ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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2人の会話の続き回。


第73話 友達で、ライバル

 カイザーが語ったボーイのレースを見に行きたくなかった理由。そして、カイザーの口から語られる宝塚記念後の自身の話。必死に努力しても届かなくて、もうレースに出走することを止めようとしていること。諦めようとしていること。なのに、ボクのレースを見てまた走りたいという気持ちが湧いてきてしまったということ。その気持ちを抑えるためにボーイのレースを見に行きたくなかったということがカイザーの話で分かった。

 言いたいことも終わって、ボクが聞きたいことも話したということからカイザーは帰ろうとした。ボクはそんなカイザーの腕を掴んで止める。このまま帰すわけにはいかないと思い、咄嗟に掴んだ。

 腕を掴んでいるボクを不思議そうな表情でカイザーは見ている。ボクはカイザーに再び座るように促す。

 

 

「ホラホラ、ボクの話も聞いてもらうで。まあ座りや」

 

 

「は、はぁ。分かりました」

 

 

 戸惑いながらもカイザーは再びベンチに腰掛ける。ボクはひとまず安堵した。

 さて、まずは何から話し始めたものだろうか。少し考えて、ボクは宝塚記念の話を切り出すことにした。軽い口調で話し始める。

 

 

「しっかし、あの宝塚記念散々やんな。ボクもしばらく立ち直れんかったし、カイザーは脚を故障やろ?こう振り返るとボクら散々やな」

 

 

「あ、アハハ……。実際は全然笑えませんけどね」

 

 

「やな。ま、これもええ経験やと思うことにするしかないな。悔いたところで、どうしようもないことやし」

 

 

 すると、カイザーはボクに質問してきた。

 

 

「……テンポイントさんは、どうやって立ち直ったんですか?」

 

 

「ん?あん状態からか?」

 

 

「はい。ボーイさんは言ってました。目に生気がなかったと。グラスさんは心が折れてしまったんだろうと言ってました。私はその時のテンポイントさんを直接見ていないので分かりませんが、お2人の言葉を信じる限り、とても復帰できるような状態ではなかったと推察できます」

 

 

「そうやなぁ、あん時のボク酷かったからな。そう思われるんも仕方ないわ」

 

 

 カイザーは一呼吸おいて続ける。真剣な眼差しで、ボクに問いかける。

 

 

「ですが、テンポイントさんはこうして無事に立ち直ることができました。いえ、それどころか前以上に元気になったと私は思っています。だからこそ、疑問なんです。どうやって立ち直ったのかが」

 

 

「……う~ん。特別なことなんもしてへんし、おもろい話でもないで?」

 

 

「構いません。教えてはいただけないでしょうか?」

 

 

 カイザーの言葉を受けてボクは話すことに決めた。ボク自身の宝塚記念後の話を。

 

 

「ま、ボクの話聞いてもらおかって言うた手前話さんのもおかしいわな。分かった、話すわ。ボク自身の宝塚記念後の話」

 

 

「……お願いします」

 

 

 ボクは頭の中を整理しながら、語り始める。

 

 

「まあ、確かに宝塚終わった後はホンマに酷い状態やったわ。やること全部に気力が湧かんわ、みんなと会うのが怖くて学園休むわ、挙句の果てにはみんなに罵倒される夢見るわ。精神状態は最悪の一言やな」

 

 

「みんなに罵倒される夢?」

 

 

「言葉通りの意味や。お母様に始まり、カイザーたちにお前は弱いとか色々と罵倒される夢やな。最後はトレーナーに契約解除を言い渡されるとこで目ぇ醒めたわ」

 

 

「わ、私たちはそんなこと言いません!絶対に!」

 

 

 カイザーは強い口調でそう言った。ボクは苦笑いしながら答える。

 

 

「分かっとる分かっとる、あくまで夢ん中の話や。そんだけ精神状態は良くなかったっちゅうことやな。そんな状態やったから寮長からも学園を休むよう言われとったんよ」

 

 

「そうだったんですね……」

 

 

「で、そんなボクが立ち直るきっかけをくれたんが、トレーナーや」

 

 

「神藤さん……ですか?」

 

 

 ボクは頷く。あの時のことを話し始める。

 

 

「あん時のトレーナーにはホンマ驚いたで!ボクに会うために寮長に土下座までしとったからな!」

 

 

「……なんか、容易に想像つきますね。その様子が」

 

 

「やろ?まあ驚いたのもそうやけどそれ以上に、ボクは嬉しかった。ボクのためにそこまでしてくれたことが」

 

