ウマ娘プリティーダービー~流星が描く軌跡~   作:カニ漁船

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決着、その後


第86話 流星の貴公子

 12月の夕日に照らされる中山レース場。今もなお熱狂の渦に包まれているその場所で、1つのレースの決着がついた。勝者は、誰よりも早くゴール板を駆け抜けたウマ娘は、夕日に照らされて黄金色に輝く髪を靡かせている。喜びを噛みしめているのか、はたまた喜ぶ体力すら最早残されていないのか、顔は下を向いていた。

 実況の人たちが、興奮冷めやらぬといった様子で実況する。

 

 

 

 

《……~ッ!決ッ着!勝ったのはテンポイント!勝ったのはテンポイントだテンポイント1着!トウショウボーイは2着!3着はグリーングラス!テンポイントが力で!トウショウボーイを!そしてグリーングラスを!力でねじ伏せました!テンポイント1着ゥゥゥゥゥッ!》

 

 

《テンポイントが1着だ!テンポイント1着!中山の直線を、中山の直線を流星が走りました!有マ記念を勝ったのは<貴公子>テンポイント、……いえ!<流星の貴公子>テンポイントです!<流星の貴公子>テンポイントが中山の直線を駆け抜けました!しかし、さすがにトウショウボーイも強かった!》

 

 

《2着トウショウボーイはテンポイントの3/4バ身!3着グリーングラスは2着トウショウボーイの1/2バ身!そして4着のプレストウコウは3着グリーングラスから遅れること6バ身!》

 

 

 

 

 大歓声と拍手が鳴り響く中山レース場。その興奮が冷める様子はなかった。

 その歓声を聞きながら、俺はターフへと視線を送っていた。テンポイントは最早動く気力すら湧かないのか、ターフの上から動かない。それは、トウショウボーイも同じだった。やがて、テンポイントが先にターフに寝転んだかと思うと、少ししてからトウショウボーイも同じように寝転んだ。その光景を見て、俺は一瞬何かあったのかと思い心臓が跳ね上がったが、どうやら問題はなさそうだ。安堵する。

 周りにいるメンバーはそれぞれ思い思いの言葉を口にしていた。テンポイントが勝ったことに喜び泣くキングスたち。グリーングラスを心配するように呟く沖野さん。少し悔しさをにじませて、しかし満足そうに表情を崩すおハナさん。様々だった。

 ハイセイコーが俺に話しかけてくる。

 

 

「神藤さん。強いね、テンポイントは」

 

 

 その言葉に、俺は笑みを浮かべて答える。

 

 

「当たり前だろ?俺が信じる、最強のウマ娘だからな!」

 

 

 ハイセイコーの言葉に、俺はそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一番最初にゴール板を駆け抜けたボクは、勝利したことを喜ぶようにガッツポーズやらなにやら取ろうと思った。

 しかし、身体が思うように動かない。もう限界だったのだろう。立っているのもやっとだ。ガッツポーズなんてできるはずもない。ふと横を見る。ボーイがいる。逆の方を見る。そこにはグラスがいた。全然気づいていなかった。心の中で思う。

 

 

(あぁ……怖いレースしとったんやな、ボク)

 

 

 少しだけ、冷汗をかいた。ただ、ボクは勝つことができた。今はそれを喜ぼう。

 少しずつ減速して、やがて立ち止まる。膝に手をついて、荒々しく呼吸をする。

 だが、最早立っていることにすら疲れたボクは、お構いなしにターフに寝転ぶことにした。すでに他のみんなもゴールしている。だから寝転んだところで問題ないだろう。ターフに倒れ込む。

 12月の冷たい風がレース場に吹く。少し寒さを感じる。けど、今のボクにはそれが気持ちよく感じた。

 そんな時、ボクの近くに誰かが倒れ込む音がした。音がした方を向く。そこには、ボーイがボクと同じようにターフに倒れ込んでいた。その表情は、どこか満足げだった。

 ボーイがボクに話しかけてくる。

 

 

