有マ記念まで後3日と控えた今日、有マ記念前最後の追い切りを済ませたボクは寮の自室に戻ってきている。そして、興奮気味なジョージとテレビを見ていた。ジョージは待ちきれないといった様子でテレビを凝視している。その姿に苦笑いをしながらボクはジョージに話しかける。
「落ち着きやジョージ。そんな焦らんでもそろそろ始まるで?」
「わくわく」
「聞いとらんし」
ジョージがここまでテレビにくぎ付けになっているのには理由がある。今日は有マ記念まで後3日に迫ったということで、出走を表明しているウマ娘の特番が組まれているのだ。ボクは勿論有マ記念への出走を表明している。なのでボクのインタビューの映像も流れる。自分のインタビューを見るのは少し恥ずかしいが、ジョージがここまで見るのを楽しみにしているため、見たくないとは言えなかった。
しばらく待っていると、ジョージのお目当ての番組が始まった。
《今年もこの時期がやってまいりました!有マ記念を直前に控えている今日!皆さんも気になっているであろうあのウマ娘の状態はどうなのか!?出走を表明しているメンバーへの突撃インタビューの時間がやってまいりました!》
「始まった テン坊 いつ ?」
「ボクの番は最後やでジョージ。ファン投票1位やから大トリなんやと」
「そう 楽しみ」
ジョージはテレビにくぎ付けになっている。ボクはジョージの分の飲み物を持ってきた。お互いに飲み物を飲みながらテレビを視聴する。
《さてさて~?まずはこのウマ娘に突撃!インタビュー!今年のクラシック戦線で見事菊花賞を勝ち取ったプレストウコウちゃんです!》
《は、初めまして!プレストウコウです!きょ、今日はよろしくお願いします、インタビュアーさん!》
《はい、今日はよろしくお願いしますね!それではまず有マ記念のファン投票での選出、おめでとうございます!ファンの方々に一言お願いできますか?》
《はい!ありがとうございます!私に投票してくださったファンの方々の期待を裏切らないように、精一杯走りたいと思います!……ちょっとありきたりかな?でもこれ以上何か思いつかないし……ど、どうしよ~!?トレーナーさ~ん!》
《お、落ち着いてくださいプレストウコウさん!?》
「初っ端 放送事故 だいじょぶ ?」
「……大丈夫なんちゃう?」
大丈夫じゃなかったらこの部分はカットされていると思う。そう思いながらボクはテレビを見ている。
《そ、それでは!プレストウコウさん、今年1年を振り返って、どう感じていますか?》
《そうですね……。なんというか、菊花賞勝ったのに地味じゃありませんか、私?》
《え?》
《だって!私葦毛で初のクラシックを制したウマ娘なんですよ!もうちょっと注目されていいと思うんです!そりゃ、同期にマルゼンちゃんがいるからそっちが話題になるのも仕方ないと思うんですけど……。それでも、もうちょっと話題になってもいいんじゃないですか私!》
《え、え~と》
結構豪胆な子だった。テレビで放送されるというのに色々とぶっちゃけている。その姿に思わずボクは笑ってしまった。インタビュアーの人は困ったような笑顔を浮かべているが。
いくつか質問した後、最後にインタビュアーが質問する。
《では最後に!有マ記念への意気込みについて教えてください!》
《はい!ファン投票で選出されたクラシック級代表として、マルゼンちゃんと頑張りたいと思います!そして、NIKKEI賞で負けた借りをマルゼンちゃんに返したいと思います!頑張るぞー!おー!》
「この子 今頃 ががーん」
「やろうなぁ……。まさか今日になってマルが出走できんくなるとはなぁ……」
ジョージの言葉にボクは同意する。
マルは有マ記念に出走予定ではあったのだが、3日前に控えた今日、屈腱炎を再発したということで出走を取り消したのだ。お昼のニュースはその話題で持ちきりだったのを覚えている。
屈腱炎の程度自体は軽いのだが、大事を取って出走を取り消したらしい。加えて、来年度はドリームトロフィーリーグに移籍することが発表された。プレストウコウにしてみれば二重にがっかりだろう。
気を取り直して特番の続きを見る。どうやら次はグラスのようだ。
《それでは次にインタビューするのはぁ~?このウマ娘!グリーングラスちゃんです!今日はよろしくお願いしますね!》
《はいは~い、グリーングラスだよ~。よろしくね~》
《思わずこっちものんびりしちゃいそう~……ハッ!?いけないいけない、しっかりしなきゃ!それではグリーングラスさん、まずはファン投票での選出おめでとうございます。投票してくれたファンの方々に一言お願いします!》
《いや~、まさか私がファン投票で選出されるなんて~。嬉しいよ~。みんなありがとうね~。私頑張っちゃうよ~》
