死闘を繰り広げた有マ記念が明けて次の日、ボクは学園に登校していた。すでに教室について自分の机に座っている。
ただいつもと違って、ボクは机に突っ伏していた。そしてそれは、ボクと同じぐらいに登校してきたボーイも同じである。ボクの隣である自分の席で机に突っ伏していた。
その状態のまま、ボーイはボクに話しかけてくる。
「……なぁ、テンさん」
「……なんや?ボーイ」
「……今年もさ、去年みたいにクリスマスパーティ考えてるんだけどテンさんも参加しねぇか?」
「……ええなぁ。去年も楽しかったし、今年も参加させてもらうで」
「……よっしゃー」
ボーイは嬉しそうな言葉を上げるが、声に全然覇気がない。というかこの会話中、ボクとボーイどちらもテンション低めの声で会話していた。
クラスの子たちはボク達のその様子を遠巻きに眺めているだけだ。誰も話しかけてこようとしない。どちらかといえば、その方が嬉しいのだが。
そんな時、誰かがボク達に話しかけに来た。聞き覚えのある声がする。
「あの……ボーイさんもテンポイントさんも何してるんですか?」
カイザーだ。その声はボク達を心配するものだった。まあ2人して机に突っ伏して会話をしているのだから傍から見たら何しているんだと聞きたくなる状況なのは分かっている。
カイザーの言葉にボーイが答える。
「あー……、大丈夫大丈夫、問題ねぇよ」
「いえ、とても問題がないような姿には見えないんですけど……」
ボーイが覇気のない声でそう答えると、カイザーから至極真っ当なツッコミを貰っていた。しかし、言い返す気力がないのかボーイはそれ以上何も言わなかった。
と、思ったらボーイがカイザーに話しかける。
「そうだ。カイザーもクリスマスパーティに参加しねぇか?去年みたいなさ」
「クリスマスパーティですか?それは勿論大丈夫ですけど……」
「やったーこれで2人目確保ー」
「後はグラスとクインやなー」
「そうだなー」
「本当にどうしたんですかお2人とも!?いつものお2人と全然違うんですけど!?」
耐えきれなくなったカイザーがボク達2人にそう言った。
すると突然グラスの声が聞こえた。いつの間に登校してきたのだろうか。
「まあ~、有マ記念であんだけ走ったんだから~、疲れてても仕方ないんじゃな~い?」
「あーグラスだー」
「ホンマやー。グラスやなー」
ボク達はグラスの言葉にそう返す。しかし、返ってきたのは、
「いいこと思いついた~。カイザーちゃ~ん……」
「なんでしょうか?……えぇっ?大丈夫ですかそんなことして?」
「大丈夫大丈夫~」
そんな言葉だった。後ろの言葉は小さすぎて聞き取れなかった。2人して何をするつもりなのだろうか?
そう疑問に思っていると、先程までボク達の前に立っていたグラスたちの気配がそれぞれボク達の後ろに移動する。そして……。
「わ~」
「わ、わー!」
そう言いながら、ボク達の身体に触れた。いきなりの行動に少し驚いてボクとボーイも突っ伏していた状態から立ち上がる。その瞬間、
「「痛ッッッッたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」
凄まじい痛みがボク達を襲った。その痛みからボクとボーイが思わず叫ぶ。クラスメイト達が何事かとこちらの方を見ていた。グラスは楽しそうに、カイザーはいきなり叫び声をあげたボク達にビックリしている。
……そう、朝からテンション低くボーイと会話していたのはこれが原因だ。有マ記念での走りの代償か、ボクには朝から筋肉痛が襲ってきた。しかも結構洒落にならないレベルで痛いほどの。お風呂上りにトレーナーからのマッサージを受けて疲労も少しは回復していたと思っていたのだが、あれだけの走りだったのだ。さすがに回復し切れるはずもなく、朝から筋肉痛に苦しむことになった。トレーナーに送ってもらい、痛む身体を引きずりながらなんとか学園には登校できたものの、クラスに着いた瞬間ボクは自分の席で机に突っ伏すことにした。いつも朝に読んでいる新聞を読もうとも思わなかった。買ってきてはいるが。
