ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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テンポイントの宝塚記念のその後。


第58話 勘違い

 気がつくと、ボクは真っ暗な場所にいた。周りを見渡しても何も見えない。黒、黒、黒。黒一色の場所にボクは気づいたら立っていた。

 

 

(なんやここ……?不気味やし、それに、息苦しい……ッ!誰か、誰かおらんのか……ッ!)

 

 

 そう考えながら必死に誰かいないか探す。すると、目の前にいつの間にかお母様が立っていた。ボクは安堵する。そのままお母様に話しかけた。だが、表情は見えない。

 

 

「良かった……!お母様、ここはどこなんや?えらい暗い場所やし……、なんや不気味やし……」

 

 

 しかし、お母様の反応はない。ボクは聞こえなかったのだろうかと思い、もう一度話しかけた。

 

 

「な、なぁお母様?どうしたんや?なんや言ってくれへんと……」

 

 

 すると、こちらの声が聞こえないかのようにお母様はこちらに向かって信じがたい一言を放つ。

 

 

「あなたには失望したわ、テン」

 

 

「……は?」

 

 

 今、お母様はなんて言った?動揺しているボクを尻目に、お母様は言葉を続ける。

 

 

「本調子じゃないライバルにも負けるだなんて……、恥ずかしくないのかしら?」

 

 

 ……嘘だ、お母様がそんなこと言うはずがない。その言葉を聞かないようにするが、まるで無意味とばかりに頭の中に声が響く。ボクを蔑む声が。

 ボクは狂ったように叫ぶ。どこかへと、あてもなく走り出す。言葉が聞こえないように。しかし、相変わらず頭の中に響いてくる。叫ぼうが意味をなさない。

 気づいたら、周りにはたくさんの人が立っていた。その全てに見覚えがある。妹であるキングス、ハイセイコー先輩、ボーイ、グラス、カイザー、クイン。ボクと親しい人物たちが立っていた。全員表情は見えない。

 キングスがボクに向かって告げる。

 

 

「お姉カッコ悪……。全然強くないし」

 

 

 ハイセイコー先輩が告げる。

 

 

「君は私と同じだと思っていたんだが……、どうやら見込み違いだったようだね」

 

 

 ボーイ・グラス・カイザー・クインが告げる。

 

 

「まさか本調子じゃなかったのに勝てるなんてなー。テンさん弱くね?」

 

 

「テンちゃん弱いね~。これだったら次は余裕かな~?」

 

 

「テンポイントさんのマークは、もうする必要ありませんね」

 

 

「これがトウショウボーイ様のライバルだなんて……」

 

 

 皆、口々にボクを罵る。ボクの心は信じられない気持ちで溢れていた。

 

 

「夢や……。これは夢や……。みんなが、そないなこと言うはずない!」

 

 

 そしてボクはまた走り出す。どこを目指して走るわけでもなく、あてもなく走り続ける。その間もボクを罵倒する声は聞こえてくる。精神がおかしくなりそうだ。

 どれだけの時間走っただろう?気づいたら周りには誰もいなくなっていた。声も聞こえなくなった。ボクはそのことに安堵する。

 しかし、目の前に立っている人物が立っていた。ボクは思わず身構える。だが、その姿を見るとボクは安心した。

 

 

(良かった……トレーナーや。トレーナーやったら大丈夫や……)

 

 

 そう思い、ボクは先程よりも軽い気分でトレーナーに話しかける。

 

 

「な、なぁトレーナー?ええか?」

 

 

 しかし、トレーナーから衝撃的な一言が飛んできた。

 

 

「テンポイント、お前との契約を解消させてもらう」

 

 

「……え?」

 

 

 ……嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!トレーナーがそんなこと言うはずがない!ボクはトレーナーを問い詰める。

 

 

「おもろない冗談やな……!いくらトレーナーでも怒るで!」

 

 

 しかし、トレーナーはこちらの言葉が聞こえないのか、そのままこちらに話し続ける。

 

 

「最強のウマ娘だと思ってお前をスカウトしたんだがな……。どうやら俺の目は節穴だったらしい。じゃあなテンポイント。もう俺に関わるなよ」

 