 

 今でも昨日のことのように思い出す。あの日のトレーナーのことを。

 

 

「そして、そこからまあ色々あってその日ん内に体調自体は良くなったんやけど完調とまではいかんかった。今思うと不安やったんやと思う。ボクはボーイに勝てるんやろうか……って。その不安がある限り、ボクの体調は戻らんかったやろうな」

 

 

「テンポイントさんも不安だったんですね。それだけ、ボーイさんは強い」

 

 

「そうや。悔しいけど、ボクはあの宝塚記念で余計それを印象づけられた。不調のボーイ相手に負けたんやからな」

 

 

「……じゃあ、どうやって?」

 

 

「簡単や。それでもボクの強さを信じてくれとる人がいた。ボクがどんだけ負けようと、ボクが最強やって言うてくれる人がおった。やから、ボクもそれを信じることにした。そしたら、ボーイに勝てるのか?これから先も勝てるやろうか?って不安はきれいさっぱり無くなった」

 

 

「……」

 

 

「そっからは、カイザーたちが知っている通りのボクや。調子は最高、夏合宿で鍛えまくって、京都大賞典でのあの走りに繋がっとる。戦法変えることは、最初は勿論不安やった。やけど、トレーナーができる言うたからボクもそれを信じた」

 

 

 ボクがそう話すと、カイザーがボクに聞いてきた。

 

 

「あの、どうして神藤さんのことを信じようと思ったんですか?」

 

 

「……どういう意味や?」

 

 

 思わずそう聞き返すとボクが気を悪くしたと思ったのかカイザーが慌てて弁明を始める。

 

 

「いえ、別に深い意味はないんですけど!テンポイントさんの話してる時の表情を見ていたら、柔らかい笑みを浮かべてたからすごく信頼してるんだなぁって!そしたら、どうしてそんなに信頼してるのかちょっと疑問になって!」

 

 

「あぁ、そういうことか。そうやなぁ……」

 

 

 話そうと思った、が。思いとどまる。あの日のことだけは絶対に話したくない。ボクは内心慌てながら答える。

 

 

「……トレーナーがボクを信頼しとることがよう分かったから、ボクも信頼で応えよう、って思うたからや」

 

 

「本当にそれだけですか?なんか、深い理由とか……」

 

 

「そんだけや!」

 

 

 ボクは大きな声を出してそれ以上追及されることを阻止する。するとカイザーは一応納得したようで聞いてこなかった。ボクは安堵する。

 

 

「でも、テンポイントさんが少し羨ましいです。テンポイントさんをそこまで思ってくれて、強さを信じてくれる人がいて」

 

 

 カイザーの言葉に、何を言っているんだと思いながらもボクはカイザーに質問した。

 

 

「何言うとるん?カイザーにもおるやろ?」

 

 

「……いませんよ。私の強さを信じてくれる人なんて……」

 

 

 カイザーは自嘲気味に笑う。だが、そんなことはない。ボクはカイザーの言葉を否定する。

 

 

「少なくともここに1人おるやん。カイザーの強さを信じとる奴」

 

 

「……え?」

 

 

「ボクはカイザーは強い思うてるで。それにあくまでここにボクしかおらんてだけで、グラスもボーイも同じこと思うてるやろ。後はクインもそうやな」

 

 

「……慰めなんていりませんよ。私のどこが強いって言うんですか?」

 

 

 そう言うカイザーには少し怒りが見えた。ただ、ボクは思ったことをそのまま伝える。

 

 

「確かに、カイザーって派手な勝ち方はしてへんけど。やけど21回も走っとって掲示板外は宝塚記念だけなんは純粋にすごいことやと思うで?」

 

 

「……そうでしょうか?」

 

 

「そうや。それに、カイザーはダービーウマ娘やろ?ダービーをまぐれで勝つんは不可能や。そんダービーを、ボーイを抑えて勝ったんやから強いやろカイザーは」

 

 

「でも、私は世間的には……」

 

 

 やはり、カイザーが気にしているのはそこか。周りの、というよりは記者やファンの人たちの言葉を過剰に気にしているのだろう。ボクは溜息1つついてカイザーを諭す。

 

 

「ええか?カイザー。ボクが言えたことやないけどな、周りの評価なんて気にしたとこで無駄や。どうしたって悪いこと言うてくる連中はおる。それに一々反応しとったらキリないで?」

 

 

「ですけど、外野の意見というものも……」

 

 

