チャンミは普通に負けました。短距離育成なんてしてないよ……。
※昨日上げた話の出来に納得できなかったので削除し改稿したものです。
トレーナーから大事な話があると言われてついて行ったトレーナー室。てっきり契約解除の話をされるのかと思ったボクはトレーナーの言葉を最後まで聞かずに嫌だと答えた。しかし、どうやら大事な話とはボクに海外からのレースの招待状が来ていたという話であり、契約解除は全く関係なかったことが判明した。
今ボクは色々とぶっちゃけてしまった恥ずかしさから真っ赤になった顔を両手で覆ってうずくまっている。
「……アカン、やってもうた……」
「スマン、テンポイント……。次からはちゃんと主語を入れてメッセージを送るようにする」
「いや、ボクが自爆しただけやからトレーナーは気にせんといて……。でもそうしてくれるとありがたいわ……」
トレーナーは自分が悪いと思ったのか申し訳なさそうに謝罪してきた。だが、元はといえばボクが勝手に勘違いしただけでトレーナーは悪くない。
しばらくして何とか復帰したボクにトレーナーが告げる。
「で、だ。お前にアメリカで行われるレースの招待状が届いていたわけだが……。どうしたい?テンポイント」
「アメリカやろ?う~ん……」
正直、魅力的な提案である。ボクの実力が海の向こうでも評価されているということなのだからそれ自体は嬉しい。
だが、果たしてボクの実力が本当に海外でも通用するのだろうか?本調子ではないボーイに力負けするボクが、海外に行ったところで勝てるのだろうか?そんな疑問が湧いてくる。
ボクはトレーナーに質問する。
「なぁ?トレーナー。トレーナーはボクが海外でも通用する思うてるんか?」
「通用する。俺はそう思っている」
……聞いた後に気づいたが、トレーナーに聞いたところでこう答えるのは目に見えていた。だからボクは質問を変えた。
「じゃあ、本調子やないボーイに負けたボクが、本当に海外でも通用する思うんか?」
「……宝塚記念のことか」
そう言ってトレーナーは頭を掻いた。ボクは頷く。トレーナーは何と答えるだろうか?
しばらく沈黙した後、トレーナーは思い出したように答える。
「そう言えば、宝塚記念の反省会してなかったな。お前多分俺が言ったこと覚えてないんじゃないか?」
「うっ、それは……そうやな」
宝塚記念が終わった後のボクは抜け殻のようになっていたらしいので、トレーナーがなんて言ったのか覚えていない。レース後の記憶もほとんど曖昧なことからそれは分かっていた。
「じゃあ、今のうちにしておくか。それで今回の敗因が分かるからな」
「……分かった」
聞くのは怖いが、逃げてばかりではいられない。それに、みんなからの励ましのメッセージやトレーナーとのやり取りで少しは精神状態も安定してきた……と思う。ボクは意を決して宝塚記念の反省会に挑んだ。
「え~と、つまり?」
「はい」
ボクはトレーナーから今回の宝塚記念のことについての総評を聞いていた。その内容はこうだ。
「少人数でスローペースになるはずやから前に出た方が有利やのにボーイの後ろにつけるよう指示して?」
「はい」
「それに気づかずいつもんペースで進む思うてたから後方を警戒してボーイのマークを緩めるよう指示してしまい?」
「はい」
「結局スローペースでスタミナ十分残しとるボーイが逃げ切り勝ちを収めおって?」
「はい」
「後方で控えていたボクは敗北した……と。つまりトレーナーが言いたいんはあの負けは完全に作戦が読まれた上での必然の敗北、ボクの実力がボーイに劣っとったわけやない……と。そう言いたいんやな?」
「その通りでございます」
トレーナーからその総評を聞いてボクは口を開いて呆けるしかなかった。
完全に力負けしたと思っていたあの宝塚記念。実際のところはボクの実力がボーイに劣っていたわけではなく、トレーナーとしての腕の差が出たレースだったらしい。リギルのトレーナーはこちらの作戦を完全に読んでおり、その対策を取ってきた。それに加えて少人数でのレースの鉄則を踏まえた上での作戦を組んでいたため、トレーナー曰く第4コーナー時点で勝負は見えていたらしい。トレーナーは自分の作戦が失敗したことに向こう正面の中間に入ったタイミングで気づいたらしく、もうどうしようもなかったとのこと。
ボクはトレーナーに聞く。
「トレーナーが言いたいんは、ボクが負けたんはボーイとの実力が開いていたからではなく、自分の立てた作戦が悪かったから負けた……と」