「チッッッックショー!負けた!完ッ全!完ッ璧に!負けたー!」

 

 

「うっっっっさ!こんな近くで叫ぶなや!」

 

 

 話しかけてくる、なんて生易しいものじゃなかった。ボーイがそう叫ぶ。ボクは驚きから思わず飛びのきそうになった。しかし、動く体力もないので実際には寝転んだ場所から動いていない。

 そのままボーイが謝ってきた。

 

 

「わりぃわりぃ!でもさ、そんだけ悔しかったってことで勘弁してくれよテンさん!」

 

 

「そうかそうか、やったら勘弁したる……なんていうと思っとるんか!」

 

 

「わ、悪かったって!」

 

 

「……ま、ええわ。今のボクは気分がええからな。こんまま少し話そうや、ボーイ」

 

 

「……あぁ、いいぜ」

 

 

 ボクはそう言って、ボーイとの会話を始めることにした。

 

 

「ホンマに、疲れたわこんレースは……。過去最高に疲れた言うても過言やないで」

 

 

「ホントだよ。テンさん全然譲らねぇんだもん。だからオレも競り合い続けたよ。それが最初から最後までだぜ?しんどいなんてもんじゃねぇよ」

 

 

「こっちの台詞や。しんどいし、疲れるし、明日絶対筋肉痛やろ。こんなん」

 

 

「ははっ、ちがいねぇな。けど、今までのどんな負けよりも悔しいなぁ、今日の負けは」

 

 

「ふん。言うたやろ?今までの負け利子つけて返したるって」

 

 

「ホントに利子つけて返されるとはなぁ……。やっべぇ、また叫びそう」

 

 

「ホンマに止めろ。せめてボクが近くにおらん時に叫んでくれ」

 

 

「冗談冗談。さすがにもう叫ばねぇよ。だけど……」

 

 

「あぁ……そうやなぁ……」

 

 

 お互い、思っていることは一緒だったのだろう。お互い、口を揃えて告げる。

 

 

「「スッゲェ楽しかった!」」

 

 

 言葉どころか、声のタイミングも揃った。そのことがどこかおかしくて、ボクとボーイは笑いあう。身体が少し痛んだが、そんなことはお構いなしに2人で笑いあった。

 そうして2人で笑っている時、ふとボク達を覗き込むように1人のウマ娘が立っていた。すぐに分かった。グラスだ。

 グラスはボク達に話しかける。

 

 

「いやいや~お2人とも楽しそうで~。あんなに走った後なのにね~」

 

 

「グラス!グラスも一緒に寝転ばねぇか?結構気持ちいいぜ!芝の上で寝転ぶの!」

 

 

「いや~遠慮しておくよ~。私の場合そのまま寝ちゃいそうだからね~」

 

 

「それはないやろ」

 

 

 お互いに冗談を言い合う。するとグラスが少し悔しさをにじませながら言ってきた。

 

 

「……それにしても~、後もうちょっとだったんだけどな~。後もうちょっと、追いつけなかったな~」

 

 

「え?後もうちょっと?」

 

 

 ボーイがそう返すと、グラスは露骨に残念そうな表情をした。

 

 

「えぇ~?ボーイちゃん気づいてなかったの~?私すぐ隣にいたよ~?」

 

 

「……マジ?」

 

 

「マジやで」

 

 

「……ボーイちゃん、気づいてなかったんだね~?」

 

 

「……全ッ然気づかなかった」

 

 

 それを聞いたグラスは泣き始めた。すごくわざとらしく。

 

 

「オヨヨ~。私は悲しいよ~。ボーイちゃんにはテンちゃんしか映ってなかったんだね~。オヨヨ~」

 

 

「わ、悪かったよ!でも、そんだけ必死だったんだって!」

 

 

「おぉよしよし、可哀想にな~?グラス~」

 

 

 ボクはグラスを慰めるように何とか立ち上がって励ますように頭を撫でた。グラスは膝をついていたので撫でやすい位置に頭がある。

 ……ぶっちゃけボクもゴールするまでグラスが来ていたことに全然気づいていなかったことは黙っておこう。

 しかし、グラスは嘘泣きを止めてスクっと立ち上がる。そしてボク達に告げる。

 

