ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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とある2人とトレーニングする回


第67話 2人の逃げウマ娘

 8月も終わりを迎え、もうすでに9月の半ば。ボクは変わらず箱根で練習をしている。本来であれば学園が始まっているので切り上げて戻るべきだ。しかし、トレーナーは次のレースに出走するギリギリまで合宿を行うと宣言した。

 思えば、合宿に入る前に学園側に休みの申請していたのはそのためだったのだろう。宝塚記念でのことがあったから許可が下りるか少し不安だったのだが、ボクの普段の授業態度と成績から特に問題なく許可が下りた。ただし、休んでいる分の課題をしっかりとやることを条件に出されている。学習の時間はその課題の時間に充てるようになった。

 そしてボクは今、朝のトレーニングであるヒルクライムをしている。後ろを軽トラで走行しているトレーナーの声援を受けながらボクは自転車を必死に漕ぐ。

 

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 

 現在地点は十国峠の中間、湯河原峠からゴールの箱根峠まではここと比べて比較的楽なこともあり十国峠を越えればほぼ走破したも同然だ。気合を入れて自転車を漕ぎ続ける。

 しかし、結局その日は6段階目のギアで走破することはできなかった。悔しく思ったが、湯河原峠の入り口までは来たのですぐにでもゴールまで走り抜けることはできるだろう。そう気持ちを切り替える。

 トレーナーがボクに労いの言葉をかけてきた。

 

 

「お疲れ様テンポイント。今日は走破できなかったが……、この分だと明日にでも走破できそうだな」

 

 

「あんがとトレーナー。もう最後のギアやけど、これ走破し終わったらどうするんや?」

 

 

「特にギアを増やすってことはしない。6段階目のギアでずっと走ってもらう」

 

 

「そうなん?やったら、明日は一層気合入れて頑張らんとな~っ!」

 

 

 ボクは伸びをしながらそう答える。そしてトレーナーの軽トラに自転車を載せてボク自身も助手席に乗り、旅館へと戻る。

 昼食を取り終わった後は午後のトレーニングについてトレーナーに聞く。

 

 

「トレーナー。午後はどうするん?今までのローテ的にはプールトレーニングやけど」

 

 

「そうだな……だが、今日はちょっと予定を変更して併走トレーニングをしてもらう」

 

 

「併走?」

 

 

「そうだ。今日ぐらいしか先方の予定が合わなくてな」

 

 

「ふ~ん。まあ了解や。併走やな?」

 

 

 ボクの言葉にトレーナーは頷く。併走トレーニングということでボクはトレーナーの車に乗ってグラウンドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 車に揺られて少し経った後。併走でいつも使っているグラウンドへと到着した。ボクは車から降りる。グラウンドにはすでに人影があった。だが、その人数は随分と少ない、いや、少なすぎる。

 

 

(いつもはトレーナー含めて20人はおったのに……。今日は2人?)

 

 

 違和感を覚えながらもボクはグラウンドへと歩みを進める。

 近づくにつれて、その人物たちの姿を確認できた。その姿を見てボクは腰が抜けそうになった。まさか過ぎる人たちがこの場に来ているのである。こちらに気づいたのか、向こうが話しかけてきた。

 

 

「来たか、テンポイント」

 

 

「おおおお久しぶりですぅ。て、て、て……やっぱり無理ぃぃぃ!」

 

 

 そう、今回ボクと併走する相手とはテスコガビー先輩とカブラヤオー先輩だったのである。カブラヤオー先輩はボクの姿を見るなり逃げようとしたが、テスコガビー先輩に首根っこを掴まれる。

 

 

「待て、逃げるなカブラヤオー」

 

 

「だだだ、だってぇ!神藤さんにはお世話になったから受けたけど、やっぱり怖いぃぃぃ……!」

 

 

「お世話になったのもそうだが、少しでも変わろうと思ったんだろう?だったら、これを変わる第一歩として頑張れ、カブラヤオー」

 

 

「う、うぅぅっ!わ、分かった、私、頑張る!」

 

 

「その意気だ、カブラヤオー」

 

 

 ボクがいまだに何も言えずに呆然としていると後ろからトレーナーが歩いてきた。トレーナーは2人に挨拶をする。

 

 

「よう、テスコガビー、カブラヤオー。忙しいだろうに済まないな。今日はよろしく頼む」

 

 

「神藤さん。今日は聖蹄祭だったからな、私もカブラヤオーも午前中にシフトを回してもらっていたから午後からは暇をしていたんだ。問題ないさ」

 

 