「本当にもう、返す言葉もございません……」
トレーナーはそう言って落ち込んでいた。だが、ボクは呆れながら答える。
「阿呆やなぁトレーナー」
「はい、本当に阿呆な作戦を立ててしまい……」
「ちゃうわ。あんなぁ、確かにトレーナーが立てた作戦で負けたかもしれへん。やけど、その作戦にはボクも納得した上で宝塚に挑んだんや。やったら、ボクも同罪やろ」
「……それはそうだが」
「それに」
ボクは一拍おいて答える。
「トレーナー前に言うてたやろ?過去んこといつまでも引きずるんは良くないってな。大事なんはこれからどうするか。ちゃうか?」
「……そうだったな。悪い、俺も不安だったみたいだ」
そう言って、トレーナーは笑顔を浮かべる。つられてボクも笑みを浮かべた。するとトレーナーがボクに告げる。
「いつの間にか、いつもの調子に戻ってきたな、テンポイント」
「……ホンマやな。いつの間にか普通の調子に戻っとるわ」
自分でも不思議に思った。今まで心の中にあった不安の気持ちが晴れていた。不安が全てなくなったわけじゃないが、少なくともこの数日間の中では一番マシと言ってもいい。今日の夢で見たものが全てボクの不安から生まれたものだったことに気づいて、気が楽になったのかもしれない。
トレーナーが時計を確認する。ボクもつられて時計を見ると、もういい時間になっていた。トレーナーがボクに告げる。
「もうこんな時間か。寮まで送ろう。明日と明後日は練習休みにしとくからゆっくり休んでくれ」
「う~ん、正直練習したいんやけど……」
「念のためだ。いつもの調子に戻ったとはいえ、まだ油断はできないからな」
「は~い……」
明日と明後日の練習は休みとなった。だが、これはちょっと好都合かもしれない。幸い学園は休みだ。ボクが気になっていることを調べるチャンスだろう。
気になっているのは、トレーナーのボクに対する態度だ。トレーナーはボクの強さに絶対の信頼を置いているような気がする。負け星の数もそれなりにあるのにだ。それがどうしてなのかボクは知りたかった。なので、トレーナーと親しい人物たちに聞いてみることにしよう。トレーナーは他の人にボクのことをどんな風に言っているのか、ちょっと知りたくなった。ボクはそんなことを思いながらトレーナーに送られて寮へと帰る。ボクがいつもの調子に戻っていたことにみんなが安堵した表情を浮かべていた。
その日は、悪夢を見ることなくしっかりと寝ることができた。
明けて次の日、ボクは生徒会室を訪れていた。まずはトレーナーと最も関りが深いであろう生徒を尋ねてみようと思った。その人物は間違いなくあの人だろう。今日は学園は休みであるが、事前に連絡を入れると仕事があるらしく、学園に登校していると言っていた。
生徒会室の扉をノックする。すると目的の人物が扉を開けて出迎えてくれた。
「やぁ、待っていたよテンポイント。元気を取り戻したようで何よりだ」
「ご心配おかけしました、ハイセイコー先輩。やけどもう大丈夫です」
トレーナーと最も関りが深いであろう人物、それはハイセイコー先輩だ。普段から親しげに会話しているので仲はいいのだろう。多分、いいはずだ。トレーナーは毎回嫌な顔をしているが。
先輩に招かれてボクは生徒会室に入る。中には誰もいなかった。先輩曰く、
「あまり他の人には聞かれたくないのかもしれないと思ってね。迷惑だったかな?」
とのことらしい。確かにあまり人には聞かれたくないのでお礼を言った。
先輩がお茶を淹れてくれた。ボクは再度お礼を言って早速本題を切り出す。
「今回話したいことなんですけど……。実はトレーナーのことで」
「トレーナー?神藤さんがどうかしたのかい?」
先輩は興味深そうにそう言った。ボクは言葉を続ける。
「トレーナーはいつもボクのことを信じてくれとるんです。あんなに負けたのに、悪いんは自分言うてボクを責めたことはほとんどありません。なんでトレーナーはボクのことをこないに信じてくれるんか知りませんか?」
しかし、ボクの言葉に先輩は呆れた表情を浮かべて答える。
「……それはアレかい?惚気話でもしに来たのかい?抜け殻みたいな状態から戻ったと思えば惚気話とは君もまあ随分……」
「ちゃいます!ホンマに疑問なんです!」
「はいはい分かった分かった」
先輩はまともに取り合う気がないような返事をする。そんなにおかしな質問だっただろうか?
