ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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トレーナーの思いを聞く回


第61話 その走りに

 トレーナーと親しい人物たちにトレーナーがボクのことをどう話しているのかを聞いて回っていた日から明けた次の日。時刻はお昼過ぎ。本来であれば練習は休みであるはずの今日、ボクはトレーナー室を訪れている。その理由は単純で、トレーナーに聞きたいことがあったからだ。

 その聞きたいこととは、ボクを信じてくれる理由。トレーナーの周りの人はボクの走りに惚れているからとか言っていた。だが、それだけでボクの強さを信じてくれる理由になるのだろうか?それに、走りに惚れている理由までは誰も知らないらしく、ならばもう本人に聞くしかないだろうと思い、トレーナー室へと足を運んだ。

 少し緊張しながらもトレーナー室のインターホンを鳴らす。

 

 

「トレーナー?ボクや、おるんか?」

 

 

 ……しかし、中から反応はない。出かけているのだろうか?そう思いドアノブを回す。すると鍵が開いていたのか普通に回すことができ、中に入ることができた。不用心とは思いつつもボクはトレーナー室の中に入る。

 

 

「うわっ!?なんやこの惨状は!?」

 

 

 トレーナー室の様子を覗いてみると、それはもう酷いありさまだった。思わず顔をしかめてしまう。

 まず、紙の資料が辺り一面に散らばっていた。机には眠気覚ましにでも飲んだのであろう空のエナドリや飲み物の山、挙句の果てにはカラーボックスに入れていたレースの映像が収められたDVDもひっくり返されており、まるで泥棒でも入ったかと勘違いするほどの汚さだった。

 だが、何が起こったのか推理するより前にボクはトレーナーを探す。鍵が開いていたということはトレーナーは中にいるはずだ。鍵を開けたままにして外出するような人物でもない。必ず部屋の中にいるはずだ。

 そして、見つけることができた。トレーナーは机に突っ伏して寝ていた。こんなところで寝ているとは珍しいと思いつつもボクはトレーナーを起こそうとする。だが、止めた。

 

 

「部屋の荒れ具合とトレーナーの今ん状況から推測するに……徹夜しとったんか?やったら起こすのは悪いな」

 

 

 トレーナーがここまで徹夜しているのは珍しいと思いつつも、起こしたら悪いと思いそのままにしておく。ただ聞きたいことがあるので、トレーナー室で待っておこうと思った。

 ただ待っているだけなのも暇なので、ボクは部屋を片付けることにした。

 

 

「いくら何でも酷すぎやろ……。何があったんやホンマ……」

 

 

 資料をひとまとめにして、ひっくり返されているDVDもカラーボックスに収納しなおし、空になっている飲み物類を分別してごみ袋に入れる。

 1時間もしないうちに先程の惨状は幾分かマシになった。本格的な掃除はまたトレーナーが起きてからでいいだろう。いい運動になったと思いつつボクはソファに座ってテレビを点ける。テレビでも見ながらトレーナーが起きるのをひたすら待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ト、……イント。テンポイント!」

 

 

「……んう?」

 

 

 誰かに呼ばれてボクは目を覚ます。テレビが点けっぱなしになっている。どうやらぼんやりとテレビを見ている間に眠ってしまっていたらしい。ボクは目をこすって意識を覚醒させる。外の方へ視線を向けるともう日が沈みかけていた。

 ボクを起こしたのは誰だろうか?そんな人物は1人しかいないとは思いつつも声のした方へと振り向く。そこには思っていた通り、トレーナーが立っていた。どうやら起きたらしい。向こうは呆れた表情をしている。そのまま話しかけてくる。

 

 

「起きたか。びっくりしたぞ?起きたら部屋が奇麗になってるし、ソファでテンポイントが寝てるし。今日は練習は休みだと伝えていたが、何かあったのか?」

 

 

 そう質問してきた。ボクはトレーナーの言葉に肯定して答える。

 

 