「大体な、カイザーは物事を悪う考えすぎや。もうちょい気楽に考えた方がええで?カイザーのことをええように言うてる人たちだっておる。信じるんやったらそん人達の方や」

 

 

「でも……」

 

 

 カイザーはなおも渋っている。まあこれは彼女の性格によるものが大きいかもしれない。ならば、これ以上言うのは止めた方がいいだろう。

 ボクはカイザーに告げる。

 

 

「ま、少なくともボクはカイザーは強い思うてる。そんだけ覚えててくれたらええわ」

 

 

「ありがとうございます……」

 

 

「それに、名前挙げんかったけどタケホープ先輩もカイザーのこと信じとるんやないか?あの人カイザーに入れ込んどるし」

 

 

「えぇ?そうですかぁ?タケホープ先輩にはからかわれてる記憶しかないんですけど……」

 

 

 カイザーは疑問たっぷりといった表情でボクを見る。確かにいつもカイザーに悪戯しているが、それもタケホープ先輩なりの愛情表現なのだろう。本人には1ミリも伝わっていないが。

 

 

「あの人なりの愛情表現ちゃう?少なくともどうでもいいと思うてる相手にはちょっかいかけんやろ。先輩の性格的に」

 

 

「……確かにそうですけど」

 

 

「まあ、なんにせよ」

 

 

 ボクはそう言って一拍おいてカイザーに告げる。

 

 

「カイザーがレースで走るの止めるんやったら、ボクは無理には止めへん。それはカイザーの自由やからや」

 

 

「……はい」

 

 

 カイザーは辛そうな表情を浮かべている。けれど、ボクの言いたいことをカイザーに伝える。

 

 

「やけど、後悔が残る選択だけはせんようにするんやな。今やったら、まだハダルにも戻れるかもしれへんし」

 

 

「……どうでしょうか?トレーナーが許してくれるとは……」

 

 

「まあ、そこは気合で何とか」

 

 

「えぇ……」

 

 

 それはボクにはどうしようもない。でも、戻ることを許してくれそうな気はする。何となくだが。

 

 

「これは個人的なことやけど。カイザーがレースの世界に復帰するんやったらボクは嬉しいで。そん時はまた競い合おうや。ま、簡単には負けてやらんけどな!」

 

 

「……考えておきますね。まだ、分からないですけど」

 

 

 ぎこちなくだが、カイザーは笑みを浮かべる。復帰を考えているのかは定かではないが、ひとまず安堵した。

 笑みを浮かべていたカイザーは一転して不安そうな表情でボクを見る。その表情を見てボクは緊張する。そして不安げな表情でカイザーがボクに質問する。

 

 

「……テンポイントさんは、私をどう思っていますか?私を、ライバルだと思ってくれてますか?」

 

 

 その質問に少し肩透かしのような気分になりながらも、正直に答える。

 

 

「当たり前や。友達でライバル、そう思っとるで。やから、復帰してくれるんやったらボクはむっちゃ喜ぶ。止めるんやったらむっちゃ泣く」

 

 

 そう答えると、カイザーは苦笑いをしながら続けた。

 

 

「……グラスさんと、一緒のこと言ってくれるんですね」

 

 

「なんや、グラスも同じこと言うてたんか。でもボーイに聞いても同じこと言うやろな」

 

 

「そうでしょうか?」

 

 

「絶対に言うで。賭けてもええわ」

 

 

 ボクは笑いながらそう言った。するとカイザーも苦笑いではない笑顔を浮かべた。

 言いたいことも言ったのでボクはカイザーに質問する。

 

 

「さて、結構話してたけど……どないする?まだ時間は余裕あるで」

 

 

「そうですね……。ちょっと、考えたいことがあるのでここで解散してもいいですか?」

 

 

 カイザーは少し考えた後そう言った。ボクはそれに納得するように答える。

 

 

「分かった。やったらここでお別れやな。また学園で、カイザー」

 

 

「はい。また学園で会いましょう、テンポイントさん」

 

 

 そしてボク達は別れてそれぞれの帰路につく。

 学園の寮に帰る道中で、ボクはカイザーの様子を思い出していた。別れた時は憑き物が少し落ちたような表情をしていた。ボクの言葉はちゃんと届いていたのだろう。そのことを思い出す。

 

 

「これで、ちっとは前向きになってくれたんかな?」

 

 

 大切な友達が前向きになってくれたことを嬉しく思いつつ、ボクは寮へと帰っていった。




最近天気予報に裏切られることが多い今日この頃。台風はどっか行きましたね。
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