園の制服も夏服に移行し始めたが、それでも暑いので気分が落ち込みそうだ。だが、ボクの気分が落ち込んでいるのはそれだけが理由ではない。
「どした?テンさん。何か悩み事か?」
今日の授業は全て終わって今は放課後。練習が始まるまではまだ時間があるので一人ぶらぶらと歩いていると、ボクの独り言を聞こえたのかトウショウボーイが近づいてきた。
「悩みっちゅうかなんちゅうか、この後の練習のこと考えて気が滅入っとるだけや」
「へぇ?そんな厳しいのか?結構スパルタなんだな神藤さんって」
こちらの練習内容を知らないボーイはボクの言葉から練習がキツいものだと思っているのだろう。まあ実際のところボクが坂路練習が嫌いなだけであるのだが。
「まあ悩んでも練習が変わるわけやないし、考えるだけ無駄やな。ボーイの方はどうなん?リギルも結構厳しいやないんか?」
「そうなんだよ!聞いてくれよテンさん!」
ボクの言葉にボーイは食い気味に反応してくる。この反応から察するにリギルの練習は厳しいのだろうか?
「おハナさんったら酷いんだぜ!?オレを全然走らせてくれねぇんだよ!」
オレは走りたいのに!と地団駄を踏みそうな勢いで、というか実際に地団駄を踏みながらボーイは今の自分の現状をボクに教えてくれた。走らせてくれないというのはどういうことだろうか?
「まあ落ち着けやボーイ。走らせてくれんてどういうことや?」
「そのまんまの意味だよ!練習は地味~な基礎練習ばっかだし、しかもその基礎練習でも本当に最低限しか走らせてくれねぇんだよ!」
「それホンマか?やとしたら確かにストレス溜まるわな」
「だろ!?別になんかやったわけでもねぇのにさぁ」
ボクらウマ娘は基本的に走ることが大好きだ。それを制限されているのはかなりのストレスだろう。だが、
「仮にも最強チームの方針や。やから走らせんのにも何か理由があるんやないか?」
ボクはそう言って宥めるものの
「いーや!だとしてもオレは断固抗議するね!」
ボーイは相当ご立腹らしい。そう言ってきた。
「大体おハナさんは頭が固すぎるんだよ!オレが身体壊さないか心配なのは分かるけどもうちょっと信用してくれもいいじゃねぇか!」
どうやらリギルのトレーナーはトウショウボーイが身体を壊さないか心配らしい。というか
(ボーイの身体って結構大柄な方やけど。壊れる心配ってあるんか?)
ボクの身長が150弱に対してボーイはそれよりも20㎝は高い170はあるだろう。ウマ娘の中でもかなり大柄な方なのになぜリギルのトレーナーは心配しているのか?多分ボクには気づいていないことにも気づいているのだろう。そう思考していると
「……テンさん、ちゃんと話聞いてるのか?」
「ん?あぁ、スマン。ちょい考え事してたわ。でもリギルのトレーナーはボーイが心配やからあまり走らせんのやろ?やったら素直に従うんがええんやないか?」
「でもよぉ……」
「それにボーイ信用ならへんからな。勝手に多く走りそうやし」
「ひでぇな!?オレだってちょっとくらい自制する心は……心は……」
ボーイは言葉に詰まる。もうその態度が答えだろう。
「ないやろ?自制する心」
「ゴメン……自分で否定できる材料がなかったわ」
「分かっとるやん自分のこと」
トウショウボーイは好奇心が旺盛だ。基本的に自分の気持ちのままに動くことが多い。それがトラブルになることもあるが、ボクはそれがボーイのいいところだと思っている。だからこそ、無理に咎めることはしない。まあ褒めたら褒めたで調子に乗るからそれを口にはしないが。
「あ~あ、でも確かカイザーは今月メイクデビューだろ?羨ましいぜ全く」
「そうやな~、ボクも応援には行きたいんやけどその日は多分練習やろうしなぁ」
クライムカイザーは今月にはもうメイクデビューに出走するらしい。いつもつるんでいるボクら四人の中では一番早い。羨ましい限りだ。ボクのメイクデビューはいつ頃になるのだろうか?今日聞いてみるのもいいかもしれない。
しかしボーイは相当フラストレーションが溜まっているのか
「ちくしょー!オレもメイクデビューに出たい出たい!走りてぇよ!」
「落ち着けやみっともない」
子供みたいな我儘を言い始めた。
「こうなったら、おハナさんに直談判するしかねぇ!」
「ボクにはもうすでに却下される未来しか見えへんで」
「だとしてもだ!ボイコットでも何でもしてあの鬼にぎゃふんと……」