「せや。トレーナーに聞きたいことがあってん」

 

 

「俺に?何を聞きたいんだ?」

 

 

 ボクは意を決して聞くことにした。

 

 

「トレーナーは、どうしてボクの強さをこないに信頼してくれるんや?」

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

「言葉通りの意味や。普通やったら、5回も戦って1勝しかできてへん相手に対してお前ん方が強いとは言わんやろ。それでも、トレーナーはボクん方が強い言うてくれる。なんでや?どうしてそないにボクの強さを信頼してくれるんや?」

 

 

「あぁ~……そのことか」

 

 

 トレーナーはバツが悪そうに頬を掻いている。ボクはさらに追撃するように今回集めた情報をトレーナーに伝える。

 

 

「トレーナーと親しい人たちに聞いてみたで。ボクの走りに惚れとるらしいやないか」

 

 

「お前休みの間そんなこと聞いて回ってたのか!?」

 

 

「みんな同じ事言うとった。ボクを信頼しとんのはボクの走りに惚れとるからやって。やけど、そん理由までは誰も知らんかったわ」

 

 

「そんなに知りたいのか……」

 

 

 トレーナーは苦虫を噛み潰したような顔をした。少し悪いとは思ったが、それ以上に気になるのだ。どうしてボクをそこまで信頼してくれるのか、その理由を。

 そして、トレーナーは観念したのか溜息1つついて答える。

 

 

「まあ、お前もこの前色々ぶっちゃけたしな。アレは俺のせいでもあるしこの際だ。お詫びと言うわけではないが俺も色々とぶっちゃけるか……」

 

 

「アレは忘れてくれ、ホンマに」

 

 

 今思い出すだけでも恥ずかしいのだ。

 トレーナーは外で話そうと言ってトレーナー室から出る。ボクもその後をついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日も完全に沈んでそろそろ寮の門限を心配しなければならない時刻。ボクはトレーナーと2人歩いている。この状況だとあの日を思い出す。トレーナーと契約を交わしたあの日を。

 トレーナーが話しかけてきた。

 

 

「こうして歩いていると思い出すな。お前と契約を交わすことになったあの日を」

 

 

「奇遇やな。ボクも同じこと思うてたわ」

 

 

 どうやら向こうも同じことを思っていたらしい。なんとなくおかしくなって、2人して笑いあう。

 しばしの沈黙の後、トレーナーが本題を切り出してきた。

 

 

「さて、聞きたいのは俺がお前の走りに惚れた理由……だったか?」

 

 

「せや。どうしてなんや?」

 

 

 トレーナーは答える。

 

 

「そうだな……いろんな人に聞いて回ったってことは、俺がトレーナーになる前まではレースに興味がなかったって話も聞いたんじゃないか?」

 

 

「せやな。みんな言うとったわ。トレセン学園に就職したのにレースに全く興味示さん変な奴ってな」

 

 

「だろうな。今こうしてレースにハマってみると、自分がどれだけ異端だったかがよく分かるよ。これだけ夢中になれるものが側にあったのに今まで見てこなかったんだから」

 

 

 トレーナーはそう言って笑った。だが、ボクは急かすようにトレーナーに言う。

 

 

「で?ボクの走りに惚れとる理由はなんや?話を逸らそうとしてへんか?」

 

 

「違う違う。これが重要なことなんだよ」

 

 

 トレーナーはボクの質問に首を横に振って答える。どうやら本当らしい。ボクは大人しく聞くことに徹する。トレーナーはそのまま話を続けた。

 

 

「で、そんなレースに興味がなかった状態で俺は選抜レースを見ていたんだよ。ウマ娘をスカウトしようとしてな」

 

 

「そん中にボクがおったわけか」

 

 

「そうだな。けど、初めに言っておくとお前のことは走るまで何にも知らなかったんだ。ただ凄い子いるなー程度にしか思っていなかったよ」

 

 

「えぇ……」

 