 

「それじゃあ、そろそろライブの準備しなくちゃだから~。私はそろそろ行くね~?」

 

 

「マジか。じゃあオレも行かねぇとな!」

 

 

 そう言ってボーイも立ち上がる。何とか立ち上がった、といった様子だった。

 

 

「それじゃあテンさん!またライブでな!」

 

 

「じゃ~ね~」

 

 

「あぁ、またライブでやな。2人とも」

 

 

 ボクは手を振って2人と別れた。去り際、グラスは悔しそうな表情を滲ませていた。ただ、何も言わない。勝ったボクが何かを言ったところで、意味はない。そう思ったから。

 ボクはこの後はウィナーズサークルに向かう必要がある。記者の人たちのインタビューに答えなければならないことに少し憂鬱になる。ボクの中にある記者の人たちにある苦手意識はなくなっていない。

 だが、それよりもボクにはやるべきことがあるのを思い出した。体力も軽く動く分には問題ないほどに回復した。ボクは目当ての人物を探す。いつもゴール前の最前列に陣取っているのだ。どこにいるかなんてすぐに分かる。それに、あの時に聞こえた声の地点から大体の位置は予測できている。その声が聞こえた地点に向かいながら、ボクは観客席を見渡す。

 案の定、すぐに見つかった。ボクのトレーナーが立っている。トレーナーだけではない。ハイセイコー先輩たちに沖野さん、カイザー、キングスたちも同じ場所にいた。

 ボクはまっすぐにトレーナーを見据える。トレーナーも、ボクをまっすぐに見ていた。お互いの間に沈黙が訪れる。

 そして、ボクは沈黙を破るようにとびっきりの笑顔でトレーナーにピースサインをする。言葉はいらない。ただボクは、トレーナーに向かって笑顔でピースサインをした。

 それを受けてトレーナーは、笑顔でサムズアップをする。ボクと同じように、とびっきりの笑顔で。

 言葉は交わさずとも、お互いの言いたいことは分かっている。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、ボクとトレーナーは合流してウィナーズサークルへと向かう。そして、記者の人たちのインタビューに答えていた。

 

 

「神藤さん、テンポイントさん!まずは有マ記念優勝おめでとうございます!これで日本一ですね!」

 

 

「ありがとうございます」「おおきにです」

 

 

「宿敵であるトウショウボーイに雪辱を果たしました!今のお気持ちをお聞かせください!」

 

 

「せやね……。ようやっと、借りを返せたってとこですかね。やけど、まだまだ負け越しとるんで負け越しとる分はドリームトロフィーリーグで取り返したいと思うてます」

 

 

「神藤さん!今回のレースはどういった作戦だったのでしょうか!?是非お聞かせください!」

 

 

「今回は宝塚記念での経験から、トウショウボーイが逃げると思っていました。だから、もしトウショウボーイが逃げるようであれば競り合え、絶対にハナを取らせるな……と。そうテンポイントに指示しました。それが結果として、あのようなレースに繋がったんだと思います」

 

 

「どんな気持ちでレースを見ていましたか!」

 

 

「そうですね……。やっぱりトウショウボーイも強いですから、先が見えない展開にハラハラしていましたよ。恥ずかしながら、最後の直線では思わず身を乗り出してテンポイントの応援をしていましたね」

 

 

「なんや?ボクが勝つて信じてなかったんか?」

 

 

「何言ってんだ。お前が勝つって信じてたに決まってんだろ」

 

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんと分かっとるって。それに、ちゃんと聞こえ取ったで?トレーナーの『頑張れぇぇぇぇぇ!テンポイントォォォォォ!』って声」

 

 

「マジかよ。ちょっと恥ずかしいな」

 

 

「恥ずかしがる必要ないで?あの声援のおかげで、ボクは元気貰えたからな!」

 

 