グラスはインタビューでものんびりとしている。変わらない姿にボクは思わず苦笑いを浮かべる。インタビュアーが何個か質問していたが、終始のんびりした口調で返していた。
そして共通の質問である1年を振り返ってという質問に入る。
《さてさて、グリーングラスさんは今年1年振り返って見てどうでしたか?何を感じましたか?》
《そうだね~……。やっぱり、テンちゃんやボーイちゃんに勝てなかったのがすっごく悔しかったな~。アメリカジョッキークラブカップと日経賞をレコード勝ちしたのは嬉しいけど~、あの2人に勝てなかったのが本当に残念だった~》
《そうですねぇ、やはりグリーングラスさんと言えば!トウショウボーイさんとテンポイントさんとは切っても切れない関係ですからね!負けた悔しさも他の子たち以上ということでしょうか?》
《そうだね~。だから~》
一拍おいて、グラスの空気が一変したのをテレビの画面越しに感じた。
《有マ記念は私が絶対に差し切る。ファンのために、カイザーちゃんのために、トレーナーのために》
《……ッ!な、成程!では最後に、有マ記念への意気込みをお願いします!》
《まあ~今言った通りだよ~。私が2人を差しきっちゃうぞ~。みんな応援よろしくね~》
そう言ってグラスはカメラに向かってピースをしていた。先程の剣呑な雰囲気はすでに無くなっている。
ジョージがボクに話しかけてきた。
「グラス ぐわーっ 十分」
「やな。むっちゃ気合入っとるわ」
それだけ本気で挑んでくるということだろう。ボクは思わず身体が震えた。今すぐにでも走って競い合ってみたい衝動に駆られる。だが、まだ我慢だ。
そして、グラスの番が終わったので次の子へのインタビューが始まる。
《ではでは!次のウマ娘は推薦枠からの紹介です!まずは……》
そのまま順調にインタビューは進んでいった。
《……ありがとうございます、スピリットスワプスさん!それでは最後に!有マ記念への意気込みをどうぞ!》
《はい!前回は逃げ切れなかったけど、今回は絶対に逃げ切って勝っちゃうからね!TTがなんぼのもんじゃー!ファンのみんな応援よろしくねー!》
《はい!スピリットスワプスさんありがとうございました!》
「この子 覚えてる。去年 びゅー 来た子」
「あん時はジョージハナ取れんかったもんな」
「ぐぬぬ。あ 飲み物 ない とりいこ」
去年も逃げていたスピリットスワプスの番になるとジョージは悔しそうな表情を浮かべる。しかし、飲み物が無くなって取りに行ったと思ったら悔しい気持ちはどこにいったのか機嫌良さそうに帰ってきた。微笑ましく思いながらもボクはテレビを見る。ボクが大トリ、そして今は8人中6人のインタビューが終わった。ということは次は……。
《ではでは!皆さん気になっているでしょう!次のウマ娘はこの子!トウショウボーイちゃんです!》
《いえーい!テレビの前のみんな見てるかー?トウショウボーイだぜー!》
《今日も元気一杯ですね!それではトウショウボーイさん、ファン投票での選出おめでとうございます!ファンの方々に一言、どうぞ!》
《投票してくれたファンのみんなー!本当にありがとうなー!みんなの期待に応えられるように、有マ記念ぶっちぎってやるぜー!》
相変わらずのボーイらしいインタビューの答え方だ。思わず笑みがこぼれる。
《これまた元気一杯のトウショウボーイ節ありがとうございます!それでは、トウショウボーイさんは今年1年振り返って見てどう思いましたか?》
《そうだなぁ。春全休したのがやっぱ悔しかったなー。特に春の天皇賞!テンさんたちのレース見てたらもう走りたくて走りたくてウズウズしてたんだよ!だから夏では思いっきり走ってやったぜ!宝塚記念でちょっと色々あったけど……、まあ問題は解決したからいいかな!》
《おや?宝塚記念で何かあったのですか?ちょっと気になりますね~?》
《あ~……、これについてはちょっと言えねぇかな。ごめんな、ファンのみんな。でも、もう大丈夫だからさ。そこは安心してくれよな!》
《う~ん、ちょっと気になりますがあまり深堀りしないようにしましょう!ではでは、皆さん気になっているであろうこの質問!ズバリ!テンポイントさんをどう思っているか!?》
「なんちゅう質問やねん」
「でも みんな ワクワク」
ボクも同じような質問されたが、ボーイにも同じようなことが聞かれていたとは思わなかった。
《テンさん?そうだなぁ……。ライバルの中でも、特別なライバルだな!有マ記念を勝つんだったら最大の障害だと思ってる!》
《成程ぉ……。トウショウボーイさんにとってテンポイントさんは特別だと……》
《あぁ!》
やたら含みのある言い方をするインタビュアーである。というか、私情が入っていないだろうか?ボクは思わず訝しんだ。
