ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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トレーナーが抱えていた不安が判明する&宝塚記念回


第55話 運命の宝塚記念

 様々な不安を抱えたまま迎えた宝塚記念当日、阪神レース場の控室で俺とテンポイントは最後の作戦の打ち合わせをしていた。

 

 

「……以上が今回の作戦だ。何か気になるところはあるか?」

 

 

 俺の問いかけにテンポイントは質問はないとばかりに首を横に振る。

 

 

「いや、大丈夫や。そん作戦でいこか」

 

 

 俺はテンポイントのその言葉に頷く。

 あの後も作戦に変更はないということで自分から無理に先頭へ立とうとはせずにトウショウボーイをマークする作戦に決めた。理想はトウショウボーイの後ろ、2番手の位置につけることを目標にする。そして最後の直線に入る前に先頭を取りに行く。いつもの作戦だ。

 作戦の確認が終わったところで、俺は不安が入り混じった感情でテンポイントを見つめる。おかしな点は見当たらない。この前のことは俺の考えすぎだったのかもしれない。テンポイントの自信がなくなりかけているなど。

 

 

(それに、何か別の不安があるような気がするのはなぜだ……?テンポイントのことだけじゃなく……)

 

 

 そこまで考えたところで、テンポイントがこちらの瞳を覗き込むように見てきた。俺は思わず驚いてしまう。

 

 

「っとと、どうした?テンポイント」

 

 

 俺の言葉にテンポイントは呆れた表情を浮かべて答える。

 

 

「どうしたも何も……。それはこっちの台詞や。なんや人んことジィっと見て……。なんかおかしなとこでもあるんか?」

 

 

 俺自身、言ってておかしいことを言っているとは思っていた。テンポイントはそのことを冷静に突っ込んでくる。

 俺は取り繕うように答える。

 

 

「いや、何でもないさ。いつも通り決まってるな!って思っただけだよ」

 

 

「なんやそれ。アホらし」

 

 

 テンポイントはそう言いながら笑った。そしてこちらへと向き直ると俺に対して自信満々といった感じで宣誓してくる。だが、その宣誓はどことなく虚勢のような気がした。

 

 

「ま!軽~く勝ってくるさかい!期待してまっとき!」

 

 

 そう言って拳を突き出してくる。テンポイントの拳は微かに震えている気がした。俺は気づいていない素振りをしてテンポイントに合わせるように拳を突き出す。2人の拳を軽くぶつける。

 拳を合わせたのを確認し終えると、テンポイントは笑顔を浮かべて控室を飛び出し、パドックの方へと向かっていった。

 俺は控室で1人愚痴る。

 

 

「俺の考えすぎだったらそれでいいんだが……」

 

 

 俺はそう思いながら、控室を出てレース場へと足を運ぶ。その足取りはどこか重かった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阪神レース場のパドックへと俺は足を運ぶ。そこには待ち合わせていたキングスポイントとその友達たちがいた。

 

 

「あ!帰ってきたし!」

 

 

「神藤さん、どうぞこちらへ!」

 

 

「やめてくれ。周りから変な目で見られるから」

 

 

 まるでお偉いさんを案内するかのような振る舞いで俺を出迎えたキングスポイント達に俺は呆れた表情を浮かべながら勧められた場所へと足を運ぶ。柵に体重をかけながらキングスポイントたちに話しかける。

 

 

「しかし、まさかテンポイントを応援するために阪神レース場まで来るとは思わなかったぞ。学生には高いだろ?東京から関西までなんて」

 

 

 その言葉にキングスポイントは得意げに答える。

 

 

「フフン!その辺は心配ないし!母さんからお小遣い前借してもらったし!」

 

 

 そこまでして見たかったらしい。まあ俺が止めるべきことじゃないから気にしないことにする。他の子たちも同様に貯金を切り崩したりして応援に来たらしい。今度からはバスを使って全員をレース場まで連れて行こうか?などと考えていると、ウマ娘たちが入場してきた。