そう会話をしていると
「ぎゃふんと……なんだ?トウショウボーイ」
青黒色の長い髪をポニーテールにしたウマ娘がこちらの会話に割って入ってきた。この人は確か
「ゲェッ!?テスコガビー先輩!?」
「ゲェッ、とはなんだゲェッとは」
そう、ボーイと同じリギルに所属しているテスコガビー先輩だ
「先程から随分と面白いことを言っているな?トウショウボーイ。ボイコットだのなんだの」
「い、いや~、それは友達間での冗談というか、なんというか~」
どうやらこちらの会話が聞こえていたのか顔は少し険しくなっており、威圧感も半端じゃない。その証拠にボーイは少し逃げ腰のようだ。それにめちゃくちゃ目が泳いでいる。かなり焦っているのだろう。
まあテスコガビー先輩は雰囲気だけ見ればかなり厳しい人だ。圧倒されるのも仕方がない。現にボクも少し気圧されている。それに同じチームのメンバーがトレーナーの悪口を言っているのかもしれないのだ。真面目な先輩には見過ごせることではないだろう。
ボーイはすっかり気遅れてしている。仕方ない、少し助け船を出してやろう。
「あの、テスコガビー先輩。少しええでしょうか?」
「君は……テンポイントか。噂には聞いているよ。それで何の用だろうか?今ボーイに事の詳細を問いただしているのだが」
「それなんですけど、ボーイは最近あまり走れんくてストレスが溜まっとるらしいんです。やから、今のこの状況に繋がっとるんやと思います。なんで見逃してはもらえないでしょうか?」
「テ、テンさん……!」
まるで救世主を見るかのような目でボーイがこちらを見てくる。しかし、別にテスコガビー先輩は鬼でも何でもなく理由をしっかりと話せば分かってくれる人なんだからこれくらい自分で言ってほしい。現に先輩は今思考しているように顎に手を当てている。
そして考えが纏まったのか口を開く。
「なるほど。テンポイント、君の言いたいことは分かった。トウショウボーイ、今の言葉に相違はないか?」
「は、はい!練習でも軽く走るくらいだし、全然走れてないからそれでつい……」
「なるほどな。それがお前の言い分か。だが、東条トレーナーも考えがあってお前に制限を課しているんだ。それは分かるな?」
「うっ、はい……」
「お前の身体の心配があるからあまり厳しくやるわけにはいかない。お前には歯がゆい思いをさせているが、それは東条トレーナーも同じだ。あの人もお前と同じ気持ちを抱いている」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだ。まさかお前、東条トレーナーが意地悪でやっていると思っていたのか?」
「正直思ってました!」
「元気よく答えるな阿呆が」
テスコガビー先輩はこめかみを押さえる。まあ今のは確かにそういう反応になるだろう。
「だが、そこまでストレスが溜まっているのであればこちらとしても看過できるものではない。私の方からも東条トレーナーに進言しておこう」
「ほ、本当ですか!?」
「進言はするが、必ずしも制限が緩和されるわけではない。その辺は東条トレーナーとお前がしっかりと話し合え。分かったな?」
「へへっ!やりぃ!」
ボーイは嬉しそうにしている。良かったかもしれないが先輩の性格なら多分
「それと、お前が東条トレーナーのことを鬼やらなんやら言っていたこともしっかりと報告しておくからな」
「えっ!?そ、そんなご無体な!」
「ダメだ、こちらにも非はあるかもしれないが東条トレーナーも考えあってのこと。しかも理由もしっかりと話していたのにまるでトレーナーだけが悪いように友人に話していたお前のその態度は看過できん。しっかりと報告させてもらう。覚悟しておけ」
「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ボーイは膝をついて絶叫するが、はっきり言って自業自得だろう。むしろこれからの練習が改善されると考えるとマシではないだろうか。
「それよりもボーイ、もうすぐミーティングだ。早く行くぞ」
「うぅ、はぁい」
ボーイはテスコガビー先輩の後ろをトボトボとついて行く。時間を確認してみるとボクももうすぐ練習が始まる時間だった。さて、トレーナーのもとへ向かうとしよう。しかし、
「また今日も坂路やろうか……。憂鬱やな……」