そして、筋肉痛だったのはボクだけじゃないようで、ボクとずっと競り合っていたボーイも同じだったらしい。ボクの少し後にクラスに着いたのだが、ボクと同じようにすぐに机に突っ伏していた。
その後はお互いに痛む身体を刺激しないようにそのままの体勢で会話をしていた……というわけだ。そこにカイザーが来て、先程グラスが来たということである。
ボクとボーイはグラスに抗議する。
「何してくれんだグラス!」
「そうや!気づいてんやったらやめろや!」
ボク達の言葉にグラスもさすがに悪いと思ったのか謝ってきた。
「ごめんごめ~ん。さすがにそこまで痛いとは思ってなかったからさ~」
「す、すいませんすいません!」
なぜかカイザーも謝ってきたが。カイザーはグラスに乗せられただけなので悪くはない。だから気にしないでくれと告げる。
しばらくして痛みが引いてきたのか、ボーイが座りなおしてグラスに質問する。
「……で、グラス。去年みたいにまたクリスマスパーティする予定なんだけどさ、グラスも参加しねぇか?」
「もちろ~ん。参加させてもらうよ~。去年も楽しかったからね~」
「よし!これで後はクインも参加すれば去年のメンバーは揃うな!」
「他の人は誘う予定なんですか?」
気になったのかカイザーがそう質問する。
「う~ん。一応声を掛ける予定ではあるけど、去年みたいに断られるかなーって思ってる。ハイセイコー先輩とか生徒会の人たちは忙しいかもしれないしさ」
「やろうなぁ。先輩たち去年も忙しそうやったし」
ボーイの言葉にボクも同意する。マルはこれるかもしれないが、ハイセイコー先輩たちは厳しいだろう。
その後は詳しい日程を決めたところで、朝のホームルームの時間になる。それぞれ自分の席に着いて先生が到着するのを待つ。待っている間も、微妙に筋肉痛の痛みが襲ってきていた。
「……と、いうわけや。トレーナーも参加するやろ?」
「なんで決定事項みたいに言うのかは分からんが、まあ参加させてもらうよ」
その後は授業も終わって放課後。ボクはトレーナー室に来ている。練習も何もないが、クリスマスパーティの参加の可否を聞くために訪れていた。あの後ボーイはクインとマルに参加の可否を聞いたらしい。2人とも参加するとのことだった。
どうやらトレーナーは参加してくれるらしい。ボクは内心ガッツポーズした。トレーナーの料理は美味しいし、去年のクリスマスパーティの飾りつけも見事なものだった。だからこそ、今年もどのような光景を見せてくれるのか今から少し楽しみである。
そんなことを考えている時、トレーナーが心配するようにボクに話しかけてくる。
「それよりもテンポイント。お前身体は大丈夫か?朝すごいしんどそうだったが」
「あ~。何とか痛みは少しだけ引いてきた……ってとこやな。まだ痛いけど」
「そうか……。まあ今日はあまり無理しないで早めに身体を休めておけ。そのために反省会も後日に回したことだしな」
「りょうか~い」
その後はしばらく寛いで遅くならないうちに寮に戻ってきた。寮の自分の部屋へと入る。ジョージはまだ帰ってきていないらしい。姿が見えなかった。
鞄を置いて、自分のベッドに腰掛ける。トレーナーに言われて早めに帰ってきたのはいいのだが、やることは何もない。横になろうにも制服をしわにするわけにもいかない。
「しゃあない。勉強でもしたるか」
そう思い、ベットから立ち上がって机に移動する。だが、
「うぐぐ。また痛むなぁ。こん状態で勉強するわけにはいかんか……」
まだ筋肉痛が収まらなかった。仕方ないのでまたベッドに腰掛ける。そういえば今日購入した新聞をまだ読んでいなかったのでボクは鞄から新聞を引っ張り出して読むことにした。
新聞の一面には、有マ記念の記事だった。写真はゴールする瞬間のボク達の写真が使われている。一番前を走るボク、次いでボーイ、そこから半バ身遅れる形でグラスが写っていた。これまで新聞の一面を飾ることは何回かあったが。
「ヤバい。今回のは特に嬉しいわ」
思わず笑顔になる。ボクは記事に目を通した。そして、ある1つのコラムに目が留まる。それはボク達の世代のことについて書かれていたコラムだった。
