ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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メイクデビュー当日回です


第7話 いざ、メイクデビューへ

「いよいよこの日が来たな……テンポイントのメイクデビュー!」

 

 

 函館レース場控室。俺とテンポイントは今そこにいた。ここにいる理由はただ一つ。これからテンポイントのメイクデビューが始まるからである。俺のテンションも上がりっぱなしだ。

 一人テンションを上げていると

 

 

「なんかボクよりテンション高くない?トレーナー」

 

 

と、テンポイントにツッコまれる。まあ確かにちょっとテンションを上げすぎたので自重する。しかし、まさかこの年になってウマ娘のレースにここまで熱中するようになるとは夢にも思わなかった。まだ20代だけど。

 ひとまず今日のレースでの作戦のおさらいをする。

 

 

「さて、今日のレースをどう走るかのおさらいなんだが……まあこれといった有力なウマ娘は他にいない。お前がいつも通りの力を発揮すれば心配するようなことはないだろう。ただ一つ懸念点があるとすれば」

 

 

「会場に降っとる雨、やな」

 

 

「そうだ」

 

 

そう、今日の函館レース場の天気は雨。バ場の状態は良バ場と発表されているとはいえ、視界が制限される上に雨のレースは荒れやすい。万が一が起こるかもしれないだろう。まあテンポイントならその万が一もなさそうだが。だってゲートの訓練も楽々こなしてたくらいだし。

 

 

「本当は細かい作戦とか色々伝えた方がいいんだろうが……まあデビュー戦だからな!勝つことや負けることは一旦置いといて思いっきり走ってこい!」

 

 

「えらい抽象的な指示やなぁ。というか勝ち負けは二の次とか普通言わんやろ」

 

 

テンポイントは笑いながら言う。まあこの辺に関しては俺の思っていることをそのまま言おう。

 

 

「勝ち負けは置いといてって言ったが、これはあくまで拘りすぎるなってことだな。そこに拘ると気負いすぎてうまく走れないだろうからな。だからと言って気を抜いて走れって話でもないぞ?何事もほどほどにってことだ」

 

 

「分かっとるよ。今日のレースは自分のペースを乱すな、っちゅーことやな」

 

 

「そういうことだ。そうすりゃおのずと結果はついてくる」

 

 

「了解や」

 

 

そして出走前の軽い打ち合わせも終わるとテンポイントが溜息をつく。何か思うことがあるのだろうかと思っていると

 

 

「にしても、グラスは残念やったなぁ……」

 

 

と口にした。グラスと言えば……

 

 

「沖野さんのとこのグリーングラスか?」

 

 

「せやで。まさか肺炎に罹るとはなぁ」

 

 

そう、本来この時期に出走予定だった沖野さんのとこのグリーングラスだが、肺炎をこじらせてしまい、年内の出走が絶望的になってしまったと聞いた。現在は療養中のため、トレーニングもあまり無理はできない状態らしい。

 正直心配だ。レースに悪影響にならないかと考えていたが、テンポイントは

 

 

「ま、やったら今日のレースきっちり勝って、グラスに勝利を報告したるか」

 

 

と、自信満々にそういった。これなら何の心配もいらないだろう。

 

 

「うし!じゃあ俺はそろそろ応援席の方に行ってくる。頑張れよ、テンポイント!」

 

 

「おう!しっかり一着でゴールしたるから期待して待っとき!」

 

 

檄を飛ばして俺は控室を後にし、函館レース場の観客席へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして現在函館レース場の観客席にいる。周りには当たり前なのだが人がたくさんいる。さすがは国民的スポーツ・エンターテインメントだ。だがそれにしても

 

 

「さすがに多くねぇか?」

 

 

なんか映像で見たメイクデビューの観客数よりも多いように感じられる。今日はそんなでかいレースはやっていないはずだが。そんな疑問の声に答えるように背後から声をかけられる。

 

 

「そりゃそうだろ。なんてったってあのテンポイントが出走するんだからな」

 

 

その声に振り向いていると、棒付きのキャンディを口に咥えた30代くらいの男が立っていた。この人のことは知っている。先程テンポイントとの話題にも挙がっていたグリーングラスの担当トレーナー、沖野さんだ。

 

 

「沖野さん!まあ色々言いたいことありますけど、レースの世界への復帰、おめでとうございます?」

 

 

「なんで疑問形なんだよ……」

 

 

「いや、沖野さんにとって良いことなのか悪いことなのか分からなかったので……。実際また復職しようと思った理由はなんでしょうか?」

 

 

「そうだな……俺もまた、夢を追いたくなったのさ。未練がましく諦めきれなかっただけかもしれねぇがな」

 

 

と、自嘲気味に沖野さんはそう言った。なんにしても

 

 

「俺は会えてうれしいですよ沖野さん。これからは同じトレーナー同士よろしくお願いします!」

 

 

「おう!ってそうだ、俺よりもお前の方がビックリだよ」

 

 

俺が?なんかあったか?と思っていると沖野さんは言葉を続ける。

 

 

「おハナさんや他の奴から聞いてる限りだと、レースの世界に全然興味なかったそうじゃねぇか。なのにいざ復職してみたらライセンス取ってトレーナーやってるって言うし、お前を知ってる奴らからすればそっちの方がビックリだぜ全く」

 

 

「あ~、まあ確かにそうですね……」

 

 

我が事ながらレースの世界に対する情熱なんてこれっぽっちもなかった。そして沖野さんは言葉を続ける。

 

 

「で?なんでまたレースの世界に興味を持ったんだ?」

 

 

「まあ理由なんて簡単ですよ。趣味でライセンス取ったら理事長にトレーナーになってくれとお願いされましたので。それだけです」

 

 

「本当にそれだけか~?なんか怪しいなぁ」

 

 

沖野さんはこちらを訝しんでいる。まずい、どうにかして話題をそらさねば!

