ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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有マ記念。前代未聞のマッチレース


第83話 マッチレース

《先頭は第2コーナーのカーブへ入りました!先頭はテンポイントとトウショウボーイこの2人だ!この2人が競り合っているぞ!ものすごい接戦だ!?お互いの身体がぶつかりそうなほどに併せているぞ激しい先頭争いだ!その後ろ3番手は前の2人を見るようにグリーングラスとスピリットスワプスだグリーングラスとスピリットスワプスが3番手!5番手にはプレストウコウ!》

 

 

《テンポイントが内から仕掛けてトウショウボーイを抜かす!しかし、抜かされたトウショウボーイが負けじと外からテンポイントを躱す!凄まじいマッチレースだ完全に2人の世界に入っている!他のウマ娘はそんな2人を遠くから眺めているだけだ!しかし、眺めているだけではない!虎視眈々と前を狙っているぞ!》

 

 

 

 

 中山レース場は驚きと戸惑いの声に包まれていた。それもそうだろう。テンポイントとトウショウボーイ、世代を代表するこの2人のマッチレースになることは誰もが予想していた。

 だが、レースはまだ序盤も序盤の第2コーナー。まだ半分も走っていない状況ですでに2人のマッチレースの様相を呈している。他のウマ娘を置き去りにして2人はガンガンペースを上げていっている。後のことなんて考えていないようなペースでだ。

 そんな時、俺の隣にいるハイセイコーがもう抑えきれないといった感じで大笑いしていた。そのまま俺に話しかけてくる。

 

 

「アハハ!神藤さん、これがあなたの思い描いていた展開かい!?成程、これは確かに面白い展開だ!今までいろんなレースを見てきたけど、こんなレースは見たことがないよ!」

 

 

「そりゃどうも。まあこんな序盤からの競り合いになるとはちょっと予想外だったが……」

 

 

 これは本音だ。テンポイントが前に立ったらトウショウボーイは引くかもしれない、そんな期待を抱いてはいた。現実は2人がマッチレースを展開しているのだが。

 だが、問題はない。俺はそう確信していた。

 そんな時、シンボリルドルフとおハナさんの会話が聞こえてきた。

 

 

「……理解できない。何故、トウショウボーイさんは引かないのですか?東条トレーナー」

 

 

「それはどういうことかしら?ルドルフ」

 

 

「単純明快、普通であればこの場面、後ろで控えるように走るのが定石です。わざわざ相手に付き合う必要はありません。テンポイントさんのスタミナが無くなるまで後ろで控え、脚を温存しておいた方がいいのではないでしょうか?」

 

 

「……そうね、ルドルフ。並のウマ娘相手なら、それが通用したでしょう」

 

 

 でもね、と一拍おいておハナさんが答える。

 

 

「相手は並のウマ娘ではない、少しでも後ろに下がったらそのまま逃げ切られてしまう。そう思わせるほどのウマ娘よ。だから、トウショウボーイの判断は間違っているとは一概に言えないわ」

 

 

「……成程」

 

 

 完全に納得はしていなさそうだったが、シンボリルドルフはそれ以上何も言わなかった。

 今度はクライムカイザーと沖野さんの会話が聞こえてくる。

 

 

「前のお2人はハイペースでレースを展開していますね」

 

 

「あぁ。そして、これが俺とグラスが待ち望んでいた展開だ。ハイペースで展開されたら後方で待機している方が有利。ペースが落ちてきたところを、グラスが差し切るチャンスは十分にある。後はグラスがどれだけ冷静でいられるか……だな」

 

 

 そんな会話をしていた。

 俺は両側で繰り広げられる会話、中山レース場の驚きと戸惑いの声を聞きながらレースを見ている。

 

 

(……作戦通りに運んでいるな。頑張れ……、テンポイント!)

 

 

 そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分なペースで飛ばすやんか!素直に引き下がった方がええんちゃうか!?」

 

 

「こっちの台詞だぜテンさん!ただでさえ細いんだから怪我する前に下がっちまえよ!」

 

 

「あァ!?なめとんちゃうぞ!お前こそ上体に比べてほっそい脚をやる前に大人しく下がれや!」

 

 

「んだとォ!?人が気にしてることを言いやがって!」

 

 

「なんや!?」

 

 

「なんだ!?」

 

 

 お互いに挑発しながらボクとボーイは第2コーナーを走っている。だが、そのペースはかなり速いと自分でも感じている。絶対に先頭を譲らない、その気持ちでボクが走っていた。引き下がらないということは向こうも同じ気持ちだろう。

 ボーイに対して挑発してはいるが、ボクの頭の中は冷静だった。

 

 

(ここまでは作戦通り……。問題なく進んどる……)

 

 

 全てトレーナーとの作戦通りに進めることができていた。控室での会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『テンポイント、今回の作戦は大まかに分けて2パターン用意してある。1つはスピリットスワプスが逃げた時のパターンだ』

 

 

