ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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タイトル通り京都大賞典が始まる回。


閑話7 京都大賞典開幕

 10月の半ば、週末なので学園は休みだ。その休みを利用して私はボーイちゃん・カイザーちゃん・クインちゃん・マルゼンちゃんたちと一緒に京都レース場へと足を運んでいた。

 ただし、私たちは学生なので引率の人が必要である。その引率には私のトレーナーである沖野トレーナーが着いてきてくれた。沖野トレーナーは

 

 

『俺もテンポイントの走りを見に行く予定だったからな。丁度いいタイミングだ』

 

 

と、私たちの申し出を快諾してくれた。ありがたい限りである。

 現在は京都レース場のパドックに私たちはいる。もうそろそろテンちゃんが出走予定の京都大賞典のメンバーがパドックへと登場する頃だ。興奮を抑えきれずにいるとボーイちゃんが唐突に喋りだす。

 

 

「いやー!テンさんのレース見るのは春天以来だけど、こうして観客の目線で見ることは滅多にないからな!相変わらず新鮮な気分だぜ!」

 

 

「そうですね。私はティアラ路線なのでテンポイント様とご一緒に走る機会はなかったので少しワクワクしています」

 

 

「それに、テンさんがこの夏でどこまで強くなったのか気になるもの。これは見るっきゃないない!」

 

 

 ボーイちゃんの言葉にクインちゃんがそう答え、マルゼンちゃんがカメラ片手にそう言った。私は声には出さないがボーイちゃんの言葉に同意するように頷く。

 こうしてテンちゃんのレースを現地で、観客席で見るのは本当に久々だ。最後に見たのはクラシック戦線で戦う前なのでジュニア級の時。それ以外では映像でしか見てなかったのでボーイちゃんの言う通り新鮮な気分を味わっている。

 私はふと気になってカイザーちゃんに質問する。

 

 

「そうだ~。カイザーちゃ~ん、テンちゃんの枠番って何番だったけ~?」

 

 

 私の言葉にカイザーちゃんは手に持っている出走表を確認しながら答える。

 

 

「1枠1番ですね。なので一番最初にパドックに出てきますよ」

 

 

「そっかそっか!いやぁ、楽しみだな!」

 

 

「ショウさんのテンションもアゲアゲね!」

 

 

「あったりまえよ!飛び入りで参加できねぇかな?」

 

 

「トウショウボーイ様、さすがにそれは無理かと……」

 

 

 ボーイちゃんのテンションは上がりっぱなしだ。飛び入り参加できないだろうかという言葉にクインちゃんが苦笑いを浮かべながら答える。

 私は沖野トレーナーに質問する。

 

 

「おきの~ん。おきのん的に今回のレースはどう見てる~?」

 

 

「そうだなぁ……」

 

 

 沖野トレーナーは少し考えた後、言葉を続ける。

 

 

「やっぱ最有力候補はテンポイントだな。次点でホクトボーイ、ここに差はないと見てる。ただ問題があるとすればテンポイントがこの夏でどれだけ仕上げてきたかってところだ。ホクトボーイは前走のチャレンジカップで勝っている。勢いのままにテンポイントを差すかもしれないな」

 

 

「なるほどね~。基本的にはテンちゃんとホクトちゃんの一騎打ち、ってみてるの~?」

 

 

「そうだな。この2人のどっちかが勝つ、ってのが大方の予想だ」

 

 

 沖野トレーナーとそう会話をしているとその会話に割り込むように声が聞こえてきた。

 

 

「まあ、実際のレースはそう簡単にいきませんが」

 

 

 聞きなれない声だ。私はその声がした方へと視線を向ける。そこにはビジネスマンのような出で立ちの人が立っていた。沖野トレーナーは苦い表情でその人に話しかける。

 

 

「ゲッ、時田トレーナー。なんでここに……って思いましたが、ホクトボーイのトレーナーでしたね」

 

 

「そうですよ。まさかあなたに覚えててもらえるとは、光栄ですね。沖野トレーナー」

 

 

 時田トレーナーと呼ばれたその人は社交辞令のように沖野トレーナーにそう言った。しかし、沖野トレーナーはぎこちない笑みを浮かべている。その様子に違和感を覚えた私は沖野トレーナーに耳打ちする。

 

 

「おきのんおきの~ん。苦手な人~?」

 

 

「……ぶっちゃけ苦手だ。指導方針の違いでな」

 

 

 先程の表情からある程度察していたが、私のトレーナーにとって時田トレーナーは苦手な人物らしい。そこから少しの間会話をしていたが、沖野トレーナーの顔は終始引き攣っていた。