 

 

 

 

《ウマ娘たちが続々とパドックへと姿を現します!まず最初に姿を見せたのは1枠1番ホクトボーイ!》

 

 

《今回は最低人気の6番人気です。しかしこの前の天皇賞・春ではテンポイントの3着など好走しています。大レース初制覇なるか?》

 

 

 

 

 

「お、入場が始まったな」

 

 

「早くお姉の出番にならないかなー」

 

 

「せめてもうちょっと興味持てよ」

 

 

 俺はキングスポイントを呆れながら見る。しかし彼女はどこ吹く風だ。そのまま滞りなくパドックでの紹介が続いて行く。

 

 

 

 

《続いてパドックに入ってきたのは2枠2番!この評価は少し不満か?今回の宝塚記念2番人気トウショウボーイ!》

 

 

《昨年の年度代表ウマ娘に選出された彼女。新たな勝負服を身に纏っての登場です。今回の勝負服は彼女の異名でもある〈天を駆けるウマ娘〉をモチーフにしているのでしょうか?とてもよく似合っていますね》

 

 

《春は脚部への不安から全休。この宝塚記念が今年の緒戦となります!しかしあまり調子が良くなさそうですね?しかし出走してきたということは勝てると踏んできたということでしょう!好走に期待です!》

 

 

 

 

 ホクトボーイに続いてトウショウボーイがパドックに姿を現した。その装いはクラシック級で纏っていた勝負服ではなく、年度代表ウマ娘に選出されたことで新たに贈呈された勝負服だ。

 今回の勝負服は実況・解説からの紹介にあった通り、まるでそのまま天へと駆けていきそうな雰囲気が感じられる勝負服だ。青空を想起させる色を主軸にしている。髪には羽根の髪飾りをしていた。一見するとドレスのようにも見えるが、下はショートパンツである。彼女にとっては譲れない部分なのかもしれない。まあ似合っているので関係ないだろう。

 キングスポイントはトウショウボーイの姿を見て声を上げる。

 

 

「あー!お姉のライバル!なんか新しい服着てるし!」

 

 

 もう触れないことにした。キングスポイントを諫めつつトウショウボーイを観察する。

 

 

(調子は戻らなかったみたいだな)

 

 

 よく観察してみると、普段の彼女よりも落ち着きがないように感じられた。ベストな体調に戻すことはできなかったのだろう。その不安が態度に現れている。

 そんなことを考えていると、トウショウボーイが退場して次のウマ娘が入場してくる。

 

 

 

 

《さぁ!次に入場したのはこの宝塚記念、圧倒的支持を受けて1番人気となりました!3枠3番テンポイント!》

 

 

《今年度は京都記念から始動して春の天皇賞を含む3戦3勝。この宝塚記念の大本命といっても過言ではないでしょう。今回は有マ記念以来となるTT対決、果たしてどちらに軍配が上がるのか?》

 

 

 

 

「お姉!頑張れ~!」

 

 

「「「テンポイント様~!頑張ってくださ~い!」」」

 

 

 テンポイントが姿を現した瞬間、俺の近くにいたみんなから黄色い声援が飛ぶ。俺はそれを微笑ましそうに見るが、すぐに視線をテンポイントに移す。

 

 

(見た感じ問題なさそうだな……。好調を維持している……)

 

 

 パドックではパッと見問題なさそうに見える。何も不安に思うような要素はない。

 俺はいつだってテンポイントの勝利を信じている。だが、俺の胸の中の不安は晴れない。何か嫌な予感がするのだ。

 

 

(ここまで不安に思うってことは……、テンポイントのことじゃない?)

