ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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対策を考える回。


第60話 見出した活路

 テンポイントが完全にとは言わずとも調子を取り戻した次の日、俺は1人トレーナー室で資料をにらめっこをしていた。お昼の時間帯は用務員としての仕事もあり、その後から取り組み始めたので、もうすでに日は完全に沈んでいる。テンポイントには今日と明日の練習を休みにすると言い渡しているのでこの場にはいない。

 何の資料を見ているのかというと、チーム・リギルのトウショウボーイの資料である。過去のレース資料から何か弱点はないかと探しているのだがこれが見つからない。

 

 

「日本ダービーで浮き彫りになった寄せられると怯むっていう弱点はもう解消されてるからな……。隙が見当たらねぇ」

 

 

 お手上げムードになりながらも、俺はくまなく資料から何か弱点になりえるものはないかと見ていく。だが、資料を見れば見るほど、最新の資料になっていくほどトウショウボーイには隙が無いということが分かって嫌になる。ここまで育てたおハナさんの手腕を褒めるしかないだろう。

 強いてあげるのであれば、バ場が荒れていると本領を発揮できないということと、長距離を走るのが不安だということだろうか。だが、距離に関してはそもそも不利な距離に出走しない可能性だってあるし、荒れてるバ場だと本領を発揮できないことも運が絡む。どれも決定打にはなりえないだろう。

 俺は1つ伸びをして休憩を取る。ずっと資料とにらめっこしていたのでさすがに疲れてきた。俺は溜息をつきながら呟く。

 

 

「テンポイントがトウショウボーイに劣っているわけじゃない……。だからこそどうやってレースを展開するかが重要になってくるわけだが……」

 

 

 いかんせん、いい案が思いつかない。トウショウボーイの後ろでマークして先行気味に展開し、最後の直線で先頭に立つ。王道だが、これこそが一番勝ちやすい道筋だ。

 だが、その作戦は少人数でのレースだと意味をなさないことが今回の宝塚記念で分かった。だからと言って前につけるという作戦を立てても、そんな浅い考えで挑んだところで熟練のトレーナーにはすぐに看破されて対策を取られるのがオチだ。というより、宝塚記念が終わった後におハナさんにそう言われた。悔しかったが、全くもってその通りだったので反論できなかった。

 どうやってトウショウボーイに勝とうかと四苦八苦していると、トレーナー室のインターホンが鳴る。もう日も完全に沈んでいるのに誰だろうか?

 

 

「どうぞー」

 

 

 そう返事をすると、普段から仲良くしてくれるトレーナー達が部屋の中に入ってきた。驚いている俺を尻目にそいつらは気軽に挨拶をしてくる。

 

 

「よぉ、神藤。どうした?呆けた面して」

 

 

「いや、だって……」

 

 

 いまだに驚いていると、トレーナーの1人が目的について話してきた。

 

 

「お前が宝塚記念が終わった後苦労してるって風の噂で聞いてな、協力しに来たぜ」

 

 

「……いいのか?自分たちのことだってあるのに」

 

 

「気にすんな。仕事は全部終わらせてきたからな」

 

 

 だが、俺は思わずしり込みして答える。

 

 

「でも、悪いだろ?俺のことなのに」

 

 

 そう言うと、みんなは笑いながら答える。

 

 

「今更何言ってんだよ。それによ、お前担当を持つってなった時に言っただろ?困ったときは頼らせてくれって」

 

 

「それは、確かに言ったけど」

 

 

「だから気にすんな。もし気にするんだったらまた何か別の形で返してくれ」

 

 

 そう言って、笑顔を見せた。他の奴らも笑顔でこっちを見ている。

 正直言ってありがたい話だ。俺1人では気づかないようなことでも気づくことがあるかもしれない。俺は歓喜のあまり心が震えた。お礼を言う。

 

 

「ありがとう……。じゃあ、頼む!手を貸してくれ!」

 

 

「「「おう!任せろ!」」」

 

 

 その姿は、とても頼もしく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、頼もしく見えたのはその時だけだった。時間はもう日付が変わりそうな時間帯。俺のトレーナー室は死屍累々となっていた。

 

 

「「「全然見つからねぇ……」」」

 

 

「皆さんグロッキーになってますね……。これ差し入れです」

 

 

 そう言って後から合流した坂口がエナジードリンクを差し入れてくれた。俺はお礼を言って受け取り、早速開ける。少しだけだが睡魔に負けそうだった脳が復帰した。

 集まってくれたトレーナー達は口々に言う。

 

 

「いやマジで……弱点っていう弱点が見つからねぇな……」

 

 

「さすがはリギルのトレーナーだわ……。弱点があっても次のレースではすぐに解消してる……」

 

 