 気の毒だとは思ったが、私ができることはない。心の中でトレーナーに謝りつつ私はパドックの方へと視線を向けようとする。すると丁度パドック入場のタイミングだったらしい。私はドキドキしながらパドックに注目する。

 

 

 

 

《京都大賞典に出走するウマ娘たちの入場が始まりました。まずは1枠1番テンポイント選手の入場です》

 

 

 

 

 その言葉にボーイちゃんが真っ先に反応した。

 

 

「おっ!みんな、テンさんが出てくるぜ!」

 

 

「落ち着きましょうボーイさん。楽しみなのは分かりますけど」

 

 

「ふふっ、本当に嬉しそうですね。トウショウボーイ様」

 

 

「さてさて?テンさんはどこまで鍛えたのかしら~?」

 

 

 興奮が抑えきれないといったボーイちゃんを見てカイザーちゃんは落ち着くように言う。そんなボーイちゃんをクインちゃんは微笑まし気に、マルゼンちゃんは興味深そうにパドックを見ている。

 興奮が抑えきれないのは私も一緒だ。テンちゃんが入場するのを今か今かと待っている。沖野トレーナー達も注目しているようだ。それから程なくしてテンちゃんがパドックに姿を現した。

 

 

「さて、誠司の奴はどこまで鍛え上げたのやら……ッ!」

 

 

「こ、これは……!」

 

 

 沖野トレーナー達は息を呑んでいた。だが、驚いているのは私たちも一緒である。

 

 

「す、すごい……!」

 

 

「まるで夏前とは別人のようです……ッ!」

 

 

「おいおい、マジかよテンさん……!」

 

 

「……ッ!」

 

 

 私はパドックに姿を現したテンちゃんに言葉が出なかった。

 見た目だけならば、夏前と比べて大きな変化は見受けられない。身長が少し伸びたように感じられるだけだ。しかし、纏っている雰囲気がまるで別人のようだった。

 夏前までのテンちゃんはどこか華奢な雰囲気が出ていた。テンちゃんは身体の線が細いため、その華奢な雰囲気は余計に感じられていた。だが、今のテンちゃんはそんな華奢さを微塵も感じさせない。身体つきがしっかりとしている。一部を鍛え上げるのではなく、均整の取れた肉体に仕上げていた。さながらボクサーのような肉体だ。

 パドックに注目していた人たちはそんなテンちゃんを見て、私たちと同じように目をみはっている。驚きで声も出ない、そんな様子だった。

 そんな視線を受けて、テンちゃんはアピールをする。瞬間、みんな我を取り戻したように黄色い歓声を上げていた。その歓声を受けて、テンちゃんは下がっていく。程なくして次の枠番の子が登場した。

 ボーイちゃんは戸惑いながら私たちに話しかける。

 

 

「スッゲェな……!一瞬言葉を失ったぜ……」

 

 

「そうですね……。私も、本当にテンポイントさんかと思いました……」

 

 

「すごいわね……。夏前は華奢な雰囲気が抜けきっていなかったけど、今はまるで別人だわ……」

 

 

「私、驚きのあまり声が出ませんでした……。すごいですね、テンポイント様……」

 

 

 まさか、あそこまで鍛え上げているとは思わなかった。夏前とはまるで別人のような印象だ。一体どのようなレースを展開するのだろうか?私はそう考えた。

 沖野トレーナー達は最初見た時は驚いていたものの、今は冷静に分析している。

 

 

「……ですが、いくら鍛え上げてもどのようにレースを展開するかが重要です。今までのレースで来るならば、ホクトボーイは十分差し切れます」

 

 

 時田トレーナーはそう言った。沖野トレーナーはその言葉に肯定も否定もしなかった。

 そのままパドックでの紹介は滞りなく進んでいき、パドックでの紹介が終わったということで私たちはレース場へと足を運んだ。

 私たちはゴール前の一番見えやすい席に陣取る。そこにはとても見知った顔の子が立っていた。

 

 

「あー!先輩たちは!」

 

 

 テンちゃんの妹であるキングスちゃんだ。周りには彼女の友達と思われる子が数人程一緒にいる。彼女はこちら、というよりはボーイちゃんに指を突きつけている。もう見慣れたものだ。

 ボーイちゃんももう見慣れたのか普通に話しかけていた。

 

 

「キングスじゃねぇか!キングスもテンさんの応援か?」

 

 

「そうだし!みんなでお姉を応援しに来たんだし!」

 

 

 そう言うと、キングスちゃんの友達はこちらに挨拶してくれた。私たちも挨拶を返す。そして、キングスちゃんがボーイちゃんに宣言するように告げる。

 

 

「覚悟するし、トウショウボーイ先輩!次戦う時はお姉が勝つし!首を洗って待っているといいし!」

 