そして最後に有マ記念への意気込みについてとなった。
《それでは最後にトウショウボーイさん!有マ記念への意気込みについて聞かせてください!》
《おう!秋の天皇賞では情けねぇ姿見せちまったけど、代わりに有マ記念では絶対に勝ってやるぜ!それにトゥインクルシリーズ最後のレースだからな!華々しく勝ってドリームトロフィーリーグに移籍してやるぜ!特にテンさん!テンさんにだけは絶対に負けねぇからな!オレがぶっちぎって勝ってやる!》
「ボーイの奴ボクがこの番組見てへんかったらどうするつもりやったんやろうな」
「ボーイ テン坊 バチバチ」
そんなことを思いながらついに番組は最後の子に入る。大トリであるボクだ。ジョージはテレビを食い入るように見ている。
《それではトウショウボーイさんでした!さてさて、名残惜しいですが次が最後の子になります。最後にインタビューするのは勿論この子!ファン投票1位で選出されたテンポイントちゃんです!》
《テレビの前のファンのみんな、いつも応援おおきにな。テンポイントや》
「きたー」
「落ち着きぃやジョージ」
興奮気味なジョージをボクは宥める。
《ファン投票1位での選出おめでとうございます、テンポイントさん!投票してくれたファンの方々に一言お願いします!》
《ファンの方々にはいつも力をもろうてます。有マ記念では、ファンの方々の期待を裏切らんように精一杯頑張ろう思うてます。やからみなさんこれからも応援よろしゅうお願いします》
そう言ってテレビのボクは笑顔を浮かべていた。インタビュアーの人はその笑顔を受けてのけ反っていた。そういえばこんなこともあったな、と思い出す。
《こ、これが噂の貴公子スマイル……ッ!危うくやられてしまうところでした……!で、では気を取り直して!今年1年を振り返ってどう感じていますか?》
《せやねぇ……。京都記念から始まりましたけど、春の天皇賞を含む3連勝は良かったんですけど、宝塚記念でトウショウボーイに負けたんはちょっとよろしくなかったと思うてます。あの宝塚記念での敗戦はホンマに悔しかったですね》
《成程……。宝塚記念での悔しさをバネに、京都大賞典では戦法を大きく変えて挑んだ、ということでしょうか?》
《そうですね。ボクのトレーナーが言うてくれたんです。お前にもっと合っとる戦法がある、って。やから、変えることにしました》
《しかし、戦法を変えることに不安もあったのではないでしょうか?》
《う~ん……あんまりなかったですね。トレーナーはボクができると信じてくれとりましたし。やから、ボクもできるって思うてました》
《トレーナーさんのことをかなり信頼しているんですね!》
《そうですね。トレーナーはいつもボクのことを信じとりますから。やからボクも彼のことを信頼しとります》
「ひゅー ひゅー」
「どしたんジョージ」
「何となく やらなきゃ 思った」
一体どうしたのだろうか?そう思っていると質問も残り数個というところまで来ていた。
《それでは!テンポイントさんに寄せられた質問の中でも特に多かった質問!トウショウボーイさんをどう思っていますか!?》
《絶対に負けられんライバル、ですね。有マ記念を優勝する上で最大の障害ですし、彼女にだけは特に負けたくない思うてます》
《お互いがお互いを特別と意識し合うライバル関係……ッ!とても素晴らしいですね!そうそうテンポイントさんと言えば、来年は海外のレースを視野に入れているという噂がありますが……。本当ですか?》
《あはは、噂ですよ、噂。やけど、アメリカのレースの招待状が来とったんは間違いないですね》
《うーん情報は引き出せませんでした!それでは最後に、有マ記念への意気込みをお願いします!》
《応援してくれとるファンの方々のためにも、絶対に勝とう思うてます。やからファンのみんなも、応援よろしゅうな!》
《さ、最後に敬語を崩した上での貴公子スマイル……ッ!やられ、ました……ガクッ》
《い、インタビュアーさん!?自分でガクなんて言うてどないしたんですか!?》
倒れたインタビュアーに心配するように駆け寄ったボクの場面を最後にCMに入った。どうやらこれで終わりらしい。
ジョージがぼそりと呟く。
「最後 放送事故 一番」
「なんでカットせんかったんやろうなぁ……」
「事故 見せたかった。でも テン坊 笑顔 ファン 兵器」
「ファンの人にとってボクの笑顔って兵器なんか?」
ジョージは首を縦に振った。一体全体どういうことなのだろうか?
特番を見終わったということで時間もいい時間になっていた。テレビを消してお互い寝る準備に入る。布団の中でボクは有マ記念を絶対に勝つと決意を新たにした。
ダートのウマ娘育ててないので私のチャンミは終わりました。