【今回の有マ記念はテンポイントとトウショウボーイによる2強対決になるのが大方の予想だったが、そこに割り込んできた伏兵がいた。菊花賞ウマ娘のグリーングラスである。あの2人のハイペースな競り合いに遅れることなく、ただ1人TTの2人に肉迫していた彼女の姿に驚いた人も多いだろう。そしてこう思った。この世代はテンポイントとトウショウボーイばかりが目立つが、他の子も強いウマ娘ばかりではないだろうか?そう思ってからの筆者の行動は早かった。この世代の成績を洗い出してみたのである。】
【結論から言うと、話題にしてこなかったのが悔やまれるほどのウマ娘ばかりだった。まず世代のダービーウマ娘であるクライムカイザーはダービー一発屋の評価が下されたことが記憶に新しいが、彼女の戦績を見てみると、掲示板外を逃したのは最後の出走となった宝塚記念のみだったのである。決して派手ではない、しかしこのことは評価されるべきことではないだろうか?クライムカイザーは決してダービー一発屋などではない。彼女もまた、強いウマ娘だったのである。】
ボクは気になって続きを読んでいく。
【次に、有マ記念には出走していなかったが秋の天皇賞でトウショウボーイとグリーングラスの両名を下して勝利したホクトボーイ。彼女もまた強いウマ娘であるだろう。秋の天皇賞はトウショウボーイとグリーングラスの漁夫の利をついた、という評価をされていたホクトボーイだが改めてレース映像を見直してみると、そんなことは決してないと言えるだろう。先頭のペースに飲まれることなく静かに機会を窺い続け最後に追い込んで勝つ。これは並大抵のウマ娘にはできないことだ。彼女もまた、強いウマ娘である。】
【今回は大レースを勝利したウマ娘ばかりを取り上げたが、この世代にはまだまだ強いウマ娘がいる。彼女たちが大レースを制して名を上げるその日を、筆者は期待してこの記事を残すことにした。トウショウボーイはトゥインクルシリーズを引退する。テンポイントは海外遠征をすることを正式に発表した。だが、これからのトゥインクルシリーズが楽しみになる。そう思わせてくれるウマ娘ばかりだった。】
記事を読み終わった後、ボクは思わず立ち上がって喜んだ。筋肉痛の痛みのことも忘れて動き出したくなる。痛みで現実に引き戻されたのですぐにベッドに腰掛けた。
(ヤバい……!自分のことみたいに嬉しいわ……!)
今まで自分たちと鎬を削ってきたライバルたちが、ここにきて再評価されてきた。そのことがボクには嬉しかった。喜びから身体が震える。
その後、テンション高く過ごしているとジョージが帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りジョージ!今日も一日お疲れさんやで!」
ボクの様子に、ジョージは首を傾げる。
「テン坊 ウキウキ どしたの?」
「ん?まあちょっとええことあってな」
「そう。良かった」
ジョージはそれ以上の追及はしなかった。鞄を置いてお風呂に入る準備をしている。ボクも浴場に向かう準備をした。準備を終えて、2人で大浴場へと向かう。
お風呂に入り終わって、自分たちの部屋に戻ってきたタイミングでボクはジョージにクリスマスパーティのことについて話す。人数は多い方が楽しいし、ジョージもボクの友達だ。ジョージに話を切り出す。
「せやジョージ。クリスマスの日って空いとるか?」
「んー? 空いてる」
「やったら、みんなでクリスマスパーティするんやけど、ジョージもこぉへんか?」
「いく」
ジョージは食い気味に反応してきた。その様子に少し気圧されながらボクは続ける。
「そ、そうか。やったら明日にでも話しとくわ」
「ワクワク」
「そんなに楽しみなんか?」
「もち」
まあ楽しそうならいいだろう。
その後はゆっくりを身体を休めるためにすぐに寝ることにした。クリスマスの日が楽しみである。プレゼントも買っておかなければ。また前のようにみんなで買いに行くか?寝るまでの間そんなことを考えながら、ボクはベッドで横になっていた。
アプリのレジェンドレース久しぶり過ぎて存在を忘れてました。