 選手控室で作戦の打ち合わせをするボクとトレーナー。トレーナーはそう言った。ボクは大人しく聞いている。

 

 

『もしスピリットスワプスがハナを取って逃げるようだったら後ろで控えろ。先頭に立つんじゃなくて常に2番手、3番手の位置をキープするんだ』

 

 

『やな。スピリットスワプスなら十分躱し切れる。そうやろ?』

 

 

『そうだ。だからこそ無理に先頭に立つ必要はない。そしてもう一つのパターン。トウショウボーイがハナに立った場合だ』

 

 

『う~ん、明確な逃げウマ娘のスピリットスワプスがおるのにボーイは逃げるんやろうか?』

 

 

 ボクの疑問にトレーナーは断言に近い形で答える。

 

 

『正直言うと、俺はトウショウボーイが逃げる確率の方が高いと見ている。最内枠かつ宝塚記念のような少人数でのレース。ならば逃げを取る確率はかなり高い。スピリットスワプスがいるにしてもな』

 

 

『なるほどな。で?ボーイが先頭やった場合はどうするんや?』

 

 

 トレーナーは真面目な表情でボクに告げた。

 

 

『お前も先頭に立って競り合え。絶対にトウショウボーイにハナを取らせるな』

 

 

『……後ろで控えるっちゅうんは?』

 

 

『そうしたら、宝塚記念の二の舞だ。だからこそ、何が何でもトウショウボーイよりも前で走ることを意識しろ。トウショウボーイがそのまま引き下がるようなら先頭立って走る。仮に競り合いになっても問題はない。そのためのトレーニングは積んできたからな』

 

 

『やな。まあ一応の確認や』

 

 

 ボクはトレーナーの作戦で行くことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで考えたところで、ボクは思考を切り替える。レースは向こう正面に入ったところ。相変わらずボクとボーイが先頭で競り合っている。

 ボクが内から差したら、ボーイが外からボクを差し返す。ボーイが外から差し返したらボクがまた内から差し返す。そんなマッチレースを展開していた。

 ボーイがボクに告げる。

 

 

「いい加減諦めた方がいいんじゃねぇかテンさん!そろそろキツくなってきただろ!」

 

 

「ハン!お前は諦めの対義語がテンポイントっちゅうんを知らないんか!やったら勉強不足やでボーイ!」

 

 

「んなことよく分かってるよ!それがテンさんだからな!」

 

 

「褒めてくれてありがとさん!お礼に後ろ下がってもらおか!」

 

 

「それはできねぇ相談だな!テンさんにだけは絶対に負けたくないんでね!」

 

 

「奇遇やな!ボクもお前にだけは絶対に負けたないわ!」

 

 

 お互いにそんなことを口走り合いながら走る。スタミナが余分に削られそうだが、今のボク達にとってそんなことはお構いなしだ。

 ボクの体力にはまだ余裕がある。それは向こうも同じだろう。こうして挑発し合えるぐらいの余裕があるのだから。だが、じきにそれもなくなるだろう。レース後半になると口を開く暇があるのなら全リソースをスパートにかける必要があるのだから。

 ボクとボーイ、お互いに競り合いながら向こう正面の中ほどの位置に来る。最早他の子なんて関係ないと言わんばかりのペースで飛ばしてきたボクたちは一歩も譲らないままここまで来ていた。ボクの目にはボーイしか眼中にない。そう言っても過言ではないだろう。

 ボク達はハイペースを維持したまま、向こう正面を走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《さぁレースは向こう正面に入りました!しかし依然として先頭はトウショウボーイとテンポイントこの2人が競り合っています!もう他のウマ娘のことなど眼中にないかの如く飛ばしていきますトウショウボーイとテンポイント!》

 

 

《最後までこの2人が競り合う形になるのかどうか!しかしここで気になるのは共倒れの可能性です!あまり競り合いすぎますと控えているグリーングラスや他のウマ娘に漁夫の利を取られる可能性も十分に考えられます!》

 

 

《前の2人もそれは分かっているでしょう!……いや多分そんなことは考えていませんね!?さらにスピードを上げていきますテンポイントとトウショウボーイの激しい競り合い!一体どのような結末を迎えるのか!》

 

 

 

 

 向こう正面でテンポイントとトウショウボーイが激しく競り合っている。その様子に中山レース場の観客はまた悲鳴を上げていた。

 

 

「全然引き下がらねぇじゃねぇか!何考えてるんだ!?」

 

 

「いやでも……もしかしたらこのまま最後まで行くかもしれねぇぞ!?」

 

 

「何言ってんだ!あんなハイペースで飛ばして持つと思うのか!?」

 

 

 俺はその悲鳴を聞きながらレースを見ている。先程まで笑っていたハイセイコーが神妙な顔つきで俺に問いかける。

 

 

「さて、観客からは持たないだのなんだの言われているけど……。神藤さん的にはどう思っているんだい?」

 

 

「持つさ」

 

