ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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姉が妹を諭す回


第69話 謝罪と誓い

 お母様からキングスがいなくなったという連絡が来て、ボクはトレセン学園に戻ってきていた。そして現在、ボクはトレーナー室で無事キングスを発見することができひとまず安堵する。ただ、少し話がしたかったのでみんなに報告はまだしていない。

 キングスがボクに悲痛な表情を浮かべて訴えかけてきた言葉。ボクが一番強いということ、ボーイよりも強いという言葉。その言葉を受けて、ボクは、

 

 

「それは分からへんな」

 

 

「……え?」

 

 

そう返した。

 ……ここでボクの方が強いと言うのは簡単だ。だが、それでいいのだろうか?いや、いいはずがない。そうしたら、キングスはずっとボクの幻影を追いかけるままだ。ボクのことを持ち上げて、ボクを貶める人たちを徹底的に排除して狭い世界に閉じこまったままになるだろう。

 だから、ボクはキングスに告げる。ボクが思っていることを、そのまま。表情を引き締める。

 

 

「レースで走ってみぃひんことには分からん。そん時そん時の状況によって変わるもんやし。それに、今までのレースでボクはボーイに1勝4敗。負け越しとるから今のボクがボーイより弱いて声はあながち間違ってない。それは事実として受け止めなアカン」

 

 

「……嘘だよね?お姉までそんなこと言うの?」

 

 

 キングスは絶望したような表情を浮かべている。それもそうだろう。今までだったらボクは自分の方が強いと言っていた。そんなボクが相手の方が強いと言っているも同然のことを告げたのだ。その表情も当然だろう。

 だが、キングスの言葉に返事をすることなくボクは言葉を続ける。

 

 

「ええか?キングス。多くの人はレースの実績でボクたちを評価するんがほとんどや。それが一番分かりやすいからやな。さっきも言うた通り、ボクは対ボーイの成績は大きく負け越しとる。やから、その人達が言うとったボクがボーイより下っちゅう言葉はあながち間違ってないんよ」

 

 

「嘘だ……!お姉は強いんだ!トウショウボーイよりも、お姉の方が強いんだ!」

 

 

「キングスがそう言うてくれるんは嬉しいで。やけど、多くの人はそう思うてはくれへん。それが現実や」

 

 

 ボクの言葉を受けてもなお、キングスは受け入れられないといった表情を浮かべている。

 

 

「キングス、ええ加減現実を見んとアカンで?ボクは今までのレースでボーイに負けてきた。それを覆すには、レースで勝つしかないんや。やないと、キングスがいくら訴えたところでボクん方が強いて言葉は誰も信じてくれへん」

 

 

「でも……!でも!……ッ」

 

 

 キングスはボクの言葉を受けて何か言い返そうと思ったのだろう。だが、言葉が思いつかなかったのか俯いて黙り込んでしまう。

 正直、キングスがボクが悪く言われたことに対して怒ってくれていたことは嬉しい。それだけ思われているということだ。しかし、だからといって人に迷惑を掛けていいわけではない。時には我慢することだって必要だ。

 ボクはキングスを優しく諭す。

 

 

「ええか?キングス。ボクが強いからて他ん子が弱いっちゅう話にはならん。それは分かってくれるやろ?」

 

 

「……うん」

 

 

「別にボクの方が強いて言うたり思うたりするんはキングスの自由や。それを咎める気はあらへん。やけど、他ん人にキングスの考えを強要するんは違う。お母様はそう思うたからあん時キングスに怒ったんや」

 

 

「……それは分かってるし。でも……」

 

 

 キングスは少し間を置いた後、ボクに対して質問する。

 

 

「お姉は認めるの?お姉がトウショウボーイよりも下だってこと」

 

 

「そうやなぁ。少なくとも、今はそうやな」

 

 

「……ッ!」

 

 

 ボクがそう答えると、キングスはまた俯いて黙り込んでしまう。その目には涙が見えた気がした。

 そんなキングスに対して、ボクは告げる。

 

 

「キングス。ボクはあくまで今は、って言葉をつけた。この意味分かるか?」

 

 

「……」

 

 

「確かに今のボクはボーイに負けっぱなしや。それは事実。やからって、諦める気はさらさらあらへん」

 

 

 そしてキングスに宣誓するように言葉を放った。

 

 

「こっからのレースを全部勝って証明したる。ボクの方が強いって、キングスは間違ってへんてことをな」

 

 

「……え?」

 

 

「確かに、今までは負けっぱなしやった。やけど、これからはもう絶対に負けん。そして世間に証明したる。ボクの方がボーイよりも強いってことを」

 

 