重要なのは分かるが、嫌なものは嫌なのである。
「今日はダンスレッスンをしようと思っている」
「ダンスレッスン?」
いつものプレハブ小屋のトレーナー室。トレーナーから今日の練習の内容を聞いたのだが、それは予想外の言葉だった。
「なんでダンスレッスンなんや?」
「いつも坂路ばかりじゃ気が沈むだろうからな。それにレースが終わったらライブが待っている。だから今のうちにその練習をしようと思っていてな」
「そうやな。授業で大まかなことは習っとるけど、詳しくはやらんから今のうちに練習するってことか」
「まあそういうことだ。というわけで今日はダンススタジオを借りてるからそっちに行くぞ」
そう言ってトレーナーは外で待ってるから準備ができたら出てきてくれ、と言ってトレーナー室から出る。それよりも、てっきり今日も坂路中心の練習だと思っていたボクの気分は上がっている。それに踊るのは嫌いじゃないしむしろ好きな部類だ。早く準備してダンススタジオに向かおう。
そしてボクはすぐに準備を終わらせて外に出る。外には先程言った通りトレーナーが待っていた。
「準備できたで、はよいこうや!」
「お、おう。テンション高いなテンポイント」
「そらそうや!ボク踊るの好きやからな!テンションも上がるで!」
「そいつはよかった。なら今後はダンスレッスンを増やすのも視野だな」
「せやったら坂路を減らしてくれてもええんやで?」
「ダメに決まってんだろ」
やはりダメだった。まあもとより期待しないのであまり残念ではないが。そして会話をしながら歩いているとダンススタジオに着く。
「さて、じゃあダンスレッスンを始めるか」
「ダンスレッスン言うても、どれからやるんや?」
「最初はメイクデビューのウイニングライブの振付からやってみよう。覚えている限りでいいからまずは踊ってみてくれ」
言われたとおりにボクはメイクデビューのウイニングライブを通しで踊る。まあこれは授業で習うので完全に覚えているから余裕だ。一通り踊り終わるとトレーナーからの拍手が送られる。
「すごいな、まさか完コピしてあるとは。この分だと振付で教えることはほとんどないな」
「ふふん、まあこれくらいは朝飯前やな」
ボクは得意げに答える。だがそれよりも気になることがある。それは
「さっきからスルーしとったけどトレーナー、なんやそれ」
「ん?これか?」
トレーナーが持っている団扇だ。団扇には【テン様こっち向いて!】と書いてある。ハート付きで。そしてペンライトも持っている。まるでライブで応援してくれている人たちのようだ。
「試作品で作った応援団扇。手作りなんだぜ!これ」
「ふん!」
「あぁ!夜なべして作った俺の団扇!」
「アホなもん作っとる暇あったら他の事に時間を割かんかい!」
ボクはその団扇を叩き折る。トレーナーは悲痛な叫びを上げていたがそんなの関係ない。これは普通に恥ずかしい。だが、トレーナーはすぐに立ち上がり
「まあ冗談は置いといて、ダンスの振付に関しては特にいうことはないな。後は繰り返し練習して動きを身体に染み込ませていこう。それと言うまでもなくウイニングライブはレース後に行われる。いくら休憩があるとはいえ体力勝負になるからしっかりと体力をつけていこう」
「切り替え早いなホンマ……。了解や」
「それにダンスでも身体を鍛えることはできる。さっきダンスが好きと言っていたから坂路を減らしてダンスの練習を増やしてみるか?」
トレーナーからのその一言にボクは飛びつく
「それ!ホンマかトレーナー!嘘やったら許さんで!」
「嘘じゃないぞ。苦手を克服するために坂の練習を0にはしないが、嫌々練習をするよりも楽しく練習した方が気分的にも効率的にもいいだろう?だから今後はダンスの比重を増やしてみるか?」
「それでお願いするわ!いやぁ、最高や!」
後ろでトレーナーがそんなに嫌か坂路練習、と言っているが、どうでもいい!これからは好きなダンスでの特訓が増えるということでボクの気分は有頂天になった。今夜は枕を高くして寝れるだろう。
なお、ダンスレッスンを終えた次の日は普通に坂路の練習だった。ボクのテンションはダダ下がりだった。
テン様、ダンスが好きかもしれないという私の幻覚です
テスコガビー先輩の身長はテンポイントよりは高く、トウショウボーイよりは低いといった感じです。イメージは160半ばぐらい?