 

 その言葉にボクは呆れる。まさか、ボクのことを知らなかったとは思わなかった。トレーナーはすまなそうな表情をしている。

 そして、言葉を続ける。

 

 

「正直、その選抜レース自体もただ何となくで見ているだけだったんだ。ただピンとくる子が、波長が合う子がいればいいな程度にしか考えていなかった。お前の走りを見るまでは」

 

 

 おそらく、ここからが核心なのだろう。ボクは緊張しながらも話を聞く。トレーナーは告げた。

 

 

「身体に電流が走る感覚……っていうのかな?衝撃を受けた時に感じるもの。それをリアルで体感したよ」

 

 

「……」

 

 

「最初は観客席の離れた方から見ていたけれどお前の走りを見た瞬間、もっと間近で見たいと思った俺はすぐさま最前列に身を乗り出したよ。もっと近くで見たい。もっとこのレースを、いや、もっとお前のレースを見ていたい。周りの声が聞こえなくなるくらい、時間が経っていることすら忘れるくらい、お前のレースに熱中していたんだ」

 

 

 トレーナーはその日のことを懐かしむように語る。ボクは黙って聞く。

 

 

「そこからだ、俺がレースに熱中し始めたのは。みんなから言われたよ、お前に何があったんだ!?ってな」

 

 

 トレーナーは苦笑いを浮かべてそう言った。

 

 

「テンポイントは俺がトレーナーになるのを渋っていたっていう話を知っているか?」

 

 

「あぁ、聞いたで。なんでも給料UPに釣られたとかいろいろ言われとったわ」

 

 

「……当時のことを考えるとあながち間違いじゃねぇのが辛いな。今は絶対に違うと断言できるけど」

 

 

 トレーナーはそう言って、トレーナーになることを渋っていた本当の理由を話し始める。

 

 

「正直言うとさ、不安だったんだ。レースに熱中できない、興味もない。そんな奴に指導されるウマ娘は可哀想なんじゃないか?そう思うと、どうしてもトレーナーになろうとは思えなかった。結局は理事長の熱意に押される形と、たづなさんからのこれから熱中していけばいいっていう言葉で承諾したんだけどな」

 

 

「そうだったんか……」

 

 

 トレーナーが、トレーナーになった本当の理由が明かされた。しかし、今のトレーナーを見ると、とてもレースに興味がなかったとは思えないぐらいの豹変ぶりだ。ボクはそう思った。

 トレーナーはそんなボクの心を見透かしているかのように思ったことを当ててきた。

 

 

「もしかして今こう思ってるんじゃないか?今の俺を見ていると、とてもレースに興味がなかった男には見えない……ってな」

 

 

「せやな。他ん人に聞かされた時も半信半疑やったし、今のトレーナーしか見てへんからとてもそうとは思えんかったわ」

 

 

「そうだな。でも、本当のことだ。俺はレースに興味がなかった……。けど」

 

 

 一拍おいて、トレーナーが答える。

 

 

「お前が変えてくれたんだ、テンポイント。お前が、お前の走りが俺にレースを見ることの楽しさを教えてくれた。お前の走りが、俺をレースの世界に引き込んでくれたんだ」

 

 

 その言葉を、ボクは黙って聞く。

 

 

「これがお前の聞きたかったお前の走りに惚れている理由だな。俺を夢中にさせたその走りに、俺にレースの楽しさを教えてくれたその走りに、俺をレースの世界に引き込んだその走りに。俺はどうしようもなく惚れていると言ってもいい」

 

 

 トレーナーは涼しい顔でそう告げた。ボクはトレーナーに確認する。

 

 

「スマントレーナー。ちょっと静かにしてもろうてええか?」

 

 

「?あぁ、いいぞ」

 

 

 少し疑問を感じている顔を浮かべながらもトレーナーはそう答える。ボクはトレーナーから顔を背ける。トレーナーに今のボクの顔を見られるわけにはいかない。何故なら……、

 

 

(アカン、思うたよりもベタ惚れしとるやんけ!?どないしよう……ニヤニヤが止まらん……!)