 

 そのままトレーナーは歩いて去っていこうとする。ボクは信じられないという気持ちを抑え込みながらトレーナーに走って追いつこうとする。しかし、距離は離れていくばかりだった。

 

 

「待って……、待ってくれトレーナー……!ボク、頑張るから!次は、次は絶対勝つから!だからボクを……、ボクを……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見捨てないで!」

 

 

 ボクは必死に手を伸ばして布団から起き上がった。そして辺りを見渡す。

 先程の何も見えない暗い場所とは違って、生活感あふれる部屋が広がっていた。とても見覚えがある。寮の自分の部屋だ。そして、ボクはベッドの上にいる。ということはつまり、

 

 

「さっきのは……、夢……?」

 

 

そういうことだろう。ボクはひとまず安堵した。時間を確認する。そろそろ学園の授業が終わりそうな時間だった。

 部屋に置いてある小型の冷蔵庫から牛乳を取り出して飲む。少し気分が落ち着いた。気分が落ち着いたところで、ボクは1人愚痴る。

 

 

「ホンマに……過去最悪の夢やったな……」

 

 

 思えば、この数日間はずっと悪夢続きだったが、その中でも過去一に最悪な夢だった。寝汗が凄く、寝間着が身体に張りついて気持ちが悪い。ボクはすぐに着替えた。

 宝塚記念が終わって学園に戻ってからの数日間、ボクは学園を休んでいた。体調が悪かったわけじゃない。クラスのみんなと顔を合わせるのがどうしようもなく怖かった。今日の夢のようなことを言われたらどうしよう。そう考えると学園へと登校する足がすくんでしまった。

 それにどうやら宝塚記念から帰ってきたボクの姿はとてもじゃないが健常には見えなかったらしく、心配した寮長が心を落ち着かせて休むように言ったらしい。断片的にだが寮長の心配するような言葉を思い出してきた。

 今でこそ、自分の行動をゆっくりと振り返ることができているのは多少なりとも心が落ち着いてきている証拠なのかもしれない。もしくは、あまりの悪夢に逆に落ち着いたかのどちらかだろう。

 ボクは携帯を見る。メッセージアプリには新着のメッセージが届いていた。だが、そのほとんどが既読しただけで返信をしていない。どうやらこの数日間、ボクはずっと既読だけをしていた状態だったらしい。だが、内容は全然覚えていないのでゆっくりと内容を見ていく。

 メッセージはその全てがボクを心配する内容だった。夢とは全然違ったことに胸をなでおろす。

 

 

「良かった……。お母様も、キングスも、みんなも。やっぱ夢やったんやな……。てか、トレーナーのメッセージの数多ッ!?」

 

 

 そんなことを考えていると新着メッセージが届いた。誰からだろうと確認してみるとトレーナーからだった。

 

 

「一体なんやろうか……ッ!?」

 

 

 メッセージを見て、ボクは一瞬息が止まった。その内容が衝撃的だったからだ。

 

 

【大事な話がある】

 

 

 まさか……まさかこれは……。

 

 

(正……夢……!?)

 

 

 今このタイミングで大事な話があるということは、契約を解消すること以外ないだろう。あんな不甲斐ない走りをしたのだ。そう切り出されても仕方ないのかもしれない。

 怖い。どうしようもなく怖い。でも、メッセージに既読をつけてしまった。向こうはこちらが確認したことが分かっただろう。

 ボクの取った行動は……、既読無視を決め込むことだった。

 

 

(既読無視なんて今更や……。向こうも気に留めんやろ……)

 

 

 契約解除は嫌だ。問題を先延ばしにするだけだが、その間に解決策ぐらい思いつくだろう。

 ボクは布団を被って自己嫌悪する。

 

 

「最低や……ボク。怖いからって、こないなことするなんて……」

 

 