「強いて言うなら重バ場だとそこまででもないってことぐらいか……?でもそのぐらいの欠点は神藤ももう分かってるだろ?」

 

 

 その質問に俺は答える。

 

 

「そうだな。重バ場の時とそれ以外の時とでは差があるからな。すぐに分かった」

 

 

 そう言うと、全員溜息をついた。俺もつられて溜息をつく。

 3人集まれば文殊の知恵とは言うが、俺たちの現実は3人以上集まっても打開策すら見つからないという現状だ。それだけトウショウボーイが強いってことでもあるのだが。

 トレーナーの1人が告げる。

 

 

「ぶっちゃけさ、テンポイントも実力っていう点で見ればトウショウボーイに全然見劣りしてねぇんだよ」

 

 

「そうだよな。だから問題があるとすれば……」

 

 

 そう言って全員が俺の方に視線を向ける。俺はいたたまれなくなって反応する。

 

 

「やめろ……。俺の経験が足りないってことは俺が一番よく分かってるから……」

 

 

 やはり他人から見ても俺がテンポイントの足を引っ張っているらしい。かなり落ち込む。そんな俺の姿を見て不憫に思ったのか、トレーナーの1人が慰めるように言った。

 

 

「まあ、トレセン学園最強と名高いリギルのトレーナーと新人を比べてもしょうがねぇよ。どうしたって経験の差ってもんは出てくるんだからさ」

 

 

 その言葉に同調するように他のトレーナーも慰めてくる。

 

 

「まあ、そこを考えても仕方ねぇよ。どうしたって差ってもんは生まれるんだからよ」

 

 

「それに、後何年かすれば経験の差は埋まるだろ。多分」

 

 

「いや、今勝てないと意味ないですよね……」

 

 

「しっかし、本当にどうするのが正解なのか……。ウマ娘同士の実力が拮抗している以上トレーナーとしての腕の差が出てくる……。それを埋める方法は時間がかかるときた……」

 

 

「詰んでね?」

 

 

 後半はただの事実の羅列だったが、実際その通りなので俺は反論もできない。だが、諦めるわけにはいかない。なんとしてでも活路を見出す。俺は頬を叩いて気合を入れた。

 

 

「良し!休憩も取れたし、もうひと頑張りするか!」

 

 

「「「おおー!」」」

 

 

 その後も、俺たちは対トウショウボーイの対策を練っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は丑三つ時。もう誰もが寝る時間だろう。だが俺のトレーナー室は明かりが点いている。部屋の現状を一言で説明するなら、

 

 

「うえぇ……もう、もう文字見たくねぇ……」

 

 

「なんか見えるなー……なんだアレ……」

 

 

「落ち着け!そこにはなんもねぇぞ!」

 

 

「眠い……瞼が上がらねぇ……」

 

 

地獄絵図だった。まあ、日が落ちてからずっと資料とにらめっこしていたのだ。いくら休憩を取りながらといえども精神的に来るだろう。

 かく言う俺も限界が近かった。すでにエナジードリンクを摂取しても眠気は取れなくなってきている。だが、何とか気合で持ち堪えていた。

 ここまで頑張って分かったことは数点。

 

 

「テンポイントがトウショウボーイに勝つためには最後の直線を先頭で迎えること……。最高速度はほとんど差がないからそこに至るまでの展開が大事……。いかにしてトウショウボーイの速度を封じ込めるか……」

 

 

 テンポイントが勝つためには、最後の直線で先頭を取ることが絶対条件であると俺たちは結論づけた。テンポイントの最高速度はトウショウボーイとそこまで差がないと感じている。なので後はトウショウボーイの速度をどう封じ込めるかが大事になってくる。

 だがそれは、俺がすでに至っている考えだった。つまるところ、何も進展していない。先行にも様々なパターンがあることが分かったが、そこから先どうするのかが全く思いつかなかった。自分の頭脳の貧困さを嘆く。

 すると、トレーナーの1人が突然叫ぶように言った。

 

 

「あーもーめんどくせぇ!ようは最後の直線を先頭で迎えればいいんだろ!?」

 

 

「急にどうした?まあ確かにそうだけど」

 

 

「だったらもう、細けぇこと考えてねぇで序盤から逃げちまえばいいんだよ!」

 

 

 そいつはそうぶっちゃけた。その言葉に俺たちは溜息をつく。俺がみんなの気持ちを代弁した。

 

 

「お前、それは無理だって結論がついただろ?テンポイントは先行型だから意味ないって」

 

 

「知るか!最初から最後までずっと先頭だったら、テンポイントだったら勝てるだろ!?」

 

 

「無茶苦茶言うなお前……。それができたら苦労はしねぇだろ。今から逃げの走りに矯正するにも時間がかかるし……」

 

 

「そこはほら!頑張んだよ!」

 

 

「お前なぁ……」

 

 

 俺は呆れながらそいつを見る。だが、直感のような何かが俺に働いた。

 

 

(待てよ……?テンポイントは負けず嫌いな性格だ……。先頭を取れば抜くことは容易ではない……。今まで先頭を取るために色々と試行錯誤してきたのはそのためだ……)

 

 

「お、おい?どうしたんだよ神藤。まさかこいつの言ってること真に受けてんのか?」

 

 

「スマン、少し黙っててくれ」

 

 

 もう少し、もう少しで何か掴めそうなんだ……!