 

 

 そう思考すると、不安がより一層強くなった。まるで合っているとばかりに。

 胸の中にもやもやを抱えたまま、出走するウマ娘たちがパドックへと続々と入場し、全てのウマ娘の紹介が終わる。紹介が終わったので俺たちはメインスタンドへと移動した。

 最前列へと陣取り、入場してくるのを待つ。しばらく待っていると出走するウマ娘たちが続々と入場してきた。各々ウォーミングアップをしている。

 しかし、今回の宝塚記念は本当に出走者が少ない。G1ではなくオープンレースと言われても信じてしまうほどだ。こんな豪華なメンバーのオープンレースなど見たことないが。それに宝塚記念はクラシック級はダービーが、シニア級は春の天皇賞がある。日程的にキツいこのレースを走るウマ娘はまだ少ないのだろう。

 しばらく待っているとレース場にファンファーレが響いた。実況の声が場内に響き渡る。

 

 

 

 

《今年もやってまいりました宝塚記念!今年はわずか6人との少数ながらいずれも選ばれた精鋭たちです!阪神レース場の天候は晴れ、絶好の良バ場日和です!》

 

 

《今年は一体どんなドラマが生まれるのか今から楽しみですね》

 

 

《まずは3番人気のウマ娘の紹介から入りましょう。3番人気は6枠6番今回の大外枠グリーングラス!》

 

 

《前走は力走叶わずテンポイントの4着。借りを返したいところですね》

 

 

《続いて2番人気。この評価は少し不満か?2枠2番トウショウボーイ!》

 

 

《春は脚部不安からの全休、この宝塚記念が緒戦。この評価も仕方なしといったところ》

 

 

《そして1番人気の紹介に移りましょう。1番人気は3枠3番テンポイント!》

 

 

《緒戦の京都記念から3連勝。この勢いのまま勝利を掴むことはできるか?》

 

 

《各ウマ娘ゲートに入り出走の準備が整いました。貴公子が勢いのまま勝利するか?天を駆けるウマ娘がその底知れない強さを見せるか?はたまた緑の刺客が油断したところを差し切るのか?》

 

 

 

 

 一瞬の静寂が支配する。そして

 

 

 

 

《さぁそして今……ゲートが開きました!宝塚記念が幕を開けます!》

 

 

 

 

 ゲートが開き、宝塚記念が幕を開けた。俺はストップウォッチで時間を測る。

 阪神レース場の正面スタンドの右端、その位置がスタートとなる。ゴール前で応援している関係上、さすがにスタートしてすぐは見えない。実況の声を聞く。

 

 

 

 

《第4コーナーのポケット一番奥から各ウマ娘一斉にスタートを切ります!テンポイント好調なスタートを切りました。最内ホクトボーイは控えます。グリーングラスも外からじわじわと上げてきている3番手の位置。先頭を取ったのはトウショウボーイだ。2番手にテンポイントがいるぞテンポイントは定位置につけている。そして正面スタンド前声援が響きます正面スタンド前をトウショウボーイが通過しました。2番手テンポイントに1バ身から2バ身のリードを取っています》

 

 

 

 

 俺はテンポイントが2番手につけていることに安堵する。作戦通りに言っていることに安心を覚えた。しかし一瞬不安が強まる。だが、気にすることなくそのままレースを見続ける。

 

 

 

 

《トウショウボーイが先頭に立ってテンポイントが2番手、グリーングラスが外に3番手。内をついて4番手にアイフル、ホクトボーイとクライムカイザーが最後方並んで第1コーナーのカーブを曲がります。6人がほぼ一段となって第1コーナーを曲がりました》

 

 

《かなりスローペースで進んでいますね。互いをマークしあっているのかスローペースで進んでいます》

 

 

《ウマ娘たちが一団となって第2コーナーを曲がっていきます。先頭は依然としてトウショウボーイ。2番手テンポイントがトウショウボーイをがっちりとマークする形。3番手グリーングラスはテンポイントをマークしているか?4番手はグリーングラスの内にアイフル。向こう正面の中間手前で一団からちょっと離れていますホクトボーイとクライムカイザー》

 

 

 

 

(スローペース?)