 ボクはこんなに臆病だっただろうか?分からない。ただぼうっと過ごす。

 そこから2時間以上経っただろうか?気づいたら他の生徒たちも帰ってきていたのか、寮の廊下が慌ただしくなってきた。

 ……いや、いくら何でも慌ただしすぎではないだろうか?ボクは思わず気になって廊下に出る。すると皆玄関に向かっているようだった。

 ボクが部屋から出たことに気づいたのか、1人の寮生が嬉しそうな表情を浮かべてボクに話しかけてくる。

 

 

「あ!テンポイントさん!元気になったんですか?前より顔色良いですね!」

 

 

「う、うん、まあボチボチな。それより、どないしたん?なんやえらい慌ただしいけど」

 

 

 するとハッとした表情をしてこちらの疑問に答えてくれる。

 

 

「そうだ!今栗東寮の玄関に、テンポイントさんのトレーナーさんが来てるんですよ!寮長に必死にお願いしてるんですけど……テンポイントさんも行きましょう!」

 

 

 その言葉と同時に、その子はボクの手を引っ張る。困惑しながらもボクは引きずられるように玄関に行った。

 いざ寮の玄関に着いてみると、中々に混沌とした状況になっていた。

 

 

「頼む!テンポイントに会わせてくれ!話がしたいんだ!」

 

 

 そう言って頭を下げるボクのトレーナー。

 

 

「ダメだって言ってるだろ!トレーナーがウマ娘の寮に入ることは禁止なんだ!これは学園の規則で決まっていること!曲げることはできないよ!」

 

 

 頑として認めない寮長。そしてそれを見る栗東寮の寮生たち。

 ボクは心の中で叫ぶ。

 

 

(な、な、な……!何しとんねんトレーナー!?)

 

 

 困惑しているとトレーナーは諦め悪く寮長にお願いしていた。

 

 

「だったら!ここに連れてきてもらうだけでもいい!ただ会って話したい!それだけなんだ!頼む!」

 

 

 エスカレートしすぎて、トレーナーは土下座までしだした。寮長は一瞬たじろいだものの、すぐに拒否する。

 

 

「ダメだよ!あの子は今不安定な精神状態なんだ!そんな状態なのに合わせるわけにはいかないよ!」

 

 

「頼む!」

 

 

「ダメだ!」

 

 

 そこからは押し問答だ。お互いに一歩も譲らない。ボクのためにそこまでしてくれているトレーナーのことを思うと、これから言われるであろう契約解除のことなど関係なしに、嬉しさのあまり顔がにやけてしまいそうだった。

 ただ、ここまで来た以上もう逃げることはできないだろう。ボクは観念して前に出てくる。寮長は驚いたような表情をしていたが今は気にしていられない。ボクはトレーナーをまっすぐ見据える。

 寮長がボクに話しかける。

 

 

「て、テンポイント!?もう大丈夫なのかい!?」

 

 

「平気です。ご心配おかけしました」

 

 

 ボクは短くそう答えた。ボクの姿を確認してトレーナーも安堵したような表情を浮かべる。

 もう逃げれないだろう。そう悟ったボクはトレーナーに告げた。

 

 

「大事な話、あるんやろ?やったらはよ行こか」

 

 

「あ、あぁ。確かにそうだが……」

 

 

 トレーナーは困惑していた。寮長へと視線を向けている。

 どうやら許可が出たらしく、ボクはトレーナーに連れられてトレーナー室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーは早速話を切り出す。

 

 

「まずは……体調は大丈夫か?テンポイント」

 

 

 こちらを心配するような表情で問いかける。その言葉にボクは早く大事な話を聞きたいという焦りを感じながらも平静を保って答える。

 

 

「平気……て言いたいとこやけど、あんま大丈夫じゃないかもしれんな」

 

 

 今から契約解消の話を切り出されるのだ。大丈夫なわけがない。

 するとトレーナーは、

 

 

「じゃあ、この話は後日に回すか?」

 

 

と言ってきた。だが、ここまで来たのだ。ボクはその言葉を断る。

 ……どうしようもなく怖い。本当に、夢の中で言われたことを告げられたらどうしよう?そうなったら、ボクは無事でいられる保証がない。

 ボクの心臓の音が聞こえる。恐怖で手が震えてきた。冷汗が止まらない。今から告げられる言葉が想像ついているだけに、平静を保っていられない。夢での出来事を思い出す。限界を迎えそうだった。

 

 

「テンポイント、実はな……」

 

 

 ……嫌だ。

 

 

「……や」

 

 

「どうした?テンポイント」

 

 

 嫌だ!やっぱり嫌だ!

