ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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勝負は第3コーナーへ


第84話 天を駆ける

《レースは第3コーナーへと入りました!第3コーナーでまたテンポイントが少し出る!テンポイントが先頭に立った!しかしトウショウボーイ負けじと差し返す!トウショウボーイも負けじと差し返す!3番手グリーングラスも迫ってきているぞその差は1バ身から2バ身!4番手グリーングラスの内にトウフクセダンが突っ込んできた!トウフクセダンが上がってくる!プレストウコウはその外5番手の位置だ!》

 

 

《先頭2人の競り合いはまだまだ続きます!第3コーナーの中ほどでまたトウショウボーイが先頭に立った!テンポイントが外から躱そうとしている!ハナは絶対に譲らない、そんな気迫が感じられますテンポイント!しかしそれはトウショウボーイも同じ!お前にだけはハナを取らせないと必死に粘っている!だが第4コーナーの手前テンポイントがまた外から躱した!》

 

 

《第4コーナーに入って3番手グリーングラスが縮めた差がまた開いた!先頭の2人とは3バ身差!4番手は外を回っているプレストウコウ5番手はトウフクセダン!》

 

 

《さぁ、さぁ、一騎打ちか!トウショウボーイがまたちょっと出ている!第4コーナーの終盤でトウショウボーイがまたちょっと出た!これは世紀のレースだ、世紀の一戦だ!トウショウボーイの外からテンポイントが躱したか!?躱してしまったのか!?テンポイント躱したか!?》

 

 

 

 

 最初から今の今まで2人のマッチレース。凄まじいハイペースで飛ばしていたテンポイントとトウショウボーイの2人を見て、観客はいつ共倒れになるか気が気でなかっただろう。だが、最早観客たちの頭の中には共倒れなどという言葉はなかった。誰もが声を振り絞って応援の声を飛ばしている。その声援は、中山レース場が揺れていると錯覚を起こすほどだった。熱狂の渦に包まれる中山レース場。その高まりは最高潮に達しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り1000mの標識を確認したあたりで、テンさんが不自然に下がったのをオレは見た。普通ならば力尽きたか?と思うような場面である。序盤からハイペースで飛ばし続けているのだ。力尽きていてもおかしくはない。

 だが、オレはそんなことは微塵も考えなかった。相手は普通のウマ娘ではないのだから。現に、一度内から姿を消したテンさんが第3コーナーに入ろうかというところでオレの外に姿を現した。オレは内心舌打ちをする。

 

 

(チッ!内に閉じ込めてるのがバレたか!)

 

 

 良バ場と発表はされてはいたものの、第4コーナーの内側のバ場はかなり荒れていた。それが分かっていたからこそオレは大きく外を回る進路を取ったのだ。そして、第4コーナーが荒れているということは第3コーナーも荒れている可能性が高い。そう考えたオレはテンさんを内に閉じ込めるように競り合った。

 だが、競り合っている本当の目的は別にある。内に閉じ込めるのはあくまで理由の1つでしかない。おハナさんとの作戦を思い出す。それはテンさんを絶対に先頭に立たせるなという指示。

 

 

(テンさんを逃げさせたらまずい……。特に、最後の直線でハナを取られたら本気でヤバい!)

 

 

 テンさんのしつこさは天下一品だ。それこそ、世界一と言っても過言ではないだろう。一度でもハナを取らせたらそのまま逃げ切れる。それだけの芸当ができるのがテンさんだ。

 そもそも、世間ではテンポイントはトウショウボーイに勝てないだのなんだのと言っているが、当事者からしたら何を言っているんだ、と言いたくなる。

 確かに、クラシックの内皐月とダービーはオレの圧勝だっただろう。だが、皐月賞はそもそもテンさんが調子落ちしているのが原因だし、ダービーはレース中に落鉄していたのだから参考にならない。

 前回の有マ記念や宝塚記念では確かに勝った。だが、そのどちらもがギリギリの勝利だった。特に宝塚記念は後もう少し距離が長ければ負けていたのはオレだっただろう。レースにたらればを語っても仕方ないのだが。

 今度はオレが内、テンさんが外で競り合う形になる。第3コーナーの中ほどでテンさんが外から躱す。オレは負けじと差し返すようにペースを上げる。最早挑発し合うような余裕はない。オレはペースを上げて走る。

 

 

(本当に不思議だよ……ッ!今この瞬間、このレースだけはテンさんに負けたくねぇ!)

