ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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夏合宿が始まる回。そして招待レースの返事をする。


第64話 夏合宿開始

 秘策のことについて教えてもらってから1ヶ月程経ち、トレセン学園は夏休みへと入った。終業式も昨日終わり、これから夏合宿へと向かおうと思っていた今日。ボクとトレーナーは秋川理事長に招待レースの件の返事をするために理事長室を訪れていた。

 トレーナーが秋川理事長にボクたちが出した結論を話始める。

 

 

「テンポイントとも話し合った結果、今回の招待レースに関しては見送らせていただく方針となりました」

 

 

 トレーナーの言葉に秋川理事長は深く頷いて答える。

 

 

「了承ッ!先方にはそのように伝えておこう!」

 

 

 その言葉にボクとトレーナーは頭を下げる。

 

 

「秋川理事長。ご返事が遅れてしまい申し訳ありませんでした」

 

 

「気にする必要はないッ!神藤トレーナーも、テンポイント君もそれだけ話し合いが長引いたということだろう!きっとお互いの意見をぶつけ合い、納得するまでに相当の時間を要したはず!だから気にする必要はないぞ、神藤トレーナー!テンポイント君!」

 

 

「ありがとうございます、秋川理事長」

 

 

「それに……。2人とも随分と良い顔をするようになった。憑き物が落ちたような表情をしている!きっと悩み事が晴れたのだろう!嬉しく思うぞ!」

 

 

 秋川理事長はそう言った。ボクはその言葉に嬉しさと恥ずかしさを覚える。どうやらトレーナーも同じ気持ちだったのか頬を掻いていた。

 報告も終わったということでボクとトレーナーは退室する。退室した後、ボクはトレーナーに話しかけた。

 

 

「報告も終わったことやし、合宿に行こかトレーナー」

 

 

「そうだな。早速向かうとしよう」

 

 

 ボクたちは理事長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トレーナーの車で合宿所へと向かっている最中、ボクはトレーナーから渡された逃げに関する資料に目を通していた。一応、この1ヶ月の間で一通り目を通してはいるが念のためだ。

 しかし、途中資料から目を離して外の景色を覗いてみるとトレセン学園の合宿所へ向かう道でないことに気づいた。ボクはそのことをトレーナーに尋ねる。

 

 

「なぁトレーナー。どこ向かっとるん?合宿所への道ちゃうよなこん道」

 

 

「ん?あぁそうだな。今回行く合宿所はトレセン学園の合宿所じゃない」

 

 

 トレーナーはそう答える。ならばどこに向かっているのかと質問するとトレーナーは、

 

 

「俺たちが今向かっているのは箱根だ。俺の父親の知り合いが旅館を経営していてな。合宿中はそこでお世話になる予定だ」

 

 

と答えた。箱根といえば日本でも有数のリゾート地である。遊びに行くわけじゃないのだが、ボクの気分は高揚する。

 そのまま車を走らせている最中、トレーナーはボクに確認するように話しかけてきた。

 

 

「テンポイント、俺が渡した資料は全部頭に入れてきたか?」

 

 

「もち、ちゃんと頭に叩き込んであるで」

 

 

「そうか。だったらここでお前に取らせようと思っている逃げについて話そう。合宿所に着いたらすぐに練習に入る予定だからな。今済ませておく」

 

 

 トレーナーの言葉にボクは了承の返事をする。その言葉にトレーナーは頷いた後、話を続けた。

 

 

「まず、ひとえに逃げと言っても様々な種類がある。正確なラップタイムを刻んで走る逃げ、先頭を取ってペースを握り後方のウマ娘たちを惑わす逃げ、最初っから全力で飛ばして他を置き去りにする逃げ等が挙げられるな。だが、大別すると逃げは2種類に絞られる」

 

 

「大逃げと溜め逃げやな」

 

 

「そうだ。お前に取ってもらおうと考えているのは溜め逃げ。後方のウマ娘たちを突き放す逃げではなく、あくまで先頭に立つことを重きを置いた逃げだな」

 

 

 トレーナーがボクに取らせようとしているのは溜め逃げ。だが、これはボクにも想像がついた。何故なら、ボクの勝負根性を活かすのであれば溜め逃げの方が都合がいいからである。