 

 

「嫌や!」

 

 

 思わずそう言ってしまった。我慢できなかった。抑えることができなかった。トレーナーは驚いた表情を浮かべている。

 嫌だ、嫌だ!確かに不甲斐ない走りをしてしまった!けど、もうあんな走りはしない!だから、どうか見捨てないで欲しい!その気持ちが抑えきれなかった。

 トレーナーは困惑した表情を浮かべていた。そのままボクに告げる。

 

 

「そ、そんなに嫌か?」

 

 

 ……どうしてこいつはこんなに平静を保っていられるのだ?沸々と怒りが湧いてきた。だが、今はトレーナーに悪い印象を抱かれないためにもグッとこらえる。見捨てられないために。

 

 

「当たり前やろ!絶対に嫌や!」

 

 

「そ、そうか。だったら止めておくか」

 

 

 その言葉に、ボクは肩透かしを食らった気分になる。思わず言葉に出してしまった。

 

 

「え?そ、そんだけ?そんだけかトレーナー?」

 

 

「あぁ、無理強いは良くないしそんなに嫌なら止めといたほうがいいだろ」

 

 

 ……こいつはそんな簡単に!

 

 

「お前!そないに軽い覚悟で言おうとしとったんか!ボクを舐めるのもええ加減にせえよ!」

 

 

 思わず怒りの言葉が溢れてしまった。トレーナーは驚いている。

 

 

「え!?なんで怒られてんの俺!?」

 

 

 どうやらトレーナーは事の重大さに気づいていないのか困惑している。その後もボクはトレーナーに怒りをぶつけていたが、トレーナーは謝り倒しているだけだ。

 しばらくして、何かおかしいことに気づいた。いくらトレーナーがアレとはいえ、契約解除の重大さに気づいていないことなどあり得るか?ボクは疑問に感じる。

 その疑問をボクはトレーナーにぶつけた。

 

 

「な、なぁトレーナー。そもそもの話や。重大な話ってなんや?」

 

 

 するとトレーナーは困惑した表情を浮かべたままボクの質問に答える。

 

 

「え?お前に海外遠征の話が来てたからその話をしようとしたんだけど……。でも話聞く前にお前が嫌だって言ったからじゃあ止めとくかって思っただけだが……」

 

 

 ……は?

 

 

「……え?海外遠征?契約解除じゃなく?」

 

 

「契約解除?誰と誰が?」

 

 

「トレーナーが、ボクに」

 

 

「何言ってんだお前?お前が俺に三行半つけることはあっても俺がお前にそんな話を切り出すわけないだろ。天地がひっくり返ってもないと断言する」

 

 

 トレーナーはそう告げた。その言葉に少し嬉しくなったが、直後にボクに羞恥の感情が沸き上がってきた。

 

 

「~~~ッ!」

 

 

 ボクは声にならない叫びを上げる。恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

 

 

(重大な話て……!海外遠征の話!?てことは……契約解除云々はボクの1人相撲やったってことか!?)

 

 

 恥ずかしい!恥ずかしい!勘違いで色々とぶちまけてしまった!ボクがトレーナーと契約解除するのが嫌だということが伝わってしまった!

 恥ずかしさで真っ赤になった顔を両手で覆う。トレーナーは心配するように話しかけてくる。

 

 

「だ、大丈夫か?テンポイント」

 

 

「……けや」

 

 

「え?」

 

 

「メッセージに、主語ぐらいつけとけや!こんボケェェェェェェ!」

 

 

「ご、ごめんなさい!?」

 

 

 勝手に勘違いした身で言えた義理ではないが、そう言わずにはいられなかった。




前半と後半の振れ幅がデカすぎる。
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