 

 

「そ、そういえば!沖野さんグリーングラスは大丈夫なんですか?肺炎って聞きましたけど」

 

 

「グラスか?大丈夫だ。命に関わるようなものじゃなくて本当に良かったぜ。ただ年内の出走は厳しいからメイクデビューは年明けになりそうだな」

 

 

どうやらグリーングラスは大丈夫らしい。沖野さんは安堵している様子を見せていたので心配だったのだろう。何事もなくて本当に良かった。

 しかしこちらのことがよほど気になるようでさらに質問されるが

 

 

「で、話題をそらされたがなんでレースに……」

 

 

 

 

《さぁ、ウマ娘たちが続々と入場してきます!まず出てきたのは8番人気カズノミドリ……》

 

 

 

 

「あ!入場始まったっぽいですよ!そっちに集中しましょう!」

 

 

丁度いいタイミングで始まった!これで逃げ切れる!

 これには観念したのか深いため息を吐きながら、

 

 

「……まあいい、後でじっくり聞かせてもらうからな」

 

 

と言われた。このメイクデビュー終わったら全力ダッシュで逃げることを胸に誓いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《続いて入場してきたのは、今回のメイクデビュー圧倒的な支持を集めての一番人気!テンポイントがターフに姿を現しました!》

 

 

 

 

「あ、沖野さん沖野さん!来ましたよ!テンポイントです!」

 

 

 最初の子の入場から待つこと数分、テンポイントが入場してきた。それに俺のテンションはめちゃくちゃ上がっている。お客さんに手ぇ振ってる!可愛い!

 

 

「分かってるよ、ったく、お前そんなキャラだったか?」

 

 

と、沖野さんは呆れ口調のまま言ってきた。そのまま

 

 

「しかし、い~いトモだな」

 

 

と続けた。

 

 

「触ったら通報しますよ?例え許可取ってても通報しますよ?」

 

 

「本気トーンで言うな!こえーよ!」

 

 

まあさすがに冗談ではあるが、この人はグリーングラスでの前科があるからな。というか

 

 

「よく蹴られて無事でしたね。ウマ娘の脚力ってヤバいはずですけど」

 

 

俺はテンポイントから聞いたスカウトの際グリーングラスに蹴られた時のことを言う。普通無事じゃすまないと思うが。

 

 

「鍛えてるからな!」

 

 

「鍛えてどうにかなる領域なのか……?」

 

 

どういう身体構造してるんだこの人。

そんな会話を続けていると、レース場内にファンファーレが響き渡る。

 

 

 

 

《さぁレースはあいにくの雨模様ですが今日のバ場は良バ場の発表。函館レース場第3Rメイクデビュー戦が始まろうとしています。一体どんなレースを見せてくれるのか?今から非常に楽しみです》

 

 

「いよいよ始まりますね……頑張れよ~テンポイント~」

 

 

俺は念を送る。効果あるのか分からないけどやるだけならタダだ。

全ウマ娘がゲートに入る。そして

 

 

《各ウマ娘のゲートインが完了し今……スタートしました!》

 

 

 

 

一斉にゲートが開き、レースが始まる。

 

 

 

 

《好調なスタートを決めました8枠8番テンポイント!このレースの一番人気、函館レース場では歓声が響き渡ります!》

 

 

《とても奇麗なスタートでしたね。好レースが期待できそうです》

 

 

 

 

テンポイントは抜群のスタートを決めた。良し!

隣の沖野さんもこのスタートを見て驚いたのか感嘆の声を漏らしていたのが聞こえた。

 

 

 

 

《テンポイントがハナを進みその後ろに7番ヤクモオーショウ、その外に5番ハンピンオー、内をついて2番グランドヤマトシ。この4人が先頭集団を形成しています。そこから少し離れた位置に4番バラベルサイユ、3番人気のウマ娘はこの位置、その後ろ外目をついて1番カズノミドリと9番タイヨウレオ。どうでしょうかこの展開?》

 

 

《先頭のテンポイント、かなりのペースで飛ばしていますね。他のウマ娘はついてこれるのでしょうか?》

 

 

 

 

「なるほどな。こりゃ確かにすげぇわ。一人だけ別格だ」

 

 

沖野さんはそう呟く。

 

 

「分かりますか?沖野さん」

 

 

と、俺はニヒルな笑みを浮かべながらそう言ったが

 

 