 大逃げは後続を突き放すという関係上、道中1人旅になることが多い。ペース配分やレースの展開によって左右されることが多いのと、単純に1人旅がボクに合わないと考えていた。トレーナーもそのことについて話始める。

 

 

「お前の強さを発揮するためには大逃げは向かないだろう。大逃げは1人旅になることが多い。お前の強みを最大限に活かすことはできない。それに今から大逃げに矯正するよりも、先行に近い溜め逃げの方が今までの走りの経験を活かすことができるし、何よりお前の強みを最大限活かすことができる。競り合いになればお前は負けない、それだけのポテンシャルがある」

 

 

 そう、溜め逃げならば、トレーナーが言ったボクの最大の武器である勝負根性を活かすことができる。それに先行気味に立ち回れるため、今までの経験も無駄にはならない。だから、トレーナーがボクに取らせようとしている逃げはこちらだろうとある程度予測はできていた。

 次にトレーナーは細かい作戦について話始める。

 

 

「次は主にどういったレースを展開するかだ。結論を先に言うとお前には何が何でも先頭に立って走る……なんて展開を取らせるつもりはない。今までよりも前で走ることを意識してもらう」

 

 

「今までよりも前で走る……」

 

 

「そうだ。こうして言葉にすると結構単純だろ?」

 

 

「せやな。やけど、事はそう簡単にいかへん……ってことやろ?」

 

 

 トレーナーは頷く。

 

 

「今までと戦法を変えるってことはペース配分から何までその走りに合わせないといけないってことになる。それは簡単なことじゃない。大幅に変えるわけではないとはいえ、な」

 

 

 トレーナーの横顔を見ると苦笑いを浮かべていた。そのまま言葉を続ける。

 

 

「だが、お前なら問題なくできると思っている。そのためにこれまで逃げの知識を蓄えてもらったからな」

 

 

「せやな。おかげで今逃げで走れ言われてもできる自信あるで」

 

 

 ボクは胸を張って答える。トレーナーはボクの言葉に笑顔を浮かべていた。

 

 

「ま、今回の合宿はお前の長所を伸ばすのと身体の筋肉を鍛えるための練習を重点的に行っていく予定だ。スピードは元々抜きんでているし、スタミナも3200mの天皇賞を勝てたから問題はないだろう。今更そっち方面を鍛えても仕方がないと考えている」

 

 

「ボクの長所……、根性?」

 

 

「まあ、そうだな。実際どんな練習をするからは合宿所に荷物を置いてからだ。もうそろそろ着くぞ」

 

 

 会話をしていて気づかなかったが、いつの間にか合宿所の近くまで来ていたらしい。ボクは降りる準備をする。合宿所は古き良き日本の和風旅館といった感じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旅館に荷物を置いて、トレーナーに軽トラックに乗るよう促される。後ろの荷台には何か載っていることが分かったのだが、カバーがしてあって何が載っているのかまでは分からない。軽トラに揺られてボクたちが来たのは、熱海峠と呼ばれる場所だった。

 トレーナーが運転席から降りたのでボクも助手席から降りる。トレーナーはボクにトレーニングの内容を指示し始める。

 

 

「さて、お前に取ってもらおうと思っている練習だが……。まあここに来た時点で大体想像はつくだろう。この坂を走ってもらう」

 

 

「結構急な坂やな……。やけどそんぐらいやったら軽くいけそうや」

 

 

「まあ走るといってもお前の脚で走るわけじゃない」

 

 

 トレーナーの言葉にボクは疑問符を浮かべる。その疑問をトレーナーにぶつけた。

 

 

「ボクの脚で走るわけやない?やったら何で走るんや?」

 

 

「それは……コイツだ」

 

 

 そう言ってトレーナーは軽トラの荷台のカバーを外す。中から現れたのは……。

 

 

「……自転車?」

 

 

「そ。コイツでこの坂道を登ってもらう」

 

 

 中から現れたのは自転車だった。まあ確かに普通に走るよりもキツいだろう。だがそれでもボクなら問題なくいけるはずだ。

 そう考えているとトレーナーがボクに呼びかける。

 

 

「そうだテンポイント。これを渡しておく」

 

 

「なんや?……ッて重!?アンクルウェイトかこれ?」

 

 