 

 

今のにやけた顔を見られるわけにはいかないからだ。だがそれも仕方ないだろう。自分の走りを褒められたこともそうだが、まさかここまで自分を思ってくれているとは考えもしなかったからだ。誰だってここまで思われていたらニヤニヤが止まらなくなるだろう。

 そして、トレーナーの発言により他の人たちの言っていたボクに告げた言葉は全て本心であるということ、ボクを絶対に裏切らないという言葉が真実味を帯びてきた。

 

 

(つまり……ダービーん時も、菊花賞が終わった後んことも、宝塚んときも!全部本心で言うとったんか……!?)

 

 

 あの時の言葉は全部本心で言っていたことが判明した。お世辞ではなかったのだ。

 ボクは気を取り直すように咳払いをしてトレーナーに話を続けるように促す。

 

 

「もう大丈夫や。それで?なんでボクの強さをそないに信頼してくれるんや?」

 

 

「まあ、大体は今言ったお前の走りに惚れている理由に集約している。俺をレースの世界に引き込んでくれたお前の走りは誰にも負けない。俺はそう思っているからだ」

 

 

 淀みなくそう答える。その言葉に嬉しくなったがトレーナーは真面目な表情をしてボクに話始める。

 

 

「だからこそ、俺の不甲斐なさのせいで負けさせてしまって申し訳ないと思っている。だが、それもここまでだ」

 

 

「どういうことや?まさか、徹夜しとった理由と関係あるんか?」

 

 

「そうだ」

 

 

 そう言って、トレーナーは宣言するようにボクに告げる。

 

 

「テンポイント。お前には悔しい思いをさせてきた。そんな俺が頼むことではないのかもしれない。それでも聞くだけ聞いてくれないか?」

 

 

「……なんや?」

 

 

 ボクは緊張しながら次の言葉を待つ。トレーナーは頭を下げてこう言った。

 

 

「頼む!もう一度、もう一度だけ俺を信じてくれないか!もうお前を負けさせたりさせない!悔しい気持ちにさせない!そのための秘策を考えた!だから、もう一度だけ俺を信じてくれ!」

 

 

「勿論、信じさせてもらうで」

 

 

 ボクは即答する。トレーナーは顔を上げて

 

 

「……即答だな」

 

 

と、拍子抜けした顔をするが、ボクのこの態度は当然のものだ。何故なら、

 

 

「トレーナーは、いつだってボクを信じてくれとったんやろ?」

 

 

「そうだ。その気持ちに嘘偽りはない」

 

 

「やったら、ボクも信じる。キミが信じたボクの強さを、ボクも信じてみることにするわ」

 

 

トレーナーは、ずっとボクを信じてくれていた。なら、信頼には信頼で返さなければならない。そう思い、トレーナーの問いかけにボクは心からの笑顔で答える。

 その時、今まで胸の中で抱えていたものが不思議と軽くなった気がした。ボーイに勝てるのかと言う不安も、これから先勝てるのだろうかと言う不安も、なくなったかのように軽くなった。

 トレーナーが拳を突き出して告げる。

 

 

「勝とうぜ。俺とお前で。トウショウボーイに、おハナさんに!」

 

 

 その言葉に、ボクも拳を突き出して答える。

 

 

「勝とうや。ボクとキミで。ボーイに、東条トレーナーに!」

 

 

 契約を交わしたあの日のように月が見守る中、2人の拳を合わせる。そして、お互いに笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、寮の門限にギリギリだった言い訳はもう十分かい?」

 

 

「「大変申し訳ありませんでした」」

 

 

 ……その後、寮の門限ギリギリの時間に帰ってきたことでボクとトレーナーは寮長からこっぴどく叱られた。




新シナリオはどうなるのか今から楽しみです。後は無料10連。
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