 

 

 絶対に負けたくない。その気持ちが占めている。トゥインクルシリーズを引退するから?それは何か違う気がした。とにかく、絶対に負けたくない。その気持ちがオレを突き動かす。向こうも同じかもしれない。じゃなければ、今もこうやって競り合わないはずだ。

 第4コーナーのカーブに入って、もう少しで最後の直線に入ろうかというところ。オレは内からテンさんを差し返した。テンさんが外から躱そうと来る。オレは躱させまいと粘る。このレースが始まった時からそれは変わらない。お互いに一歩も退かない勝負。

 勝負は最後の直線に入る。テンさんとほぼ同時に入った。そして、最後の直線で向こうがわずかに先頭に立つ。その差が少し開いた。

 ……まだだ!まだオレは負けていない!確かに最後の直線で向こうが先頭に立ったかもしれない。一番避けたかった事なのは確かだ。だが、だからと言ってまだオレが負けたわけじゃない!

 

 

(絶対に負けられない……ッ!)

 

 

 おハナさんやチームのみんなのためにも……ッ!

 

 

『勝ってきなさい、トウショウボーイ』

 

 

 出走できなかったマルのためにも……ッ!

 

 

『あたしの分までパーペキな走り、頼んだわよ!』

 

 

 オレの勝利を信じているクインのためにも!

 

 

『私は、トウショウボーイ様が勝利することを信じております』

 

 

 絶対に負けられない!だから、オレの前を……ッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第3コーナーに入ったところでまたボクが先頭に立つ。しかし、内からボーイが差し返してくる。もう何度目か分からないハナの取り合い。けれど、譲るわけにはいかない。勝つためには、絶対に譲るわけにはいかない。

 もうお互い挑発し合うような体力はなかった。序盤の挑発合戦から一転してただただお互いを競り落とそうと走り続ける。第3コーナーの中ほどでまたボーイにハナを取られる。

 

 

(ホンマに……ッ!とんでもないやつやな!お前は!)

 

 

 だが、ボクだって負けるわけにはいかない。

 絶対に負けられない。ボーイがトゥインクルシリーズを引退するから?ボクがこのレースの後海外遠征を予定しているから?いや、そのどちらでもない気がした。今この瞬間、このレースだけは絶対に負けたくない。向こうも同じ気持ちだろう。ここまで競り合っているのが何よりの証拠だ。

 外からボーイを躱そうとペースを上げる。

 

 

(最後の直線で向こうが先頭やったら宝塚記念の二の舞や!それだけは絶対に避けなアカン!)

 

 

 なんとしてでも、ボーイよりも前に出る。その一心で脚を動かしている。

 世間から見たら、ボクとボーイはとてもライバルとは思えない戦績をしているだろう。総合戦績ならば見劣りしないが、対ボーイに対するボクの勝利数は1勝のみ。向こうは4勝もしている。様々な外的要因があったとはいえ負けは負け。甘んじて受け入れるしかない。

 特に、宝塚記念で格付けは済んだと言ってもいい。調子落ちのボーイに惜敗。ボクはボーイに一生勝てないという烙印を押された。前回の有マ記念での敗北で世間はボクを〈悲運の貴公子〉なんて呼ぶようになった。

 それが積み重なってか、ボクは一度折れてしまった。宝塚記念で、一番の取り柄である負けん気すら起きなくなるほどに。そして思ってしまったのだ。ボクはもうボーイに勝てないのだと。

 そんなボクが立ち直れたのは、間違いなくトレーナーの存在が大きい。トレーナーはいつだってボクを信じてくれていた。どんなに負けてもトレーナーはボクを信じてくれていた。そして、その度にボクを励ますのだ。

 ボクは最強のウマ娘だと。

 思えば、スカウトされた時から何も変わらずにそう言ってきてくれた。最初は冗談だと思っていた。クラシックで負けが続いた時はボクを励ますためだと思っていた。シニアでも言い続けている時は、さすがに呆れた。けれど、今は自信を持って言える。

 トレーナーの言葉に嘘偽りはない。ボクこそが最強のウマ娘だと信じているのだと。そして、ボクはトレーナーのその言葉を信じている!だからこそ。

 

 

(ここで負けるわけには……ッ!いかんよなぁ!)