 

 俺は即答する。しかし、それに異論を挟んだのはクライムカイザーだった。

 

 

「……私は持たないと思います。ボーイさんもテンポイントさんもかなりのペースで飛ばしていることは火を見るよりも明らか。あのペースで走って、最後まで持つとは思えません」

 

 

 確かにそうだろう。普通であれば持たないと考える。だが、俺は確信を持って言える。

 

 

「テンポイントは持つさ。そのために、宝塚記念から有マ記念まで特訓を重ねてきた」

 

 

「それはトウショウボーイも同じよ」

 

 

 俺の言葉に同調するようにおハナさんが声を上げる。そのまま言葉を続けた。

 

 

「テンポイントが持つなら、トウショウボーイも持つわ。だからこそ、競り合いになっても走りを緩めないように指示したもの」

 

 

 やっぱり、競り合っているのはおハナさんの指示だったらしい。それほどまでにテンポイントが前を走ることを恐れているのか、あるいは……。

 俺たちの話に沖野さんが口を挟む。

 

 

「だが、この展開だったらグラスのが有利だ。アイツは今もテンポイントとトウショウボーイの後ろで機会を窺っている」

 

 

「そうだね。沖野トレーナーの言う通り、普通ならば持たないだろうね。グリーングラスが差し切る可能性の方が高い」

 

 

 沖野さんの言葉にハイセイコーが同調する。しかし、表情を見るに全くそうは思っていなさそうだ。あの2人は落ちない。そう思っているのかもしれない。

 キングスたちはテンポイントに必死に声援を送っている。

 

 

「頑張れー!お姉ー!」

 

 

「「「負けないでくださーい!テンポイント様ー!」」」

 

 

 シービークインはトウショウボーイに。

 

 

「トウショウボーイ様!ここが踏ん張りどころです!頑張ってください!」

 

 

 沖野さんが担当しているウマ娘たちはグリーングラスに。

 

 

「「「頑張れー!グラスせんぱーい!」」」

 

 

 その声援を聞きつつ、俺はレースの展開に少しの興奮を覚えながら見る。勝負は向こう正面中ほどに入っていた。

 

 

 

 

《残り1000mのところでテンポイントが抑えました!トウショウボーイがハナに立つ!しかしテンポイントがまたすぐに併せてきた!テンポイントが今度は外から併せます!トウショウボーイが内、テンポイントが外!先程までとは違う形で競り合います先頭2人!》

 

 

《両雄はまだ並んでおります!スタートから向こう正面中ほどを過ぎました今でもテンポイントとトウショウボーイこの2人が競り合っている!その後ろに控えるようにグリーングラスが1バ身から2バ身程の位置につけている!4番手はプレストウコウ3番手グリーングラスとは4バ身差!しかしじりじりと差を詰めていますプレストウコウ!5番手はスピリットスワプス6番手トウフクセダン7番手メグロモガミ!最後方は変わらずポツンとシンストーム!》

 

 

 

 

 俺は興奮しながらレースを見ている。するとテスコガビーの呟きが聞こえた。

 

 

「……最早、ここまでくると純粋な力勝負だな。どちらが先に力尽きるか、その勝負になるだろう」

 

 

「そうだね、ガビー。そして、それこそが……」

 

 

「俺が待ち望んでいた展開だ」

 

 

 俺はハイセイコーが言い終える前にそう答える。ハイセイコーは笑みを浮かべていた。俺もハイセイコー同様笑みを浮かべる。勝負は第3コーナーに入ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り1000m。それを確認すると、ボクは勝負に出た。一度下がり、ボーイを1バ身程押し出す。

 諦めたわけじゃない。それを証明するようにボクはボーイの外へと進路を取った。内からではなく外からボーイとまた競り合う。

 外に進路を取った理由は1つ。バ場の状態だ。

 

 

(第1と第2コーナーはそれほど荒れてなかった……。やけど、第4コーナーは荒れとった。それに、今走っとる向こう正面もそれほど良くない……。なら、第3コーナーも荒れとる可能性は十分にある……)

 

 

 そう結論づけたボクはボーイの外へと進路を取った。本来ならば、ボーイよりも前に立って走り、外に進路を取るのが理想だったのだが、バ場が荒れていると分かっていたのかボーイはボクを内に閉じ込めていた。先程から競り合っている理由の1つでもあるのだろう。

 このままだと不利を背負わされる。そう考えたボクは一度競り合いを止めて外へ進路を取るためにボーイを前に押し出した。少しの間差が開く。だが、すぐさまボクは外からボーイに併せる。今度はボクがボーイを内に閉じ込める形になった。

 ボクはより一層気合を入れる。

 

 

(京都大賞典……、東京オープンレース……!2つんレースで培ってきたもんを、ここでぶつける!クビでも、ハナ差でもいい!ボーイよりも前出るために!)

 

 

 勝負は第3コーナーへと入っていく。




お互いに一歩も退かない戦い
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