 

 

 俺は実況のその言葉に引っ掛かりを覚えた。そしてその言葉を考えると不安が一層強くなる。

 何か、何か大事なことを見落としている気がする。その何かを必死に考える。だが、一向に出てこない。

 ふと、応援に来ていた観客の言葉が耳に入る。

 

 

「テンポイント、大丈夫かな……」

 

 

「どうしてそう思うんだよ?パドックとか今の走りとか見る限り調子よさそうじゃねぇか。確かにトウショウボーイには負け越しているけど、何がそんなに不安なんだ?」

 

 

「いやさ、スローペースってことは脚を十分に残してるってことだろ?そしたら逃げてるトウショウボーイの方が有利なんじゃないかって思ってさ……」

 

 

「そりゃあお前そうだけど。でも、テンポイントの脚だって負けてないぜ?」

 

 

「う~ん、でもなぁ……」

 

 

 その会話を聞いて、俺は気づく。急いでストップウォッチを確認した。ちょうど今前半1000mを通過したあたりだろうか?そのタイムは

 

 

(63秒……!?)

 

 

遅い。かなりのスローペースだ。少人数でのレースだから当たり前かもしれないが。

 そして、俺を襲っていた不安の正体が判明する。だが、気づくのがあまりにも遅すぎた。

 トウショウボーイとテンポイントの実力は五分五分。最後の直線では前につけている方が有利。しかも少人数での出走。少人数はスローペースになりやすい。そしてスローペースでは逃げているウマ娘が有利になる。ここまで考えれば馬鹿でも分かる。

 

 

(そもそも、トウショウボーイだってテンポイントを警戒していたはずだ!ならば後ろでマークしたいと考えるはず!なのに、どうしてあいつはあっさりと先頭に立った!?)

 

 

 簡単だ。実力が拮抗しているなら前に出た方が有利だから。逃げている方が有利だから。スローペースなら最後まで脚を残せるから。そう考えているに他ならない。

 俺は自分の作戦の失敗を悟った。そして俺がテンポイントに言ったことを思い出す。

 

 

『トウショウボーイはおハナさんのインタビューを信じるのであれば調子が良くない。もし本番でも調子が良くなさそうだったらトウショウボーイのマークを緩めて後方で控えているウマ娘を警戒してくれ。いつものペースで走った場合、怖いのは後ろから追い上げてくるウマ娘たちだからな』

 

 

 俺は自分の馬鹿さ加減に思わず柵を殴ってしまう。隣にいたキングスポイントが驚いていた。

 

 

「うわっ!?いきなりどうしたし!?」

 

 

「……いした」

 

 

「えっ?なんて言ったし?」

 

 

「失敗した……ッ!」

 

 

 俺の言葉にキングスポイントは訳が分からないと言った表情を浮かべている。だが、今の俺には関係がないとばかりに俺は自分の失敗を責め立てる。

 この展開になれば、最早後ろにいるウマ娘は無警戒とまでは行かないが、ほとんど警戒しなくてもいい。脚が十分に残っている状況でテンポイントに勝てるウマ娘などいない。実力が拮抗しているトウショウボーイでも前を取られたらテンポイントには勝てない。だが、そのトウショウボーイはテンポイントの前にいる。このままだと後ろにつけているテンポイントは確実に負ける。実力が完全に五分、お互いに脚が完全に残っている状況ならば前につけている方が勝つのは道理だ。

 そもそも、どうして俺はこのことを見落としていた?いつものペースで進むと考えていたからだ。いつものペース?少人数なのにいつものペースでレースが進むわけがないだろう。トレーナーとしてのレース経験の浅さが、最悪のタイミングで来てしまった。

 不安が消えた代わりに後悔が襲ってきた。俺は祈る。

 

 

(頼むテンポイント……!気づいてくれ……!)

 

 

 情けないが、今の俺にはそう祈るしかなかった。




やっちまったなぁ。
次回はテンポイント視点での宝塚記念。


※バックストレッチから向こう正面に表現変更 8/18
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