「いや、そんな分かる人には分かる風に話しかけてるとこ悪いが、あれは誰がどう見ても分かるだろ。はっきり言って格が違う」

 

 

かっこよく決めたかったのに普通にぶった切られた。

 

 

「他のウマ娘には悪いが、こりゃテンポイントの圧勝だな」

 

 

「ま、まだレースは終わってないので分かりませんよ?」

 

 

そう苦し紛れに俺は言うが沖野さんは首を振り

 

 

「こっから隕石でも振ってこない限り、番狂わせはあり得ねぇよ。そんぐらいの力量差がある」

 

 

そう答えた。隕石て。

 心の中でそうツッコミを入れていると、テンポイントはすでに第3コーナーを回り第4コーナーに差し掛かろうとしていた。

 

 

 

 

《さぁ先頭集団は第4コーナーを回って最後の直線に入りました!先頭は依然テンポイント!ハンピンオーが追いつこうと必死になっている!しかし先頭のテンポイントとの差はグングン開いていきます!テンポイントなんという足だ!?その差を4バ身、5バ身とつけていきます!すでに独走状態!》

 

 

《これは……もう何と言っていいのか分からないですね。凄まじい足です!》

 

 

 

 

「いけいけー!テンポイントー!」

 

 

「頑張れー!」

 

 

「そのまま突っ込めー!」

 

 

観客のそんな歓声が聞こえている。だが当の俺は

 

 

「うぉぉぉぉぉおお!そのまま押し切れー!テンポイントー!いけー!」

 

 

とまるで子供のように大はしゃぎでレースを応援していた。

 

 

 

 

《そのままテンポイント独走状態で今一着でゴールイン!2着と10バ身の差をつけて函館メイクデビューを圧勝しました!勝ち時計は……と!?なんと走破タイムは58.8!その横にはレコードの赤い文字が点いています!テンポイント、自らのデビュー戦で函館レース場芝1000mのコースレコードを記録しました!2着はグランドヤマトシ!3着はハンピンオーです!》

 

 

《すごいウマ娘が現れましたね。テンポイント、彼女のこれからのレースが非常に楽しみです》

 

 

 

 

マジ?レコードタイム?ヤバくね?

 俺は有力なウマ娘がいないことから勝てるとは思っていたが、まさかコースレコードで勝つとは思わなかった。これには観客も大盛り上がりであり

 

 

「すごいぞー!テンポイントー!」

 

 

「次も頑張ってー!応援してるわー!」

 

 

「あのお姉ちゃんすごーい!」

 

 

という声が聞こえてくる。その言葉に俺も鼻高々だ。

 

すごいでしょうすごいでしょう!あの子、俺が担当してるんですよー!奇麗でカッコよくて強い!三拍子揃った無敵のウマ娘!テンポイントをよろしくお願いします!

そう心の中で思っていると沖野さんは俺を微笑ましげに見ながら

 

 

「なるほどな、お前がトレーナーをやる気になった理由、分かった気がするぜ」

 

 

と言っていた。はて、何のことだろうか?

 

 

「どういうことです?沖野さん」

 

 

そう質問すると沖野さんはいたずらっ子のような笑みを浮かべながら

 

 

「いいやぁ?別に何でもないさ?」

 

 

とはぐらかされた。なんだろうか。非常に気になる。

 

 

「それよりも、早くあいつのとこに行ってやりな。ウイニングライブまでは時間あるから、おめでとうの一言ぐらいは言っとけ」

 

 

「そうですね!じゃあ失礼します、沖野さん!」

 

 

そう言って俺は沖野さんと別れる。別れ際に

 

 

「あそこまで惚れ込んでるとはなぁ。眩しいぜ全く」

 

 

と聞こえたような気がするが、一体何だったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてレースの控室。俺はテンポイントに祝いの言葉を贈る。

 

 

「おめでとうテンポイント!まさかコースレコードで勝つとはな!」

 

 

「フフン!どや?これがボクの実力や!これからもめっちゃ勝ったるで!」

 

 

俺たちは勝利を喜び合う。最高の気分だ!

 テンポイントも上機嫌なのかしっぽを忙しなく振っている。可愛い。

 ひとしきり喜びを分かち合った後、この後のウイニングライブについての話になる。まあ振付に関してはしっかりと練習していたし問題はないだろう。問題があるとすれば

 

 

「俺がテンポイントの眩しさに耐えられるかどうかだな……」

 

 

「何言うとんねん自分」

 

 

軽いジョークのつもりで言ったが、テンポイントには普通に返された。

 

 

「ま、まあ後はウイニングライブだけだ!頑張れよテンポイント!」

 

 

「任しとき!ライブに来てるお客さんを全員ボクのファンにしたるわ!」

 

 

実際できそうなのが怖いところである。そしてウイニングライブの準備があるので俺はテンポイントと別れライブ会場へと向かった。

 

 

 

 

そしてライブでは大はしゃぎで応援していたら次の日テンポイントに怒られた。すいません、テンション上がりすぎただけなんです。許してください。




当時のレース映像が全然残ってないから描写が淡白なのは許して……許して……


※細かいところを微修正 7/22
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