ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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あっさりだけどオープンレース回


第75話 準備は万全

 ジョージに気に入られてから1ヶ月が経ち、今ではボーイたちと変わらないくらいには仲良くなった。また、ジョージとボクの逃げは似通っている部分が多く、たまにジョージから逃げのコツなんかを教えてもらっている。

 ……まあ、ジョージはほぼ感覚で走っているためかほとんど参考にならないのだが。寮でジョージがどんなことを意識して走っているのか聞いたことがある。その時に言われたことは本当に衝撃的だった。

 

 

『せや、ジョージって走っとる時はどんなこと考えてるん?』

 

 

『走ってる 時 ?』

 

 

『そうそう、なんかあるやろ。こう走ったろーとか、ここはこうしとるーとか』

 

 

『うーん』

 

 

 少し考えた後、ジョージはこう答えた。

 

 

『後ろ 来たら びゅびゅーん って走る。後ろ 緩めたら だらーん ってする』

 

 

『……は?』

 

 

『後ろ 来たら びゅびゅーん。後ろ 緩めたら だらーん』

 

 

『……前に詰めてきたらペースを上げる、詰めてこぉへんならペースを下げる?』

 

 

『そんな感じー』

 

 

 何とか翻訳することはできたが、ジョージはほぼ感覚で走っているらしくこのような擬音を用いての説明が多かった。感覚で走って勝てるあたり、ジョージのポテンシャルの高さが垣間見えた気がした。

 そんなことを思い出しながら、ボクは今東京レース場のターフの上に立っている。東京レース場の第8Rであるオープンレースに出走する準備を進めていた。

 最初こそ、レース成立人数に達するかどうか不安だったが、何とか成立人数ギリギリの5人が集まったため、無事開催されることとなった。ボクは1枠1番の最内枠。天気は晴れの良バ場。警戒しておく相手はいないが、万が一があるため油断はしない。ここを勝って有マ記念への弾みをつける。トレーナーとはそう打ち合わせていた。

 ウォーミングアップを終えて、ボクはゲートへと入る。そして、続々と出走する子たちがゲートへと入っていった。最後の子が入ったことで、後はゲートを開くのを待つだけだ。

 

 

 

 

《東京レース場第8R、芝は良バ場と発表されています。各ウマ娘がゲートへと入りました。間もなく出走となります。このレース、やはり最注目はテンポイントでしょうか?》

 

 

《そうですねぇ。このレースでは圧倒的支持を得て断トツの1番人気、観客の中にはテンポイントがどう勝つか?なんて声すら聞こえてきそうなほどの歓声です。しかし他のウマ娘たちも負けず劣らずのいい仕上がりです。勝負は最後まで分からない、それがまたレースの面白いところでもあります》

 

 

《成程。さぁ、それでは東京オープンレースが今……スタートです!》

 

 

 

 

 ゲートの中でしばらく待っていると、ゲートが開いた。ボクはゲートが開くのとほぼ同時に走り出す。ハナを取ってボクは快調に飛ばしていった。

 2番手とはつかず離れずの位置をキープする。追い越せそうで追い越せない、その絶妙なラインをキープする。

 

 

(なるほどな、これがジョージがいつもしとることか)

 

 

 いざ自分で実践してみると、その難しさに少し驚いた。だができないことはない。ジョージはほぼ感覚でこれをやっているらしい。やはりジョージのポテンシャルは底なしと言ってもいいだろう。

 そのままボクは東京レース場を先頭で走り続ける。不思議なことに、ボクの調子は誇張抜きに過去最高の調子と言ってもよかった。気楽に走れている。何ならレコードタイムで勝つことすらできそうな気分だった。

 だが、ボクはその考えをすぐに改める。

 

 

(あくまでこれは京都大賞典と同じで前哨戦や。対ボーイに向けた最終調整レース。それを頭に入れんとな)

 

 

 このレースはあくまで有マ記念への弾みをつけるためのレース。レコードを出すことが目的ではない。無理をして怪我に繋がるようなことになれば最悪だ。別に派手な勝ち方をする必要はない。

 そして、2番手とつかず離れずの位置をキープしながら走り続けてボクは第4コーナーのカーブを抜けて最後の直線に入る。後ろの子たちがペースを上げてきた。ボクもそれに合わせてペースを上げる。

 

 

 

 

《……勝負は第4コーナーを抜けて最後の直線へと入っていった!先頭は変わらずテンポイント!テンポイントが逃げています東京レース場!2番手ロングホークが必死に追走している!しかしテンポイントとの差は縮まらない!》

 

 

《……ロングホークも決して弱いウマ娘ではありません。G1にこそ手は届いていないものの皐月賞と春の天皇賞を2着、秋の天皇賞を3着に潜り込むほどの猛者です。それをまるで赤子扱いですね》

 

 

《そのままテンポイントが逃げる!ロングホークが追う!しかし、その差は縮まらなかったテンポイントゴールイン!1着はテンポイントだ!それから遅れること1と3/4バ身差で2着はロングホーク!》

 

 

 

 

 そのままボクは1着でゴール板を駆け抜けていった。そこからほとんど差はなくロングホーク先輩がゴールする。

 ロングホーク先輩を尻目にボクは着順やタイムが出る掲示板を見る。今回のレースのタイムを見るためだ。

 

 

(1分47秒5か……。ッし!)