「ははは、はいぃ。きょ、今日はよろしくお願いしますぅ……」

 

 

 今日は聖蹄祭だったらしい。ずっと練習漬けの日々だったので忘れていた。いや、考えるべきはそんなことではないだろう。ボクはトレーナーに問いただす。

 

 

「と、トレーナー!まさか今日の併走相手って、テスコガビー先輩とカブラヤオー先輩なんか!?」

 

 

「そうだ。ただ誤解しないで欲しいのは併走相手として決まったのは昨日の夜だったんだ。だからお前に伝えようがなかった。すまないな」

 

 

「いや、そこはええけど……」

 

 

 まさかこの2人と併走なんて夢にも思わなかった。

 追随するものなき快速女王テスコガビー先輩と狂気の逃げウマ娘カブラヤオー先輩。2人とも戦法逃げを得意としたウマ娘だ。テスコガビー先輩はそのあまりの速さからマルのように周りがついて行けないだけととも言われているが、逃げで実績を残した先輩であることに違いはない。ただ、もう引退した身だと聞いているが、大丈夫なのだろうか?ボクはテスコガビー先輩に質問する。

 

 

「テスコガビー先輩、大丈夫なんですか?失礼やと思いますけど、もう引退した身て聞いてますし……」

 

 

 ボクの質問に先輩は気を悪くした様子もなく答えた。

 

 

「なに、たまには走らなければ、と思ってな。それに」

 

 

「それに?」

 

 

「あの時消えたはずの闘志も徐々に戻ってきている。ブランクこそあるが、君の併走相手を務めるぐらい大丈夫ということだ」

 

 

 そう言い終えると、テスコガビー先輩の纏っている雰囲気が激変した。本当にこの人は引退した身なのだろうか?そう思わせるほどの威圧感がある。今すぐ現役に戻っても心配ないだろうと思わせるほどに。ボクは身震いする。武者震いというやつだ。

 テスコガビー先輩は大丈夫、ならばカブラヤオー先輩はなぜ併走を受けてくれたのだろうか?ハダルの人たちとしかやらないと聞いていたので謎だ。ただ、聞いたところで避けられると思ったのでボクはテスコガビー先輩に質問する。

 

 

「あの、やったらカブラヤオー先輩はどうして受けてくれたんです?」

 

 

「あぁ、カブラヤオーも神藤さんにお世話になったことがあってな。その縁だ」

 

 

 どうやらボクのトレーナー繫がりらしい。お世話になったことが気にはなるが、今聞くことでもないと思い、ボクはテスコガビー先輩の言葉に納得する。

 話がひと段落したところで、トレーナーが今回の併走についての説明に入る。

 

 

「さて、今回の併走だが。各々自由なように走ってくれ」

 

 

「ふむ……。本当に自由で走っても構わないんだな?」

 

 

「あぁ、ただ1つ付け加えるのであれば、本番のレースを走る気で走ってくれ。距離は2000mだ。じゃあ始めるぞ」

 

 

 トレーナーはそう言い終えると、発走の準備を始める。ボクたちも所定の位置に着いた。カブラヤオー先輩は終始落ち着かない様子だったが。カブラヤオー先輩が最内枠、テスコガビー先輩が2枠、ボクが3枠に入る。トレーナーがボクたちの準備が終わったことを確認すると、旗を上げた。

 

 

「じゃあ。よーい……スタート!」

 

 

 一瞬の静寂の後、トレーナーが旗を下ろす。その合図とともにボクとカブラヤオー先輩が弾けるようにスタートダッシュを決める。テスコガビー先輩は少し遅れた。

 分かっていたことだが、カブラヤオー先輩は後のことを考えていないかのように全力で飛ばしながら走っている。

 

 

「ひぃぃぃぃ!」

 

 

 一見すると最後まで持たずに破滅しそうな走りだが、これがカブラヤオー先輩の走りだ。そして、この走りで2冠を取っている。

 ボクはそんなカブラヤオー先輩の後ろを走っている。これでも自分なりに飛ばしているつもりではあるが、それでもカブラヤオー先輩より前を走ることはできない。

 

 

(いざ一緒に走ると、ホンマにこれで勝てるんかって思うぐらいにはヤバいな!)

 

 

 だが、ボクは冷静を保つようにレースを展開する。確かにカブラヤオー先輩の逃げは驚異的だ。しかし最後には必ずペースが落ちる。だからこそ、ボクがすべきなのはカブラヤオー先輩の後ろをキープし続けること。

 そう考えていると後ろから凄まじい圧を感じる。思わず後ろを振り向くと、出遅れたテスコガビー先輩がすぐそこに来ていた。ボクはたじろぐ。

 

 

(速い……!これが快速女王と呼ばれたテスコガビー先輩の走り!)