「お2人は仲が良いんですね!」

 

 

 記者の人はそう言った。ただ、話が横道に逸れてしまったので軌道修正する。

 

 

「それでは今話題となっていることですが……。テンポイントさんは年明け海外挑戦をする予定だとか!?真相をお聞かせください!」

 

 

 記者のその質問にトレーナーが答える。

 

 

「正直、噂の出所が気になるところではあるんですが……、年明けに海外挑戦する予定というのは事実ですね。テンポイントなら向こうのバ場でも問題なく走れる、そう思っていますので」

 

 

「おぉ~!一体いつ頃から意識しだしたのですか!?」

 

 

「漠然とした意識自体は前々あったのですが、最終的な判断は今日の走りを見て決めました。宝塚記念が終わった後にアメリカのレースの招待状は来ていたのですが、まだトウショウボーイに負けたままなのでこのまま海外に渡るわけにはいかない……。なので、海外挑戦するにしてもトウショウボーイと決着をつけてから、とテンポイントと意見が一致しました」

 

 

「海外ではどのレースに挑戦する予定ですか!?」

 

 

「有名どころには出走するつもりです。ひとまずはイギリスのキングジョージとフランスの凱旋門賞が大目標ですね」

 

 

「テンポイントさんが海外遠征する場合、神藤さんはどうなさるおつもりですか?やはり向こうのトレーナーに……」

 

 

「何言うとるんや。ついてくるに決まっとるやろ」

 

 

「……らしいです。なので私も海外研修という形でテンポイントと一緒に向こうに渡る予定です」

 

 

「そ、そうですか」

 

 

 ボクの態度に、記者の人は思わず気圧されていた。トレーナーは少しだけ呆れた表情をしている。だが、これだけは宣言しておかなければならない。ボクはそう思った。

 そこからは細々とした質問が続いていき、最後に記念の写真を撮ることになった。有マ記念の優勝レイが渡される。

 本来ならば、ボクだけが首にかけるのだがここでボクがいい案が浮かんだ。トレーナーに話しかける。

 

 

「なぁトレーナー。ちょっとええか?」

 

 

「どうしたんだ?テンポイント」

 

 

「ちょい屈んでくれへん?ボクとおんなじ高さまで」

 

 

「まあいいが……。こんな感じか?」

 

 

 そう言って、ボクの言葉通りにトレーナーは屈んだ。ボクと同じぐらいの高さになる。ボクは屈んだトレーナーの首も巻き込むように、自分の首とトレーナーの首に有マ記念の優勝レイをかける。

 

 

「えい!」

 

 

「わ!?お前、何するんだ!?」

 

 

 トレーナーが驚いたようにそう言った。ボクは笑顔でトレーナーに告げる。

 

 

「決まっとるやろ?こん優勝レイは、ボクとキミ、2人で勝ち取ったもんや。やから、ボクとキミの首にかけんとな!」

 

 

「……全く。分かったよ。すいません、これでお願いできますか?」

 

 

 トレーナーの言葉に記者の人は笑顔で答える。

 

 

「勿論です!それではお2人とも、とびっきりの笑顔でお願いします!」

 

 

 記者の人の言葉にボクは心からの笑顔で応える。きっとトレーナーも同じだろう。眩しい笑顔だった。

 写真を撮り終わって、ウイニングライブの準備をするために控室へと戻る。トレーナーとは途中で別れた。準備を済ませて、ウイニングライブの会場へと向かう。ライブは今までのライブの中でも一番の盛り上がりだった。ボクの気持ちも昂っていく。

 ライブも終わり、予約してあったホテルに泊まる。さすがにもう寮の門限は過ぎていた。あらかじめ外泊届を出しているので問題ないが。

 シャワーを浴びて、お風呂に入る。風呂上りにはいつものように牛乳を飲んで、トレーナーのマッサージを受けて自分の部屋に戻る。ボクはすぐさま眠りについた。その日は熟睡だった。

 こうしてボクの、有マ記念が終わったのだった。




激闘、終戦。
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