 

「そいつは楽しみだな!次戦う時も、オレが勝ってみせるぜ!てか、初めて先輩って呼んでくれたな!嬉しいぜー!」

 

 

「止めるし!先輩に褒められてもそんなに嬉しくないし!」

 

 

 ボーイちゃんはキングスちゃんを撫でようとするが、キングスちゃんはそれを必死に阻止しようとしている。微笑ましい光景だ。

 

 

「青春ねぇ。お姉さん羨ましいわ」

 

 

「いや、マルゼンスキーさんも私たちと歳変わらないですよね?」

 

 

 そんな会話をしていると、京都レース場内にファンファーレが響き渡る。いよいよレースが始まるようだ。私たちはターフの方へ視線を向ける。

 

 

 

 

《晴れ渡る青空の下、京都大賞典の幕が上がろうとしています。芝2400m、バ場の状態は良と発表されています。果たして今回はどのようなレースが展開されるのか?今から非常に楽しみです》

 

 

《出走するウマ娘たちが続々と入場してきていますね》

 

 

《それでは3番人気のウマ娘の紹介から入りましょう。3番人気は……》

 

 

 

 

 実況のウマ娘の紹介が始まる。それを聞きながら私たちは発走の瞬間を待ち続ける。

 

 

「あ~、早く始まらねぇかな」

 

 

「落ち着きなよ~ボーイちゃん」

 

 

 待ちきれないボーイちゃんを私は宥める。そして、実況の今回の1番人気であるテンちゃんの紹介が始まった。

 

 

 

 

《そしてそして!今回の京都大賞典1番人気は勿論このウマ娘!1枠1番テンポイント!私イチ押しのウマ娘です!》

 

 

《パドックで見た時も思いましたが、夏前とは本当に別人のようですね……。果たして今日はどのようなレースを見せてくれるのか?》

 

 

《そして今、各ウマ娘がゲートに入りました。間もなく出走となります。京都レース場第10R京都大賞典が今……スタートです!》

 

 

 

 

 実況の言葉とほぼ同時に、ゲートが開く。京都大賞典が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースが始まって間もなく、この場にいた私たち全員が驚きの声を上げた。それは時田トレーナーも例外ではない。みんなの気持ちを代弁するように実況の人が驚きの声を上げている。

 

 

 

 

《な、な、な、なんと!1枠1番今回の京都大賞典1番人気のテンポイント先頭を走っています!これは全くの予想外!内を通ってテンポイントが逃げている先頭はテンポイントだ!2番手は外からフローカンボーイだハリウッドボーイは先頭争いには加わらない抑える形!》

 

 

《大方の予想ではハリウッドボーイが逃げるとされていましたが……。これは完全に虚を突かれましたね。作戦なのか、はたまた掛かっているのかが気になるところ》

 

 

《さぁそのままテンポイントが先頭で走っています。京都レース場に拍手が沸き上がりました。その拍手を受けてテンポイントが2番手以下を引き連れて快調に飛ばしていく。これが後の展開にどう響くか?第1コーナーのカーブへと差し掛かります》

 

 

 

 

 今まで見たことがないテンちゃんの逃げに皆が驚きのあまり口を閉じている中、真っ先に声を上げたのはカイザーちゃんだ。

 

 

「テンポイントさんが逃げ……。今まで見たことがありませんね」

 

 

「いや、1回だけ取ったことがある。テンポイントのメイクデビューの時だ」

 

 

 カイザーちゃんの言葉に沖野トレーナーがそう答えた。そのまま言葉を続ける。

 

 

「だが、あの時はあくまで距離が短く少人数でのレースだったからこそ逃げを取っただけだ。今回も少人数とはいえどメイクデビューと重賞レースじゃあ訳が違う。何を考えてやがる……誠司」

 

 

 沖野トレーナーはそう言った。しかし、時田トレーナーはほくそ笑みながら呟く。

 

 

「なるほど……。それがあなたの答えですか、神藤さん」

 

 

 どことなく嬉しそうだ。私は疑問に思ったが、その疑問を頭の隅に追いやってレースに集中する。みんなもそう思っているのか、テンちゃんの応援をしているキングスちゃんとその友人たちを除いて、私たちは一言も発することなくレースに意識を集中し始める。

 だが、私の頭の中には今までとは違う戦法を取っているテンちゃんに対する疑問が浮かび上がる。

 

 

「何を考えているの……?テンちゃん」

 

 

 私はそう思わずにはいられなかった。京都大賞典はまだ始まったばかりである。




長くなってしまったので分割。


※トウショウボーイの最初の台詞を修正 9/7
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