 

 

(宝塚記念でトウショウボーイを逃げさせたのはテンポイントを前に出させないため……。おそらくだがおハナさんはそう考えたはずだ。それはなぜだ?どうしてそこまで警戒したのか……。今までの公式レースでの経験か……?それとも別の……ッ!)

 

 

 そこまで考えたところで、俺は棚に向かった。そして、今までのレース映像が収められているBOXをひっくり返す。ここにあるはずだ。俺の目的のものが!

 坂口は俺の行動に戸惑っているような声を上げる。

 

 

「ど、どうしたんですか神藤さん!?急にBOXをひっくり返したりして!」

 

 

 だが、俺は返事をせずに一心不乱に目的の映像を探す。

 

 

「これじゃない……!これじゃない……!……ッ!あった!」

 

 

 探すこと数分、ついに目的の物を見つけた。そのDVDに収められているのは、テンポイントのジュニア期のものだ。しかも公式のレースではなく、リギルのハイセイコーとの模擬レースが収められた映像。俺は焦る気持ちを抑えながらその映像を再生しようとレコーダーに入れた。そして、片時も見逃さないように食い入るように映像を確認する。

 そんな俺の行動に他のトレーナー達は戸惑いの声を上げていた。挙句の果てには疲れで狂っただの言われる始末だ。だが俺はそれを聞こえないふりをして映像を見る。もう少しで目的のところだ。

 その目的の箇所とは、ハイセイコーに抜かれてもう追いつくことが絶望的になった第4コーナー。ここからテンポイントはすさまじい追い上げを見せた。あのハイセイコーに追いつくほどの末脚を見せたこのレース。これが俺の目的の映像だった。

 

 

(この時のテンポイントは後ろからのプレッシャーでスタミナも削られてほとんど空だったはずだ……。脚ももうほとんど残っていなかったはず、なのにハイセイコーに追いついた……。恐ろしいまでの勝負根性。ということは……!)

 

 

「見つけた……!テンポイントが一番輝ける戦法を……!」

 

 

 俺は思わずそう呟いた。その言葉に坂口たちは驚きの声を上げる。坂口が代表して聞いてきた。

 

 

「ほ、本当ですか!?神藤さん!」

 

 

 興奮を隠しきれない様子で言ってくる。俺は自信満々に答えた。

 

 

「あぁ!これならトウショウボーイにも、誰にも負けやしない!テンポイントの強さを最大限活かすことができる!」

 

 

 その言葉に周りのみんなは一瞬呆ける。だが、しばらくしてから歓喜の声を上げた。俺も嬉しさから歓喜の声を上げる。

 なぜ今まで気づかなかったのか?その理由は単純だ。先行が王道の戦法だから。教本でも強いウマ娘はほとんどが先行だからと、その王道こそがテンポイントに最もふさわしいと俺は決めつけていた。だからこそ、視野が狭まっていた。そして、教本通りの戦法しかとらなかった。

 思えば、時田さんはあの時から気づいていたのだろう。だからあの時俺にヒントをくれた。視野が狭まっていた俺に。悔しいが、感謝しかない。

 俺は早速練習メニューを作成しようする。間に合うかは分からない。だが、絶対に間に合わせて見せる!

 だがその前に、協力してくれたみんなに感謝する。

 

 

「みんなありがとう!こんな時間まで付き合ってくれて……!おかげで、勝つための算段が整った!」

 

 

「まさか、苦し紛れで言ったことがヒントになるとはなぁ……」

 

 

「でもまあ、これだけやったんだ!勝たなきゃ承知しねぇぞ!」

 

 

「頑張ってください神藤さん!」

 

 

 こんな時間に帰させるわけにはいかないと思った俺は上の居住スペースを使うようにみんなに言った。すると、全員お言葉に甘えて上の部屋で寝始める。俺は1人トレーナー室で練習メニューの作成に取り掛かった。先程までの疲れが嘘のようにやる気に溢れている。

 

 

「待ってろトウショウボーイ……、おハナさん!次戦う時に勝つのは俺とテンポイントだ!」

 

 

 そう誓いながら、俺は朝日が昇るまで練習メニューの作成をしていた。




ついに見つけた勝つための方法。
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