しかし、先程の呆れから一転して真面目な表情でボクを見据える。ボクはその視線に姿勢を正して言葉を待つ。先輩は口を開いた。
「そうだねぇ……。まあ、強いて言うなら神藤さんが君にベタ惚れしているからだろうねぇ」
「ボクは真面目に聞いとるんです!」
「私も大真面目で返してるんだが?まあ惚れてると言っても走りにだけどね」
ボクが少し怒りながら言っても先輩はそう答えるだけだ。どうやら嘘は言っていないらしい。ボクは先輩に再度質問する。
「じゃあ、その理由は何です?」
しかし先輩はお手上げのポーズを取って答える。
「さぁ?その理由までは私も知らないさ」
どうやら先輩も知らないらしい。だが先輩は続けてこう言った。
「まあ1つ確実に言えることは、あの人が君に対して言ったことは全て本心であることは間違いないよ」
「ボクに言うたことって……最強とか、その辺ですか?」
「そうだよ。なんせ私とタケホープがいる場でも宣言するくらいだからね。最強はテンポイントだ!……ってね。全く羨ましいよ、ここまで思われてるとはね」
少し恥ずかしくなったが、それよりも驚きの方が勝った。トレーナーはハイセイコー先輩とタケホープ先輩相手にもそんなことを言っていたのかと。ボクは無言になる。
そこからしばらく経って、先輩は締めるように告げた。
「まあなんにせよ復活してくれてよかったよ。おかえり、テンポイント。メッセージでも言っていたが、心配だったからね」
「……ありがとうございます。それと、すんません。メッセージの返信遅れてもうて」
「気にしないでくれ。こうして元気になった君に会えたんだ。これからの君の活躍、期待しているよ」
先輩は笑顔でそう言ってくれた。まぎれもない本心なのだろう。ボクもお礼を言う。その後先輩は仕事があるからと生徒会室を出た。ボクもそのタイミングで退室する。先輩とはそこで別れた。
しかし、分かったことは少ない。
「トレーナーはボクの走りに惚れとって……、今まで言うてきたことはお世辞やなくて全部本心……」
確かに嬉しいけども。ボクは何とも言えない気持ちになりながらその場を後にした。
しばらく歩いているとリギルのトレーナーである東条トレーナーに会う。せっかくなのであの人にも聞いてみよう。
「あの、東条トレーナー。少しお時間よろしいでしょうか?」
「あなたは……テンポイント?体調は大丈夫なのかしら?」
「はい、すんません。えらい迷惑を掛けました」
「それはトウショウボーイに言ってあげて。あの子、とても気に病んでいたから」
「あぁ~……。一応、解決しましたので……」
その言葉にボクは苦笑いを浮かべる。一応寮に戻った後、メッセージの返信をしたのだ。心配をかけたこと、メッセージの返信が遅れたことを謝った。
すると、ボーイだけでなく、他の人からも速攻で既読がついたと思ったら通話が飛んできた。内容はどれもボクを心配する言葉であり、夢の内容とは全く違うものだった。ボーイに至っては涙声だったし。カイザーは自分のことも大変なのにありがたい限りだ。
そう考えていると東条トレーナーが口を開く。
「それで?私に聞きたいことがあるのでしょう?」
「は、はい。それなんですけど……」
「おぉ?おハナさんにテンポイントとは珍しい組み合わせだな」
話そうと思ったところで、横やりが入る。誰かと思って視線を向けるとグラスのトレーナーである沖野さんだった。丁度良かった。沖野さんにも聞く予定だったのだ。
「あ、沖野トレーナー。丁度良かったです。沖野トレーナーにも聞きたいことなんですけど……」
「おハナさんだけでなく俺にもか?そりゃまた随分珍しいな。まあいいぜ、何でも言ってみろ」
「あなたねぇ、そんなに安請け合いして」
「だ、大丈夫です。そないに難しいことやないんで」
そう言ってボクは2人にもハイセイコー先輩と同じような質問をした。何故トレーナーがボクのことをここまで信じてくれるのかを。
すると2人は揃って微妙な表情をしていた。そんなにおかしい質問だったか?まず沖野トレーナーが口を開く。
「……テンポイント、冗談で聞いてるんじゃないんだよな?」
「は、はい。本気です」
「なるほどなぁ……」
2人揃って、どう伝えようか迷っているのか唸っている。しばらくして東条トレーナーの方が口を開いた。
「そうねぇ……神藤があなたの走りに惚れているから……としか言えないわね」
「俺もおハナさんに同感だ。アイツがお前の走りに惚れているからとしか言えねぇ」
「ハイセイコー先輩と同じこと言いますね……」
それぐらい共通認識らしい。喜ぶべきことなのだが、なんというか素直に喜んでいいものなのだろうか。
「お2人も、理由までは分からないですか?」
「そうね、神藤はそのことは詳しく話さないから私たちも知らないわ」
そんなに秘密にしたいのだろうか?そう思っていると沖野トレーナーが口を開く。
「まあ確実に言えることは、アイツはお前を裏切ることは絶対にないってことだな。宝塚記念も相当悔しかったのか珍しく酔い潰れるまで飲んでたからな。しかも言ってることはほとんどお前さんのことだったし。俺が悪いだの完全に作戦負けだっただのってな」
「同感ね。神藤があなたのことを裏切る姿なんて想像できないわ」
「い、言い切りますね……」
「そんぐらいってことだよ。誠司のお前さんに対する思いは」
そこまで聞いたところでお2人は仕事に戻っていった。ボクは1人取り残される。
その後もトレーナーと親しい人物に話を聞いていったが、共通してボクに絶対の信頼を置いているということが分かった。
そして、その信じてくれている理由が、
「ボクの走りに惚れとるから……か」
にやけそうになる顔を必死に抑える。だが、誰だって自分の走りが好きだと言って貰えたら嬉しくもなるだろう。
しかし、ボクの走りに惚れている理由まではついぞ分からなかった。誰にも言っていないらしい。そこはもう本人に聞いてみるしかないだろう。
「休み明け、聞いてみるしかないってことやな……」
ボクはそう決意した。
札幌記念はジャックドールが勝ちましたね。
※納得できなかった理由なのですが、前半の会話を見直すとあまりにも酷い出来だと思ったからです(個人的な感情で申し訳ありません)。なので前半部分を丸々改稿しました。