 

 

 確かにこれは速い。だが、ボクも負けていられない。並ばせないようにペースを上げる。

 しかし、これが失敗だった。ペースを上げすぎた。そのせいで第4コーナーを回って最後の直線に入る頃にはほとんどスタミナも脚も残っていなかった。テスコガビー先輩に一度は抜れてしまったが、気合を入れなおして抜き返すことに成功はしたものの、そんな状態でカブラヤオー先輩に追いつけるはずもなく、気づけばカブラヤオー先輩が先にゴールしていた。

 結局、その1走目はカブラヤオー先輩がそのまま逃げ切り勝ちを収めた。2着はボク、3着はテスコガビー先輩だった。ボクがカブラヤオー先輩に負けた理由は単純である。ボクは悔しさのあまり歯噛みする。

 

 

(気づかんうちにカブラヤオー先輩のペースで走ってもうた……!前のカブラヤオー先輩、後ろからのテスコガビー先輩の圧に負けた……!最後はスタミナが切れて自滅……!これやとダメや!常に自分ペースで走ることを心がけんと!)

 

 

 ならば、次は同じ失敗をしないようにしなければ。そう心に誓って次のレースの準備をする。

 

 

「それじゃあ、よーい……スタート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから休憩を挟みつつ10本以上は走っただろうか?すでに空は夕焼けに染まっている。ボクも先輩たちも肩で息をしている。

 結果としてボクが勝ったのは3回だけ。その結果にボクは悔しさから歯噛みする。だが、ただ負けただけじゃない。何となくだが、逃げのペースをつかむことができた気がする。

 

 

(なるほどな……。溜め逃げのコツ、掴めた気ぃするわ……ッ!)

 

 

 大逃げについていかず、かといって先行よりも前で走る。今まではイメージだけだったが、実際に走ったことでイメージを現実に変えることができた……気がする。まあ少なくともイメージはより固まった。後はイメージ通りに走るために繰り返し練習していこう。

 ボクは2人にお礼を言う。

 

 

「ありがとうございます。カブラヤオー先輩、テスコガビー先輩。おかげ様で、何となくやけど掴めました。ボクが目指すべき走りが」

 

 

「それは良かった。先行気味に走った甲斐があったというものだ」

 

 

「いいい、いえ!お役に立てたのならよかったですぅ……」

 

 

 テスコガビー先輩の言葉に一瞬絶句したが、すぐに持ち直す。

 

 

(アレ先行気味に走っとったんか……。逃げやと思うてた……)

 

 

 それくらいの圧はあった。

 走り終わったボクたちにトレーナーが差し入れのドリンクとタオルを渡してきた。ボクたちはお礼を言ってそれを受け取る。トレーナーがボクに問いかけてきた。

 

 

「どうだ?テンポイント。お前が目指すべき逃げのイメージ、少しは形にできたか?」

 

 

「お陰様で、やな。後は繰り返し練習してものにするだけや」

 

 

「良かった。2人もありがとうな。無理なお願いを聞いてくれて」

 

 

 トレーナーは先輩たち2人にお礼を告げる。

 

 

「最初に言ったが、気にしないで欲しい。元々予定は空いていた、というよりは空けることができたからな。問題はないさ」

 

 

「わわわ、私も、大丈夫です!しし、神藤さんにはお世話になりましたのでぇ……。少しでも助けになれたならよかったですぅぅぅ」

 

 

 先輩たちはそう答えた。その言葉にトレーナーは笑顔を浮かべていた。

 休憩を取っていると、不意に着信音が鳴る。

 

 

「すまない、俺だな。ちょっと電話に出る」

 

 

 どうやらトレーナーの携帯だったらしい。一言断ってトレーナーは携帯を取った。

 

 

「もしもし?……あぁ、ワカクモさんでしたか。どうされましたか?随分慌てていますが……」

 

 

 どうやらかけてきたのはお母様だったらしい。一体何の用だろうか?そう思っていると突然トレーナーが血相を変える。

 

 

「……なんですって!?キングスがどこかに行ってしまった!?」

 

 

 その言葉に、ボクは絶句する。テスコガビー先輩とカブラヤオー先輩も驚いていた。

 充実したトレーニングを過ごした合宿の最後に、突如として暗雲が立ち込めた。




最後の最後に暗雲が。衣装違いチケゾー欲しいなぁ。
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