 

 

 そう決意を固めてボクは第4コーナーでもう一度ハナを奪う。ボーイが負けじと内から上がってくる。内側の荒れたバ場を嫌ってか、かなり外に回してきた。ボクもボーイと競り合うようにして第4コーナーを回る。

 第4コーナーの終盤で、またボーイにハナを奪われる。ボクも負けじとボーイと競り合う。お互いに一歩も譲らない戦い。

 勝負は最後の直線に入る。ボクとボーイほぼ同時に入った。だが、わずかにボクが外から躱す。最後の直線を、ボクはハナを取って進む。その差が少し開いた。

 ……いや、まだここからだ。ハナを取ったからと油断はできない。ボーイは死に物狂いで差し返してくるはずだ。だからこそ、最後の最後まで油断はしない。

 そもそも、まだ最後の直線でハナに立っただけだ!勝ったわけじゃない!確かにボクに有利ではある。だが、有利イコール勝ちとはならない!死に物狂いで脚を動かせ!ゴールするその瞬間まで絶対に足を止めるな!

 

 

(絶対に負けられへん……ッ!)

 

 

 キングスやお母様が信じてくれた……ッ!

 

 

『お姉の強さを信じてるし!』

 

 

 ジョージが応援してくれている……ッ!

 

 

『頑張れ テン坊。テン坊 大丈夫』

 

 

 何よりも、トレーナーが信じている……ッ!

 

 

『お前は、俺が信じる最強のウマ娘だ!』

 

 

 絶対に負けられない!だから……ッ!

 

 

「お前はァ!ボクの影でも踏んでろやァァァァァァァァァァ!」

 

 

「オレの前を……!走ってんじゃ……、ねェェェェェェェェェェ!」

 

 

 同時にボク達は叫んだ。

 意地と意地がぶつかり合う。勝負は、残り200m。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんだこれは?一体、何が起きているんだ?

 レースが始まった時、私は理想通りの展開に進んでいると思っていた。前2人、ボーイちゃんとテンちゃんがお互いがお互いを競り落とそうと躍起になっている。まるで、秋の天皇賞での私とボーイちゃんみたいに。

 それを見て好機だと思った。かなりのペースで飛ばしているのだ。私が差し切れるチャンスは十分にある。しかし、だからと言ってあまり後ろで控えると今度は追いつくことができない。だから私は、ずっと3番手の位置をキープしていた。

 

 

(それにしても~お互いのことしか目に入ってないみたいだね~。他の子なんてお構いなし……ってとこかな~?)

 

 

 そのことに少し苛立ちを覚えたが、チャンスなことに変わりはない。私は変わらず3番手の位置をキープする。

 正直、ついていくのも結構キツいがついていけないことはない。私は差し切るチャンスを虎視眈々を狙う。

 向こう正面を越えて第3コーナーに入ろうかというところ。テンちゃんは内から抜くことを諦めて、一度下がった。しかし、下がったと思ったらすぐさまボーイちゃんの外を躱すようにペースを上げる。それを見て、私も少しペースを上げてテンちゃんたちを追従する。この時、私は内側のバ場を通っていこうかと思ったが……。

 

 

(う~ん、1周目の第4コーナーでも思ったけど~かなり悪いね~。さすがにここを通るのは勘弁かな~)

 

 

 私は荒れたバ場でもそれなりに走ることはできるが、あくまでそれなりだ。好んで走ろうとはあまり思わない。そして、これだけ荒れているのが分かってか、内を走るボーイちゃんも外をめいいっぱい回していた。

 ペースを上げた私は2人の1バ身程後ろの位置につける。この位置なら、

 

 

(嫌でも意識するしかないよね~?さぁ、隙を見せてもらおうか~!)

 

 

そう思った。そして、隙を見せたところで差し切る。順調に事は進んでいた。はずだった。

 ……だが、あの2人は私のことを全く意識していなかった。レース開始の時から変わらない。お互いのことしか眼中にない。そう言わんばかりにガンガンペースを上げていく。一体、どこにそんな体力があるのかとばかりに。

 そんな2人に湧いてきたのは、怒りという感情だった。

 ……上等だ、だったら、後悔させてやる。

 

 

(私を無視したこと……!絶対に後悔させてやる!)

 

 

 沖野トレーナーのためにも……ッ!

 

 

『お前の力はトウショウボーイにもテンポイントにも劣っていねぇ。俺が断言する。だから、TTが勝つと思っている観客の度肝を抜いてやれ!』

 

 

 カイザーちゃんのためにも……ッ!

 

 

『頑張ってください、グラスさん。応援しています』

 

 

 私自身のためにも!

 

 

「私をォ……ッ!無視するなァァァァァァァァァァ!」

 

 

 私はそう叫んで、先頭を走る2人に肉迫する。

 距離は、残り200m。




決着の時が近づく。
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