 トレーナーがボクを呼んであるものを渡してくる。それはアンクルウェイトだった。トレーナーはそれをボクの脚につけるように言ってくる。

 アンクルウェイトを脚に巻きつけ終わった後、トレーナーは軽トラに乗ってボクに話しかけてきた。

 

 

「ただ走って登るだけもつまらないし、自転車で楽しく登ろうぜ」

 

 

 トレーナーはそう言っているが、間違いなく楽しくはならないだろう。自転車で坂道を登るのは走るよりもキツいし、何よりアンクルウェイトもあるのでかかる負荷はほぼ倍になると考えていいだろう。

 ボクは自転車に乗り、ヘルメットを着けて準備をする。準備が整ったところで、ボクは自転車を漕ぎ始める。とりあえず、走破することを目標に掲げながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走破することを目標に、そんな甘い考えはすぐに消え去った。ボクは心の中で悪態をつく。

 

 

(クソッ!思うたよりもキツい……ッ!こん自転車……ッ、ゴリッゴリに改造しとるな!?)

 

 

 普通の自転車よりもペダルを漕ぐための力が倍以上必要なくらい重い。一番軽いギアでこれなのだからこれから段階的に上がっていくことを考えるとゾッとする。

 だが、悪態をついたりこれから待ち受けることについて考えても仕方がない。今はペダルを必死に漕ぐことだけを考えてボクは自転車で走り続ける。後ろからはトレーナーが軽トラでボクのことを追跡している。時折応援の声が聞こえてくるが、正直、頭の中には入ってこない。

 そのまま何とか漕ぎ続けていたが、やがて限界が来た。

 

 

(アカン……ッ!もう限界や……ッ!)

 

 

 自転車ごと倒れるのを防ぐため、片足をついて休憩を取る。ボクは息も絶え絶えになっていた。肩で息をする。後ろではトレーナーが距離を計測しているのか周りを見渡していた。

 

 

「ふむ、まあ最初だからこんなものか……。よし、じゃあテンポイント」

 

 

「ハァ……、ハァ……。なんや?」

 

 

「下まで降りるぞ。自転車を荷台に乗せて助手席に乗ってくれ」

 

 

「……は?」

 

 

 トレーナーが発した言葉にボクは言葉を失う。聞こえてはいたが脳が理解することを拒んだ。そんなボクのことを尻目にトレーナーは涼しい顔で告げる。

 

 

「大丈夫か?テンポイント。休憩を取ったらもう一度さっきの場所まで戻るぞ。最初から登ってもらう」

 

 

「……嘘やろッ!?」

 

 

 まさか、また一から登り始めろとでも言うのだろうか?この坂道を?その言葉にボクは愕然とした。

 しかし、トレーナーは首を横に振って答える。

 

 

「嘘じゃない。それにテンポイント、俺がこの練習を始める前に言ったことを思い出せ」

 

 

「……言うとったこと?コイツで坂道登ってもらうしか言うてへん気がするけど……ッ!て、まさか!?」

 

 

 ボクの考えていることが合っているのであれば本気で言っているのだろうか?もし合っていた場合、今日中の走破など絶対に無理だ。ボクは予想が外れていることを祈る。

 しかし、トレーナーが告げた一言はボクの予想通りのことだった。

 

 

「テンポイント、俺は坂道を登ってもらうといったが、途中で休んでいいとは言っていないぞ」

 

 

「……本気で言うとるんかソレ」

 

 

「本気だ」

 

 

 つまりトレーナーは、この魔改造が施された自転車で、アンクルウェイトを着けながら、この熱海峠から箱根峠までの道のりを走れとでも言うのだろうか?休憩なしで。

 ただでさえキツい道のりを休憩なしで重りを着けながら走破しろなど無茶にもほどがある。抗議したい気持ちも出てきた。だが、それ以上にボクはある感情に支配される。

 

 

「上等や……ッ!絶対に走破したる……ッ!」

 

 

「その意気だ、テンポイント」

 

 

 その無茶を絶対にやり遂げてやる、このまま負けを認めたくないという気持ちだ。それに、トレーナーとて無茶だとは思っていないはずだ。そう考えながらボクは軽トラの荷台に自転車を載せて助手席に乗る。そしてまた一から登り始めた。

 夏合宿初日、峠を走破することは叶わなかった。しかし、まだまだ始まったばかり。これからである。




Mr.FULLSWINGとアイシールド21は特に大好きな漫画です。
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