 

 

 我ながら優秀なタイムだ。内心喜ぶ。しかし、それを決して表には出さずにウィナーズサークルへと歩を進めていった。

 ウィナーズサークルでトレーナーと合流し、記者の人たちのインタビューに答えていく。

 

 

「神藤トレーナー、テンポイントさん。まずは勝利おめでとうございます。今回のオープンレース出走についての理由をお聞かせ願えますか?」

 

 

「それについては私が。テンポイントの体調と疲労が残ること、前走である京都大賞典と次のレースのことを考えた結果、この日のオープンレースが最良だと判断しました」

 

 

「次走は何を予定していますか?」

 

 

「次走は有マ記念を予定しています。最も、ファン投票次第ではあるのでまだ分かりませんが」

 

 

 トレーナーは苦笑いを浮かべながら答える。それに記者の人たちも少し笑顔になりながら質問を続けた。

 

 

「まあ、テンポイントさんの人気を考えたらほぼ出走は確定と言ってもいいでしょう。テンポイントさんに質問ですが、有マ記念で意識している相手はどなたでしょうか?」

 

 

「それは勿論、トウショウボーイです。彼女には今んとこ負け越しとるので。それに、世間ではボクのこと〈悲運の貴公子〉だの、トウショウボーイには勝てないだの色々言われとりますので。それを有マ記念で払拭したろうと思うてます」

 

 

 ボクは笑顔でそう答える。しかし、記者の人たちは引き攣った顔をしていた。一体どうしたのだろうか?隣に立っているトレーナーは頭が痛そうに抱えていた。

 ……まあ、引き攣った顔をしている理由は勿論分かっている。何故なら、ボクのことを〈悲運の貴公子〉だのボーイに勝てないだの煽っているのは他ならないこの人たちだから。トレーナーは前に良い記者だっていると言っていたが、ボク自身あまり記者に対しては良い印象を抱いていない。

 ただ、このことに関してまたトレーナーに後から言われるだろう。そのことだけは覚悟しておく。

 トレーナーが記者の人たちに謝った。

 

 

「……申し訳ありません。トウショウボーイを意識するあまりつい熱くなってしまっているようです」

 

 

「い、いえ。それに煽っている記事を書いているのは事実ですので……。そ、そうだ!トウショウボーイの他に注目しているライバルはいますか!?」

 

 

 その質問にボクは答える。

 

 

「そうですねぇ……。やっぱグリーングラスでしょうか。クライムカイザーは……ちょっと有マに出走するかは分からへんので何とも言えません。あぁ、でもマルゼンスキーと闘えるのは楽しみにしとります。彼女のレースはボクの耳にも入っていますので」

 

 

「そうですね。それでは次の質問ですが……」

 

 

 その後は特に問題なくインタビューは進んでいき、時間が来たということでインタビューは終わった。記者の人たちがはけてからトレーナーから一言、

 

 

「あんまり記者の人たちを威圧するような言動はしないようにな?」

 

 

と、軽く怒られた。確かに、あの発言は良くなかっただろう。ボクは少し後悔しながらトレーナーに謝る。今度記者の人たちには何らかの形でお詫びした方がいいかもしれない。

 その後はウイニングライブへと移っていった。最前列でトレーナーとキングスとその友人たちがサイリウムを振ってボクを応援している。もう見慣れた光景だ。だが、トレーナーの隣にいつもなら見慣れない人が増えていた。ジョージである。レースを見に来ていたのか、と思ったがボクはセンターで踊りながら重大なことを思い出す。それは2日前の会話のこと。

 

 

『ジョージの次のレースっていつなん?』

 

 

『ん-っと 今月末 復帰戦』

 

 

『そか。練習頑張ってな、ジョージ』

 

 

『応援 嬉しい。わたし 張り切る 練習も 頑張る』

 

 

 ジョージはそんなことを言っていた。だが、今こうしてボクのライブを見に来ている。その瞬間ボクは

 

 

(練習どうしたんやジョージ……)

 

 

そう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、ボクとトレーナーはトレーナー室で昨日のレースの反省会をする。とは言っても、

 

 

「過去最高の出来って断言できるわ。ホンマに気楽に走れた。疲労も残っとらんし」

 

 

「だな。文句なしの出来だったぞテンポイント。これで後は有マ記念に向けて調整するだけだな」

 

 

ほとんど反省する点はなかった。

 トレーナーの視点から見てもあのレースは会心の出来だったらしい。ボクを褒めちぎっていた。ボクはその言葉1つ1つに喜ぶ。また、ここまでの出来になったのもトレーナーのおかげだ。なのでボクもトレーナーを褒めちぎる。お互いに褒め合ったことが何となくおかしくてしばらく笑いあっていた。

 これで有マ記念に向けて準備は万端と言ってもいいだろう。後は怪我をしないように細かい調整をしながら本番に備えるだけである。

 トレーナーがボクに告げる。

 

 

「さて、後は細かい調整をしていくだけなんだが……。この日は空いているか?テンポイント」

 

 

「んー?……その日やったら空いとるで。なんかあるんか……って思うたけど」

 

 

「そう、この日は秋の天皇賞が行われる日だ。そしてこのレースにはトウショウボーイとグリーングラスが出走する」

 

 

 トレーナーの言いたいことが分かった。偵察というやつだろう。ボクは二つ返事で了承する。

 

 

「了解や」

 

 

「よし、なら詳しい集合時間だが……」

 

 

 そうして詳しい日程を詰めていく。この日は練習も休みにして見に行くこととなった。

 ボクの準備は全てにおいて順調と言っていいだろう。なので気になるのは他の有力なウマ娘たちの仕上がりだ。そして、有マ記念に置いて最大の障害となるであろう2人が出走するとなれば見に行かない理由はない。

 ……その日の夜、ジョージと会話しているとどうやらその日はジョージもレースらしく見に来てくれと言われた。しかし、もう秋の天皇賞を観戦しに行くと約束したため行けないことを告げると、

 

 

「薄情者。よよよ」

 

 

と、言われてしまった。なので後日必ず埋め合わせをするというと機嫌がコロッと治った。




今回はちょっと短めです。
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