 確かに今までのレースでは負けてしまった。先着したのは菊花賞の時だけ。その菊花賞もボクは1着ではないので勝ったとはいえないだろう。その結果からボクの方がボーイより下と見られるのは仕方のないことなのだ。

 だが、それもここまでだ。ボクはもう絶対に負けない。そして証明する、ボーイよりボクの方が強いということを。

 今度は呆然としている表情を浮かべているキングスに対してボクは話を続ける。

 

 

「さっきから言うてる通り、ボクがボーイより上やって証明するんに一番簡単なんは勝つことや。やから、これからあいつと一緒に走るレースでボクは勝つし、他んレースでも勝ち続ける。そしたら、キングスの言うようにボクはボーイに負けないって言葉は嘘やなくなるな」

 

 

「で、でも!お姉さっきは走ってみるまで分からないって……ッ!」

 

 

「せやな。やから、これは宣誓や。ボクはもう絶対に負けへん。ボクん方が強いて証明するためにも、キングスの言葉が嘘やないて知らしめるためにも。ボクはこれからのレースを勝ち続ける」

 

 

 そう宣言する。キングスはボクに疑問をぶつけてきた。

 

 

「……お姉、さっき自分でトウショウボーイより下って認めてたし。それなのに、もう絶対に負けないとか、なんでそんなことが言えるし!」

 

 

「決まっとる。ボクの強さを信じてくれとる人がおるからや。キングスだけやない、ボクのええとこ悪いとこ全部知っとる癖に、それでもボクが最強やって信じてくれとる人がおる」

 

 

「……それって、あのトレーナーのことだし?」

 

 

「やな。ホンマおかしい話やで。こんなにボーイに負けとるのに、学園最強格の先輩2人相手に啖呵切るくらいやからな」

 

 

 ボクはそう言って笑った。しかし、キングスは依然として呆然とした表情を浮かべている。

 そんなキングスにボクは言葉を続けた。

 

 

「キングス。お姉との約束や。ボクはこれからのレース勝ち続ける。やから、キングスも今日から他ん人に自分考えを押しつけるんは禁止や。ちゃんと相手の考えも尊重すること。ええか?」

 

 

「で、でも……」

 

 

「なんや?キングスはボクの強さを信じてくれへんのか?お姉悲しい……」

 

 

「そんなことないし!あんな奴よりずっと、ず~っとお姉の強さを信じてるし!」

 

 

 キングスはムキになったのか、語気を強めてそう答えた。その表情は先程までの暗い顔ではなくなっている。少しだけ調子を取り戻したようだ。

 その表情を確認した後、ボクはキングスを諭すように話す。

 

 

「ええか?キングス。さっきも言うたけど、キングスがボクを強いて言うてくれるんは自由や。やけど、それを他人に押しつけるんは違う。それも見ず知らずの他人にな」

 

 

「……うん」

 

 

「知らん子から突然最強はテンポイントやー!言われたら相手も驚くし戸惑うやろ?やから、キングスのやったことはよくないことや。あっ、でもボク個人としては嬉しかったで」

 

 

「……そうなの?」

 

 

「当たり前やろ?大好きな妹にこんなに思われて、嬉しくない姉はおらん!やけど、それとこれとは話は別や。それに、今回行方をくらませたキングスを探すためにいろんな人が今も探しとる。分かっとるな?」

 

 

「……分かってる」

 

 

「悪いことしたら何をすべきか?キングスは分かっとるな?」

 

 

 ボクの言葉にキングスは黙ったままだが、深く頷いた。それを確認した後、ボクは携帯で時間を確認する。

 

 

「よし!じゃあ、はよみんなのとこ戻ろか!」

 

 

 そう言ってボクはキングスの手を引っ張ってトレーナー室を出る。携帯でキングスを見つけたという報告と正門前に向かうという連絡をトレーナーに入れる。すぐに既読がついた。この分ならすぐにみんなに報告されるだろう。そう思いながらボクはキングスの手を引いて正門前に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボクが学園の正門に着いた頃には先輩やキングスの友人たちはもうついていた。学内を捜索していたトレーナーも正門にいる。ボクの姿を確認するとみんなこちらに走ってきた。

 

 

「良かった!心配したんだよ、キングスちゃん……!」

 

 

「いなくなったって聞いて生きた心地しなかったわホント……。でも無事みたいでよかった!」

 

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

 

「う、うん。大丈夫だし……」

 

 

 まずはキングスの友人たちが口々に心配の声を上げる。キングスはそれに戸惑いながらも応対している。

 すると、厳しい顔をしたテスコガビー先輩がキングスの前に立った。

 

 

「キングスポイント、今回自分が何をやってしまったか……分かっているな?」

 

 

「……はい」

 

 

 その返事を聞いたテスコガビー先輩は厳しい顔を崩してこう言った。

 

 

「なら私から言うことはない。今回の件について、しっかりと反省文を書くように。私からは以上だ」

 

 

 テスコガビー先輩はそう告げるとキングスの前から去った。遠く離れた位置にいるカブラヤオー先輩のところに向かっている。

 その後はボクのトレーナーからもしっかりとお小言を貰ったところで、キングスが迷惑を掛けたお客さん2人が走ってきた。比較的近い位置にいたのだろう。

 キングスは2人の姿を確認して頭を下げて謝罪した。

 

 

「あ、あの、今日はごめんなさいだし。あたし変なこと言っちゃって……」

 

 

 その言葉を聞いて、2人組は頬を掻きながら答える。

 

 

「いや、俺たちも悪かったよ」

 

 

「少なくとも、ファン感謝祭っていう楽しい場で言うことじゃなかったよな。だから俺たちも、ゴメン!」

 

 

 そう言って、2人組は頭を下げた。キングスは困惑している。まさか自分も謝られるとは思っていなかったようだ。その姿にボクとトレーナーは互いに苦笑いを浮かべる。

 キングスが困惑していると、聞き覚えのある声が遠くから聞こえる。

 

 

「キン!」

 

 

 お母様が戻ってきた。走ってきたのか息を切らしている。少しでも早く会いたかったのだろう。キングスの姿を確認し目を見開いていた。

 

 

「……」

 

 

 お母様はキングスを黙ったまま見つめている。キングスはバツが悪そうに視線を逸らした。ボクたちはその様子を固唾を呑んで見守る。

 お母様は一歩ずつキングスに近づいていき、ついにはキングスの目の前に立った。怒られると思ったのか、はたまたビンタの一発は覚悟したのかキングスは固く目を閉じた。

 そんなキングスを、お母様は抱きしめた。もう二度と離さないと言わんばかりにしっかりと。キングスは閉じていた目を見開く。

 お母様は泣きながら話す。

 

 

「キン……ッ!良かった……ッ、本当に良かった……ッ!またあなたをこうして抱きしめることができて、本当に良かった……ッ!」

 

 

「……母さん、どう、して?」

 

 

 キングスは困惑している。そんなキングスにお母様は言葉を続ける。

 

 

「あの後、ずっと後悔していたわ……。私があの時黙ってしまったから、何も言わなかったからキンを傷つけてしまったって……。キンがこのままどこかへ行ってしまうんじゃないか、誰かに酷い目に合わせられているんじゃないかって考えると、心配で心配で……ッ!」

 

 

 お母様は涙を流しながら続ける。

 

 

「ごめんね、キン……ッ!母さんを許してちょうだい……ッ!」

 

 

「……母さんは悪くないし。悪いのは……、悪いのは……ッ!あたしで……ッ!」

 

 

 そこまで言ったところで、キングスは我慢できなかったのか、目から大粒の涙が流れ始めた。そして、涙声でお母様に、みんなに謝り始める。

 

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!いっぱい、いっぱいめいわくかけて、ごめんなさい!かあさんに、とうさんに、おねえに、みんなに!たくさんめいわくかけて、ほんとうにごめんなさいっ!ほんとうに、ほんとうにごめんなさいっ!」

 

 

 そう言って、キングスは大声で泣き始めた。そんなキングスをお母様は優しく抱きしめ頭を撫でている。

 今まで我慢してきたものが、お母様に抱きしめられて、謝罪されて決壊したのだろう。人目をはばかることなく泣いている。

 それからしばらくの間、キングスとお母様は泣き続けていた。その2人の姿をボクは少し離れた位置から見ている。頭に浮かぶのはある1つのこと。

 今回の騒動が起きてしまったのはボクにも責任があるんじゃないだろうか。ボクがボーイに負けてしまったから、この騒動が起きてしまったのではないだろうか。そう考えてしまう。

 だが、頭を振ってその考えを振り払う。過去のことを後悔しても仕方がない。そして、もう二度とこんなことが起こらないようにすればいいと胸に誓う。そう決意を固めていると、隣にトレーナーが立っていた。ボクに話しかけてくる。

 

 

「……負けられない理由が増えたな」

 

 

「……やな」

 

 

 もとよりもう負けるつもりはなかったが、今日の一件でその思いはさらに強くなった。今もボクの強さを信じてくれる大好きな妹のためにも。ボクはこの先のレースで負けられない理由が1つ増えたのだった。




単発でタイシンの方を当てました。こっちも欲しかったのでありがたやありがたや。
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